コラム:世界中で「反ユダヤ主義」が拡大している背景
反ユダヤ主義の拡大は、単独の要因ではなく、国際政治、社会的構造、オンライン文化、政治的動員、陰謀論の流布など多面的な要素が複合している。
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現状(2025年12月時点)
2020年代に入り、世界的に反ユダヤ主義は複数地域で顕著に増加している。国際的なデータによれば、グローバルな反ユダヤ主義事案は2024年に記録的な増加を示し、前年と比較して100%超の増加となる地域も観測されている。Combat Antisemitism Movement(CAM)の報告では、世界での反ユダヤ主義的な事件数は急増し、2024年の件数は記録的であったとされている。
欧州連合(EU)におけるユダヤ人自身の体験調査では、過去1年に反ユダヤ主義的な嫌がらせを経験したとの回答が大多数に達しており、特にオンラインでのヘイト経験が高いとの結果が報告されている。
北米でも反ユダヤ主義的な暴力やヘイトクライムは世界的な注目を集めており、特にイスラエル・ハマス戦争(2023年10月開始)後は米国で報告数が急増しているとされる。
このように、西欧・北米を中心に前例のない水準で反ユダヤ主義が可視化され、歴史的な反ユダヤ主義の経験を持つ社会でもその高まりが懸念されている。
主な背景と要因
反ユダヤ主義の拡大を理解するためには、長期的・短期的要因が絡み合っている点を整理する必要がある。歴史的な差別・偏見構造、現在の国際政治、大衆運動とデジタル文化、社会的・経済的な不安が複合して影響している。
歴史的背景
反ユダヤ主義は古代から中世までに起源を持ち、宗教的・社会的偏見が根強く残った。近代以降、ヨーロッパの歴史に埋め込まれた反ユダヤ主義の遺産は、ホロコーストの記憶と共に社会文化的記憶として残存している。今日の反ユダヤ主義は、単なる過去の残滓ではなく、政治的・社会的な文脈で再構成される形で表出している。
国際政治・中東情勢
2023年10月以降に始まったイスラエルとハマスの戦闘行為・ガザ紛争は、世界各地で反ユダヤ主義や反イスラエル感情と結びつく形での抗議運動やデモが発生し、その一部が反ユダヤ主義的な表現や行動と重なる事例が増えている。欧州でもイスラエル批判が反ユダヤ主義的な攻撃と混同されるケースが報告されている。
社会・経済不安とポピュリズム
多くの国で経済不安や社会的格差が拡大しており、ポピュリズム的な政治運動が勢力を拡大している。こうした政治的な環境では、マイノリティに対する敵意が政治的争点として活用されることがあり、ユダヤ人コミュニティがスケープゴート(責任転嫁の対象)として語られる傾向が強まっている。
デジタル・プラットフォームの影響
現代の反ユダヤ主義の拡大にはデジタル・プラットフォームの役割が大きい。オンライン空間では、ヘイト表現や陰謀論がアルゴリズムによって拡散され、エコーチェンバー効果を通じて共鳴しやすい傾向がある。研究によれば、オンライン上のヘイトグループは分散的なコミュニティ構造により持続的に活動し、反ユダヤ主義・反イスラム主義など複数のヘイトイデオロギーを広める力を持つことが示されている。
ガザ紛争とイスラエルへの反発
2023年10月に始まったイスラエルとハマスの戦闘は、国際社会で強い感情的反応を呼び、世界の主要都市で抗議運動が頻発してきた。これらの運動はイスラエルの政策・軍事行動への批判として発生することが多いが、ときにその批判がユダヤ人コミュニティ全体への嫌悪表現へと転嫁されるケースがある。この傾向は反ユダヤ主義統計にも反映されており、戦争勃発後の反ユダヤ主義的事件の増加は多くの国で記録されている。
この文脈では、イスラエル政府とイスラエル国民を混同し、ユダヤ人全体への憎悪が強まるリスクがある。歴史的には政治的対立や紛争が民族・宗教的マイノリティへの偏見・差別を助長することがあるため、この動きには注意深い分析が必要である。
反イスラエル感情の転嫁と政治的極端化
反イスラエル感情がしばしば反ユダヤ主義と結びつく理由は複合的である。政治的極端化の中で、批判が単なる政策批判ではなく、ユダヤ人全体を「敵」と見なすような言説に変質することがある。このような極端化は、社会的な分断や不信感を強め、暴力やヘイトクライムにつながる可能性を高める。
