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コラム:塩分カットの重要性、健康維持に不可欠

減塩は特定の疾患を持つ者だけの課題ではなく、健康寿命を延ばすための普遍的行動原則であると言える。
塩のイメージ(Getty Images)

日本人の食塩摂取量は長年高い水準にあり、国民健康・栄養調査等では成人の平均塩分摂取量が10g前後で推移している。これは厚生労働省が示す目標値(男性7.5g未満・女性6.5g未満)を大きく上回るものである。高血圧や心疾患、脳卒中などの主な生活習慣病のリスクと関連することから、塩分摂取量の削減は国の健康政策の重要課題となっている。国際的にも世界保健機関(WHO)は1日5g未満(ナトリウムとして)を推奨目標としており、世界各国でナトリウム摂取削減政策が進められているものの多くの国が目標達成には至っていないという報告がある。


塩分過多が引き起こす健康リスク

塩分(食塩=ナトリウム塩)の過剰摂取は、人体にさまざまな負担を与える。ナトリウムは体液のバランス維持や神経機能などに必須のミネラルであるが、過剰は高血圧の主因となり、これがさらに多くの慢性疾患へと繋がる。高血圧自体が心疾患・脳卒中・腎疾患などの主要な危険因子であるため、塩分過多は“生活習慣病のリスク増大”という大きな公衆衛生上の問題を引き起こす。

以下では代表的な関連疾患を整理する。


高血圧

塩分摂取量と血圧の関係は多様な疫学・介入研究で示されている。摂取ナトリウム量を減らすと血圧は低下し、高血圧患者ではより明瞭な低下効果が認められる。塩分削減は高血圧予防・治療の基本的生活習慣改善として位置づけられている。高血圧は動脈硬化を進行させ、心血管疾患や脳卒中発症リスクを高める主要因である。


心臓・血管疾患

高血圧は左室肥大や動脈硬化を促進し、心不全や狭心症、心筋梗塞などのリスクを高める。複数の系統的レビューでは、塩分制限は血圧低下を介して心血管疾患リスクを低減すると報告されている。心血管疾患は日本および世界で主要な死亡原因であり、その予防に減塩は不可欠である。


脳卒中

塩分過多による高血圧は脳血管の損傷を助長し、脳梗塞や脳出血といった脳卒中発症の危険性を高める。シミュレーションモデルでは、日本で食塩摂取を目標値まで減少させると、脳卒中・虚血性心疾患の発症と医療費負担が削減される可能性が示されている。


慢性腎臓病 (CKD)

腎臓はナトリウム・水分の排泄調整を担う臓器であり、塩分過多は慢性的な負荷となる。高血圧を介した腎機能低下の進行に加え、ナトリウム自体が腎臓に直接的な炎症やストレスを与えるという報告もある。CKD患者では塩分摂取を制限することで尿中アルブミン排泄量が減少し、疾患進行を抑制する可能性が示されている。


胃がん

塩分と胃がんの関係については疫学的な関連が指摘されている。高塩分食は胃粘膜への慢性的損傷を通じて胃炎やピロリ菌感染と相乗的に胃がんリスクを増す可能性があるとされる。この関連を支持するメタ解析等も報告されており、日本人においても塩分摂取量の高さが胃がん発症率と関係するという疫学的エビデンスがある。


むくみ

塩分は体内水分量に影響し、過剰ナトリウムは水分貯留を引き起こす。これにより末梢組織に水分が溜まりやすくなり、足や顔面の浮腫(むくみ)として症状が現れる。放置すると循環負荷が増加し、心・腎機能へ影響する可能性がある。


糖尿病の悪化

糖尿病患者はしばしば腎臓機能低下や血圧異常を伴うため、塩分過多はこれらの合併症を悪化させる。高血圧と糖尿病の合併は心血管リスクを相乗的に高めるため、糖尿病管理においても減塩は重要な戦略である(糖尿病治療ガイドラインでも推奨されている)。


塩分カットのメリット

塩分摂取を適正水準までカットすることは、複数の健康面でメリットをもたらす。


血圧の低下

血圧はナトリウム摂取量と強く関連し、減塩により一般的に血圧値は低下する。特に高血圧者では減塩効果がより顕著となる。血圧低下は心血管リスク軽減につながり、一次予防・二次予防ともに重要である。


