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コラム:アメリカ建国250年、連邦議会議事堂襲撃事件

議事堂襲撃事件は、米国の民主主義の脆弱性と政治的分断を露呈する歴史的事件である。
2021年1月6日/米ワシントンDC議会議事堂(ManuelBalce Ceneta/AP通信)
現状(2026年1月時点)

2026年初頭、米国では2021年1月6日に発生した連邦議会議事堂襲撃事件(以下「議事堂襲撃事件」)から5年が経過した。政治的分断の象徴として位置付けられるこの出来事は、米国の民主制度と法の支配の持続可能性について国内外で激しい議論を引き起こしている。

トランプ政権が再度発足した2025年以降、事件に関連して訴追・有罪判決を受けたほぼ全ての個人について恩赦や減刑が実施され、刑務所から釈放された者も少なくない。この政策は支持基盤から評価される一方で、法秩序の軽視、被害者感情の無視、歴史の再定義といった批判を招いている。2026年1月6日前後にはワシントンD.C.で集会が催され、事件の記憶や解釈を巡って支持者と反対者の間で小競り合いが発生し、警察が介入する場面も見られた。

社会的には襲撃事件を「愛国的行動」と評価する立場と、米国民主主義への暴力的挑戦と位置付ける立場との対立が継続しており、歴史的評価は断片化している。


議会襲撃事件とは

議事堂襲撃事件は、2021年1月6日に米国の首都ワシントンD.C.で発生した暴動である。米連邦議会議事堂が襲撃され、下院・上院合同会議で大統領選挙結果の承認手続きを進めていた議員らの議事進行が一時的に停止した。事件は暴徒化した支持者による物理的侵入、警察との衝突、議場や周辺の設備の破壊を伴い、米国史上まれに見る民主主義への直接的な挑戦となった。

襲撃参加者の多くは、2020年大統領選での不正があったとする誤情報に動機づけられていた。また、極右組織や白人至上主義者との関連性を指摘される集団が一定の役割を果たしたと報告されている。


発生(2021年1月6日)

2021年1月6日、議事堂襲撃事件は以下のように進行した。

  • 大統領選の敗北を不服とするトランプ支持者がワシントンD.C.に集結し、「Stop the Steal(不正を止めろ)」といったスローガンで集会を開催した。

  • 当日、支持者の一部は議事堂周囲で演説・行進を行い、その後警察の阻止を突破し議事堂内部に侵入した。

  • 侵入者は議場や議員執務室、周辺オフィスを占拠し、議会の公式手続きを妨害した。

  • 警察との衝突の結果、5名が死亡し多数が負傷した。

これらの事象は、その後の数十年の政治史に強烈な印象を残し、民主的プロセスへの直接的攻撃事例として記憶されることとなった。


経緯

議事堂襲撃事件の背景には、2020年大統領選挙の結果を巡る激しい政治的対立がある。敗北した側の一部勢力は選挙不正の存在を主張し、その信用性を疑問視する情報がSNS等を通じて拡散した。このような情報環境が政治的不信を増幅し、暴力的行動へとつながったと分析されている。

事件発生から逮捕・訴追まで

事件直後、連邦捜査局(FBI)と司法省が大規模な捜査を展開し、参加者特定と証拠収集を進めた。数カ月間で多数の容疑者が特定され、州外追跡・逮捕が進められた。結果として1,000名を超える者が起訴される前例のない規模の捜査となった。


被害

議事堂襲撃事件の被害は人的・物的両面にわたる。

  • 人的被害:襲撃中の暴力や逃走時の混乱により、少なくとも5名が死亡した。また多数の警官や参加者が負傷した。

  • 物的被害:歴史的建造物である連邦議事堂内の窓ガラス、家具、設備が破壊された。

  • 制度的影響:議会公式手続きが一時停止し、民主的な選挙結果承認プロセスが侵害された。

これらの被害は単なる物理的破壊にとどまらず、米国社会における政治的不信と対立を深刻化させた。


司法手続きと起訴(2021年〜2024年)

