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コラム:2026年の中東情勢、地域全体の安定を阻む複雑な状況に

2026年の中東情勢は、複数の紛争と経済・社会的課題が絡み合い、地域全体の安定を阻む複雑な状況にある。
2025年11月19日/レバノン南部、イスラエル軍の空爆を受けたエリア(ロイター通信)
現状(2026年1月時点)

2026年1月時点における中東情勢は、複雑な政治・軍事・経済・社会動向が絡み合っており、各国の内政不安と地域紛争、地政学的な緊張が同時並行で進行している状態である。パレスチナ・イスラエル間のガザ紛争は2025年10月に停戦合意に至ったものの、実質的な非軍事化・復興プロセスは始まったばかりで、人道状況は依然として深刻である。イランでは政治的・経済的危機が内外で緊張を高め、国外との軍事衝突の可能性も警戒されている。一方、イエメンやスーダンなどの「終わらない紛争」、レバノンの脆弱な経済・政治状況などが地域不安を増幅している。また、原油市場は依然として地政学的リスクの影響下にあり、気候変動や水不足などの構造的リスクも顕在化している。


2026年の中東情勢(総論)

2026年の中東は、前年の戦争・衝突のマクロな余波と、それに伴う政治的・経済的余震が支配的なテーマとなる。2010年代以降の「アラブの春」以降、中東は一貫して政治的動揺と社会変動が続いてきたが、2025~2026年にかけてはその性格が「従来型の国間戦争」から「複合的かつ多層的なリスクの集合体」に深化した。国際社会は停戦や交渉プロセスを模索しているものの、複数の紛争が同時進行する状況では、局地的な停戦や合意形成が限定的な安定しか生まない可能性が高い。社会的には、経済低迷・インフラ破壊・人道危機が相互に影響し、再建や復興の歩みを阻んでいる。また、域国外の主要国(米国・中国・ロシアなど)の介入や影響力競争が地域ダイナミクスをさらに複雑にしている。


政治・紛争情勢

パレスチナ・イスラエル紛争とガザ地区

2023年10月の大規模な衝突以降、2025年10月の停戦合意を経て、2026年初頭にはガザ地区における第二段階の停戦体制と復興プロセスが始まっている。米国中東担当特使は、停戦後の「非軍事化と技術官僚制による暫定統治」へ移行する計画を発表し、復興への一歩を踏み出している。だが、住民の生活は依然として困難であり、基本的インフラの破壊と人道的ニーズへの対応が停滞している。国連安保理も議論を進めており、国際的な関与は続いているが、和平プロセスの深刻な停滞は依然として懸念材料である。

リビア・スーダン・イラク等の断続的衝突

ガザ紛争以外にも、リビアの政治的分断やスーダンでの軍民対立、イラクにおける政治対立は断続的な衝突を生んでいる。これらは中東全体の安定にとって重大な地政学的リスクとなっており、停戦協議や和平プロセスの実効性が鍵となっている。


ガザ・レバノン情勢と米国の介入

ガザの停戦プロセス

米国が仲介する形で成立したガザ停戦合意は、2026年1月時点で「第二段階」の停戦・非軍事化・復興プロセスに移行した。米国側は復興のための暫定行政機関設置を進める意向を示しているが、これまでの停戦と同様に「実効的な治安とガバナンス」が問われている。復興資金やインフラ再建に関する国際支援の流れは限定的であり、人道状況は改善途上にある。

レバノン情勢と地域的影響

レバノンでは、2020年代を通じて続いた金融危機と政治不安が未だ尾を引いており、2025年には銀行セクター改革が進められたが、経済回復には時間を要する状況が続く。国際投資家はヒズボラの影響力の低下を好感してレバノン国債に対する評価を上げつつあるが、政治的な不透明感は依然として高い。

米国の介入と外交的役割

米国は中東における主要な外部アクターであり、ガザ停戦やイスラエル・イラン紛争の調停に関与している。しかし、米国の関与には軍事的プレゼンスと外交戦略の両面があり、その介入が必ずしも長期的な安定に結びつくかは不確実である。米国は停戦の履行や復興支援を推進する一方で、地域の複雑な政治勢力との調整を迫られている。