生活習慣病の予防

減塩は高血圧の予防だけでなく、心疾患・脳卒中の発症リスクを低減する生活習慣病予防対策となる。推計では、人口レベルで平均塩分摂取を削減することで、これら疾患の発症数と医療費負担が減少する可能性が示されている。


健康的な体重管理

高塩分食はむくみ・体重増加を通じて体重管理を困難にする。さらにはナトリウム過多は食欲を刺激し、エネルギー過剰摂取や肥満リスクを高める可能性が報告されている。したがって塩分制限は総合的な体重管理にも寄与する可能性がある。


推奨される塩分摂取量

日本における公的な推奨値は以下の通りである。

  • 一般成人:男性で1日7.5g未満、女性で1日6.5g未満(日本人の食事摂取基準2020年版)。

  • 高血圧者:1日6g未満を目標。

  • WHO推奨(国際):1日5g未満。

国内ガイドラインではより低い水準が高血圧・心血管疾患予防に有効とされる。これらの目標は人口全体の健康増進策として採用されているが、達成は容易ではなく教育・食品産業・政策介入が必要とされる。


今後の展望

日本では塩分過剰摂取が未だに健康リスクの主要因であるとして、国際モデルの達成を目指す動きが増加している。日本高血圧学会は啓発強化や学校教育、食品メーカーへの減塩推進、外食産業との協働など総合的な行動計画を策定している。

世界的にも多くの国がナトリウム摂取削減を公衆衛生目標に掲げているが、現状では達成率は低く、政策実施の加速や国民の意識向上が不可欠であるという見解が示されている。


まとめ

塩分過剰摂取は高血圧・心血管疾患・脳卒中・慢性腎臓病・胃がんなど多くの慢性疾患リスクを高めることが世界的に示されている。減塩は血圧低下、疾患予防、医療費削減、健康的な体重管理などの多面的な利益を有する。日本の現状では平均塩分摂取が公的目標を上回っているため、国民・専門家・政策の協働による取り組みが今後の健康増進の鍵となる。


参考・引用リスト

  1. WHO Salt Reduction Evidence Summary, WHO Salt Reduction Initiative (2026).

  2. Japanese Circulation Society / Ministry of Health reports on salt intake and blood pressure outcomes.

  3. Japanese Society of Hypertension scientific statement on salt and cardiovascular disease.

  4. National Health and Nutrition Survey based models on salt reduction benefits.

  5. Dietary salt intake in Japan: past, present, future (Hypertension Research).

  6. National Health Insurance Association guidance on salt reduction.

  7. Salt reduction policy and WHO global status report (Japan WHO Association).

  8. “Dietary Salt Restriction Practices Contribute to Obesity Prevention” (MDPI Nutrients).

  9. Sodium intake and risk associations study (various).


追記:加工食品・塩分摂取に関する追加分析

加工食品を控えることで得られる健康効果

加工食品とは、保存性・利便性・嗜好性を高める目的で、食塩、糖類、脂質、食品添加物などが加えられた食品を指す。日本においては、即席麺、加工肉(ハム・ソーセージ)、練り製品、漬物、総菜、冷凍食品、レトルト食品、スナック菓子、調味済み食品などが代表例である。
これらの食品は味の均一化と保存性確保のために塩分濃度が高く設定される傾向があり、日常的な摂取が総塩分摂取量を大きく押し上げる要因となっている。

血圧および心血管リスクの低減

加工食品を控える最大の健康効果は、ナトリウム摂取量の自然な減少である。複数の観察研究では、超加工食品の摂取割合が高い集団ほど血圧が高く、高血圧有病率が高いことが示されている。加工食品を減らし、未加工または最小限加工食品(野菜、果物、魚、肉、豆類)中心の食事へ移行することで、血圧が低下し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが減少する可能性が示唆されている。

腎臓負荷の軽減

加工食品は塩分だけでなく、リン、カリウム、保存料など腎臓に負担をかけやすい成分を多く含む場合がある。加工食品摂取を控えることは、腎糸球体への慢性的な圧負荷を軽減し、慢性腎臓病の進行抑制につながる可能性がある。特に高血圧や糖尿病を有する者では、この効果はより重要である。