事件に関連して起訴された者にはさまざまな罪状が科された。主要な罪状は以下の通りである。

  • 議会手続き妨害

  • 証拠隠滅・虚偽供述

  • 非常事態宣言違反等

多くの被告が有罪判決を受け、禁錮刑が言い渡された。司法手続きは米国史上最大級の規模となり、1000人を超える者が訴追された。

法的論点

最高裁判所は、事件に関連する「公的手続き妨害」罪の適用について一部否定的判断を示し、下級審に差し戻す決定をしたが、他の罪状はそのまま維持された事例もある。


大規模捜査

警察・司法当局による捜査は、SNSや動画など膨大な証拠を解析する必要があったため、FBIや司法省にとっても例を見ない作業となった。デジタル調査、目撃者証言、自治体警察との協力によって多くの事件が解明された。

また、一般市民や独立した調査団体による参加者特定活動も行われ、それらが捜査を補完した。これにより、議事堂周辺での行動が記録された映像・音声から多くの容疑者が特定された。


実刑判決(極右組織「プラウド・ボーイズ」のリーダーなど)

事件に関与した者の中には、極右組織「プラウド・ボーイズ」や「オース・キーパーズ」等の関係者が含まれていた。これらの組織の指導者は「扇動」「共謀」「反乱助勢」などより重い罪で訴追され、長期の禁錮刑が言い渡された。

代表例として、

  • 「プラウド・ボーイズ」関連者は複数が十年以上の禁錮刑を受けた。

これらの判決は、政治的暴力の組織的関与に対する司法の姿勢を示すものと評価された。


大統領恩赦と2026年の現状

2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領は就任初日に、議事堂襲撃事件に関連して起訴・有罪判決を受けたおよそ1500人に対して包括的恩赦を発表した。また一部の刑期は減刑・執行停止された。恩赦は参加者の多くに適用され、収監者の釈放が始まった。

この政策は支持者から「政治的迫害の終結」と歓迎される一方で、司法制度の独立性を損ね、民主主義の暴力的破壊を事実上容認するものだとして激しい批判を受けた。恩赦後、一部の被告や指導者は政府を訴える動きを開始し、自らの訴追を「政治的迫害」と主張している。


第2次トランプ政権による大量恩赦

トランプ政権は恩赦に加え、関係者の一部については訴追の取り下げや公的記録からの削除等も指示したと報じられる。この措置により、事件関係者の社会復帰や政治活動への参加が進んでいるが、事件の正当性や責任の所在については大きな社会的対立が続いている。


社会の分断

議事堂襲撃事件は、米国社会の深い分断を象徴する出来事となった。一部の保守層は襲撃を「愛国的行動」や「自由への抵抗」と見なし歴史の再評価を試みている。他方、リベラル層や法学者・歴史家は事件を民主主義への暴力的攻撃と位置付け、厳しい法的責任を求める立場を維持している。この対立は政党支持層の間でも顕著であり、米国の政治文化に深い亀裂を残している。


歴史の再定義

事件とその後の恩赦・評価を巡る動きは、歴史叙述の競合を生んでいる。ある勢力は事件を政治的迫害からの解放として捉え直し、別の勢力は民主主義への挑戦として記憶する。このような再定義競争は米国史教育や公的記念行事、メディア等においても表れている。


まとめ

議事堂襲撃事件は、米国の民主主義の脆弱性と政治的分断を露呈する歴史的事件である。発生から司法手続き、大規模捜査、恩赦・減刑までの動きは、法制度と政治権力の関係を巡る重要な問いを投げかけている。2026年においてもこの事件は米国社会の核心的な論争点であり、歴史的評価は未だ定まっていない。


参考・引用リスト

  1. 朝日新聞「議事堂襲撃事件でトランプ氏追及 弾劾裁判は無罪、特別委は訴追勧告」2023〜2024年報道(日本語)

  2. 朝日新聞「米議事堂襲撃事件、これまで1千人以上を訴追 禁錮18年の判決も」

  3. 朝日新聞フォトレポート「フォトグラファーが見た驚愕の光景」

  4. 日本放送協会他日米報道「米議会襲撃事件から5年 集会と小競り合い」

  5. 朝日新聞「米議会襲撃事件の受刑者らの釈放始まる トランプ氏決定に非難の声も」

  6. 大紀元エポックタイムズ報道「トランプ氏 連邦議会事件で有罪評決受けた約1500人を恩赦へ」

  7. The Washington Post / AP / Politico ニュース等、2025〜2026年の関連報道


議会襲撃が米国に与えた影響

民主主義制度への直接的影響

連邦議会議事堂襲撃事件は、米国の民主主義制度に対する物理的かつ象徴的な攻撃であった。選挙結果の最終的な確認という、憲法上定められた手続きを力によって阻止しようとした点において、同事件は単なる暴動ではなく、制度転覆を志向した行為と位置付けられる。

