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コラム:掃除、正しくできてますか?「ついで掃除」を習慣に

掃除が苦手な人は「完璧主義」を捨て、小さな習慣(1日5分、ついで掃除、道具を見える場所に置く等)から始めるのが現実的である。
掃除のイメージ(Getty Images)
日本の現状(2025年11月時点)

日本では従来から「清潔さ」が生活文化の一部であり、掃除や片付けは日常生活の基本である。しかし、近年は働き方の多様化、高齢化、単身世帯の増加などで家庭内の掃除習慣が変化している。調査によると、伝統的な年末の「大掃除」を実施する世帯の割合が減少傾向にあり、世帯構成やライフスタイルによって掃除に割ける時間に差が出ているという報告がある。特に共働き世帯や単身世帯では「時間がない」と答える割合が高く、掃除が後回しになりやすい傾向が出ている。年末大掃除の実施率は近年低下する傾向が報告されている。

一方で、ハウスダストやダニなど住環境に起因するアレルギーの問題は依然として重要課題であり、適切な清掃・手入れが不十分な家庭が一定数存在するという研究がある。ハウスダスト中のダニ関連物質はアレルギー症状の原因となりうるため、寝具やカーペットなどの手入れは引き続き衛生維持で重要である。

また、掃除の手順や衛生管理に対する知識が十分ではなく、「なんとなく」行っている人が多いという調査結果も出ている。適切な頻度や方法を知らないまま掃除を続けると、見かけ上は清潔でも病原微生物や害虫、火災リスクの温床になるケースがある。

掃除、正しくできていますか?

「やっているつもり」になっていることが多い。多くの家庭で表面上の拭き掃除や掃除機をかける習慣はあるが、掃除の目的(病原微生物の除去、アレルゲンの低減、火災・事故リスクの低減など)を理解していないため、手順や頻度が適切でないことがある。例えば、ふきんや雑巾の衛生管理が不十分であると、かえって菌を拡散することがある。調査によっては掃除手順を「なんとなく」で行う人が4割以上にのぼるという結果もある。具体的な清掃方法や頻度を学ぶことが必要である。

掃除の重要性(総論)

掃除は単なる見た目の美しさを保つ行為ではなく、身体的健康・衛生、室内空気質、安全確保、心理的健康、経済性の面で多面的な価値を持つ。掃除を通じて病原菌や害虫を抑え、空気中の有害物質を削減し、転倒や火災のリスクを下げ、精神的な安定や集中力を高めることができる。以下、各観点を詳述する。

1)健康と衛生の維持

  • 日常の清掃はハウスダストやダニ、カビなどアレルゲンや病原性微生物の蓄積を抑える最も基本的な対策である。寝具や布製品、カーペットはハウスダストが溜まりやすく、適切な手入れ(換気、洗濯、掃除機掛け、ふとん叩きや日干し、掃除機の吸引力のある掃除など)が必要である。厚生労働省や関連研究は、ハウスダスト対策がアレルギー疾患の管理に寄与することを示している。

2)病原菌・害虫の抑制

  • 台所や流し周り、ゴミ置き場は細菌や害虫(ゴキブリ、ネズミなど)の繁殖源になりやすい。適切な洗浄と乾燥、食品の管理(密閉保存、残飯処理)、ゴミの分別・頻度ある処理は害虫発生を抑制する。ふきんやスポンジなどは菌が繁殖しやすいため定期的な交換や熱処理(煮沸や漂白)を行うべきである。調査でもふきんの手入れ頻度が低い家庭が多く、衛生上のギャップが問題視されている。

3)空気質の改善

  • 室内のほこり・微粒子は空気中に浮遊し、呼吸器やアレルギーを悪化させる。定期的な床の清掃、換気、エアコン・換気扇のフィルター清掃、掃除機のHEPAフィルター活用などで室内空気質を改善することができる。特に住宅の気密化が進む現代では、換気と清掃の両輪が重要である。

4)安全性の確保(転倒・衝突の防止)

  • 床や通路の散乱物は転倒や衝突の原因になる。高齢化社会において家庭内での転倒事故は重大な問題であり、通路の確保や滑りやすい場所の清掃、照明の確保は転倒予防に直結する。消防や医療の統計でも高齢者の住宅内事故・逃げ遅れが死亡に結びつくケースが多い。清掃は安全な生活空間を維持する基本である。

5)火災リスクの低減

  • ほこりや油汚れは電気機器やコンロ周りで発火源となる。加えて乾燥機のフィルター目詰まりや排気経路の汚れは火災リスクを高めることが明らかになっている。消防庁の報告でも住宅火災による死者は高齢者に多く、出火原因の上位にたばこ・こんろ・電気機器がある。機器周りや換気フィルターの定期的清掃は火災予防に直結する。

6)精神的・心理的な効果

  • 掃除や片付けは心理的な恩恵を与える。整理整頓された環境はストレスを低減し、情緒の安定や集中力の向上に寄与することが研究で示唆されている。単純で反復的な作業がセロトニン分泌に良い影響を与えるという報告もあり、掃除は気分の改善や自己効力感の向上にもつながる。掃除後の満足感や達成感はメンタルヘルスの安定に貢献する。

7)生産性と効率の向上

  • 職場や家庭の作業スペースが整っていると、物を探す時間が短縮され作業効率が上がる。整頓はミスの減少にもつながるため、時間あたりの生産性が向上する。長期的には物の破損や買い替え頻度が減り、経済的メリットも生まれる。

8)物を大切にする心と経済性

  • 清掃や手入れは物の寿命を延ばす。定期的な手入れにより家具・家電・衣類の劣化を遅らせ、買い替えコストを削減できる。物を大切に扱うことは持続可能な消費行動にもつながる。
健康と衛生の維持(詳細)

掃除は感染症予防やアレルギー対策として有効である。たとえば台所やトイレ周りの細菌は放置すると増殖するため、適切な洗浄と消毒が必要である。ハウスダスト中のダニやその排泄物は吸入でアレルギーを引き起こすため、掃除機や寝具の手入れ、湿度管理が重要である。厚生労働省や関連研究は、ハウスダストの適切な管理がアレルゲン対策に有効であると示している。

病原菌・害虫の抑制(詳細)

食品の保存やゴミ管理の甘さは害虫の誘引につながる。ゴキブリは菌を媒介する可能性があり、ネズミは感染症の要因にもなる。台所の油汚れや排水溝のヌメリは細菌繁殖の温床になるため、分解酵素入り洗剤や熱湯、漂白などを定期的に行うべきである。また、スポンジやふきんは湿った状態で菌が増殖しやすく、使用後の乾燥・交換を習慣化することが推奨される。

空気質の改善(詳細)

換気と清掃の両立が重要である。気密性の高い住宅でも定期的に窓を開ける、換気扇を運転する、エアコンフィルターや換気ダクトの清掃を行うべきである。掃除機は細かい粒子まで吸引できるもの(HEPA等)を適宜使うと効果的である。屋内のタバコや調理による微粒子は健康に悪影響を与えるため、排気と清掃で低減する。

安全性の確保(転倒・衝突の防止)

床や階段の散乱物、照明の暗さ、滑りやすい場所の存在は転倒事故の主因である。高齢者の増加に伴い家庭内での転倒による重大事故は増加しているため、通路の確保、滑り止めの設置、手すりや適切な照明の利用、消耗物の片付けは重要な予防策である。掃除は単に見た目の問題ではなく事故予防の基本である。

火災リスクの低減(詳細)

家庭内火災は暖房器具、コンロ、たばこ、電気機器が主因となる。ほこりや油汚れが電気機器の放熱を妨げ発火する場合がある。乾燥機のフィルターや排気ダクトの清掃怠慢が火災原因となるケースもあり、フィルター清掃などの定期作業は火災予防の最前線である。消防統計は住宅火災による被害の深刻さを示しており、高齢者の死亡割合が高い。

精神的・心理的な効果(ストレス軽減、集中力・モチベーションの向上)

掃除や片付けは心理的にも効果がある。整理された環境は視覚的な雑音を減らし、脳の認知負荷を軽減するため集中力を高める。掃除の達成感は自己効力感を高め、気分を安定させる。研究では掃除や片付けによってコルチゾール(ストレスホルモン)が低下する傾向が示唆されており、日常的な掃除習慣はストレス管理に有効であるとの報告がある。

生産性と効率の向上(作業効率アップ、ミスの削減)

作業環境が整っていると必要なものがすぐに見つかり、作業中の中断が減るため効率が上がる。職場でも家庭でも「必要なものが決まった場所にある」状態を作ることで業務効率が向上し、ヒューマンエラーが減る。これは長期的に時間とコストの節約につながる。

物を大切にする心と経済性(物の長期使用)

物の手入れを行うことで寿命が延び、買い替え頻度が低下する。これは家計にとっても経済的メリットであり、資源の節約にも寄与する。定期的なクリーニングやメンテナンスは大きな節約につながる。

掃除が苦手な人へ(心理的ハードルを下げるアプローチ)

掃除が苦手な人にとっては始めること自体がハードルになる。以下のようなアプローチで心理的負担を下げることができる。

・「完璧」を捨てて「そこそこ」を目指す
完璧を求めると挫折しやすい。まずは目に付く場所だけ、または「とりあえず整える」ことから始める。完璧ではなく持続性を重視する。

