コラム:高市政権2026、巨大与党の「奢り」と憲法改正
衆議院での圧倒的多数は政権運営の強力な地盤を提供する一方、立法過程の質、民意と政治の乖離、憲法改正の制度的制約など、複数の課題・リスクを内包している。
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現状(2026年2月時点)
2026年2月8日に実施された第51回衆議院議員総選挙で、自由民主党(自民党)は単独で316議席を獲得し、戦後初めて衆議院で単独3分の2以上の議席を確保した。連立パートナーの日本維新の会と合わせると352議席に達し、与党は圧倒的な議席数を背景に政権運営を行うことになった。これは高市早苗首相(総理大臣)のリーダーシップと政策転換路線への支持が有権者から一定の評価を受けた結果とされている。
この圧勝は、かつての自民・公明連立体制を離れ、自民単独での戦後最多議席獲得という歴史的結果であり、選挙戦で掲げた「政策の大転換」への支持と解釈される一方、国会内では上院(参議院)での改憲発議に必要な議席水準に未達成である点や、与党内外の連携の在り方に課題を残している。
政治的には、高市政権は発足以来「安定した政権運営」「経済・社会政策への民意の対応」を訴え続け、物価対策等で一定の支持率を維持してきたが、与党の強大化とそれに伴う政治運営の「奢り」が内外から指摘される段階にある。
2月8日の衆議院選挙
衆議院選挙は1月23日公示、2月8日投開票で実施された。高市首相は自身の進退を賭ける選挙戦として位置付け、国民に強い信任を求めた。
選挙の結果、自民党は249(小選挙区)+67(比例)=316議席、維新36議席の与党352議席という構図となり、多数派としての軍配を受けた。有権者の支持は「政策転換」への期待として現れたと分析されているが、同時に世論調査では「与党の議席増は良かったが、野党の議席が少ない方が良いとは言えない」との声もあり、国民意識の二分が深刻化している可能性を示すデータもある。
第2次高市政権(自民・維新)発足
衆議院選挙を受け、特別国会が2月18日に召集され、第2次高市内閣が発足した。自民党の閣僚は概ね再任され、維新が閣内協力の意思を示し、自民・維新連立の政治体制が本格化した。与党は衆議院での審議・立法を強力にリードできる状況にある。
「巨大与党の奢り」が生む3つの政治的リスク
与党が圧倒的多数を占める場合、政治運営には「奢り(傲慢)」による宿痾(しゅくあ)が生じる可能性がある。以下は主要な3つのリスクとして整理する。
① 国会審議の形骸化と「数による押し切り」
衆議院での多数派を背景に、政府・与党は立法や政策決定を数の力で進めることが可能になった。このため、野党の反対や国民的議論を軽視しがちな政治運営が顕在化する危険がある。数の力に依存することで審議の深化が阻害され、議会制度の健全性が損なわれる可能性がある。
特に与党が参議院での多数を持たない現状では、参議院での議論や修正要求が形式的なものに留まりやすく、立法過程が「再可決」を前提とした設計となる危険性がある。この傾向は政治制度の緩みと受け止められ、長期的な立法プロセスの質低下を招くリスクがある。
② 党内統治の緩みとスキャンダル
巨大与党は議員数の多さゆえに内部統治が困難になる傾向がある。数の力を背景にした派閥や政治資金の運用が緩み、政治倫理上の問題やスキャンダルが再燃することが懸念される。内部の緊張関係の希薄化は政権全体の信頼性を損ない、政治の透明性・公正性の確保を困難にする可能性がある。
③ 民意との乖離(サイレント・マジョリティの離反)
与党が圧勝した事実は一部の民意を反映するものの、同時に対立軸を明確にした政治戦略による選挙結果である可能性もある。世論調査等では「与党が大勝は良かった」という回答がある一方、「野党がもう少し議席を得ていた方がよい」とする声も少なくない。
人口構造の変化、消費者生活の多様化、情報環境の分断化といった現代的要因は、静かに離反する有権者(サイレント・マジョリティ)の存在を浮かび上がらせており、選挙結果が必ずしも全体の政治的ニーズを包括的に反映しているとは限らない。
憲法改正に向けた戦略と高止まりするハードル
改憲項目の絞り込みと優先順位
高市政権は憲法改正を重要政策として位置付けており、特に自衛隊明記や緊急事態条項の創設などが論点として挙げられている。自民党内の一部にはこれに加えて社会・経済政策との整合性を強化する観点から、項目の優先順位付けを模索する動きがある。