米国政治学において、民主主義は「選挙の自由・公正性」「権力分立」「法の支配」「敗者の受容」という規範的前提の上に成立するとされる。議会襲撃は、このうち特に「敗者が選挙結果を受け入れる」という暗黙の合意を破壊した。これは制度そのものの存続を脅かす行為であり、長期的には民主主義の慣行(norms)を侵食する危険性を孕む。

行政府・立法府・司法府の関係変化

事件以降、三権分立の緊張関係は新たな段階に入った。立法府は自らが攻撃対象となったことで、安全保障と権限の再定義を迫られ、行政府に対する監視機能の重要性を再確認した。一方で、大統領権限、とりわけ恩赦権の政治的行使が強く問題視され、司法の独立性との衝突が顕在化した。

司法府は、膨大な事件処理と政治的圧力の狭間で、法の支配をどこまで貫徹できるかという歴史的試練に直面した。特に、議会手続き妨害罪の適用範囲や、政治的動機を持つ暴力の法的評価は、今後の判例形成に長期的影響を与える。

政党政治と有権者意識への影響

議会襲撃は米国の政党政治を不可逆的に変質させた。共和党内では、事件を「例外的暴走」と位置付ける穏健派と、「正当な抗議」と再解釈する強硬派の対立が深まった。民主党側では、共和党全体を「反民主主義的勢力」と見なす傾向が強まり、超党派協力の可能性は著しく低下した。

有権者意識においても、政府や選挙制度への信頼は大きく損なわれた。世論調査では、選挙結果の正当性を疑う国民の割合が事件後も高止まりし、陰謀論や誤情報が政治的動員の中心的要素となっていることが示された。


世界の反応

同盟国・民主主義国の衝撃

議会襲撃は、米国を「民主主義の模範」と見なしてきた同盟国に強い衝撃を与えた。欧州諸国、カナダ、日本、オーストラリアなどは一斉に事件を非難し、選挙結果の尊重と法の支配を支持する声明を発表した。

これらの国々では、米国政治の不安定化が国際秩序に及ぼす影響が懸念された。特に、NATOやG7といった枠組みにおける米国の指導力低下、民主主義価値の輸出能力の低下が議論された。

権威主義国家の反応と利用

一方、中国、ロシア、イランなどの権威主義体制を持つ国家は、議会襲撃を民主主義の失敗例として積極的に利用した。国営メディアは、米国の政治混乱を強調し、「西側型民主主義は不安定で偽善的である」とするナラティブを国内外に拡散した。

このような情報戦は、民主主義の正統性を相対化し、権威主義体制の正当化に寄与した。議会襲撃は、国際政治における価値観競争の文脈でも重要な転換点となった。

国際機関と民主主義評価指標への影響

国際的な民主主義評価機関や研究機関は、議会襲撃を受けて米国の民主主義評価を引き下げた。自由度指数、民主主義指数などにおいて、米国は「完全な民主主義」から「欠陥のある民主主義」へと位置付けを変えられた事例もある。

これにより、民主主義の中心国と見なされてきた米国の地位は相対的に低下し、国際的な規範形成力にも影響を及ぼした。


民主主義の根幹を揺るがした未曾有の事態

暴力による政治介入という禁忌の破壊

議会襲撃の最も深刻な意味は、「政治的敗北を暴力で覆そうとする行為」が実際に行われた点にある。民主主義は、選挙による平和的権力移行を核心原理とするが、この原理が破られた場合、制度全体の正当性が崩壊する。

歴史的に見ても、先進民主主義国家の中枢立法機関が、自国民によって占拠された事例は極めて稀である。この点で、議会襲撃は米国史のみならず、世界史的にも未曾有の事件である。

「事実」の分裂と認識の政治化

事件後、社会において「何が起きたのか」という基本的事実認識すら共有されなくなった。ある集団にとっては「反乱」であり、別の集団にとっては「抗議行動」や「仕組まれた事件」であるという認識の乖離が固定化した。

このような状況は、民主主義に不可欠な「共通の現実」を破壊し、熟議や妥協を不可能にする。情報環境の分断と政治的動員が結びついた結果、民主主義は形式的には存続しつつも、その内実が空洞化する危険に直面している。