・「掃除」ではなく「片付け」から始める
物が散らかっていると掃除の効率が下がる。まずは不要物を整理し、置き場所を決めることで掃除がしやすくなる。

・「ついで掃除」を習慣にする
料理の合間にコンロ周りを拭く、洗面を使ったついでに鏡や洗面台の拭き掃除をするなど、日常の流れの中で少しずつ行う。

・負担を減らす仕組み作り
掃除用具をすぐに手に取れる場所に置く、使い捨てシートや除菌ウェットを常備することで作業開始の心理的抵抗を下げる。

・掃除道具を「すぐ手に取れる場所」に置く
道具が奥にしまってあると取り出すだけで億劫になる。フックや見える収納で取り出しやすくする。

・「1日5分」ルールを設定する
毎日5分だけでも掃除する習慣をつけることで、汚れや散らかりが蓄積しにくくなる。短時間であれば継続しやすい。

・収納場所を「ざっくり」決める
過度に細かい分類は維持が難しい。大まかな定位置を決めるだけで散らかりにくくなる。

・行動へのきっかけ作り
例えば朝食後に必ずキッチンを拭く、帰宅直後に上着をハンガーにかけるなど、既存の習慣に紐づけると習慣化しやすい。

・「汚れたら掃除」ではなく「使ったら手入れ」
調理器具や道具は使用後すぐに簡単に手入れする習慣をつけると、後の掃除負担が減る。

・音楽やラジオを活用する
好きな音楽やラジオを流して掃除を行うと、作業が楽しく感じられやすく続けやすい。

これらはいずれも心理的ハードルを下げ、持続可能な習慣にする工夫である。

具体的な実践手順(簡易ガイド)
  1. まずは片付け:不要物を捨て、物の定位置を決める。

  2. 上から下へ:掃除は天井→棚→机→床の順で行うと効率的で埃が二度落ちしない。

  3. 乾式→湿式:ホコリやクズをまず掃除機やハタキで除去し、その後に濡れ拭きする。

  4. 台所の衛生:ふきん・スポンジはこまめに交換し、熱湯や漂白処理を行う。生ゴミは密閉して頻繁に排出する。

  5. バス・トイレ:水垢やカビは放置すると増えるため、使った後の簡単な拭き取りを習慣化する。

  6. 電気機器・フィルター:エアコン・換気扇・乾燥機のフィルターは定期清掃を行い、取扱説明書に従う。乾燥機のフィルター目詰まりは火災原因になりうる。

掃除の道具と選び方

用途に応じた道具選びは重要だ。掃除機はHEPA等級のフィルターがあると細かい粒子除去に有利であり、コードレスのものは手軽さで習慣化に貢献する。マイクロファイバークロスは拭き取り性能が高く、洗って繰り返し使える。キッチン周りは除菌性能のある洗剤や漂白剤を適宜併用する。

掃除の頻度の目安(一般家庭向け)

・床(人がよく歩く場所):週に1〜2回+汚れたらその都度
・台所の調理台:毎日使用後に拭き取り、油汚れはこまめに落とす
・浴室:週に1回の本格掃除+使用後の換気・拭き取り
・トイレ:週に1回の本格掃除+日々の簡易拭き取り
・寝具:週に1回の敷きパッド等の掃除、布団は天日干しや日常の手入れを行う(生活環境により調整)
・エアコンフィルター:月1回の簡易清掃+年1回の専門清掃(使用頻度による)
これらは家庭環境やアレルギーの有無により調整する。

掃除が苦手な人への仕組み作り(実務編)

家族で分担表を作る:役割を明確にすることで責任が分散する。
・タイマー方式:短時間区切り(ポモドーロ方式など)で集中して掃除する。
・外部サービスの活用:忙しい家庭は定期清掃サービスを取り入れるのも有効。費用対効果を考え、重要箇所だけ委託する方法もある。
・リマインダーやチェックリスト:スマホのリマインダーや紙のチェックリストで定期作業を可視化する。

今後の展望

人口構造の変化や働き方の多様化により、掃除に割ける時間はさらに限られていく可能性が高い。一方で健康志向や感染症対策への関心は高まり続けるため、「短時間で効果的に行える掃除法」「自動化・ロボット清掃」「衛生面に配慮した日常家事のデザイン」が重要になる。ロボット掃除機や換気・空気清浄技術の進歩は有望であり、住宅の設計段階から掃除しやすい動線設計や収納計画を取り入れることが今後重要になる。さらに、地域レベルでの高齢者支援やごみ収集の仕組み改善など公共の側面での対策も必要になるだろう。消防や保健所、メーカーや清掃業界が連携して指導・啓発を強化することで、国民全体の住環境衛生が向上すると期待される。

まとめ

・掃除は見た目の美化だけでなく、健康・安全・心理・経済の面で極めて重要である。
・ハウスダストや害虫、汚れは放置するとアレルギーや感染症、火災、転倒事故などのリスクを高める。厚生労働省や研究機関の指摘を踏まえ、適切な頻度と方法での清掃が必要である。
・掃除が苦手な人は「完璧主義」を捨て、小さな習慣(1日5分、ついで掃除、道具を見える場所に置く等)から始めるのが現実的である。
・今後は時間制約を前提とした「効率的で持続可能な掃除法」と「テクノロジーやサービスの活用」が鍵になる。社会全体で掃除・衛生の知識を高める取り組みが望まれる。

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