しかし、改憲は国民的な合意形成が前提であり、単に議席数の多さだけでは達成できない政治課題である。それは憲法改正には衆参両院での2/3賛成と国民投票が必要とされるためであり、参議院で与党が2/3に到達していない現状は実質的な改憲プロセス推進の大きなハードルであるとされる。
自衛隊の明記
安全保障環境の変化を背景に、自衛隊の存在を明文化する改憲案の提示が中心となっている。政策的にこれは国民の支持を広く獲得するために、平和志向と安全保障強化のバランスを図る必要がある。
緊急事態条項
新たに緊急事態条項を設け、災害・危機管理体制を憲法に位置付ける議論も進んでいる。これは国民生活の安全保障を担保する意義がある一方で、政府権限の拡大を懸念する声との調整が不可欠である。
参議院の壁と公明党の離反
衆議院での多数を持つ与党であっても、参議院で改憲発議に必要な賛成を得ていない現状は、改憲戦略の最大の壁である。これに対し、自民党内には他党との連携、特に中道勢力や無党派層への政策的接近の必要性を唱える意見も存在する。
体系的整理:権力構造と改憲へのシナリオ
巨大与党は立法・政権運営の強力な推進力を有しているが、制度的制約(参議院の賛成要件、国民投票の要件)と民意の分断という二重の制約の下にある。したがって、単純な数の論理で改憲を進めることは不可能であり、複層的な戦略(政策アジェンダの組み替え、説明責任の徹底、野党との限定的な共通項形成)が求められる。
強気な政権運営による「強権批判」への対策
与党が数を背景に政策を押し進める姿勢は、野党や市民の「強権批判」を誘発する可能性がある。この点への対応として、政権は議会運営の透明性強化、国民との対話の促進、政策説明責任の徹底などを通じて、民主的正当性を補強する必要がある。
批判の受け皿を失った有権者の「街頭行動」化
野党が弱体化し、政治的選択肢が限定的となる中、社会的な不満は国会外の街頭運動やデモ、ネット世論の高揚化などの形で発露する可能性がある。これは政治参加の新たな様式として重要な現象であり、政策形成過程におけるデジタル民主主義やオルタナティブな対話空間の整備が求められる。
今後の展望
高市政権は圧倒的多数を背景に政策・改憲を推進する位置にあるが、制度的制約と民意の分断的課題を克服する戦略的柔軟性が不可欠である。従来型の数の力だけでは国民的合意は得られず、民主的プロセスを重視した政治運営が今後の鍵となる。
まとめ
本稿では、第2次高市政権の政治状況を踏まえ、「巨大与党の奢り」と「憲法改正」に焦点を当てて分析した。衆議院での圧倒的多数は政権運営の強力な地盤を提供する一方、立法過程の質、民意と政治の乖離、憲法改正の制度的制約など、複数の課題・リスクを内包している。これらを克服しつつ安定的な政治運営を行うには、制度の理解と政治的知恵を結集した包括的な戦略が求められる。
参考・引用リスト
衆院選挙・与党圧勝報道(自由民主党公式発表)
高市総理の憲法改正への意欲報道(テレビ朝日)
憲法改正に関する参議院のハードル分析(Politiverse)
第2次内閣発足報道(スポニチ/Sponichi)
特別国会召集と閣内協力の動向(nippon.com)
世論調査データ(Reddit引用)
- 国際メディアによる高市再選報道(AP News / Time / Lemonde)
追記:「手に入れた力をどう使わないか」という抑制の美学
巨大与党の誕生は、日本政治において「権力の集中」という古典的テーマを再び前景化させた。しかし民主政治において問われるのは、「得た力をどう使うか」以上に、「その力をどう使わないか」という自己抑制の問題である。ここに抑制の美学が存在する。
議席の圧倒的優位は、制度的には合法でありながら、政治的には常に正統性の再確認を必要とする。なぜなら、議席数は選挙制度の帰結であり、社会全体の多様な利害・感情・価値観を完全には代表しないからである。特に現代日本のように、世代間・地域間・階層間の分断が進行する社会では、形式的多数派が実質的多数派を意味しない局面が増加している。
抑制の美学とは、単なる慎重姿勢ではない。それは以下のような高度に戦略的な政治行動である。
数の力で可能な政策をあえて時間をかけて議論する
野党や反対意見を「抵抗勢力」ではなく制度的資産として扱う
法的に可能な再可決を常用しない
政策優先順位を生活実感と整合させる
