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コラム:免疫力、高めてますか?生命維持に不可欠な防御機能

免疫システムは生命維持に不可欠な防御機能である。免疫力が適切に機能することで、病原体の侵入を阻止し、感染症の発症や重症化を防ぐ。また、がん細胞の出現を初期段階で制御するなど、病態発症の防波堤として作用する。
免疫力向上のイメージ(Getty Images)
1. 日本の現状(2025年12月時点)

2025年末の日本においては、感染症対策が引き続き公衆衛生の中心課題となっている。季節性インフルエンザは例年より早期に流行し、複数の都道府県で警報レベルを超える患者報告が出されているなど、ウイルス性疾患のリスクが高まっている状況が見られる。具体的には2025年冬季、例年の流行時期より1カ月ほど早くインフルエンザが拡大し、報告数が前年同期比で大幅に増加しているとの報道がある。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も引き続き流行が観察されている。厚生労働省定点観測によると、2025年夏以降も感染者数は増加傾向で推移しており、主流変異株としてNB.1.8.1系統が優勢となっている。重症化率は低水準だが、感染リスクは依然として高いとされる。

さらに、日本では百日咳(Pertussis)等の感染症も多く報告されており、乳幼児や免疫機能が弱い層への影響が懸念されている。

以上の現状は、免疫システムの健全性が個人・社会の健康維持にとって不可欠であることを改めて浮き彫りにしている。感染症の予防と重症化防止においては、ワクチン接種や衛生対策に加えて、個々人の免疫力そのものの強化が重要な役割を果たすと考えられる。


2. 免疫力とは

免疫力とは、生体が外部から侵入する病原体(ウイルス・細菌・真菌など)や異常細胞(がん細胞など)を識別し排除する防御システム全体の機能を指す。このシステムは高度に統合された生体プロセスであり、自然免疫(innate immunity)と獲得免疫(adaptive immunity)という二大機構から構成される。

自然免疫は生得的に備わる防御機構であり、異物侵入時に速やかに反応する。好中球やマクロファージなどの免疫細胞が即時に病原体を認識し、貪食や炎症反応を誘導する。これに対して獲得免疫は抗原特異的であり、B細胞やT細胞が病原体に対する抗体や免疫記憶を形成する。ワクチンはこの獲得免疫を賦活化する代表的な手法である。

加えて、近年の研究では、自然免疫においても「訓練免疫(trained immunity)」と呼ばれる“記憶様の反応性の向上”が確認されており、この分野は免疫力概念の拡張として活発に研究されている。


3. 免疫力が重要な理由(総論)

免疫システムは生命維持に不可欠な防御機能である。免疫力が適切に機能することで、病原体の侵入を阻止し、感染症の発症や重症化を防ぐ。また、がん細胞の出現を初期段階で制御するなど、病態発症の防波堤として作用する。

免疫力の低下(免疫不全)は、感染症の易罹患性を高めるだけでなく、慢性疾患、がん、炎症性疾患等のリスク増加にも関連している。慢性的なストレス、栄養不良、睡眠不足、加齢などが免疫機能に悪影響を及ぼすことが知られている。


4. 感染症の予防と重症化防止

免疫力が正常に機能することは、感染症の発症率・重症化率の低減に直結する。免疫細胞は体内に侵入した病原体を検出し、初期防御から適応応答までを統合して実行する。免疫力が低下していると、病原体が体内で増殖しやすくなり、重症化や長期化のリスクが増す。

具体的には、免疫力によってインフルエンザや新型コロナウイルスといった呼吸器感染症の発症・重症化リスクが低減される点が報告されている。適切な免疫応答は、感染初期に病原体の進展を抑制し、炎症反応を制御する役割を果たす。


5. 体内環境の維持(がん予防など)

免疫システムは単なる感染防御に留まらない。正常な免疫機能は、腫瘍細胞の発現や異常細胞増殖の早期制御にも関与する。免疫監視仮説(immune surveillance)は、潜在的ながん細胞を免疫系が継続的に検出・除去するという概念であり、免疫機能の低下ががんリスク増加に結びつくと考えられている。