胃がん・消化器疾患リスクの低減

高塩分環境は胃粘膜を障害し、慢性胃炎や萎縮性胃炎を促進する。加工食品の摂取抑制は、塩分摂取量の減少を通じて胃粘膜障害を軽減し、長期的には胃がんリスク低下につながる可能性がある。

肥満および代謝異常の予防

加工食品は塩分に加え、脂質・糖質を多く含むことが多く、摂取過多はエネルギー過剰摂取を招く。塩分の強い味付けは食欲を刺激し、間接的に過食を促進する。加工食品を控えることで、エネルギー摂取の適正化、体重管理、インスリン抵抗性の改善など、代謝面での恩恵が期待される。


日本人の塩分摂取量の現状と特徴

平均摂取量の推移

日本人の食塩摂取量は、1970年代には1日13~15gと極めて高水準であったが、健康教育や減塩運動の成果により徐々に減少してきた。しかし近年は減少が鈍化し、成人平均で約9~10g前後で推移している。これは依然として国内外の推奨値を大きく上回る。

男女・年代別の特徴

一般に男性は女性よりも塩分摂取量が多く、特に働き盛り世代では外食・中食・加工食品の利用頻度が高いため、摂取量が増加する傾向がある。一方、高齢者では伝統的な食習慣(漬物、味噌汁、干物など)により塩分摂取量が高止まりする傾向がある。

食品群別の寄与

日本人の塩分摂取源としては、以下が大きな割合を占める。

  • 調味料(醤油、味噌、だし入り調味料)

  • 加工食品・中食

  • 麺類のスープ

  • 漬物・干物

この構造的特徴により、「料理そのもの」よりも「味付け」や「加工度」が塩分過多の主因となっている。


塩分を控えるコツの体系的整理

食材選択の工夫

第一に重要なのは、未加工または低加工食品を選択することである。生鮮野菜、果物、魚、肉、豆類を中心とし、加工食品は頻度と量を意識的に制限することが有効である。食品表示のナトリウム量を確認する習慣も重要である。

調理段階での工夫

家庭調理では、以下の点が減塩に寄与する。

  • 出汁、香辛料、酸味(酢・柑橘)を活用し、塩味に依存しない味付けを行う

  • 醤油やソースは「かける」より「つける」

  • 煮汁を残す、スープは飲み干さない

  • 味噌汁は具を多く、汁を少なくする

外食・中食利用時の対策

外食や惣菜利用時は塩分過多になりやすい。麺類のスープを残す、ドレッシングを別添えにする、単品より定食形式で野菜を多く摂取するなどの工夫が有効である。

味覚の再教育

減塩を継続すると、味覚は徐々に薄味に順応する。短期的な物足りなさを乗り越えることで、素材本来の味を感じやすくなり、長期的な減塩が容易になることが知られている。

行動変容としての減塩

減塩は一時的な制限ではなく、生活習慣の修正として捉える必要がある。家族単位での取り組み、食品環境の整備、食品産業の協力が個人努力を補完する。


追記まとめ

加工食品の摂取抑制は、塩分摂取量の低下を通じて血圧管理、心血管疾患予防、腎機能保護、がん予防、体重管理など多面的な健康効果をもたらす。日本人の塩分摂取量は依然として高く、その背景には加工食品や調味料中心の食文化が存在する。減塩を実現するためには、食材選択・調理・外食時対応・味覚適応といった複数レベルでの工夫を組み合わせ、持続可能な生活習慣として定着させることが重要である。


日頃からの減塩意識が健康維持に不可欠である理由

減塩は「治療」ではなく「恒常性調整」であるという視点

塩分制限はしばしば高血圧患者に対する「治療的介入」として理解されがちである。しかし生理学的には、減塩は疾病発症後の対処ではなく、体内恒常性(ホメオスタシス)を健全に保つための基盤的行動である。
ナトリウムは細胞外液量、血管内容量、神経伝達、筋収縮など生命維持に不可欠である一方、その過剰は恒常性調節機構を慢性的に歪める。日常的な減塩意識とは、この恒常性破綻を未然に防ぐための行動選択である。