恩赦と責任の曖昧化

大規模恩赦は、法的には大統領権限の範囲内であるが、政治的・倫理的には深刻な問題を孕む。暴力的行為に対する責任追及が曖昧化されることで、将来的な模倣行為を抑止する効果が弱まる。

これは「法の下の平等」という民主主義の基本原則を損ない、政治的忠誠心が法的責任より優先されるという危険な前例を残す。


総合的整理と評価

議会襲撃事件は、単なる一過性の暴力事件ではなく、以下の点で民主主義の構造的危機を露呈させた。

  1. 選挙結果を受け入れる規範の崩壊

  2. 政治的虚偽情報と動員の結合

  3. 三権分立と法の支配の脆弱性

  4. 国際的民主主義秩序への波及

  5. 歴史認識を巡る社会的分断の固定化

これらは相互に連関し、民主主義の自己修復能力を試す長期的課題となっている。


追記まとめ

連邦議会議事堂襲撃事件は、米国民主主義の「例外的逸脱」ではなく、現代民主主義が抱える構造的脆弱性を可視化した出来事である。制度が存在するだけでは民主主義は維持されず、それを支える規範、信頼、責任追及の仕組みが不可欠であることを示した。

2026年時点においても、この事件の歴史的意味は確定しておらず、むしろ現在進行形で再定義が続いている。議会襲撃は、民主主義が自明ではなく、不断の努力と社会的合意によってのみ維持される政治体制であることを、米国と世界に突きつけた未曾有の事態である。


比較民主主義論との接続

1. 民主主義の「崩壊」概念と議会襲撃

比較民主主義論において、民主主義の崩壊は必ずしも軍事クーデターや憲法停止といった急激な形を取らない。近年の研究では、民主主義は「制度内部から徐々に侵食される」形で後退する場合が多いとされる。すなわち、選挙は形式的に存続しつつ、権力の集中、制度的不信、規範の破壊が進行する「漸進的後退」である。

議会襲撃事件は、この理論的枠組みと強く整合する。事件そのものは短時間の暴力行為であったが、その前後に存在した選挙不正言説の常態化、司法判断の否定、敗北の拒否といった行動は、民主主義の非公式規範を長期的に侵食していた。

比較民主主義論の視点からすれば、議会襲撃は民主主義崩壊の「開始点」ではなく、すでに進行していた規範的劣化が可視化された「臨界点」と理解できる。

2. 「ゲートキーパー」としてのエリートの失敗

民主主義理論では、政党指導者、議会、司法、メディアといった政治エリートが、反民主的行為を抑制する「ゲートキーパー」として機能することが重要とされる。制度がいかに整備されていても、エリートが規範を守らなければ民主主義は容易に脆弱化する。

議会襲撃事件では、このゲートキーパー機能が部分的に失敗した。選挙結果を否定する言説が主要政党内部で容認され、暴力的動員を明確に拒絶しない態度が示されたことで、反制度的行為に正当性が付与された。

比較事例研究においても、民主主義崩壊の多くは「エリートの共犯」または「沈黙」によって加速されることが指摘されている。この点で、米国は例外ではなく、理論的に予測可能な軌道に乗っていたと評価できる。

3. 恩赦と「説明責任」の欠如

比較民主主義論では、法の支配と説明責任が民主主義の持続性を支える柱とされる。議会襲撃後の大規模恩赦は、制度的には合法であっても、政治的責任の不在を制度化する効果を持つ。

この現象は、ラテンアメリカ諸国や東欧の民主化過程で見られた「恩赦による過去清算の回避」と構造的に類似している。暴力や反民主的行為が処罰されない場合、それは「将来も同様の行為が許容される」という期待を生み、民主主義の抑止力を低下させる。


ナチス台頭期ワイマール共和国との比較

1. 類似点:制度は存在したが、規範が崩壊した社会

ワイマール共和国は、当時としては先進的な民主憲法を有していた。しかし、経済危機、政治的分極化、既存エリートの民主主義への消極姿勢が重なり、制度は十分に機能しなかった。