極右勢力や極左勢力の両方が、自らの政治的アジェンダを正当化するために反ユダヤ的な言説を利用することがある。たとえば、ある極右ポピュリストは国際的なユダヤ人コミュニティを「世界を操る陰謀の中心」と語る一方、極左の一部ではイスラエルを批判する政治的フレームが反ユダヤ主義的な象徴論へと転じる場合がある。
左派勢力の動向
一部の左派勢力は、イスラエルの政策や中東情勢への批判を強く打ち出している。こうした潮流の中では、イスラエル国家の政策を「植民地主義」や「アパルトヘイト」といったフレームで批判する声がある。これは政治的表現としては存在が可能だが、問題は特定のユダヤ人に対する敵意や集団帰属全般に対する嫌悪と結びつく場合である。
左派内でも多様な立場が存在するが、政治的論争が激化する中で、誤った類推やスティグマが生じ、ユダヤ人全体を一つの政治的行為者として捉える言説が浮上することがある。このような状況が反ユダヤ主義的感情の拡大に寄与している側面がある。
イスラエルを「植民地主義」「アパルトヘイト」の象徴と見なす動き
国際的な文脈では、イスラエル政府の政策を植民地主義やアパルトヘイトとみなす批評が広まることがある。批評の焦点は主に人権・国際法に関するものであり、これは多様な国際人権団体や研究者の間でも議論されている。しかし、このフレームがユダヤ人全体への嫌悪や差別へと結びつくと、反ユダヤ主義を助長する可能性がある。
ユダヤ人を「特権的な抑圧者」と定義する「アイデンティティ政治」
現代の政治文化において、「アイデンティティ政治」は複雑な力学を持つ。ある政治的アプローチでは、特定のグループを「抑圧者」として描くことで社会的正義を訴える。この枠組みが過度に単純化された形で用いられると、ユダヤ人が「特権的抑圧者」として描かれ、歴史的に根深いステレオタイプと結びつくことがある。これは反ユダヤ主義の再生産につながるリスクがある。
右派・ナショナリズム、「陰謀論」
極右・ナショナリズムの潮流では、反ユダヤ主義がしばしば陰謀論と結びつく。代表例は「ユダヤ人が世界を支配している」といった根拠のない思想であり、歴史的には「プロトコルズ・オブ・エルダーズ・オブ・シオン」などの偽書に起因する。こうした陰謀論は社会不安や政治的不満の中で再燃し、ソーシャルメディアによって拡散される危険性がある。
自国第一主義(ナショナリズム)に伴う排外主義
2020年代には多くの国でナショナリズムが再興し、移民や多文化主義への反発が強まっている。こうした流れの中で、外部のグループに対する排斥感情が助長され、既存の偏見や差別が強化されることがある。ユダヤ人コミュニティもこのような排外主義の文脈で標的になり得る。
SNSとデジタル・プラットフォームの影響
ソーシャルメディアやデジタル・プラットフォームでは、反ユダヤ主義的なコンテンツがエコーチェンバー(同じ意見が反響し合う空間)を生むことで増幅される。研究によると、オンライン上のヘイトコミュニティは参加構造により持続的に活動し、陰謀論的語彙やヘイトスピーチを広範なユーザー層に伝播している。
また、ネットワーク理論の分析では、ヘイト・過激主義が多数のプラットフォームを横断して機能し、一般ユーザーとの接点を持つことで影響力を強めているとの指摘もある。
情報操作・偽情報の拡散
デジタル化した情報環境では、偽情報や誤解を招くコンテンツが急速に拡散する。反ユダヤ主義に関連する偽情報は、既存の偏見と結びついて誇張・変形され、人々の認識を歪めるリスクがある。SNSアルゴリズムは反応を促すコンテンツを優先的に拡散するため、反ユダヤ的なコンテンツが連鎖的に拡散しやすい。これは社会的な分断を助長する。
社会的不安と陰謀論の再燃
社会的不安、経済的不安定、政治的分断は、陰謀論が広まる土壌を強める。陰謀論は単純な原因・結果モデルを人々に提供し、複雑な社会現象を「黒幕」として特定の集団に帰属させる傾向がある。歴史的にユダヤ人はこうした陰謀論の「標的」とされてきた。現代でも、経済危機や政治的危機が陰謀論を活性化し、それが反ユダヤ主義を再燃させる要因となっている。
スケープゴート(生け贄)としてユダヤ人を標的にする古い手法
差別とヘイト犯罪の研究では、困難な社会状況下でマイノリティが象徴的な責任転嫁の対象になるケースが歴史的に観察されている。ユダヤ人コミュニティは欧米社会において長年にわたりスケープゴート化することがあり、現代でもこの傾向が再現されている。
2025年の特筆すべき動向
