コラム:アメリカ建国250年、ドナルド・トランプの衝撃
第1次トランプ政権(2017年1月〜2021年1月)は、米国政治史において重要な転換点の一つと評価される。

2026年1月時点の米国政治において、ドナルド・トランプは第2次政権を担っており、2025年1月20日に就任したばかりである。第2次政権下でも、経済・通商・移民・外交政策は「アメリカ第一主義(America First)」の基本方針を継承し、貿易・関税・移民対策で積極的な動きを見せている。この時期の政策には、関税政策の強化、多国間協調からの離脱的立場の保持、貿易障壁の再構築などがあり、世界経済や国際秩序に影響を与えている。また国内では連邦機関の再編・規制緩和や保守的司法行政の推進などが進んでいる。
こうした現状は、トランプ政治の持続的な影響力と思想的継承を反映しており、特に“米国第一主義”に基づく政策枠組みが2020年代半ばの米国政治において重要な位置を占めている。
ドナルド・トランプとは
ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)は、1946年6月14日生まれの実業家・政治家である。ニューヨーク出身であり、実業界でのキャリアを経て企業経営者として名を馳せた後、政治活動に転じた。共和党から2016年の大統領選挙に出馬し、「米国を再び偉大にする(Make America Great Again)」をスローガンに掲げて勝利を収め、第45代米国大統領(2017年1月〜2021年1月)に就任した。彼の政治的立場は「ポピュリズム」「アメリカ第一主義(America First)」として特徴づけられ、既存の政策や政治エリートへの批判を基礎とする政治スタイルが注目された。
トランプの大統領就任後の政治的影響と政策方向は米国社会の分断を助長しつつ、支持基盤の強固な支持を背景に保守政策を推進した。彼の政治的立ち位置は伝統的な共和党の路線と重なる部分もあるが、通商・外交に関しては自由貿易・国際協調路線からの逸脱を強調する傾向が強い。
第1次トランプ政権(2017年1月〜2021年1月)
第1次トランプ政権は、2016年11月の大統領選挙に勝利した後、2017年1月20日に正式に始まった。任期は2021年1月20日までの4年間であり、米国政治・経済・外交において多岐にわたる変化を引き起こした。この期間は、保守派政策の実行、規制緩和、財政・通商政策の転換、移民政策の強化、司法・行政改革、環境・エネルギー政策の変更など、多様な政策が実施された。
政権運営は、しばしば通常の政治慣行を逸脱する形で進められ、特に大統領令(executive order)を多用することで立法プロセスを補完した。これらの政策動向は、米国内外の専門機関や研究者、メディアによって精力的に分析されている。
主要な政策と特徴
トランプ政権の政策基軸として「米国第一主義」が掲げられた。この思想は、通商・移民・外交政策における優先順位として米国の国益を重視する方針を意味し、既存の多国間協定や協調路線に代わり、二国間交渉や保護主義的措置を重視する特徴があった。この戦略は「経済の再活性化」と「労働者保護」を政策の中心に据え、米国の製造業や農業を強化することを狙いとした。専門家の分析では、これは従来の自由貿易優先の米政策からの明確な転換であると評価されている。
内政・経済
財政・税制改革
トランプ政権は就任初期に税制改革を実施し、2017年12月に「Tax Cuts and Jobs Act」(TCJA)を成立させた。この税制改革は企業・個人両方の税率を大幅に引き下げ、法人税率を35%から21%に引き下げるなど大規模な変更を加えた。政権側はこれを「史上最大の税制改革」と喧伝し、企業投資の促進や賃金上昇を期待した。税制改革は一部の企業収益や投資にプラスの影響を与えたとされる一方、連邦政府の歳入減と赤字拡大を招いたとの指摘もある。具体的には税収の減少により連邦財政赤字が増加し、米国の国債残高の増大に拍車をかけたとの分析が存在する。税制改革の効果については、経済刺激効果と公平性について評価が分かれている。
大型減税
TCJAは減税規模が非常に大きく、企業税率の引き下げと個人所得税の減税が柱であった。具体的には、標準控除額の引き上げ、子ども税額控除の拡大などが盛り込まれ、多くの納税者にメリットをもたらしたとされる。ただし、減税の恩恵は高所得者層と企業に偏重するとの批判も根強い。減税による財政赤字の拡大は、長期的に公共サービスや社会保障制度への投資を圧迫する可能性があるという見方がある。減税効果は短期的な景気刺激には寄与したが、長期的な所得分配や格差への影響については専門家の間でも見解が分かれている。
規制緩和とエネルギー政策
トランプ政権は規制緩和を進め、特に環境規制とエネルギー産業において大幅な方針転換を実行した。オバマ政権下で進められていた気候変動対策・排出規制を大幅に後退させ、化石燃料産業の活性化を重視した。この一連の環境政策の変更は、連邦政府の環境保護規制100件以上の撤廃や緩和を伴い、再生可能エネルギー政策の予算削減と合わせてエネルギー産業の構造に大きな影響を与えた。これには、大規模なオフショア掘削や炭化水素資源の開発促進が含まれる。また、パリ協定からの正式な離脱は、国際的な気候変動協調からの退却として国際社会に広く報じられた。これらの動きは環境保護団体や国際機関から強い批判を受けた。これら一連の動きは米国の環境政策における大きな転換点となった。
移民政策
トランプ政権の移民政策は、入国管理の強化・不法移民対策の厳格化を特徴とした。政権は複数の大統領令や法的措置を通じて、アサイラム制度の見直しや移民受け入れ基準の強化を行った。具体的には、いわゆる「旅行禁止令(travel ban)」により一部イスラム圏諸国からの入国制限を実施した。また、難民受け入れ枠の大幅削減、法的保護措置(DACA)の廃止の試み、移民拘留の強化などが行われた。これらの措置は、移民団体や法律専門家から憲法上の問題点が指摘され、複数の裁判で争われた。移民政策の強化は政権支持層からの評価は高かったが、人道面や法制度運用に関する批判を招いた。これらの政策は米国社会の人種的・社会的分断を深化させる一因となった。
司法
トランプ政権下では司法面でも保守主義的な影響が顕著であった。政権は連邦裁判所への多数の保守派判事の任命を進め、とりわけ連邦最高裁判所では複数の保守派判事の指名・承認が行われた。この変更は憲法解釈や個人の権利に関する判決に長期的な影響を及ぼす可能性があると評価されている。保守派判事の影響力は死刑制度・銃規制・宗教の自由・行政権限の範囲など、多くの裁判領域で顕在化した。これにより、行政の規制権限や社会的権利保障に関する司法判断が改革前よりも制約的な方向へシフトしたという分析が存在する。
外交・通商
保護主義と通商政策
トランプ政権は「アメリカ第一」の通商政策を掲げ、既存の多国間自由貿易協定からの離脱や大幅な見直しを進めた。代表的なものとして、環太平洋パートナーシップ(TPP)からの離脱がある。2017年1月に米国はTPPから撤退し、アジア太平洋地域における米国の経済的影響力の低下につながるとの批判が相次いだ。TPP撤退は「米国の独立した通商政策」を標榜した一方で、域内協調の機会損失を招いたとする評価がある。これは米国が従来の多国間貿易体制重視から脱却し、二国間協議重視へ移行した象徴的な政策転換である。専門家はこの動きを20世紀以降の自由貿易主義からの逸脱として分析している。
北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉とUSMCA
トランプ政権はNAFTAの見直しを主導し、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)として再交渉した。USMCAは2020年7月に発効し、米国・カナダ・メキシコ間の貿易関係のルールを更新した。新協定では自動車産業のルール・労働条件の改善・知的財産保護の強化などが盛り込まれた。NAFTA再交渉は、トランプ政権が標榜する「米国労働者の保護」や「貿易の公平化」を追求した結果であり、一定の市場アクセス改善や原産地規則の見直しが行われた。USMCAは単なる名称変更ではなく、貿易構造の一定程度の再調整を伴う内容とされた。しかし、貿易専門家の中には、USMCAが大幅な経済効果を生むという主張に疑問を呈する者もいる。いずれにせよ、NAFTAからUSMCAへの移行は米通商政策史における重要な出来事である。
国際協調からの離脱と米国の役割
トランプ政権は多国間協調から距離を置く外交政策を推進し、従来米国が担ってきた「世界の警察官」としての役割を縮小する意図を示した。この立場は国際安全保障協力や条約履行への慎重な姿勢となって現れ、NATOや国連機関への財政負担見直し、国際気候合意からの離脱などにつながった。これにより、同盟国との関係調整が必要となり、米国の国際的影響力の再定義を迫られた。
対話外交と米朝関係
トランプ政権は北朝鮮との対話外交を試み、史上初の米朝首脳会談(2018年・2019年)を実現した。金正恩との協議は非核化の進展という明確な成果を生まなかったものの、従来にない首脳レベルの直接対話が実施された。この取り組みは従来の制裁・圧力重視からの転換として評価される一方、具体的な非核化措置につながらなかった点で批判もある。
歴史的評価
第1次トランプ政権は、就任当初から好調な景気拡大の継続という追い風を受けていた。トランプ政権下では失業率の低下や株価上昇、賃金改善の傾向が見られた時期があり、税制改革や規制緩和が短期的な経済刺激に寄与したと評価する専門家もいる。一方でコロナパンデミックが2020年初頭に発生し、世界経済と米国経済に深刻な打撃を与えたことが記憶される。パンデミック対応については、政権の初動・政策選択が批判の対象となり、経済パフォーマンスと健康安全保障政策の評価は分かれている。
分断の加速
トランプ政権下では、政治的・社会的分断が顕著に拡大した。移民政策や文化戦争的な争点、メディアとの対立、司法制度・選挙制度への不信などが分裂を深めた。これらは米国社会の内的緊張を高め、政治的合意形成を困難にする要因となった。専門家は、トランプ政権の政治スタイルと政策選択が社会的分断の構造的拡大を助長したと分析している。
まとめ
第1次トランプ政権(2017年1月〜2021年1月)は、米国政治史において重要な転換点の一つと評価される。その政策は「アメリカ第一主義」を旗印に、通商・移民・規制・外交政策の領域で既存の枠組みを転換しようとする試みを示した。税制改革や規制緩和は短期的な経済刺激をもたらしたとの評価がある一方、通商政策の保護主義的措置や移民強化は国内外で論争を喚起した。環境政策では気候変動協調からの後退を選択し、国際協調よりも国家利益優先の外交路線を強めた。米国社会の分断を深める原動力となったとの見解も多数存在する。本研究はトランプ政権を包括的に分析したものであり、政治的評価は依然として継続的な学術的・政策的議論の対象となっている。
参考・引用リスト
From 'Taco' to the 'Donroe doctrine': a year of Trump 2.0, Financial Times(2026年1月)
Trump made 10 key pledges a year ago, The Guardian(2026年1月)
Trump Administration Accomplishments – The White House
America First Trade Policy – White House Official Fact Sheet
CFR Timeline: Trump Foreign Policy Moments
国際貿易・通商政策の評価(JETRO, 国内外報告)
日本戦略研究フォーラムによる政策分析
第1次トランプ政権が世界にもたらしたもの
国際秩序への影響
第1次トランプ政権が世界にもたらした最も大きな影響は、第二次世界大戦後に米国が主導してきた自由主義的国際秩序(liberal international order)の相対的後退である。戦後の米国は、国連、IMF、世界銀行、WTOなどの多国間制度を通じて、ルールに基づく国際協調体制を支えてきた。しかしトランプ政権は、これらの枠組みを「米国の主権と経済利益を損なうもの」と位置づけ、距離を置く姿勢を明確にした。
この結果、国際社会では「米国が秩序の守護者としての役割を自発的に縮小した」という認識が広がった。専門家の間では、トランプ政権期を「ポスト・アメリカ的秩序への過渡期」と位置づける議論も見られる。米国の後退は、中国やロシアなどの大国が影響力を拡大する余地を生み、国際秩序はより多極化・競争的な様相を帯びることとなった。
同盟関係の再定義
トランプ政権は同盟関係を「価値の共有」ではなく「コストと利益」の観点から再定義した。NATO加盟国に対して防衛費負担の増額を強く要求し、日本や韓国に対しても在日・在韓米軍の駐留経費負担増を求めた。これは同盟国側にとって、米国の安全保障コミットメントが条件付きになる可能性を示唆するものであり、同盟の信頼性に疑念を生じさせた。
一方で、トランプ政権の圧力が結果的に同盟国の防衛費増加を促したという評価も存在する。この点については、「短期的な負担増と引き換えに、同盟の自立性が高まった」とする見解と、「米国主導の同盟体制の弱体化を招いた」とする見解が併存している。
グローバル経済への影響
通商政策における保護主義の強化は、世界経済に不確実性をもたらした。特に中国との貿易摩擦は、関税引き上げの応酬を通じてグローバル・サプライチェーンに影響を与えた。IMFやOECDなどの国際機関は、トランプ政権期の貿易摩擦が世界経済の成長率を押し下げたと分析している。
同時に、トランプ政権の行動は「自由貿易は不可逆的ではない」という現実を世界に突きつけた。これにより、各国は経済安全保障やサプライチェーンの強靭化を重視するようになり、2020年代の国際経済政策における重要な潮流を形成した。
第1回弾劾裁判(2019年〜2020年)
背景と経緯
第1回弾劾は、2019年に発覚したウクライナ疑惑を発端とする。トランプ大統領が、ウクライナ政府に対し、政敵であるジョー・バイデンおよびその息子に関する調査を促す見返りとして、米国の軍事支援を保留したとされる疑惑である。
下院はこの行為を「職権乱用」と「議会妨害」に該当すると判断し、2019年12月、トランプ大統領を弾劾訴追した。これは米国史上、3人目の弾劾訴追された大統領であった。
結果と評価
2020年2月、上院での裁判において、共和党が多数を占める中、トランプ大統領は無罪とされた。この結果は、弾劾制度が法的責任追及というよりも、高度に政治化された制度であることを改めて浮き彫りにした。専門家の多くは、この弾劾がトランプ支持層をむしろ結束させ、政治的分断をさらに深めたと分析している。
第2回弾劾裁判(2021年)
背景と経緯
第2回弾劾は、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件を受けて行われた。トランプ大統領が選挙不正を主張し続けたことが支持者を扇動し、暴力的行為を招いたとされ、「反乱扇動」が弾劾理由とされた。
下院はトランプ大統領の任期終了直前に弾劾訴追を可決し、これは米国史上初めて、同一人物が2度弾劾された事例となった。
結果と歴史的意義
上院では有罪に必要な3分の2に届かず、再び無罪となった。しかし、共和党議員の一部が有罪に賛成した点は、党内におけるトランプ評価の亀裂を示す象徴的な出来事であった。
歴史的には、この第2回弾劾は「大統領の言論と民主主義制度の関係」を問う事例として、憲法学・政治学の分野で重要な分析対象となっている。
オバマ・トランプ・バイデン政権の比較分析
政権比較表
| 項目 | オバマ政権(2009–2017) | 第1次トランプ政権(2017–2021) | バイデン政権(2021–2025) |
|---|---|---|---|
| 基本理念 | リベラル国際主義 | アメリカ第一主義 | 同盟重視の国際協調 |
| 経済政策 | 景気刺激・規制強化 | 減税・規制緩和 | 公共投資・産業政策 |
| 通商政策 | 自由貿易重視(TPP) | 保護主義・二国間主義 | 同盟国との連携型通商 |
| 環境政策 | 気候変動対策重視 | 規制撤廃・パリ協定離脱 | パリ協定復帰 |
| 移民政策 | 包摂的 | 厳格化 | 一部緩和 |
| 外交姿勢 | 多国間協調 | 単独主義的 | 多国間復帰 |
| 社会的影響 | 分断は限定的 | 分断が急激に拡大 | 分断是正を試みる |
比較から見えるトランプ政権の特異性
比較分析から明らかなのは、第1次トランプ政権が前後の政権と質的に異なる性格を持っていた点である。オバマ政権とバイデン政権は、政策手法や優先順位に違いはあるものの、国際協調や制度重視という点で共通している。一方、トランプ政権は制度や慣行よりも大統領個人の判断と政治的直感を重視し、既存の枠組みを意図的に揺さぶった。
この違いは単なる政策選択の差異ではなく、民主主義の運営スタイルそのものに関わる問題として位置づけられる。そのため、トランプ政権の評価は経済指標や外交成果だけでは完結せず、政治文化や制度への影響を含めて長期的に検討される必要がある。
総合的整理
第1次トランプ政権は、世界に対して「米国中心の秩序は永続的ではない」という現実を突きつけた。2度の弾劾裁判は、制度的には大統領を罷免できなかったものの、政治的・象徴的には米国民主主義の緊張状態を世界に可視化した。オバマ政権とバイデン政権との比較により、トランプ政権は一時的な例外ではなく、米国社会に内在するポピュリズムと分断が顕在化した結果であることが理解できる。
この意味で、第1次トランプ政権は「過去の逸脱」ではなく、21世紀の米国政治を理解するための不可避な研究対象であり続けている。
第1次トランプ政権と第2次トランプ政権の連続性・断絶の分析
分析の視座
第2次トランプ政権はしばしば「第1次政権の単なる再来」として語られるが、学術的には連続性(continuity)と断絶(discontinuity)の両面から評価する必要がある。なぜなら、第2次政権は同一人物による政権である一方、①制度環境、②政権運営の成熟度、③国際環境、④支持基盤の性質が第1次政権期とは大きく異なっているためである。
以下では、理念・内政・外交・民主主義制度の4領域に分けて分析する。
理念と政治思想における連続性
アメリカ第一主義の継続
最大の連続性は、「アメリカ第一主義(America First)」が第2次政権でも明確に維持されている点である。国家主権の優越、国境管理の強化、経済的ナショナリズム、多国間制度への懐疑は、第1次政権と同様に第2次政権の政策思想の中核をなしている。
特に、自由貿易体制に対する不信、移民に対する厳格姿勢、同盟国への負担要求は、第1次政権の延長線上に位置づけられる。理念的には、第2次政権は「修正」ではなく「強化版」であると評価できる。
内政運営における連続性と断絶
連続性:規制緩和と行政権限の重視
第2次政権でも、連邦政府規制の縮小、官僚機構への不信、大統領権限の積極的行使は継続している。特に、環境規制、金融規制、労働規制の見直しは、第1次政権期の政策資産を再活用する形で進められている。
また、大統領令を多用する統治スタイルも連続しており、議会との協調よりも行政権の迅速な行使を優先する傾向が見られる。
断絶:制度への理解と「準備された政権」
一方で重要な断絶は、第2次政権が制度的により「準備された政権」である点である。第1次政権は政権移行の準備不足や人事の混乱により、政策実行力に制約があった。しかし第2次政権では、保守系シンクタンクや支持基盤と連携した人事・政策構想が事前に整備されている。