権力を抑制的に行使することは、政治的弱さではなく、長期安定性を確保するための合理的選択である。歴史的に見ても、巨大与党が自己抑制に失敗したとき、政治は反動的揺り戻しを経験してきた。
国民の生活実感を軽視し、イデオロギー色を前面化した場合の帰結
憲法改正は国家の根幹に関わる重要課題であるが、政治的現実として常に問われるのは、「なぜ今なのか」というタイミングの正当性である。
仮に、米価高騰、実質賃金停滞、社会保障不安といった生活問題が強く意識されている局面で、政権が改憲を過度に前面に出した場合、以下の政治力学が発生し得る。
① 「政策の優先順位」への不信
有権者は政策内容以上に優先順位に敏感である。生活不安が顕在化している時期に制度改革や理念的議題が突出すると、「政治が現実を見ていない」という認識が形成されやすい。
これは反改憲感情とは異なる。むしろ、
「改憲以前に解決すべき問題がある」
という相対評価の問題である。ここで生じるのは政策反対ではなく政治的距離の拡大である。
② 「イデオロギー政権」というフレーミング
メディア環境において、一度「イデオロギー色の強い政権」という認知枠組みが形成されると、経済政策や社会政策さえもその文脈で解釈されるようになる。結果として、政権の政策全体が理念的偏向として再解釈される危険がある。
③ サイレント・マジョリティの静かな離反
最も重要なのはこの層である。生活志向型有権者は、政治的怒りよりも政治的無関心・棄権・心理的離脱として反応する傾向が強い。この層の離反は短期的には可視化されにくいが、選挙や国民投票で決定的影響を持つ。
改憲に向けた「国民的合意」は形成可能か
憲法改正において最大の障壁は制度ではない。制度的要件(衆参2/3+国民投票)は技術的条件に過ぎず、本質的な課題は社会的合意の構造にある。
現代日本における合意形成の困難性は、以下の特徴によって規定される。
① 「賛成/反対」ではなく「温度差」の問題
世論は単純な二項対立ではない。
強い賛成層
条件付き容認層
関心希薄層
強い反対層
特に改憲では、関心希薄層の動員が結果を左右する。この層は理念的訴求よりも生活合理性、安心感、具体的利益に反応する。
② 「恐怖」ではなく「必要性」の説明
安全保障環境や災害リスクを背景とする議論では、危機強調型のメッセージが用いられやすい。しかし恐怖動員型政治は長期的信頼を毀損しやすい。
説得の鍵は、
「なぜ必要なのか」
「何が変わり、何が変わらないのか」
という限定的・具体的・非感情的説明である。
③ 合意形成に必要な時間軸
改憲は政策ではなく制度秩序の変更である。ここでは迅速性よりも持続的正統性が優先される。短期的成功は可能でも、社会的分断を伴う改憲は統治コストを増大させる。
戦後日本政治の決定的分水嶺としての改憲
憲法改正は単なる条文変更ではない。それは戦後政治体制の哲学的再定義に等しい。
① 「戦後レジーム」の再編
戦後日本は、
憲法秩序
安全保障政策
経済優先型統治
官僚制との均衡構造
によって安定してきた。改憲はこの均衡体系に直接影響を与える。
特に自衛隊明記や緊急事態条項は、
国家権限の位置付け
政府と個人の関係
非常時統治の正当性
を再構築する性格を持つ。
② 政治文化への影響
改憲は制度変更以上に政治文化を変える。日本政治における「漸進主義」「解釈改憲的柔軟性」「曖昧な均衡」の伝統が転換点を迎える可能性がある。
③ 「可逆性」の低い政治決定
通常政策と異なり、改憲は容易に巻き戻せない。ここに慎重性の根拠がある。巨大与党であっても、改憲成功は歴史的責任の固定化を意味する。
抑制なき改憲ドライブが招く政治的シナリオ
仮に政権が強硬に改憲を推進した場合、いくつかの帰結が想定される。
シナリオ①:制度的成功・社会的不安定
発議・国民投票に成功したとしても、社会的対立が深刻化すれば、改憲後の政治は持続的摩擦状態に入る。政治的勝利が統治的成功を保証しない典型例となる。
シナリオ②:国民投票での否決
改憲否決は単なる政策失敗ではなく、政権の理念的中核の否定として解釈されやすい。支持率、党内求心力、連立関係すべてに影響する。
シナリオ③:政治的不信の構造化
最も深刻なのはこの帰結である。改憲の是非を超えて、
「政治そのものへの信頼低下」
が構造化する危険がある。
「力を使わない政治」が持つ戦略的合理性
巨大与党下で最も高度な政治技術は、「使える力を限定的にしか使わない」という選択である。
改憲議論を急がない
経済・生活政策を前面化する
野党との象徴的協調を演出する
社会的安心感を優先する
