SHARE:

コラム:2026年の電気自動車(EV)業界、課題と展望

EV市場は2026年において、「成熟と多様化」への移行期を迎えており、単純な販売増加から、競争戦略・政策対応・技術革新・インフラ整備の複雑な絡み合いが進展している。
未来の電気自動車のイメージ’(Getty Images)

2025年までの電気自動車(Electric Vehicle: EV)市場は、世界的な販売増加と地域差が共存する局面にある。国際エネルギー機関(IEA)などの調査によると、2025年は世界の新車販売に占めるEVの割合が過去最高水準に達し、純電動車(BEV: Battery Electric Vehicle)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の拡大が進んだ一方、成長率には鈍化の兆しもみられる。

中国市場は依然として構造的に強く、国内販売台数が世界全体の大部分を占める状態が続いており、欧米は補助金制度の変動や政策の揺れを反映した成長曲線となっている。

また、企業レベルでは2025年の統計で中国のBYDが世界の純EV販売台数でテスラを上回り、世界最大のEV販売メーカーとなったことが大きな論点となっている。この現象は競争構造の変化を象徴しており、2026年以降の業界勢力図に影響を与えると見られている。


2026年の電気自動車(EV)業界(総論)

EV市場は2026年において、「成熟と多様化」への移行期を迎えており、単純な販売増加から、競争戦略・政策対応・技術革新・インフラ整備の複雑な絡み合いが進展している。市場全体では引き続き成長が予測されるが、成長率は過去の爆発的な伸びから相対的に鈍化するとの予測が多い。国際調査では、2026年におけるEV市場は依然として高い成長を続けるものの、年率成長率(CAGR)は前年度より低下するとの分析もある。

また、地域別では中国が依然最大の市場であり、欧州は排出規制や政府施策によりBEVのシェア増を推進し、米国は政策変動が成長に影響するという地域差が鮮明である。世界のメーカー戦略もこれに応じて多極化しており、環境規制対応や補助金制度への適応が主要テーマとなる。


主要な動向

成長鈍化

2025年までの世界的なEV販売の伸びは顕著だったが、2026年には成長率がやや鈍化するという見方が出ている。国際的な調査会社Rho Motionなどは2026年のEV販売の年成長率が2025年より低くなると予測している。これは消費者需要の飽和感や政策変動、補助金縮小などが影響しているとされる。

競争激化

世界的な競争は激しさを増しており、従来のテスラや欧米自動車メーカーに加えて、中国勢が影響力を強めている。2025年のデータではBYDが年間販売でテスラを上回り、グローバル市場で優位に立った。中国EVメーカーは低価格帯から高価格帯まで幅広い製品を展開し、輸出と海外拠点展開を進めている。


中国勢の台頭による競争激化

中国のBYDは世界最大のEVメーカーの一つとなり、2025年にはテスラを純EV販売台数で上回っている。中国国内の強い需要と多様な価格帯、また海外市場の拡大戦略がBYDの成長を支えている。

BYDの競争優位は、製品ラインアップの広さと価格競争力、高効率バッテリー、そして中国政府などの産業支援環境によるものである。さらに同社は欧州や東南アジアなどの海外市場で販売網を拡充しており、2026年にかけてその勢いは継続すると見られている。


政策と補助金の見直し

補助金制度変更

多くの国・地域で2025年を境にEV購入補助金や税制優遇が見直されており、2026年はその影響が大きく出ると予想される。例えば、欧州の一部では補助金削減や税制変更が導入されており、これが販売動向に影響している。補助金制度の変化は需要抑制要因となる可能性がある。

米中貿易摩擦

米中の貿易摩擦がEV業界にも波及し、両国間の輸出入規制や関税措置が競争環境を変化させている。特に米国は中国製EVに対して不利な政策を強めており、輸入関税や技術規制が進む可能性がある。

EUの新たな排出ガス規制「ユーロ7」

欧州連合(EU)は排出ガス規制を強化し、ユーロ7基準への移行を進めている。これにより、内燃機関(ICE)車の規制が強まる一方で、EVへの転換圧力が高まる。自動車メーカーにとっては製造コストや技術開発負担が増加する一方、排出削減目標達成のためにEV投資を促進する要因となる。 特にEUでは2035年までに新車販売のCO₂ゼロエミッション化を目指す政策が維持されており、自動車各社はこれに対応したラインアップ強化を進めている。


技術革新と製品多様化

バッテリー技術の開発が加速

2026年に向けてEVの技術開発はバッテリーを中心に進展している。固体電池やナノ材料を用いた次世代バッテリー、そして急速充電対応技術などが注目される。これらは航続距離の延伸やコスト低減に寄与し、EVの競争力を高める重要技術となる。