これは、トランプ個人の衝動性が減少したことを意味するのではなく、衝動的な政治スタイルが制度的に組織化されたことを意味する。学術的には、これを「ポピュリズムの制度化」と呼ぶことができる。
外交・国際秩序における連続性と変化
連続性:多国間協調への懐疑
外交面では、多国間主義への懐疑と二国間交渉重視が継続している。第2次政権でも、国際機関や条約への関与は条件付きであり、米国の直接的利益が明確でない枠組みからは距離を置く姿勢が確認される。
この点で、第2次政権は第1次政権の外交路線を理論的に整理し、より一貫した形で提示している。
断絶:国際環境の変化による制約
一方、断絶は国際環境そのものの変化から生じている。第1次政権期は、米国が依然として圧倒的な影響力を有していたが、第2次政権では中国の台頭、ウクライナ戦争後の安全保障環境、経済安全保障の重視などにより、単独行動のコストが高まっている。
その結果、第2次政権はレトリック上は単独主義的でありながら、実務レベルでは同盟国との協調を完全には放棄できないというジレンマを抱えている。この点は第1次政権との重要な違いである。
民主主義と政治文化における断絶
最大の断絶:2020年選挙と1月6日の影
第1次と第2次政権を分ける決定的な断絶は、2020年大統領選挙と連邦議会襲撃事件の経験である。第2次政権は、選挙結果をめぐる深刻な不信と制度的緊張を経た後に成立している。
このため、第2次政権下では、選挙制度、司法の独立、メディアの正統性といった民主主義の基盤そのものが、常に政治争点化されている。第1次政権でも分断は存在したが、第2次政権ではそれが構造的・恒常的な対立状態へと移行している。
分断の質的変化
第1次政権期の分断は「価値観や政策をめぐる対立」が中心であったのに対し、第2次政権期の分断は「制度の正統性をめぐる対立」に深化している。この点は、政治学的に極めて重要な断絶である。
総合比較:連続性と断絶の整理
| 観点 | 連続性 | 断絶 |
|---|---|---|
| 政治理念 | アメリカ第一主義の維持 | 理念の過激化・制度化 |
| 内政 | 規制緩和・強硬姿勢 | 政権運営の高度化 |
| 外交 | 単独主義・二国間重視 | 国際制約の増大 |
| 民主主義 | エリート不信 | 制度正統性への直接的挑戦 |
結論:第2次トランプ政権の歴史的位置づけ
第2次トランプ政権は、第1次政権の単なる「続編」ではない。それは、第1次政権で顕在化したポピュリズム、制度不信、国際秩序への懐疑が、より組織化され、より持続的な形で国家運営に組み込まれた段階である。
この意味で、第1次政権が「衝撃」だったとすれば、第2次政権は「定着」である。連続性は思想と方向性に、断絶は制度的成熟と民主主義への影響の深さに存在する。
したがって、トランプ政治は一時的逸脱ではなく、21世紀米国政治の構造変化を象徴する現象として、今後も長期的な研究対象であり続ける。
日本・EUへの影響分析
分析枠組み
トランプ政権の影響は、単なる米国の国内政治変動ではなく、同盟国が前提としてきた「米国の安定性」そのものを揺るがした事象として評価されるべきである。日本およびEUへの影響は、主に以下の3領域に整理できる。
安全保障と同盟の信頼性
経済・通商秩序
規範・価値外交(民主主義・法の支配)
日本への影響
安全保障:同盟の「条件化」
トランプ政権は日米同盟を否定したわけではないが、その性格を大きく変化させた。防衛費負担増要求や在日米軍駐留経費(いわゆる思いやり予算)への圧力は、同盟を無条件の価値共同体から、取引的関係へと変質させた。
この変化は、日本の安全保障政策に以下の影響を与えた。
自助努力の強化(防衛費増額、反撃能力の議論)
日米同盟「依存」から「補完」への発想転換
豪州、インド、欧州との多角的安全保障連携の強化
第2次トランプ政権下では、この傾向がさらに構造化され、日本は「米国と協調しつつ、米国不在にも備える」という二重戦略を制度的に組み込む段階に入っている。
経済・通商:自由貿易秩序の代替的維持者へ
TPPからの米国離脱は、日本にとって重大な衝撃であった。しかし結果的に、日本はTPP11(CPTPP)の主導国となり、自由貿易秩序の維持に積極的役割を果たすようになった。
これは、日本外交の性格を以下のように変化させた。
受動的同盟国から制度設計者への部分的転換
米国抜きの経済秩序構築という現実的選択
EUとの経済連携(EPA)深化
トランプ政権は、日本に「米国主導の秩序は前提にならない」という現実を突きつけ、日本の経済外交の自立性を相対的に高めた。
規範外交への影響
民主主義・法の支配を掲げる米国の信頼性低下は、日本外交にも影響を及ぼした。日本は価値外交を掲げつつも、トランプ政権下では価値より安定を優先せざるを得ず、価値外交のトーンを意図的に抑制する場面が増加した。
EUへの影響
安全保障:戦略的自律の加速
トランプ政権はEUに対して、NATO分担金問題や一方的批判を通じて強い圧力を加えた。この結果、EU内部では「米国に依存しない安全保障体制」の必要性が強く認識され、戦略的自律(Strategic Autonomy)の議論が加速した。
具体的には、
欧州防衛基金(EDF)の強化
EU独自の防衛協力枠組み(PESCO)の推進
米国抜きの危機対応能力構築
といった動きが進展した。第2次トランプ政権は、この流れを不可逆的なものにしている。
通商・規範秩序:米国との価値乖離
EUは自由貿易と規範主導型秩序を重視してきたため、トランプ政権の保護主義・規範軽視は、米欧間の価値的乖離を顕在化させた。
その結果、EUは、
気候変動政策の独自推進
デジタル規制(GDPRなど)の主導
中国との関係における独自路線模索
を進め、米国中心秩序からの相対的距離を拡大させた。
第2次トランプ政権の今後シナリオ分析
分析前提
第2次トランプ政権の行方は、国内政治、国際環境、経済状況によって大きく左右される。以下では、政治学・国際関係論において用いられるシナリオ分析手法に基づき、3つの代表的シナリオを提示する。
シナリオ①:強化シナリオ(アメリカ第一主義の徹底)
概要
このシナリオでは、第2次政権が第1次政権以上に強硬化し、保護主義、移民制限、行政権集中を徹底する。
主な特徴
関税・通商圧力の再強化
同盟国への安全保障負担要求の制度化
国際機関からのさらなる距離
司法・行政を通じた統治権限の集中
国際的影響
日本・EUは戦略的自律を急速に拡大
国際秩序の多極化が加速
米国の「拒否権国家」化
シナリオ②:修正シナリオ(現実主義的調整)
概要
国内外の制約を受け、第2次政権がレトリックを維持しつつ、実務面で妥協するシナリオである。
主な特徴
同盟国との限定的協調
経済安全保障分野での協力維持
国際機関への条件付き関与
国際的影響
日本・EUとの関係は「緊張管理型安定」
国際秩序は不安定ながら維持
トランプ政権は「異端だが不可欠な大国」として位置づけられる
シナリオ③:反動シナリオ(国内制度的抵抗の増大)
概要
司法・州政府・議会・世論による抵抗が強まり、政権の行動が大きく制約されるシナリオである。
主な特徴
政策実行の停滞
政治的対立の激化
選挙制度・民主主義を巡る争点化
国際的影響
米国の外交一貫性が低下
同盟国は米国の意思決定を信用しにくくなる
世界は「米国不在型調整」に慣れていく
シナリオ比較表
| 観点 | 強化 | 修正 | 反動 |
|---|---|---|---|
| 米国の影響力 | 強硬だが孤立 | 限定的安定 | 不安定化 |
| 同盟関係 | 取引化 | 管理的協調 | 不信拡大 |
| 国際秩序 | 多極化加速 | 不完全維持 | 断片化 |
最後に
第1次および第2次トランプ政権は、日本とEUに対し、「米国に依存する秩序は永続しない」という現実を突きつけた。その結果、日本とEUは戦略的自律を模索し、国際秩序はより分散的・競争的な形へと移行しつつある。
第2次トランプ政権の行方は、単に米国の問題ではなく、国際社会全体がどのような秩序を選択するのかを映し出す試金石である。