これは理念後退ではない。むしろ改憲実現可能性を最大化するための前提条件整備である。
政治的説得とは、制度を変える前に、社会の心理的準備状態を作る過程である。
検証:改憲は「技術」ではなく「環境」の問題
憲法改正の成否は、議席計算や政局技術ではなく、
経済状況
生活実感
社会的安心感
政治への信頼
分断の度合い
という政治環境変数によって決定される。
巨大与党は改憲を可能にする条件を整えたが、それは出発点に過ぎない。真に問われるのは、
「制度変更を社会が受け入れる状態を作れるか」
である。
ここで鍵となるのが、冒頭に述べた抑制の美学である。
権力の成熟とは、力の最大化ではなく、正統性の最大化によって測られる。
追記まとめ
第2次高市政権は、日本政治史上まれな巨大与党体制の下にある。この状況は改憲を含む大規模制度改革の可能性を開いた一方、政治的リスクもまた極大化させている。
力の行使は常に反作用を生む
生活実感との乖離は静かな離反を招く
改憲は社会的心理の問題である
抑制は政治的合理性である
最終的に、改憲が戦後日本の決定的分水嶺となるか否かは、制度論理ではなく、政権の政治哲学と社会的信頼形成能力によって決まる。
巨大与党時代における最大の課題は、「何ができるか」ではなく、
「何をあえて急がないか」
という選択にある。
憲法改正案の文案調整:政治と法技術の交差点
巨大与党体制の下で最も繊細な政治過程の一つが、改憲項目の文案調整である。ここでは理念対立よりもむしろ、法技術、政治的含意、将来解釈の余地を巡る高度な駆け引きが展開される。
日本の改憲論議は長年にわたり、いくつかの主要論点に収斂してきた。
自衛隊の明記
緊急事態条項
統治機構改革(参議院、合区問題など)
教育関連規定
第2次政権下においても、実質的焦点はこの枠組みから大きく逸脱していないと考えられる。
自衛隊明記条項:最大の争点に潜む微差の政治
自衛隊明記は最も政治的支持を集めやすい改憲項目とされるが、条文設計の差異が極めて重要となる。
① 「加憲型」か「改正型」か
典型的対立はここにある。
加憲型アプローチ
既存9条を維持しつつ、新たな条項で自衛隊の存在を明記する方式。
改正型アプローチ
9条の構造自体を修正し、戦力不保持規定との関係を再定義する方式。
巨大与党体制であっても、後者は政治的リスクが高い。なぜなら、
平和主義との象徴的衝突
世論の急激な分断
国民投票での不確実性増大
を招きやすいためである。
結果として現実的選択肢は加憲型の精緻化となる。
② 文案の核心:解釈余地の制御
最大の技術的問題は、
「どこまでを明確化し、どこからを曖昧に残すか」
である。
例示的に想定される論点は以下の通り。
「必要最小限度の実力組織」という表現を維持するか
集団的自衛権への言及を含めるか
国際活動の範囲を規定するか
文民統制規定との接続をどう設計するか
条文を明確化しすぎれば政治的反発が強まり、曖昧にしすぎれば「何も変わらない改憲」との批判を受ける。このバランスの設計こそが文案調整の本質である。
緊急事態条項:理論的合理性と歴史的警戒感の衝突
緊急事態条項は政策的合理性を持つが、同時に民主主義における権力集中の問題を不可避的に孕む。
① 対立の軸は「必要性」ではない
重要なのはここである。現代社会において、
「国家に非常時権限が必要である」
という認識自体には広範な理解がある。
対立の本質は、
権限の範囲
発動要件
期間制限
国会統制
基本的人権との関係
という制度設計の細部にある。
② 文案調整で避けられない論点
特に争点化しやすいのは次の部分である。
内閣権限の強化範囲
法律と同等効力を持つ政令の許容範囲
国会機能の代替措置
議員任期延長規定の有無
人権制約規定
「公共の秩序」概念の拡張解釈リスク
ここでの文言のわずかな違いが、将来的な統治構造に重大な影響を与えるため、法学者、憲法学会、市民団体からの批判的検証が強まる領域である。
文案調整を巡る政治力学
改憲文案は単独与党で完結しない。むしろ巨大与党体制では連立相手・周辺勢力との調整が決定的意味を持つ。
日本維新の会との関係
日本維新の会は改憲に比較的積極的な立場を持つが、重視する論点は必ずしも自民党と一致しない。
典型的には、
統治機構改革
地方分権強化
規制改革志向
が優先されやすい。
そのため、
「安全保障改憲を優先する与党」
vs
「制度改革改憲を重視する維新」
という優先順位調整問題が発生する。
公明党のポジション
公明党は伝統的に慎重改憲路線を維持してきた。