イランを巡る緊張

国内の政治・経済危機

2026年初頭、イランでは深刻な経済危機に起因する国民の抗議行動が全国的に拡大している。急激なインフレや生活費の増加、失業、エネルギー・水供給の不足が市民の不満を高め、政治的不安定化が進行している。抗議は単なる経済的不満の域を超え、政府の統治能力や国防政策への批判にも発展している。

イラン・イスラエル間の緊張

2025年6月にはイランとイスラエルの間で大規模な軍事衝突が発生し、米国も介入する事態となった。その後の停戦合意にもかかわらず、双方の間には依然として深刻な不信感と軍事的な対立の火種が残っている。イランは核開発問題や米国の制裁に直面しつつ、国内抗議と政治的分裂の中で安全保障政策を模索している。周辺地域への代理勢力支援の継続は、域内の緊張をさらに高める要因となっている。


シリアと周辺国の動き

シリアでは長年の内戦を経てアサド政権が崩壊、依然として内戦の影響が残る。各種民兵勢力や外部勢力の関与が続き、政治的な安定には程遠い状況である。また、隣接国トルコやイラクとの関係も継続的な緊張要因となっている。シリアの復興は国際的な資金と政治支援を必要としているものの、対立構造の根深さが障害となっている。


解決の糸口が見えないイエメン内戦

イエメンでは2014年から続く内戦が変則的な展開を見せている。2025年末には南部移行評議会(STC)が領土の多くを掌握し、政府側と対峙する形となっている。紛争は地域住民の生活基盤を破壊し、多数の人口が飢餓・病気に苦しんでいる。2026年には国連が人道危機の悪化を警告し、援助資金の不足がさらなる危機深刻化を招く可能性が高い。


経済動向

堅調な経済成長(IMFなどの予測)

IMFや世界銀行などの専門機関は、中東・北アフリカ地域の経済成長率について概ね堅調な見通しを示している。2025年の域内経済成長率は約3.1%と推定され、2026年には3.6%へ加速する見通しである。この成長は主に石油輸出国経済の活動増加によるものであり、インフレ緩和と構造改革の進展も寄与する。また、IMFは政策対応と構造改革が成長の持続性を高めるとの見方を示している。

非石油部門の拡大

湾岸協力会議(GCC)諸国を中心に、非石油部門の拡大が進んでいる。教育やヘルスケア、観光、金融サービスなど多角的な経済構造転換が進むことで、中長期的な成長ポテンシャルが高まっている。ただし、石油価格の変動や地政学的リスクは依然として景気見通しに影響を与える不確実性要因である。

原油市場

国際原油市場は地政学的リスクと供給過剰の双方で揺れている。価格は一時的に地政学的緊張により上昇する局面がある一方で、供給過剰や経済成長の鈍化などが価格上昇を抑える傾向も見られる。原油市場の安定には、主要生産国の協調的な生産調整と世界経済の需給バランスの改善が求められている。


社会的課題とリスク

気候変動と水不足

中東地域は世界でも最も水資源が不足する地域の一つであり、気候変動による乾燥化と人口増加が水需要をさらに圧迫している。特にイランでは深刻な水危機が都市部に導水困難をもたらし、抗議運動の背景要因となっている。水不足は農業・エネルギー供給にも影響し、社会的不安を助長している。

社会インフラと人道危機

長期紛争により、教育・医療・社会インフラが損なわれている国が多い。特にガザ地区やイエメン、シリアでは、基本的なサービスの再建が未だ道半ばであり、国際支援の不足が人道危機を悪化させている。また、難民・国内避難民問題も地域安定化の大きな障壁となっている。