ナトリウム恒常性と血圧調節機構への慢性影響

人体は腎臓、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)、交感神経系を通じてナトリウムと血圧を調節している。高塩分摂取状態が慢性化すると、これらの調節系は以下のような適応変化を起こす。

  • ナトリウム排泄のために血圧を高める必要が生じる

  • 血管平滑筋の緊張が高まり、血管反応性が変化する

  • 血管内皮機能が低下し、一酸化窒素(NO)産生が抑制される

これらは一時的な変化ではなく、長期的には血管構造のリモデリングを引き起こし、血圧上昇が「固定化」される。日頃から減塩を意識しない生活は、この不可逆的変化を静かに進行させるリスクを孕む。


「塩分感受性」という個体差の問題

塩分摂取と血圧上昇の関係には個体差が存在し、これを塩分感受性と呼ぶ。高齢者、日本人、アジア人、肥満者、慢性腎臓病患者、糖尿病患者では塩分感受性が高い傾向が知られている。

重要なのは、自身が塩分感受性を有するか否かを日常生活で自覚することが困難である点である。自覚症状がないまま血圧や臓器障害が進行するため、減塩を「必要になってから始める」という発想は合理的ではない。
日常的な減塩意識は、塩分感受性という見えないリスクに対する予防的行動として不可欠である。


血管老化と減塩の関係

加齢に伴い血管は弾力性を失い、動脈硬化が進行する。高塩分環境はこの血管老化を加速させる要因の一つである。ナトリウム過剰は血圧とは独立して血管壁に炎症や線維化を引き起こすことが示されており、「正常血圧でも血管障害が進行する」可能性がある。

日頃からの減塩意識は、血圧値そのものだけでなく、血管の質的健康(vascular health)を守る行動として位置づけられる。


腎臓に対する累積負荷という視点

腎臓はナトリウム排泄を担う主要臓器であり、過剰な塩分摂取は糸球体内圧の上昇を通じて腎障害を進行させる。重要なのは、この負荷が「少量でも長期間続く」ことで蓄積的なダメージとなる点である。

日常的に減塩を意識しない生活では、明確な腎疾患がなくとも腎機能低下が静かに進行し、将来的なCKD発症リスクが高まる。減塩意識は腎臓の予備能を温存するための基本戦略である。


炎症・免疫・腸内環境への影響

近年の研究では、高塩分環境が免疫細胞の分化や炎症反応に影響を与えることが示されている。ナトリウム過剰は炎症性T細胞の活性化を促進し、自己免疫疾患や慢性炎症との関連が示唆されている。

また、食塩は腸内細菌叢にも影響を及ぼし、善玉菌の減少や腸内環境悪化を通じて全身の代謝・免疫機能に波及する可能性がある。日頃からの減塩意識は、循環器系のみならず全身性健康維持に寄与する。


「平均値」ではなく「累積曝露」を減らす重要性

健康影響は単発の高塩分食よりも、生涯を通じた累積ナトリウム曝露量によって規定される。若年期から中年期にかけての高塩分食習慣は、高齢期に顕在化する心血管疾患や腎疾患の土台を形成する。

したがって、日頃からの減塩意識とは、将来の疾病リスクを現在の行動で低減する「時間軸を超えた予防行動」である。


行動科学的観点から見た日常減塩の意義

減塩は短期介入よりも、日常行動としての定着が重要である。味覚は可塑性を有し、減塩を継続することで薄味への適応が起こる。一方、不定期な減塩では味覚適応が成立せず、継続困難となる。

日頃からの減塩意識は、無意識的選択(食品選択、調味行動)を変化させ、努力感の少ない健康行動を可能にする点で合理的である。


最後に

日頃からの減塩意識は、高血圧予防に留まらず、血管老化抑制、腎機能保護、炎症制御、代謝・免疫調節といった多層的な健康維持に関与する。塩分過剰の影響は自覚症状に乏しく、かつ累積的であるため、「意識し続けること」自体が最大の予防戦略となる。

減塩は特定の疾患を持つ者だけの課題ではなく、健康寿命を延ばすための普遍的行動原則であると言える。

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