2025年には、反ユダヤ主義の文脈において国際的な暴力事件やテロ事件も報じられている(例:オーストラリアでの銃撃テロ事件など、反ユダヤ的動機が報じられたケースがあると報道されている)。これらの事件は世界的なヘイト犯罪の増加傾向の一部として理解される。
また、世界各国で公的対策の強化が進んでいる。英国やオーストラリアなどでは、反ユダヤ主義に対する国家戦略や法的枠組みの強化が議論されている。地方自治体や国際機関もヘイトクライム防止策を強化している。世界ユダヤ会議(WJC)などは、地方行政やパートナーと協働して反ユダヤ主義対策を推進する事例が増えている。
公的対策の強化(英国やオーストラリアなど)
英国政府は反ユダヤ主義対策に関する政策を展開し、学校や公共機関でのヘイト防止教育を重視している。また、オーストラリアを含む複数国では反ユダヤ主義的暴力を含むヘイトクライムを特定し、予防・対応に関する法制度の強化を進めている。これらの取り組みは、社会全体の意識向上と予防的対応を目的とする。
今後の展望
反ユダヤ主義の拡大は、単独の要因ではなく、国際政治、社会的構造、オンライン文化、政治的動員、陰謀論の流布など多面的な要素が複合している。これを抑制するためには、教育、法的枠組みの強化、デジタルリテラシー向上、コミュニティ間の対話が不可欠である。国際機関や市民社会が協力してヘイトに対抗する枠組みを強化し、偏見や差別を許容しない社会の形成が求められる。
追記:反ユダヤや反イスラムを含む「排外主義」が世界に与える影響
1.排外主義の定義と特徴
排外主義(Xenophobia)は、外国人や異文化集団に対する恐怖、嫌悪、敵意を指す。排外主義は単なる「他者への恐怖」ではなく、社会的・政治的プロセスとして表出し、制度的差別や暴力に至ることがある。反ユダヤ主義や反イスラム主義は、宗教的・文化的マイノリティに対する排外主義の代表例である。
2.社会的影響
排外主義は社会的分断を深刻化する。異なる集団間の信頼が損なわれ、社会的連帯が弱体化する。学校や職場、地域コミュニティにおいて偏見が広がると、マイノリティが周縁化され、社会参加の機会が制限される。これにより、社会的疎外感が強まり、暴力的な衝突が発生するリスクが高まる。
3.政治的影響
排外主義が政治的に動員されると、政策形成が排他的な方向へと傾斜する可能性がある。移民制限、宗教的マイノリティへの監視強化、政治的自由の制限などが正当化されるリスクがある。政治システム内で排外主義勢力が強まると、多文化主義的な価値観が後退し、社会的包摂の原則が弱まる。
4.経済的影響
排外主義は経済にも影響を与える。移民労働力への敵意が高まると、労働市場が分断され、生産性の低下や労働力不足が生じる可能性がある。また、国外投資や観光など国際経済交流が抑制されることがあり、経済成長の制約要因となる。
5.国際関係への影響
排外主義は国際関係にも悪影響を与える。特定の国家や宗教集団への敵意が外交政策に反映されると、国際的な協力関係が損なわれる。例えば、宗教的・文化的マイノリティに対する偏見が根底にある政策は、他国との対話や協調を困難にし、地域的不安定化を助長する可能性がある。
6.人権・法の支配への挑戦
反ユダヤ主義や反イスラム主義など排外主義は、人権の普遍性と法の支配に対する挑戦である。差別的な言説や政策は基本的人権を侵害し、マイノリティの権利を脅かす。法制度が偏見を助長する方向に傾斜すると、正義の原則が損なわれるリスクがある。
7.教育と文化の役割
偏見の克服には教育と文化交流が重要である。学校教育における多文化理解教育や歴史教育、メディアリテラシー教育の強化は、偏見の根源的な要因を減少させる助けとなる。また、文化交流や対話の機会を増やすことで異なる集団間の理解と尊重を促進できる。
8.国際的な取組みの必要性
排外主義は国家単位の問題ではなく、グローバルな挑戦である。国際機関や地域協力体が、差別やヘイトに対する包括的な政策枠組みを強化する必要がある。国境を越えたヘイト・排外主義に対応するには、情報共有、ベストプラクティスの交換、国際法の遵守が不可欠である。
9.結語
反ユダヤ主義や反イスラム主義を含む排外主義は、社会的・政治的・経済的・国際的に深刻な影響をもたらしている。これらは単なる偏見ではなく、制度的課題として対処が必要である。教育の深化、多様性尊重の文化の醸成、法的保護の強化、国際的連携が、これらの挑戦に対処する鍵である。