議会襲撃事件前後の米国にも、以下の点で類似性が見られる。

  • 選挙結果の正当性が一部で否定される

  • 暴力的政治運動が正当化される言説環境

  • 司法・議会への信頼の低下

  • 「国家を救う」という例外論理の登場

これらは、ワイマール期にナチ党が「国家非常事態」を口実に民主制度を空洞化させた過程と構造的に重なる。

2. 相違点:制度的耐久性と市民社会

一方で、重要な相違点も存在する。米国には、長期にわたり形成された強固な市民社会、地方分権、独立した司法、自由な報道が存在し、短期間で独裁体制に移行する条件は整っていない。

また、軍や警察が政治権力の直接的道具として動員されなかった点も、ワイマール末期との決定的な違いである。このため、米国は即時的な体制崩壊を免れた。

3. 「合法性を利用した破壊」という共通構造

それでもなお、最も重要な共通点は、「合法的手続きを通じて民主主義を解体する」という戦略的構造である。ワイマール共和国では非常大権、米国では大統領権限や恩赦権が用いられた。

民主主義は、敵対者が制度を尊重することを前提として設計されている。その前提が破られた場合、制度は自己防衛能力を持たないという理論的問題が、両事例に共通して示されている。


日本および欧州への示唆

1. 日本への示唆

日本は、比較的安定した民主主義国家とされるが、議会襲撃事件は以下の点で重要な警鐘を鳴らす。

第一に、選挙結果や制度への信頼は自動的に維持されるものではない。誤情報や陰謀論が政治的に利用される場合、有権者の制度的忠誠は急速に低下し得る。

第二に、非常時権限や行政裁量の拡大は、短期的合理性を持つ一方で、長期的には民主主義規範を侵食する可能性がある。日本における緊急事態条項や安全保障政策の議論は、この視点から慎重に検討される必要がある。

第三に、政治的責任と説明責任を曖昧にする文化は、制度への信頼を静かに蝕む。議会襲撃事件後の米国の混乱は、「責任を取らない政治」がもたらす長期的帰結を示している。

2. 欧州への示唆

欧州諸国、とりわけ東欧や南欧では、ポピュリズム政党の台頭と司法・メディアへの圧力が問題となっている。米国で起きた議会襲撃は、民主主義の成熟度が高いとされる国でも、制度が脆弱化し得ることを示した。

特に、以下の点が重要である。

  • 選挙制度への信頼維持

  • 政党エリートによる反民主主義的言動の抑制

  • 暴力の政治利用に対する明確な社会的拒否

欧州においても、暴力が「例外的正義」として正当化される場合、民主主義の後退は急速に進行する。

3. 民主主義防衛の比較的教訓

議会襲撃事件から導かれる比較民主主義的教訓は以下の通りである。

  1. 民主主義は制度ではなく規範によって支えられている

  2. エリートの責任放棄は制度崩壊を加速させる

  3. 暴力に対する曖昧な態度は、必ず模倣を生む

  4. 法的合法性と民主的正当性は必ずしも一致しない

これらの教訓は、米国固有の問題ではなく、すべての民主主義国家に共通する普遍的課題である。


最後に

比較民主主義論、ワイマール共和国との歴史的比較、日本および欧州への示唆を通じて明らかになるのは、連邦議会議事堂襲撃事件が「例外的事件」ではなく、民主主義が内包する構造的弱点を露呈させた事例であるという点である。

民主主義は完成された体制ではなく、規範・責任・信頼によって辛うじて維持される不安定な均衡状態にある。議会襲撃事件は、その均衡が崩れたときに何が起きるのかを、米国と世界に対して具体的に示した歴史的警告である。


米国下院「1月6日特別委員会」最終報告(概要)

Final Report of the House Select Committee on the January 6 Attack

(Released December 22, 2022)

The Final Report of the House Select Committee to Investigate the January 6th Attack on the United States Capitol presents the most comprehensive congressional account to date of the events surrounding the violent assault on the Capitol and the broader effort to overturn the 2020 presidential election.

The Committee concludes that the attack on January 6, 2021 was the culmination of a coordinated, multi-part effort to overturn a lawful election and prevent the peaceful transfer of presidential power. This effort was led by then-President Donald J. Trump and supported by associates, advisors, and extremist groups.

Core Findings

The report identifies seven central elements of the attempt to overturn the election:

  1. The Big Lie
    Donald J. Trump knowingly spread false claims of widespread election fraud, despite repeated assurances from government officials, courts, and his own advisors that no such fraud existed.

  2. Pressure on State Officials
    Trump and his allies attempted to pressure state and local officials to overturn certified election results through intimidation, misinformation, and direct intervention.

  3. Weaponization of the Department of Justice
    Efforts were made to enlist the Department of Justice in falsely declaring the election corrupt, thereby justifying intervention by state legislatures or Congress.

  4. The Attempt to Install a False Elector Scheme
    The Committee found evidence of a coordinated plan to submit fraudulent slates of presidential electors in several states won by Joseph R. Biden Jr.

  5. Pressure on the Vice President
    Trump sought to coerce Vice President Michael Pence into unilaterally rejecting or delaying the certification of electoral votes, despite lacking constitutional authority to do so.

  6. Summoning and Directing a Violent Mob
    Trump summoned supporters to Washington, D.C. on January 6, encouraged them to march on the Capitol, and failed to act for hours once violence erupted.

  7. Failure to Act During the Attack
    While aware of the violence and pleas for assistance, Trump refused to intervene promptly, instead continuing to inflame the situation.

Conclusions

The Committee concludes that January 6 was not a spontaneous riot, but a predictable and preventable result of deliberate actions taken over months. The attack represented an assault on the Constitution itself and endangered American democracy.

Criminal Referrals

The Committee unanimously voted to refer Donald J. Trump to the Department of Justice for potential criminal violations, including:

  • Obstruction of an official proceeding

  • Conspiracy to defraud the United States

  • Conspiracy to make false statements

  • Incitement or assistance of an insurrection

Recommendations

The report recommends reforms to:

  • The Electoral Count Act

  • Capitol security procedures

  • The regulation of extremist threats

  • Accountability mechanisms for future abuses of executive power

The Final Report asserts that accountability is essential to preserving democratic institutions and preventing future assaults on constitutional governance.


連邦議会襲撃事件に関する下院特別委員会 最終報告書

(2022年12月22日公表)

本最終報告書は、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件および、2020年大統領選挙の結果を覆そうとした一連の行動について、米国議会が作成した最も包括的な公式記録である。

特別委員会は、2021年1月6日の暴力的襲撃が偶発的な暴動ではなく、合法的に行われた大統領選挙を無効化し、平和的な政権移行を阻止するための、多段階かつ意図的な計画の最終局面であったと結論づけた。その中心的指導者は当時の大統領ドナルド・J・トランプであり、側近、助言者、過激派組織がこれを支援していたと認定した。

中核的認定事項

報告書は、選挙覆しの試みを構成する7つの要素を特定している。

  1. 「ビッグ・ライ(大嘘)」の拡散
    トランプは、大規模な選挙不正が存在するという虚偽の主張を、自身の側近や政府高官、裁判所から否定されていたにもかかわらず、意図的に拡散し続けた。

  2. 州当局者への圧力
    トランプおよび同盟者は、州・地方の選挙管理責任者に対し、認定済みの選挙結果を覆すよう圧力をかけた。

  3. 司法省の政治利用の試み
    選挙が「腐敗している」と虚偽に宣言させるため、司法省を利用しようとする試みが行われた。

  4. 偽の選挙人団計画
    バイデン勝利州において、虚偽の選挙人名簿を提出するための組織的計画が存在した。

  5. 副大統領への圧力
    トランプは、副大統領マイク・ペンスに対し、憲法上の権限が存在しないにもかかわらず、選挙結果認証を拒否・遅延させるよう迫った。

  6. 暴力的群衆の動員と扇動
    トランプは1月6日に支持者をワシントンD.C.に招集し、議事堂への行進を促した。

  7. 襲撃中の不作為
    暴力の発生を認識し、介入要請があったにもかかわらず、トランプは長時間にわたり鎮静化措置を取らなかった。

総合結論

特別委員会は、1月6日の事件が予測可能で防止可能な結果であり、合衆国憲法そのものへの攻撃であったと結論づけた。

刑事責任に関する勧告

委員会は全会一致で、トランプを以下の容疑について司法省に刑事付託することを決定した。

  • 公的手続きの妨害

  • 合衆国に対する詐欺の共謀

  • 虚偽陳述の共謀

  • 反乱の扇動または援助

制度改革の提言

報告書は、将来の民主主義破壊を防ぐため、以下を含む制度改革を提言した。

  • 選挙人集計法の改正

  • 議事堂警備体制の強化

  • 過激主義対策の制度化

  • 大統領権限乱用への説明責任強化

最終報告書は、説明責任こそが民主主義制度を守る鍵であると明確に結論づけている。

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