地政学的リスク

中東は世界経済と安全保障の観点から地政学的に極めて重要であり、複数の主要国が影響力を競っている。米国、中国、ロシアの外交・軍事プレゼンスは中東内外の動向に直接的な影響を及ぼしている。中国は安定的なエネルギー供給と経済協力を強調する一方、米国は安全保障と同盟関係の維持を重視し、ロシアはシリアなど一部地域の影響力を保持しようとしている。これらの外部勢力の動きが地域リスクを高める一因となる。


今後の展望

中東情勢の今後は、内政改革・和平プロセス・地域協調・国際支援の4つの柱が鍵となる。ガザやレバノンを含む和平プロセスは停滞しがちであり、妥協と政治的合意形成の難易度は高い。イランやイエメンなどでは、国内危機が地域全体の安全保障に波及するリスクがある。経済成長は潜在的に堅調であっても、社会的課題の解決が不可欠である。中東の安定は、域内外のプレイヤーの協調的な政策と持続可能な発展戦略にかかっている。


まとめ

2026年の中東情勢は、複数の紛争と経済・社会的課題が絡み合い、地域全体の安定を阻む複雑な状況にある。停戦合意や国際的な仲介は進展しているものの、内実的な平和構築と復興には時間と協調が求められている。地政学的な影響力競争、国内経済・社会の危機、構造的なリスク(気候変動・水資源不足)などが中東の未来を決定づける重要な要素であり、これらがどのように解消されるかによって地域情勢の方向性が定まる。


参考・引用リスト

  • Reuters: Yemen humanitarian crisis to worsen in 2026 amid funding cuts.

  • Financial Times: Iran’s road to revolt; protests and political crisis.

  • WSJ/報道: Ayandeh Bank collapse deepens Iran economic crisis.

  • Reuters: Latest US sanctions target Houthi funding networks.

  • Barron’s: Oil shock odds rise as Iran violence spreads.

  • Washington Post: China sees opportunities amid US actions.

  • Reuters/過去報: Israel’s multiple wars in the Middle East.

  • 外務省安全情報: Recent Iran unrest and regional tension.

  • IMF: Regional Economic Outlook: Middle East and Central Asia.

  • World Bank: Global Economic Prospects – MENA overview.

  • UN Security Council Report: Middle East and Palestinian question forecast.

  • JETRO: US envoy announces Gaza second phase of ceasefire.

  • Arxiv.org studies on GCC economic diversification and security forecasting.


追記:米国主導のガザ停戦交渉の行方

2023年10月以降のガザ紛争は2025年10月の停戦合意へと到達したが、その履行と恒久的和平への移行は依然として不透明である。停戦は表面的な戦闘停止であり、停戦後の「非軍事化」や「復興・統治の再構築」こそが大きな課題である。

トランプ政権は停戦合意を推進する中で独自の「包括的計画(20項目)」を提示し、それが国連安全保障理事会で決議として採択されたとする報道もある。この計画は停戦の継続、ハマスの非武装化、暫定的な統治体制と復興支援の枠組みなどを掲げているが、各当事者の実行意欲と現場の信頼が不足している。停戦体制は断続的に破られており、停戦延長案も米国特使側から提案されているが、実効性は限定的である。

停戦交渉の困難と要因
  • 武装勢力の非武装化の条件設定:ハマスやその他武装勢力が完全な非武装化に抵抗していること、復興後の安全保証に対する懐疑が停戦定着の障害となっている。

  • 住民の信頼の欠如:停戦案がパレスチナ側住民に十分な利益をもたらさないと見られており、和平案への懐疑的な声も存在する。

  • 地域国家の立場の隔たり:エジプトやヨルダンといった周辺アラブ国家はパレスチナの主権を重視する立場から独自の懸念を示している。

  • 国際社会の分断:停戦推進を巡る国際的な立場は必ずしも一致しておらず、停戦の持続性を担保するための共通基盤が脆弱である。

短期的には停戦体制の継続と限定的な復興支援が進む可能性はあるが、恒久和平に向けた交渉は長期化し、政治的合意形成が容易でない状況が続くとみられる。


「Board of Peace(平和委員会)」の実態と問題点

トランプ政権はガザ停戦・復興を進めるために従来の国連主導の枠組みとは別に、「Board of Peace(平和委員会)」という国際的機構を米国主導で設立した。これはガザ復興と中東和平プロセスを担う新しい多国間体として構想されたもので、トランプ大統領自身が初代議長を務める計画である。

