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コラム:米トランプ関税違法判決、日本政府の対応縛る「思惑と警戒」

2026年2月の最高裁判決は、米国の通商政策における「大統領権限 vs 議会権限」の根本的な問いを投げかけた重大な判決である。
米ワシントンDCホワイトハウス、トランプ大統領(AP通信)
現状(2026年2月時点)

2026年2月20日、米国連邦最高裁(Supreme Court)がトランプ大統領の通商政策に基づく「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠として課された広範な輸入関税(いわゆる “相互関税” や特定の輸入品に対する追加関税等)が、違法(米国憲法上の権限超過)であると判断した。判決は大統領権限と議会権限の分立を巡る憲法論争に踏み込むものであり、IEEPAによる関税制度そのものの有効性を否定した点で極めて重大である。

この判決を受けて、米国ではIEEPAに基づく関税徴収が停止され、政府・企業・各国間で混乱が生じている。同時に、トランプ氏は別の法律根拠(通商法122条等)で新たな関税措置を導入するなど、政策の不透明性が高まっている。

日本やEU、中国、インドなどの主要貿易相手国は判決を注視しつつ、影響緩和と自国経済保護の対応に追われている。日本にとっては、米国市場への輸出比率が高い特定企業・産業が多いだけでなく、対米貿易交渉全般における戦略的「不確実性」が増している。


最高裁による違法判決(2026年2月20日)の概要と背景

判決の概要

2026年2月20日、米国連邦最高裁は、トランプ大統領がIEEPA(International Emergency Economic Powers Act、国際緊急経済権限法)を根拠に課した相互関税等について、「大統領には関税(税)を課す権限は与えられておらず、その権限は明示的に議会(米連邦議会)にある」として、これらの措置を違法(権限を逸脱した行為)と判断した。

判決は6-3の多数意見で出され、IEEPAに含まれる「経済制裁・規制」権限は輸入制限などに限定的に解釈されるが、関税そのもの(税金徴収行為)を課す権限は議会の立法権限に属するとの法理に立つ。これにより、IEEPAに基づく一括的関税政策は憲法に反する「違法」な措置とされた。

判決までの経緯

トランプ政権は2025年以降、IEEPAを根拠にカナダ・メキシコ・中国などからの輸入品に高率の関税を課し始めた。しかし、この根拠法の「合法性」や「権限の範囲」については当初から国内外で疑問が呈され、複数の貿易関係者・企業・国家が訴訟を提起するなど法的争いが続いていた。

これらの訴訟が連邦巡回区控訴裁判所等を経て最高裁に持ち込まれ、最終的に憲法判断に至ったことになる。


国際緊急経済権限法(IEEPA)とは

IEEPAは1977年に成立した法律であり、大統領に「国家安全保障・緊急事態宣言の下で海外との経済取引・資産凍結等の制裁措置を執行する権限」を与えるものである。元来はテロ・武器取引・重大な外交危機などに対応するための法的枠組みであり、通常の貿易関税を包括するものではない。

IEEPAの条文には「大統領は外交政策・国家安全保障等に関連する緊急事態を宣言した場合、特定の経済制裁を行うことができる」と規定されているが、課税・関税措置に関する権限は明示的には書かれていない。この点が最高裁の判断における最大の争点となった。

このため、IEEPAに基づく関税措置を正当化する立法根拠の欠如は、議会立法の「税金制定権」との対立を引き起こし、違法判決につながった。


判決のポイント

判決の主要点は以下の通りである:

  1. 憲法上の権限分配:関税という税金徴収の権限は議会立法に属するため、大統領は明文法の根拠なしに関税を課すことはできないと判断された。

  2. IEEPAの解釈範囲の制限:IEEPAは緊急制裁権限を与えるが、一般的な税制・関税措置を含む広範な貿易制限に適用するものではないと解釈された。

  3. 徴収停止と裁判所判断:判決後、米税関当局はIEEPA関税コードを無効化し、徴収を停止した。

  4. 還付の問題:判決はあくまで違法性を指摘したものであり、過去に徴収された税金の還付については別途裁判所や下級審に委ねるとしており、即時対応が困難な状況にある。