以下に、各地域ごとの詳細データと学術・専門機関による引用を交えた補足資料を示す。主要地域(欧州、北米、オーストラリア・アジア・中東・南米)ごとに反ユダヤ主義(antisemitism)に関する統計データ・調査結果・専門機関報告を整理する。
1. 欧州(European Union/主要国家)
1-1. 欧州連合(EU)全体の実態
EU内のユダヤ人に対する経験・認識をデータで把握できる最も包括的なものとして、EU基礎権機関(FRA)の調査がある。この調査はEU13カ国(EU内のユダヤ人口約96%をカバー)を対象としており、ユダヤ人自身の経験に基づいたデータである。
96%の回答者が、直近1年で反ユダヤ主義的な体験(オンライン/オフライン含む)を「経験した」と回答している。
約84%が自国で反ユダヤ主義は「大きな問題」と認識。
約80%がこの5年で反ユダヤ主義は増加していると回答。
約91%がインターネット・SNS上の反ユダヤ主義コンテンツを「大きな問題」として捉えている。
政府が反ユダヤ主義に効果的に対処していると考える人は、18%にとどまる。
(FRA調査, 2024)
この調査は戦争勃発前(2023年初頭)までの調査だが、その直後以降のデータも各国連携組織によって追加収集されており、反ユダヤ主義がさらに加速しているとの報告が出されている。
1-2. ドイツ
ドイツでは、RIAS(連邦反ユダヤ主義研究・情報センター)が2024年統計を公表し、反ユダヤ主義事件が急増していることを示した。
2024年に記録された反ユダヤ主義事件は8,627件となり、前年(4,886件)からほぼ倍増している。
RIASレポートは、特にイスラエル関連の抗議・デモが表現の自由とヘイト行動の境界を曖昧にしていることが影響していると分析している。
また、極右勢力による事件件数が他のイデオロギー勢力よりも多く、三倍以上に上ることも報告された。
(RIAS 2024 レポート)
ドイツ連邦教育研究省(BMBF)は反ユダヤ主義研究への公的資金提供を強化し、ソーシャルメディアとイスラエル関連反ユダヤ主義の関係を重点テーマとしている。
1-3. イギリス(UK)
イギリスではInstitute for Jewish Policy Research(JPR)やCommunity Security Trust(CST)の調査がある。
2025年には、コミュニティ調査で35%が「安全ではない」と感じると回答し、2023年の9%から急増している。
2025年前半だけで、CSTは1,521件の反ユダヤ主義事件を記録している。多くはイスラエル・ガザ情勢と関連する抗議・暴言である。
(JPR/CST 2025)
他の世論調査では、国民一般では反ユダヤ主義対策を優先する政策として認識する割合が低いとの報告もある。
1-4. 中欧・東欧(例:チェコ)
中欧でも反ユダヤ主義事件増加が報告されている。
チェコ共和国では、2024年に4,694件の反ユダヤ主義事件が記録され、前年から約8.5%増加している。
ほとんどがオンラインでのヘイト言説だが、シナゴーグへの物理的攻撃や放火未遂などの物理的暴力も散見される。
(連合ユダヤコミュニティ 2024)
1-5. 欧州全般の評価
欧州における反ユダヤ主義は、戦後以来の深刻度であると指摘されている。FRA調査やCST/RIASなどの統計を総合すると、オンライン・オフライン両面で日常生活への影響が顕著であり、社会的安全感が低下していることが裏付けられている。
2. 北米(アメリカ合衆国・カナダ)
北米では複数の監視組織(ADL, ARC, ICCなど)が反ユダヤ主義を継続的にトラッキングしている。
2-1. アメリカ合衆国(USA)
Anti-Defamation League(ADL)などの統計では、反ユダヤ主義的事件・ヘイトクライムは過去数年で大幅に増加している。
イスラエル・ハマス戦争以降、米国では反ユダヤ主義事件が大幅に増加。2023–2024の期間では、事件数やオンライン上のヘイト表現が突出しているとの報告がある。
2025年8月までのデータでは、ARCのグローバル集計で米国が最多件数を記録していると報告されている。
(Combat Antisemitism Movement 2025)
アメリカ大学キャンパスでも、ユダヤ人学生の多数がキャンパス上の反ユダヤ主義を深刻な問題と感じているとする調査がある。