「平和委員会」の構造

平和委員会は次のような特徴を有する:

  • 多国間形式の国際機関:米国が中心となり、招待国としてエジプト、トルコ、カナダ、アルゼンチンなどが参加意向を示している。ロシアや他国首脳への招請も行われている。

  • 復興と統治支援が中心:ガザの暫定統治機構を支える役割と復興資金の管理を担う。

  • 資金調達に「参加費」モデル:恒久加盟国は10億ドル以上の資金拠出が求められるという新たな枠組みも設定され、加盟のコスト負担が高いことが批判されている。

問題点と批判

1. 国際的な正当性・透明性の欠如

平和委員会は従来の国連や国際機関の枠組みとは独立した存在であり、その正当性・透明性が疑問視されている。加盟国に高額の資金拠出を求めるモデルは、加盟国の外交的動機を「資金支出優先」に変えてしまう懸念があると指摘されている。

2. 米国中心主義と中立性の欠如

トランプ大統領が議長として強い影響力を行使できる構造は、機構の中立性を損なう可能性がある。国連安保理が中東和平の主要な枠組みである現状に対し、独立した機構を設置することへの批判も存在する。

3. 地域当事者の不満

イスラエル国内からも、外部勢力の介入を強めることへの反発があり、財務モデルやガザの統治構想そのものに懐疑的な声もある。加えて、パレスチナ側やアラブ諸国からは、パレスチナ人自身の代表性が十分に反映されていないとの批判がある。

4. 既存国際機関との摩擦

国連やその他の国際的枠組みとの役割分担が明確でないため、重複や摩擦が生じるおそれがあり、中東和平交渉全体の効率化に寄与するかは不透明である。


イランの大規模抗議デモ(2025年12月~)と国際社会への影響

抗議デモの発生と背景

2025年12月以降、イラン全土で大規模な抗議運動が発生し、複数省に波及する大規模なデモに変化した。抗議の発端は経済的困窮と物価高騰、通貨価値の下落から始まり、政府への不満が累積したものと見られる。デモの広がりと規模はイラン国内の深刻な社会不安を反映しており、治安部隊による弾圧や死傷者増加の報告が国際的な懸念となっている。

国際社会への影響

1. 中東地域の安全保障環境への影響

抗議デモの広がりは、イラン国内の統治能力への疑念を生み、それが地域の安全保障環境全体に不安定要因として作用している。イラン政府がデモに対して強硬な措置を取れば、対外政策への影響も懸念される。また、米国やイスラエルが介入姿勢を示すと、緊張が一段と高まるリスクがある。

2. 外交的な波及効果

欧米諸国や国際人権機関はイラン政府による弾圧に懸念を表明しており、人権侵害に関する国際的圧力が高まっている。これにより、イラン政府の外交的孤立が進む可能性がある。ただし、ロシアや中国などは慎重姿勢を保つなど、国際的な意見は分裂している。

3. 国内体制の不安定化が中東政策へ与える影響

社会不安が長期化する場合、イラン政府は内政優先の姿勢を強める可能性があり、これが地域における代理勢力支援政策や核政策などの戦略に影響を及ぼす。体制の弱体化が、地域での影響力低下につながることも予測される。


総括:和平交渉と地域安定化の展望

米国主導のガザ停戦交渉と平和構想は、停戦そのものの維持を実現しつつも、恒久的な和平や政治的合意には未だ大きな課題が残る。平和委員会のような新機構は注目を集めるが、国際的正統性・中立性・透明性の問題が付きまとう。

一方、イラン国内の大規模抗議は中東全体の地政学的リスクを高める可能性があり、国内危機と外交政策の交錯が地域情勢に新たな波紋を広げる。これらの動向は、国際社会の関与のあり方や地域の安全保障政策に長期的な影響を及ぼすものといえる。


 

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