6. 回復力の向上

免疫力が高い状態は、病気からの回復力(recovery resilience)を高める。免疫系は病原体を排除するだけでなく、損傷組織の修復や炎症後の恒常性回復にも寄与する。免疫細胞と修復因子の協調によって、疾病後の回復過程が加速されるとされる。


7. 免疫力を高める方法

免疫力を最適な水準に維持するためには、生活習慣全般の改善が不可欠である。具体的には、バランスの取れた食生活、質の良い睡眠、適度な運動、ストレス管理、体温の適正な維持などが挙げられる。これらは相互に関連し、免疫系の効率的な機能をサポートする。


8. 食生活の改善(腸内環境を整える)

8.1 腸内環境と免疫

近年の免疫研究において、腸内環境(gut microbiota)が免疫システムに与える影響が科学的に示されている。腸には免疫細胞の大部分が集中し、腸内細菌叢は病原体に対する防御および免疫調整に重要な役割を果たす。腸内細菌の多様性が免疫機能を成熟させ、細菌代謝産物は免疫細胞の活性を調節する。


9. 発酵食品の摂取

発酵食品(ヨーグルト、納豆、キムチなど)は、プロバイオティクスとして腸内の善玉菌を増やすことが期待される。善玉菌が腸内細菌叢のバランスを改善することで、腸管免疫が強化される。腸内環境の改善は免疫細胞の適切な機能を促進するはたらきがある。


10. 食物繊維の摂取

食物繊維は腸内細菌の発酵基質となり、短鎖脂肪酸(SCFA)の産生を促す。このSCFAは腸管免疫の調節因子として働き、炎症抑制や免疫細胞機能の調整に寄与する。最近の研究では、高繊維食ががんを攻撃する免疫細胞の機能を強くする可能性が示唆されており、将来的な免疫療法への応用も期待されている。


11. 抗酸化成分

野菜・果物・ナッツ類などに含まれる抗酸化物質(ビタミンC・E、ポリフェノール等)は、免疫細胞の酸化ストレスからの保護に寄与する。酸化ストレスは免疫機能を抑制する要因となるため、抗酸化成分は間接的な免疫サポートとして機能する。


12. 質の高い睡眠

睡眠は免疫システムの回復・調整に極めて重要である。免疫細胞は睡眠中に活性化され、抗体生成や炎症制御を行う。睡眠不足はコルチゾールなどのストレスホルモンを増加させ、免疫機能を抑制することが知られている。成人で7〜9時間の良質な睡眠が推奨される。


13. 習慣

日々の生活習慣は免疫力に大きな影響を与える。ストレス管理、規則正しい生活、喫煙・過度な飲酒の回避は免疫系の負担を軽減し、免疫細胞の効率を高める。これらの習慣改善は長期的な免疫力維持に寄与する。


14. 適度な運動

適度な運動は免疫細胞の循環を促進し、炎症を抑制する。適度な有酸素運動はナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞の活性を高め、感染症リスクを低減する可能性が示唆されている。


15. 激しすぎる運動は免疫力を下げる

ただし、長時間・過度の運動は逆に免疫機能を抑制する一過性の状態を誘発する。高強度の持久運動後は免疫細胞数が一時的に低下し、感染リスクが上昇するという報告もあり、過度なトレーニングは注意が必要である。


16. 体温を上げる(血流促進)

体温が1℃上昇すると免疫細胞の活性や代謝が向上し、免疫力が増強されるといわれる。逆に体温が低下すると白血球の機能が低下し、感染リスクが高まる。適度な体温維持は免疫機能の最適化に寄与する。


17. 入浴

入浴は体温を上昇させ、血流を改善して免疫細胞の巡回を促す。適切な入浴はリラックス効果もあり、副交感神経の作用を高めることで免疫機能をサポートする。


18. ストレス管理と笑い

慢性的ストレスは免疫細胞の機能を抑制し、感染症リスクを高める。ストレス管理(瞑想・趣味・休息)は免疫維持に寄与する。笑いはストレスホルモンを減少させ、免疫調整に好影響を与えるとの報告もある。


19. 笑いの効果

笑いはリラックス効果を通じて副交感神経を活性化し、免疫細胞の活性化を助ける可能性がある。笑いによるNK細胞の増加などの免疫関連作用が示唆される研究も存在する。


20. 今後の展望

今後の免疫研究は、個別化医療や腸内フローラの精密制御、免疫老化への介入戦略、がん免疫療法の進展などが期待される。また、免疫系を総合的に評価するバイオマーカーの開発や訓練免疫の活用など、新たな免疫強化戦略が注目される分野である。


(追記)免疫力と年齢の関係

免疫力と年齢は密接に関連している。一般に、加齢とともに免疫機能は変化し、低下していく傾向がある。この現象は免疫老化(immunosenescence)と呼ばれ、高齢者における感染症リスクの増加やワクチン応答の低下、慢性炎症の進行などを特徴とする。

1)免疫老化の概要

免疫老化は、自然免疫・獲得免疫の両方に影響を及ぼす複合的な現象である。自然免疫においては、好中球・マクロファージなどの食細胞の機能低下、ナチュラルキラー(NK)細胞活性の変動が見られる。獲得免疫では、T細胞のレパートリー多様性が減少し、抗原特異的応答の効率が低下する。また、B細胞の抗体産生能も減衰する傾向が観察される。免疫老化は細胞レベルの変化だけでなく、細胞間シグナル伝達やサイトカインバランスの異常も含む複合的な変化である。

2)高齢者における感染症リスク

免疫老化は高齢者の感染症リスクを高める主要因である。例えば、季節性インフルエンザや新型コロナウイルス感染症において、高齢者は重症化リスクや死亡リスクが増加することが疫学データから示されている。これは免疫応答の初期段階での病原体排除能力が低く、炎症反応の制御が不十分であることによる。さらに、高齢者の生体は慢性的な低度炎症(inflammaging)を呈することが多く、生体防御と炎症制御のバランスが乱れやすい。

3)ワクチン応答と年齢

ワクチンによる免疫獲得は感染症予防において重要であるが、高齢者ではワクチン応答が低下する傾向がある。これは、T細胞やB細胞の機能低下や抗体クラススイッチの効率低下が原因として挙げられる。そのため、高齢者に対するワクチン戦略としては、抗原量の調整、アジュバント(免疫賦活剤)の利用、ブースター接種などを組み合わせることが一般的である。

4)生活習慣と年齢関連免疫低下

加齢に伴う免疫機能低下は、生活習慣と強く関連している。栄養不良、運動不足、慢性的ストレス、睡眠障害などは免疫老化を加速させる要因となる。例えば、高齢者は食事摂取量の減少により必須栄養素が不足しがちであり、これが免疫細胞の産生・活性を阻害する。また、運動不足は血流の低下や炎症促進に寄与し、免疫機能低下につながる。

5)加齢に伴う慢性炎症(inflammaging)

老人期に特徴的な現象として、慢性の低度炎症が存在する。これは、炎症性サイトカインが持続的に高値となり、免疫調節が不安定になる状態を指す。慢性炎症は、がんや心血管疾患、代謝疾患などの慢性疾患のリスク増加にも関連する。免疫系は恒常性維持機構として炎症を制御するが、加齢によりこの調節機能が低下すると、慢性炎症が促進される。

6)免疫老化への介入戦略

免疫老化への対策としては、生活習慣の改善に加えて、個別化医療や栄養介入、運動療法の組み合わせが効果的である。例えば、適度な有酸素運動はナチュラルキラー細胞やT細胞の活性を維持し、慢性炎症を抑制する。一方、質の良い睡眠は免疫細胞の回復と炎症制御に寄与する。これらは免疫機能の改善だけでなく、老化関連疾患の予防にも寄与する。

7)まとめ

免疫力と年齢は密接に関連しており、免疫老化は高齢化社会における健康課題として重要な研究テーマである。免疫力の維持・向上は、病原体への抵抗力だけでなく、がんや慢性疾患リスクの低減、生活の質の向上にも寄与する。加齢に伴う免疫機能低下に対しては、生活習慣改善、栄養管理、適度な運動、睡眠の質向上などの包括的な戦略が必要である。また、免疫老化への理解を深める研究は、今後の公衆衛生政策や高齢者医療戦略にとって不可欠である。

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