特に、
緊急事態条項
9条関連修正
については強い警戒感を持つ傾向がある。
巨大与党が公明党との距離を広げた場合、改憲論議は中道支持層の流動化リスクを抱える。
反対勢力の構造的変化
改憲反対勢力は単一ブロックではない。むしろ近年、その性質は多層化している。
① 政党型反対勢力
中心となるのは、
立憲民主党
日本共産党
である。
ただし両者の反対理由は異なる。
立憲民主党型論理
制度設計、立憲主義、権力制限原理への懸念
共産党型論理
軍事化、国家主義化への根本的反対
この違いは野党共闘の難しさを示す一方、反対論の射程を広げる効果も持つ。
② 世論型反対勢力
近年顕著なのはこの層である。
特徴として、
強いイデオロギー色を持たない
条件付き懸念を持つ
生活志向が強い
という傾向がある。
この層は、
「改憲反対」ではなく
「改憲を急ぐ政治への違和感」
という形で現れる。
巨大与党にとって最も読みにくい存在である。
③ 知識人・専門家層
改憲論議では憲法学者、法曹界、ジャーナリズムが重要な役割を果たす。
ここでの批判は感情的対立ではなく、
文言の曖昧性
権力濫用リスク
比較憲法的検証
判例体系との整合性
という技術的論点に集中する。
これらの議論は短期的には政治的影響を持たなくとも、国民投票段階で決定的影響を与える。
改憲反対運動の新しい特徴
従来の改憲反対運動は組織型・街頭型が中心であったが、現在は構造が変化している。
① 「生活防衛型反対」への転換
改憲そのものではなく、
「生活問題を差し置いた制度議論」
への批判として展開されるケースが増加する可能性がある。
これは政権にとって非常に厄介な論点である。なぜなら理念論争では反駁しにくいためである。
② デジタル空間での増幅
現代政治では、
SNS
動画プラットフォーム
オンライン署名
が世論形成の主要舞台となる。
改憲論議は高度な制度論であるにもかかわらず、極端に単純化されたナラティブとして流通しやすい。
文案調整が直面する根本的ジレンマ
最終的に改憲文案は次のジレンマから逃れられない。
「広く受け入れられる条文」ほど変化が小さく、
変化が大きい条文ほど支持が狭まる」
この構造問題は不可避である。
そのため、政治的に現実的な改憲は、
限定的
象徴的
解釈継続型
になりやすい。
政権にとっての最大の戦略課題
改憲推進の鍵は文案技術ではなく、
「争点の性質をどう設計するか」
にある。
国家理念の問題にするか
安全保障の問題にするか
危機管理の問題にするか
統治効率の問題にするか
争点設定を誤れば、改憲は容易に政権信任投票へ転化する。
最後に
憲法改正案の文案調整は、単なる法技術ではなく、
政治的妥協
社会心理
将来解釈
権力構造
が交差する極めて複雑な過程である。
反対勢力もまた単純な「改憲反対陣営」ではなく、
制度的懸念層
生活志向層
イデオロギー層
専門家層
として多層化している。
巨大与党体制の下であっても、改憲の成否は依然として、
「社会的納得の設計能力」
によって決定される構造にある。改憲とは多数派の勝利ではなく、持続的正統性の獲得競争なのである。
日本国憲法第96条
日本国憲法第96条は、憲法改正の手続きを定める条文である。内容は簡潔だが、改正のハードルを高く設定することで、憲法の安定性を確保する役割を担っている。
日本国憲法 第96条(要旨)
第96条の核心は次の三段階である。
① 国会による発議
憲法改正は国会が発議する。発議には、衆議院・参議院それぞれの総議員の3分の2以上の賛成が必要である。
② 国民投票による承認
発議後、国民に提案される。承認には有効投票の過半数が必要である。
③ 天皇による公布
国民承認を経た改正は、天皇が国民の名で公布する。
条文の意味と制度的意義
第96条は単なる手続規定ではない。以下の制度的意義を持つ。
硬性憲法の確立
通常の法律改正よりも厳格な要件を課すことで、憲法を容易に変更できない構造とする。二重の民主的正当性
国会(代表民主制)と国民投票(直接民主制)の双方を通す設計である。権力抑制機能
一時的な政治勢力による恣意的改正を防ぐ。
憲法改正プロセスの体系的図解
以下は制度の全体構造を整理した図である。
制度構造の特徴
このプロセスは三つの層で構成されている。
① 政治的層(国会)
改正の必要性・内容を検討する場である。
② 民主的正統性層(国民投票)
主権者による最終判断である。
③ 国家形式的層(公布)
改正を法秩序に組み込む形式行為である。