トヨタは2026年以降に航続距離1,000kmを目指す新型バッテリー技術の導入を予定

トヨタ自動車は2026年以降、現行比で航続距離20%以上向上、充電時間短縮などを狙った新型バッテリー技術の実用化を計画している。またリン酸鉄リチウム(LFP)電池や全固体電池の研究開発を進め、EVの性能向上とコスト削減を図る予定である。

市場の「本格普及」と「多様化」が進む

2026年にはEVが単なる環境対応車から多様な消費者ニーズに応える製品群へと進化する。高性能モデルから低価格モデル、商用車・大型車など多様な車種が市場に登場し、ユーザーの選択肢が大幅に広がっている。これにより、EVは各セグメントで本格普及の段階に入りつつある。


課題

充電インフラの不足

2025年までに世界各地で充電インフラは拡大したが、2026年時点でも地域間の格差や不足は依然として解消されていない。インフラ不足はEVの利便性や消費者需要に影響を与える重大な課題であり、特に都市部外での普及に対するボトルネックとなっている。

価格とコスト

EV車両価格は依然としてICE車より高い傾向が続いている。バッテリーコストの低減や大量生産体制の構築が進むものの、価格競争力の向上にはさらなる技術革新と生産効率の改善が必要である。

バッテリー材料の供給不足やサプライチェーンの不安定さ

バッテリー材料、特にリチウム・ニッケル・コバルトなどの供給は需要の急増により逼迫する可能性が指摘されている。これらの材料供給の不安定性はEV生産コストと供給リスクを高める要因となっている。

車両価格が高止まりする傾向

価格高止まりは消費者購買意欲に影響を与える一方で、TX競争や規制対応などが自動車メーカーのコスト構造に圧力をかけている。


今後の展望

2026年以降、EV産業は「成長の継続」と「競争環境の激化」という二重の潮流を辿ると予測される。具体的には、EVは単なる環境対応策から移動手段の主流への転換を進めると同時に、競争優位性は価格・技術・インフラ整備・政策適応力に依存するようになる。

また、エネルギーシステム全体との統合が進み、再生可能エネルギーとの連系や、バッテリーのリユース・リサイクル技術の成熟が重要なテーマとなる。EVは単なる製品ではなく、エネルギーインフラと連動したシステムとして進化するとみられる。


まとめ

本稿では、2026年1月時点におけるEV業界の現状と展望をまとめた。EV市場は引き続き成長軌道にあるが、地域別の政策差や競争環境の変化により成長率はやや鈍化している。中国勢、特にBYDの台頭が世界市場の競争構図を変化させ、欧州や米国でも政策対応やインフラ整備が大きな課題となる。技術面ではバッテリー革新や製品多様化が進み、EVの本格普及期に入る一方で充電インフラ不足や価格高止まりといった課題も残る。今後は政策支援と民間技術革新が両輪となって、EVの持続的な発展を促進すると予想される。


参考・引用リスト

  • BYDが世界のEV販売でテスラを上回った報道(Wired / Business Insider)

  • 欧州のゼロエミッション政策と自動車規制(Reuters)

  • EV販売増と電池材料市場(Reuters)

  • BCGによる国際EV販売の動向分析(BCG)

  • グローバルEV市場予測(Autovista24)

  • EV市場展望と成長率予測(Investing News)

  • 中国市場・販売統計など(Marklines等)

  • トヨタのバッテリー戦略と技術開発計画(Toyota Sustainability Report)

  • 世界的なEV充電インフラの格差と課題(EVLIfe)


追記:EV業界の競争が激化した経緯

EV業界における競争激化は、単一の要因によって生じたものではなく、技術進歩・政策誘導・資本流入・市場構造の変化が段階的に重なった結果である。その経緯は大きく三つのフェーズに分けて理解できる。

第1フェーズ:技術黎明期と先行者優位の形成(2010年代前半〜中盤)

2010年代前半、EV市場は依然としてニッチ市場であり、航続距離の短さ、充電インフラの未整備、高価格といった課題が顕在化していた。この段階ではテスラが象徴的な先行者となり、リチウムイオン電池の大容量化、ソフトウェア主導の車両設計、OTA(Over The Air)アップデートなど、従来の自動車産業とは異なる競争軸を確立した。

この時期の競争は「EVを成立させられるか否か」という技術的ハードルが中心であり、参入障壁は高かった。そのため競争は限定的で、EV市場は一部の革新的企業と実証的プロジェクトに支配されていた。

第2フェーズ:政策主導の急拡大と参入企業の増加(2010年代後半〜2020年代前半)

2010年代後半以降、各国政府が脱炭素政策を強化し、EV購入補助金、排出規制、内燃機関車の販売禁止目標などを次々に打ち出したことで、市場環境は急変した。EU、中国、米国を中心に、EVは「環境対応車」から「政策的に推奨される主流技術」へと位置づけが変化した。