直接的な影響

米国側への影響
  • 収入損失と混乱
    米財務省は、IEEPA関税により1日約5億ドル以上の収入を得ていたとする推定があり、徴収停止は歳入への大きな打撃となる可能性がある。

  • 市場・企業への不透明性
    企業は関税還付の行方について不透明さが続いており、その処理に時間がかかるとの見方が広まっている。

国際的影響
  • 取引条件の変動
    一部の国では、従来25〜50%とされた高率関税が10〜15%税率に事実上均されるなど、輸出競争力に変化が見られる。

  • 通商協定の混乱
    例として、EUは米国との貿易協定承認手続きを延期する動きが出ており、国際協定の信頼性が揺らいでいる。

  • 中国・韓国などの反応
    中国は「違法かつ有害」として米国に追加関税措置撤廃を求め、韓国も協力を求める姿勢を示している。


日本政府の「思惑」

日本政府は、トランプ政権の貿易政策に対して表現は控えながらも、以下のような「思惑(利益確保・安定化)」を有していると考えられる:

法を盾にした交渉の安定化

判決によってIEEPAが通商政策の根拠として失われることで、日本は「法律に基づく通商政策の透明性・予見可能性」を主張しやすくなる。日本政府はこれを外交交渉の基盤として利用する可能性がある。

関税コストの低減

米国がIEEPA関税を撤廃した事実を利用し、今後の関税負担の軽減や輸出条件の改善につなげる交渉材料とする狙いがある。これにより、日本企業の対米輸出競争力を維持・強化しようとする意図が見える。

交渉の「縛り」としての利用

米国が別の法律で新関税措置を進めるとしても、判決の枠組みを引き合いに出して「議会承認・明確な法的根拠」を求めることで、トランプ政権の恣意的措置を牽制することができる。

合意の維持

日本政府は、既存の日米間の投資・関税に関する合意を法的に有効とする方向に誘導しようとしている。判決は、合意が無効という見方には直結しないとの立場を示すことで、交渉の安定化を図る狙いがある。


日本政府が抱く「警戒」

日本政府・専門家の間では、次のような警戒感が共有されている:

トランプ氏の逆襲と不透明感

トランプ氏は判決を「極めて反米的」と非難し、SNS等で他国に高関税を課す意向を示しており、外交関係がさらに不安定化する可能性がある。

根拠法の変更

米国はIEEPAに代えて「通商法122条」や「通商法301条」等、他の法的根拠に基づく関税措置を導入する姿勢を示しており、これが新たな不確実性となっている。

還付の不透明性

過去に徴収された関税の還付がいつ・どのように行われるかが不透明であり、日本企業・政府は今後長期の法的・交渉的な対応を迫られる可能性がある。

対日圧力の転換

トランプ氏は合意見直しや厳しい措置を示唆しており、日本が再び圧力下に置かれるリスクがある。

サプライチェーンの混乱

不安定な関税政策は国際的なサプライチェーンに影響を及ぼし、製造・流通コストの変動や契約条件の見直しに直結する可能性がある。


日本政府の立ち回り

日本政府は、安全保障・経済・外交の複合的な戦略の中で、次のような立ち回りを進めていると考えられる:

静観しつつもプランBを準備

IEEPA判決という米国内法の変化を冷静に分析しつつ、予測可能性の確保と複数選択肢(プランB)の策定を図る。

水面下での外交努力

米国議会・政府関係者との接触を強化し、透明性・法的安定性を求める働きかけを続ける。これは、日本が独自の関税政策の根拠として他国との対等な交渉を希望する立場を強化することにつながる。


今後の展望

今後の展望としては、次のポイントが重要となる:

  • 米国の通商政策の法的安定性:通商法122条等に基づく措置がどの程度恒久的なものとなるかが注目される。

  • 国際交渉の再構築:日本・EU・中国等は新たな国際交渉・協定を模索し、米国との貿易条件の安定化を試みる可能性が高い。

  • 還付・補償交渉:徴収された関税の還付や補償に関する長期的な法的・外交的な交渉が継続する見込み。

  • サプライチェーン再編:関税不透明性を避けるため、企業はグローバルな供給網の再構築を進める可能性がある。


まとめ

2026年2月の最高裁判決は、米国の通商政策における「大統領権限 vs 議会権限」の根本的な問いを投げかけた重大な判決である。IEEPAに基づく関税措置が違法とされたことは、米国内の税制・貿易法制度への再評価を迫ると同時に、国際通商関係にも大きな緊張をもたらしている。日本政府は利益確保と警戒のバランスを取りながら、国際交渉・法的安定性の確立に向けて複数の選択肢を検討している。


参考・引用リスト

  • 米最高裁がトランプ氏の関税措置を違法と判断 — 収入停止と新関税措置の動き

  • Supreme Court decision raises uncertainty, markets calm — 主要国の反応

  • 米国、違法と判断された関税の徴収を停止 — CBP指示

  • インド輸出に対する影響 — 関税率の変化

  • EU貿易協定承認延期の動き

  • トランプ氏が最高裁判決に不満を表明 — SNS等

  • 新たな通商法122条に基づく関税制度

  • 日本の経済専門家による還付の見通し

  • 日本の経済政策専門コラム — 企業への返還不透明性

  • IEEPAと憲法権限分配に関する法理分析(複合出典)


追記:トランプ氏を刺激して「さらなる高関税」や「貿易合意の破棄」を招く最悪のシナリオ

(1)最高裁判決を受けたトランプ政権の対応

米国の連邦最高裁が2026年2月20日にIEEPA根拠の関税を違法と判断した後、トランプ大統領は直ちに別の法律根拠(通商法122条)を用いて「世界一律税率10%」の追加関税を発動し、その後15%への引き上げをSNSで示唆している。122条は「巨額で重大な国際収支赤字への対応」を目的に最大15%の一時的関税権限を与えるものだが、150日間という期限付きであるため議会承認なく恒久化するには限界があることが指摘されている。

さらに、トランプ政権は国家安全保障を根拠とする通商拡大法232条等の枠組みで新たな関税措置の検討も進めており、半導体関連や通信機器等への課税調査・措置を強化する意向が報じられている。米政権内部では、IEEPA関税失効後の抜本的な政策転換として、「人為的に高い関税を堅持・拡大するという立場を崩していない」との見方が存在する。

(2)最悪シナリオの構造

このような動きが継続する場合、トランプ政権が次のような方向に進むことが考えられる:

  • 一時的な関税措置の恒久化を図るための「議会との交渉圧力強化」を進めるが、議会は与野党で意見が分かれ、承認が困難となる。

  • 議会承認が得られない場合、トランプ氏が独自の根拠(国家安全保障・輸入赤字等)を強調し、解釈を拡大することでさらに高い関税の適用を試みる可能性がある。これが国際的な批判や報復を誘発し、「貿易協定の破棄・再交渉の要求が激化する」という最悪シナリオに繋がる。

  • トランプ氏が国際合意を「無効・破棄」する方向で発言を強めると、日米間や米EU間などの協定全体の枠組みが大きく揺らぐ可能性がある。

このシナリオは、最高裁判断が「一度は法的根拠を否定された」という刺激を与え、トランプ政権内部で「強硬な関税・通商強化へ逆行するモチベーション」を醸成する可能性と関係している。


法廷闘争と政治交渉が絡む第2ラウンドの始まり

(1)関税の法的根拠を巡る争いの継続

最高裁判決によってIEEPA関税は無効となったが、トランプ政権は通商法122条・232条・301条といった別の根拠法の活用を進めており、複雑な法廷・行政判断の継続が予想される。IEEPAに基づく過去の徴収関税の還付については最高裁が判断を示していないため、企業・国が個別に訴訟を提起する必要があり、法廷闘争は第2ラウンドに突入する。

並行して、行政当局および議会との政治交渉が絡むことで、立法手続きの駆け引きと司法決定が同時並行で進むという政治経済の複合的フェーズが始まる。

(2)国際法・WTOとの関係

WTOにおいても、米国の関税措置は違法性の指摘とのセットで進行中であり、国内訴訟と国際紛争解決の二重の対立軸が形成されている。このような状況は、国際貿易政策の安定性そのものを損ない、法廷闘争と政治交渉が絡む長期的な摩擦の連鎖となる可能性がある。


日本の自動車産業や半導体メーカーへの具体的影響

(1)自動車産業への影響

関税が一時的にIEEPA根拠で撤廃された後、通商法122条等による一律15%関税が適用される報道がある。これは、日本からの輸入品一般に課される税率としては新たな高水準であり、自動車関連製品にも影響を及ぼす可能性がある。

一般的に日本車メーカーは米国市場で世界的に重要な地位を占めるため、15%という追加的な関税は価格競争力の低下を招き、販売量の減少や利益率の縮小に直結しうる。場合によっては、「現地生産シフトの急速化」や「価格転嫁の限界による採算悪化」といった構造的課題が生じるリスクもある。

(2)半導体メーカーへの影響

米国は半導体関連装置・素材・製品についても関税の対象とする可能性を探っており、通商拡大法232条の適用や調査の加速が検討されている。これが実現すると、日本の主要半導体メーカーや関連サプライヤーもコスト上昇圧力にさらされる可能性がある。

さらに、米国は「国家安全保障」を名目に輸入規制を課してきた経緯があるため、貿易条件の不透明性が継続することで設備投資や長期契約の見直し、サプライチェーンの再編といった企業戦略上の影響が出る可能性が高まっている。


今後の米議会の動き(関税延長の是非)

(1)通商法122条の期限付き権限と議会承認の必要性

通商法122条は一時的な措置を認めるが、122条の適用は150日間という期限付きである。その後の延長には議会の承認が必要となるため、議会の承認是非が今後の焦点となる。議会は民主党・共和党で意見が分かれており、消費者価格上昇への懸念、国内産業保護派、自由貿易推進派のせめぎ合いになる見込みである。

(2)上下両院での議論と与野党の対立

現状の米議会では、関税政策に対して共和党内でも慎重派と強硬派が分かれているほか、民主党側は一般的に追加関税に否定的であるため、122条延長の是非は流動的な政治交渉の対象になる。このため、トランプ政権が議会承認を得ようとする戦略は、法的根拠を補完する政治的プロセスとして予断を許さない。この点で、単なる行政措置に留まらず、米国の通商政策全般が政治的論争の対象となる第2ラウンドに入ったと評価される。


追記まとめ

トランプ政権は最高裁判決を受けても直ちに代替関税策を講じており、場合によっては税率引き上げや追加的な関税対象の拡大への動きも報じられている。このことは、最高裁判決が刺激となり、さらなる強硬措置や貿易合意破棄の最悪シナリオを誘発しうるリスクを高めている。法的根拠の再構築が進む一方で、法廷闘争と政治交渉が交錯する第2フェーズに突入し、日本の主要産業(自動車・半導体)に対しても構造的な影響が及ぶ可能性がある。今後の米議会の役割は、122条の恒久化(議会承認)を巡る政治判断が中心となり、米国の通商政策の安定性を左右する重要な鍵となる。


主要引用・参考リスト(追記)
  • 米トランプ政権の通商法122条を根拠とした代替関税発動と税率動向 — 時事通信/NEWSjp 「米『相互関税』24日終了、代替措置へ」ほか。

  • 関税体系の不確実性とトランプ政権の対応分析 — 野村総合研究所 (NRI) コラム。

  • 代替関税の通商法122条根拠と期限 — 共同通信 / 沖縄タイムス 「トランプ氏、代替関税を15%に引き上げ」。

  • 政府の通商拡大法232条等による税率変更計画 — The Wall Street Journal 等(要約)。

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