学生の74%が大学内で反ユダヤ主義が蔓延していると認識し、約30%が直接的な嫌がらせを経験したと報告。
(ICC 2025調査)
2-2. カナダ
国際レポートでは、カナダでも反ユダヤ主義は増加傾向にあるとされる。
一部の報告では、2023–2024年の期間で約670%増加したとの統計が報告されている。
(イスラエルAntisemitism Report 2024)
ただし、北米全体での統計はデータソースや計測方法が異なるため、増加率には幅がある。
3. オーストラリア・アジア太平洋地域
特に2025年末の動向として、オーストラリアの激しい反ユダヤ主義事件が報じられている。
3-1. オーストラリア
2025年12月、シドニーのボンダイビーチでの反ユダヤ主義を動機とした銃撃テロ事件が発生し、死者・負傷者が出た。この事件は同国のユダヤ人コミュニティと一般社会に大きな衝撃を与えている。
過去数年の集計でも、Executive Council of Australian Jewry(ECAJ)によると、2019–2025にかけて反ユダヤ主義事件は前例のない水準で推移しているとの報告がある。2024–2025報告では、数千件レベルの事件が記録され、シナゴーグへの放火や職業施設への攻撃など重篤な事件も含まれている。
3-2. アジア太平洋一般
アジア地域全体では、ユダヤ人口は比較的小さいが、反イスラエル抗議の拡大はソーシャルメディア上での反ユダヤ表現の増加を通じて観測されている。国際報告では、中国や日本・台湾でも反イスラエル・ナチス象徴の表現が見られるとの指摘がある。
4. 南米・中東・アフリカ
4-1. 南米
反ユダヤ主義の報告は中南米でも観測される。データ例としては以下の報告がある。
ブラジルでは国家指導者による発言がオンラインでの反ユダヤ主義的論者増加につながったとされ、チリでは325%増加との報告もある。
(Global antisemitism report)
ただし、地域全体の統計はデータ不均一性がある。
4-2. 中東・北アフリカ(MENA)
中東・北アフリカ地域では、宗教対立と政治的緊張が反ユダヤ主義の根強さを示すが、社会調査では地域内での高い否定的態度が示される。ADLの調査では、イラクや北アフリカ諸国で非常に高い反ユダヤ主義的見解が存在するとされる。
4-3. アフリカ
サハラ以南アフリカでは一般的に低い数値を示す国もあるが、詳細な統計は限られている。
5. オンライン・SNS上の言説動向(デジタル空間)
オンラインにおけるヘイト表現は地域を超えて共通の問題となっている。以下のような学術研究を参考に、プラットフォーム上のヘイト表現拡散が現実世界の事件と連動している可能性が指摘されている。
YouTubeコメント分析において、イスラエル・パレスチナ紛争関連動画のコメントの40%以上がヘイトスピーチ検出されるとの報告がある。これは反ユダヤ主義・反イスラム主義両方を含む。
6. 国際比較メタデータ(世論調査)
ADLの世界規模調査によれば、地域によって反ユダヤ的見解の程度が大きく異なる。
中東(いくつかの国)や北アフリカでは80%超の高い否定的態度が報告される国がある。
欧州や北米では比較的低い率だが、国によってばらつきがある。
(ADL survey)
7. まとめ(地域比較)
| 地域 | 傾向・特徴 | 主なデータ |
|---|---|---|
| 欧州 | 強い体験・認識、事件増加、安全感低下 | FRA 96%経験, RIAS倍増 |
| 北米 | 顕著な事件増、大学キャンパスでの顕在化 | ADL/ARC, ICC調査 |
| オーストラリア | 急増+テロ事件発生 | ECAJ報告, 2025銃撃事件 |
| 南米 | 増加傾向、政治的発言結びつく | 325%増(チリ等) |
| 中東 | 高い否定的態度(世論調査) | ADL調査で80%超 |
| アジア太平洋 | 少数だがオンライン発現 | ソーシャルメディア上の表現 |
参考文献(主な引用内訳)
FRA(EU基礎権機関)反ユダヤ主義調査(2023/2024)
RIAS(ドイツ)反ユダヤ主義件数報告(2024)
JPR / CST(英国)安全感・事件報告(2025)
ECAJ(オーストラリア)事件報告 & 銃撃テロ(2025)
Combat Antisemitism Movement(グローバル集計)(2025)
ICC 学生調査(米国)(2025)
ADL グローバル世論調査(2025)