この段階で既存自動車メーカー(OEM)も本格参入し、同時に中国を中心とする新興EVメーカーが大量に誕生した。結果として、EV市場は急速な市場拡大と同時に供給過剰の兆しを帯び始め、価格・性能・航続距離・デザインといった多面的な競争が始まった。

第3フェーズ:成長率鈍化とゼロサム競争への移行(2020年代半ば以降)

2025年前後から、EV市場は引き続き拡大しているものの、成長率は鈍化し始めた。この局面では、新規需要の創出よりも既存需要の奪い合いが競争の本質となる。

補助金の縮小、金利上昇、原材料価格の変動などが重なり、EVは「作れば売れる」市場から「売れる車しか生き残れない」市場へと移行した。この結果、価格競争が激化し、企業間の淘汰が進む構造が形成された。


中国EVメーカーの台頭

中国市場の特異性と国家主導型産業育成

中国EVメーカーの急成長は、中国特有の産業構造と政策環境に強く依存している。中国政府は2000年代後半からEVを戦略産業と位置づけ、巨額の補助金、税制優遇、研究開発支援、地方政府による産業クラスター形成を進めてきた。

加えて、中国は世界最大の自動車市場であり、都市部の大気汚染問題やエネルギー安全保障の観点からEV普及の社会的要請も強かった。この結果、中国国内には巨大な実験場とも言えるEV市場が形成され、企業は短期間で製品改良と量産を繰り返すことが可能となった。

垂直統合とコスト競争力

BYDをはじめとする中国EVメーカーの最大の強みは、バッテリーから車両までの垂直統合である。BYDは電池メーカーとして出発した企業であり、LFP電池などの自社技術を車両設計に直接反映できる。この構造はコスト削減と供給安定性の両立を可能にし、価格競争力の源泉となっている。

また、中国では部品サプライヤーの集積度が高く、車載半導体、電池材料、車体部品の多くを国内で調達できる。この点は欧米メーカーと比較して大きな優位性である。

多様な価格帯と高速な製品投入

中国EVメーカーは、低価格モデルから高級モデルまで幅広い価格帯を短期間で投入する能力を有している。開発サイクルが短く、市場の反応を即座に製品に反映する体制が整っている点も特徴である。

この結果、中国メーカーは国内市場で激しい競争を経験しながら、価格競争・機能競争に鍛えられた状態で海外市場へ進出することとなった。


中国EVメーカーが抱える問題点

中国EVメーカーの台頭は世界市場に大きな影響を与えているが、同時にいくつかの構造的問題も内包している。

過当競争と企業淘汰リスク

中国国内では数百社規模のEV関連企業が乱立した時期があり、その多くは資金力や技術力に乏しい状態で参入していた。現在は統合と淘汰が進んでいるものの、依然として過当競争による収益性の低下が続いている。

価格競争は消費者にとっては利益となる一方、企業の利益率を圧迫し、研究開発投資や品質管理への影響が懸念される。

海外市場での政治・規制リスク

中国EVメーカーの海外展開は、地政学的リスクと直結している。米国やEUでは、中国製EVに対する関税強化、補助金対象外措置、安全保障上の懸念を理由とした規制強化が進みつつある。

これらの動きは、中国メーカーの価格競争力を削ぐだけでなく、現地生産や合弁戦略を余儀なくする要因となっている。

ブランド力と信頼性の課題

中国EVメーカーは技術力と価格競争力では急速に評価を高めている一方、長期耐久性、安全性、アフターサービスといった面で、欧米や日本の老舗メーカーと同等の信頼を獲得できているとは言い難い。

特に成熟市場では、ブランドイメージや品質保証が購買行動に大きく影響するため、この点は今後の成長制約となり得る。

補助金依存体質からの脱却

中国EV産業は長年にわたり政府支援に支えられてきたが、補助金の縮小・廃止が進む中で、真の市場競争力が問われる段階に入っている。補助金なしでも持続的に利益を上げられる企業と、そうでない企業の差は今後さらに拡大する。


追記まとめ

EV業界の競争激化は、政策主導の市場拡大から成長率鈍化への移行という構造変化によって不可避的に生じた現象である。その中で中国EVメーカーは、国家戦略、巨大市場、垂直統合によるコスト競争力を武器に急成長を遂げた。

一方で、中国EVメーカーは過当競争、政治リスク、ブランド力不足、補助金依存といった課題を抱えており、今後は量的拡大から質的成熟への転換が求められる。2026年以降のEV業界は、単なる「中国対欧米・日本」という構図ではなく、持続的競争力を持つ企業だけが生き残る選別の段階に入ると結論づけられる。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします