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コラム:高市政権2026、給付付き税額控除

給付付き税額控除は、従来の減税や社会保障制度の限界を補完し、逆進性の是正、所得再配分の効率化、景気下支えという三つの核心的メリットを有する可能性がある。
高市首相(Getty Images)
現状(2026年2月時点)

2026年2月時点で、第2次高市政権(自民・維新連立政権)は、衆議院選挙後の新内閣発足直後に税制改革の主要テーマとして「給付付き税額控除」制度の導入検討を掲げている。政府・与党は、物価高や逆進性の強い消費税負担への対応として、まず「食料品に対する消費税率ゼロ」制度を2026年度中の時限措置として議論しつつ、最終的に給付付き税額控除へ移行する構想を提示している。これに関して有識者や超党派の国民会議を設置し、制度設計と財源確保の検討を進める方針を示しているが、具体的な法案提出や実施時期、対象水準はまだ確定していない状況である。与野党内でも賛否や議論のあり方をめぐる意見が分かれている。


給付付き税額控除とは

給付付き税額控除(refundable tax credit)は、所得税の税額控除と現金給付を組み合わせた制度類型を指す。通常の税額控除は、支払うべき税額から一定額を差し引くが、控除額が税額を上回った場合、その差額を現金として給付する仕組みを含む点が特徴である。これは、課税最低限以下の所得しかない低所得者層にも減税効果の恩恵を行き渡らせることが可能な制度である。諸外国では、米国の勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit; EITC)や英国の税額控除制度などが代表的事例として存在し、所得再分配効果や就労促進を目的として制度設計がなされている。

この制度の源泉思想としては、「負の所得税(negative income tax)」というアイデアがあり、一定所得以下の者に対して税負担を超える額を給付する仕組みを通じて、貧困緩和や所得再分配を達成するという理論的基盤を有している。


第2次高市政権(自民・維新)の経済政策の柱

第2次高市政権が掲げる経済政策の中心には、「責任ある積極財政」という方針がある。これは従来の緊縮志向から脱却し、物価高や実質所得の低迷に対応する財政支出や税制改革によって国内経済を下支えしようとするものである。また、税と社会保障の一体改革の一環として、給付付き税額控除の導入が掲げられていることから、所得再分配政策の新たな柱と位置付けられている。消費税減税も段階的な形で議論されているが、最終的には給付付き税額控除へと移行する長期的な視点で税制設計を進める意図がある。


制度の基本コンセプト

給付付き税額控除の基本コンセプトは以下の点に要約される:

  1. 税と給付の一体化:所得税における税額控除と政府からの現金給付を一体化し、低所得者層にも公平に支援の効果が届くようにする。

  2. 逆進性の是正:消費税の逆進性を緩和し、所得の低い人ほど負担の軽減が享受される仕組みを作る。

  3. 働くインセンティブ:税額控除額や給付額を所得と連動させることで、働くほど手取りが増えるようなインセンティブを維持する。

  4. 所得再配分と経済活性化:所得格差の是正と同時に、消費・需要を刺激して経済の底上げを図る。

このような概念は、従来の単純な減税や現金給付と異なり、税制を活かしたダイナミックな所得再配分政策としての役割を有する。


従来の減税

従来の減税政策、例えば基礎控除引上げや税率引下げは、全所得階層に一律に効果が行き渡る性質を持つが、納税額が少ない低所得層には減税の恩恵が限定的であるという批判が存在していた。また、消費税の単純な引下げは所得に関係なく効果が等しく、逆進性是正には乏しいという指摘もある。このため、従来の減税は低所得者層支援という点で限界があるとされ、給付付き税額控除のような所得連動型の支援策が注目される背景となっている。


本制度(給付付き税額控除)

給付付き税額控除は、次のような基本構造を取る:

  • 所得税の税額控除額が一定額設けられ、納税者はその額まで所得税を減税される。

  • 控除額が納税すべき税額を上回った場合、その差額が現金給付として国庫から支払われる。

  • 所得水準や扶養家族数に応じて控除・給付額を階層化することが一般的であり、低所得者ほど給付割合が高くなるよう設計されうる。

この構造により、非課税世帯や低所得者に現金が支給され、負担軽減と手取りの増加が期待される。


第2次高市政権における具体的設計(2026年時点)

2026年2月時点の制度設計については、まだ政策提案段階にあり、明確な法案は成立していない。ただし、政府は以下の方向性を示している:

  • 給付付き税額控除の導入までの過渡措置として、2年間の食料品に対する消費税率ゼロの実施を超党派の国民会議で議論する。

  • 国民会議を2026年前半に設置し、夏ごろには給付付き税額控除を含む税制改革の中間とりまとめを行う方向で検討している。

  • 制度設計には、所得階層別の控除額・給付額、扶養家族数に応じた調整等が含まれる見通しであるが、詳細水準は未公表である。

また、対象者の年収や扶養状況に応じて支給額が変動する可能性があるという解説も存在し、例えば年収約670万円以下の世帯に一定給付額を想定する案がメディアで報じられている。


導入時期

導入時期については、2026年度中に制度設計を固め、2027年度以降に段階的に実施する意向が示唆されているが、法案成立のタイミングや与野党の合意形成が必要である。現段階では、具体的な施行年について政府の正式発表は未定であるが、消費税減税の時限措置期間(2年)終了後に本制度へ移行する想定がある。


対象

対象については、日本国内の所得税納税者世帯全般を対象としつつ、所得階層別の給付設計が検討される可能性が高い。低所得層ほど給付割合が高く設定される設計が多くの先行例で採用されている。具体的な所得カットオフや扶養家族基準は未公表であり、今後の議論課題となっている。


連動政策

給付付き税額控除は、以下の政策と連動して議論されている。

  • 消費税減税(食料品ゼロ税率):給付付き税額控除制度導入までの過渡措置として。

  • 税と社会保障の一体改革:税制だけでなく社会保障制度全体の見直しの一部と位置付け。

  • 所得税改革全般:基礎控除・その他控除制度との整合性の確保。


目的

給付付き税額控除導入の目的は次の通り幾つか掲げられている:

  1. 逆進性の緩和と生活支援:物価高に苦しむ低・中所得者層の税負担を軽減する。

  2. 所得再配分の強化:再分配機能が弱体化した税制に対して再強化を図る。

  3. 就労インセンティブの維持:単なる現金給付とは異なり、働く所得に応じて控除・給付が変動する方式とすることで、就労意欲を損なわない。

  4. 税制の簡素化と効果的支援:多様な社会保障プログラムを税制に統合することで効率化を図る可能性。


検証・分析:3つの核心的メリット

以下では本制度のメリットとされる核心的な効果について分析する。

1) 「年収の壁」の解消

従来の税制や給付制度では、ある特定の所得水準を超えると急激に給付が減少する「年収の壁(benefit cliff)」が存在することが指摘されていた。給付付き税額控除では、控除・給付額を所得レンジごとに滑らかに変化させることで、この壁を緩和し、労働参加と収入増加のインセンティブを阻害しない設計が可能である。経済学的には、年収の増加が手取り収入の増加につながる制度であることが重要である。

2) 所得再分配の効率化

給付付き税額控除は、所得税制度の中に再分配機能を組み込むことで、従来の社会保障支出と比較して重複や管理コストを削減しうる。所得税制度を通じた給付は、税務当局による所得データに基づく支給が可能であり、社会保障制度と税制の統合によって効率的な再分配を実現する可能性を秘める。

3) 景気下支え効果

直接給付や減税効果が即座に家計の可処分所得を押し上げ、中低所得者の消費を刺激することが期待される。これにより、景気の下支えや消費の下支え効果が見込まれ、デフレ脱却や経済成長率の押上げにも寄与する可能性がある。ただし、効果の大きさは制度規模や給付額次第である。


課題とリスク(批判的分析)

給付付き税額控除には複数の課題やリスクが存在し、政策設計段階で慎重な検討が必要である。

資産捕捉の精度

制度の基本設計では所得に応じて給付額を設定するが、正確な所得・資産情報の把握が不可欠である。マイナンバー制度の活用や銀行口座情報の連携が不完全な現状では、所得把握の精度が十分でないとの指摘がある。このため、不正受給や誤給付のリスクが高まる可能性がある。

財源の確保

給付付き税額控除は「税の減収+現金給付」という形の支援策であり、十分な財源確保が必要である。政策の財源を不足したまま実施すると公的債務の増大につながる懸念があり、国債発行や他税源の再配分を通じた財源確保策との整合性が重要である。また、国際機関(IMF)などは財政リスクの高まりについて慎重な姿勢を示しており、財政規律の維持を求めている。

所得把握のタイムラグ

税制を通じた給付は所得データに基づくため、実際の家計状況とのズレが生じる可能性がある。年次申告ベースの所得把握では、現況とのタイムラグがあり、適時性に欠けるという課題がある。

制度複雑性と管理コスト

給付付き税額控除は対象条件や階層化が複雑になりがちであるため、制度の理解・事務処理負担が増大する可能性がある。特に低所得者にとって手続き負担の増加や誤解による還付漏れが懸念される。


今後の展望

今後、給付付き税額控除は次のような展望が予想される:

  • 政府・与党内での詳細な制度設計と与野党間の議論。

  • 国民会議での学術的・実務的議論の深化。

  • マイナンバー制度の改善・資産情報の精緻な連携。

  • 法案提出のタイミングと、施行時期の明示。

個々の制度設計選択が、経済効果や所得再分配の実効性を左右するため、学術的なシミュレーションや国際比較に基づく精査が不可欠である。


まとめ

給付付き税額控除は、従来の減税や社会保障制度の限界を補完し、逆進性の是正、所得再配分の効率化、景気下支えという三つの核心的メリットを有する可能性がある。第2次高市政権はこの制度を税制改革の中核に据えようとしているが、導入にあたっては所得把握や財源確保、制度運営の複雑性といった課題が存在する。今後の制度設計と実施過程において、国民生活への影響を慎重に評価しつつ、持続可能な制度とすることが求められる。


参考・引用リスト

  • 国立国会図書館『諸外国の給付付き税額控除の概要』Issue Brief No.678.

  • 野村総合研究所「本格化する給付付き税額控除制度の議論」.

  • 藤谷武史『労働政策の手法としての給付付き税額控除』.

  • 内閣官房・高市総理記者会見.

  • 朝日新聞デジタル「第2次高市内閣、消費税減税と税制改革」.

  • テレビ朝日ニュース「給付付き税額控除賛成が条件」.

  • nippon.com「消費減税と給付付き控除『同時に議論』」.

  • TBS CROSS DIG「高市総理給付付き税額控除を含む一体改革」.

  • めざましmedia記事(マイナンバーが鍵).

  • 共同通信「IMF評価」。


追記:日本の社会保障と税制を「デジタル前提」で再編する大改革

日本における給付付き税額控除の議論は、デジタルデータの利活用を前提とした社会保障・税制一体改革と密接に関連している。現行の所得把握は主として前年所得ベースの住民税非課税判定に依存しているが、これでは生活実態や変動を反映しにくく、支援のタイムリー性や精度に限界がある。デジタル行政(マイナンバーを介した各種行政データのリアルタイム連携)を前提にすることで、個人の所得・資産情報・就労状況を高速で把握し、給付付き税額控除の給付と税額控除をリアルタイムに調整する仕組みが理論的に可能になるという指摘がある。これは英国のユニバーサルクレジットのようにデジタル基盤の上に給付制度を構築する設計に似ている。デジタル前提の再編は、従来の縦割り行政や年次申告ベースの粗いデータ構造から脱却し、制度の公平性・迅速性・効率性を高め得る可能性を含む。

デジタル前提再編の構造
  • データ連携基盤:所得・雇用・資産・税情報を共有基盤として統合し、個人状態をリアルタイムに把握可能にする。

  • 所得捕捉と給付判定の高速化:年次申告ではなく、月次や四半期単位での変化を制度に反映しやすくする。

  • 社会保障との統合:失業給付・住宅支援・育児補助などを税制給付と連動させることで、重複給付や給付漏れを削減する。

課題としては、デジタルデータ統合の法制度整備、プライバシー保護、デジタル排除に対する配慮などがあるが、長期的には社会保障・税制の大改革が不可避であるという専門的視点が出始めている。


「バラマキに終わるのか、あるいは自立を促すセーフティネットとして機能するのか」

給付付き税額控除の批判点として、「単なるバラマキに終わる」という評価と、「就労インセンティブを損なわないセーフティネット」になるという評価が対立している。これを政策評価の枠組みで整理する。

1)バラマキ批判

批判論では、給付付き税額控除は国民全体に大規模な現金給付を伴うため、財政負担が巨額に膨らみ、その効率性・公正性が怪しいとされる。財源としては消費税減税との併用や税・社会保障制度全体の見直しが必要だが、具体的な財源計画が曖昧である点が問題視されている。さらに高所得層にも一定給付が行き渡る可能性があり、所得再分配・公平性の点で懸念も指摘される。

加えて、日本の財政は高齢化による社会保障負担の増加や人口減少下での税収減少圧力が強く、単純な給付増だけでは持続性に疑問がある。

2)自立支援型セーフティネットとしての評価

一方で、専門家は給付付き税額控除を「働くほど手取りが増える仕組み」として、貧困の罠(年収の壁)を緩和し、就労インセンティブを守る再分配策として評価している。これは単なる現金給付や消費税減税とは異なり、労働所得に連動する「負の所得税」(ニュートンやミルトン・フリードマンが提唱した思想の変形)として機能し得るという理論である。

デジタル基盤の活用によって、生活実態の変化を給付に反映し、「真の困窮者」にタイムリーに支援を届けることが可能であるという構想は、自立支援型セーフティネットとしての評価を支える。これは単なる短期支援とは質的に異なる制度設計と評価されうる。


年収別・手取り額のシミュレーション(制度導入モデル)

日本の給付付き税額控除がどのように手取り額を変えるかを、仮定モデルでシミュレーションする際の一般的な論点と典型モデルを検討する。

以下のシミュレーションは制度設計が確定していないため、典型的な試算モデルによる一般論である。

モデル条件(仮定)
  • 所得税の税率構造は現行の累進税率を利用。

  • 給付付き税額控除の控除額を単純に所得階層に応じて段階的に設定。

  • 給付付き税額控除の「還付可能部分」は税額を下回る場合に給付される。

年収帯現行手取り給付付き税額控除導入後手取り(モデル)差異
200万円約175万円約185万円+10万円
400万円約330万円約343万円+13万円
600万円約470万円約476万円+6万円
800万円約600万円約603万円+3万円
1,000万円約740万円約741万円+1万円

※この表は、控除額の段階設計により、低所得者ほど給付割合が高く設定されたケースを想定したものであり、手取りの増加は年収が低いほど顕著になるモデルである。

このようなモデルでは、低所得者層は現行制度に比べて手取りが大きく改善され、中所得者も一定効果があるが高所得者では相対的改善は限定される。制度設計次第でこれら効果は変動し、扶養人数や控除額の段階設計、社会保険料との連動など様々なパラメータが影響する。

このようなシミュレーションは、欧米の給付付き税額控除制度の分析を参考に行われることが多い(例えば米国のEITCなど)。政策分析では、世帯構成別(単身・世帯あり・子育て世帯)シナリオ分析も必須である。


野党が主張する「消費税減税案」との比較分析

日本の野党勢力は衆院選や参院選で一貫して消費税減税や食料品に対する軽減税率の拡大を主張してきた。多くの野党が消費税率の引き下げや期間限定の軽減措置を公約として掲げている。

消費税減税案の主張と効果

野党の主張は主に以下の内容を含む:

  1. 消費税率の引き下げ(例:一律5%や食料品0%)

  2. 生活必需品に対する軽減税率の恒久化

  3. 景気刺激効果と物価負担の軽減

消費税減税は、全消費者が支払う税負担そのものを下げるため、一時的な可処分所得の増加には効果があるが、所得階層に関係なく恩恵が及ぶため、再分配効果に乏しいと批判される場合もある。所得再配分の観点では給付付き税額控除のほうが低所得層への効果が大きいとの指摘がある。

比較視点
導入政策再分配効果効率性就労インセンティブ財源持続性
消費税減税✕ 逆進性は緩和するが再配分効果は限定短期効果は大中立高税収減少により持続性不安
給付付き税額控除○ 低所得者に重点中〜高(制度設計次第)○ 働くほど手取り増資料整備と財源確保が必要

消費税減税は、短期的な消費刺激には効果を持つが、所得階層間の格差是正や働くインセンティブには限定的との見方がある。一方、給付付き税額控除は、低所得者へのピンポイント支援と就労インセンティブの両立という目標を掲げるが、財源確保や制度運営の複雑さといった課題があるとの評価がある。


追記まとめ

給付付き税額控除を含むデジタル前提型の税・社会保障改革は、日本の所得再配分・セーフティネット政策として評価され得る一方、財政持続性やデジタルデータ管理の法制度整備など多くの制度設計課題を抱えている。単なるバラマキとならず自立を促す仕組みとして機能させるには、制度設計の精緻化、デジタル化の整備、公正な給付階層の設定などが不可欠である。また、野党の消費税減税案と比較すると、給付付き税額控除は社会保障の再構築と所得再分配という長期的な政策目的を持つ点で異なる意味を持つ。


他国の給付付き税額控除 ― 国際比較視点

給付付き税額控除は、すでに多くの先進国で導入されている。各国制度は共通して「低所得層の所得底上げ+就労促進」を目的とするが、制度の思想・設計・効果には重要な差異が存在する。

米国:Earned Income Tax Credit(EITC)

最も代表的な制度である。特徴は明確である。

  • 労働所得限定:就労による所得がなければ受給不可

  • フェーズイン構造:所得増加とともに給付額が増加

  • プラトー領域:一定所得帯で最大給付維持

  • フェーズアウト:所得増加で徐々に縮小

この構造により、労働供給増加効果が実証研究で確認されている。特に単身親世帯の就労率改善が顕著であることが知られる。EITCは単なる貧困対策ではなく、「働くことへの報酬を税制で補強する制度」と評価されている。


英国:Working Tax Credit → Universal Credit

英国は従来の税額控除制度からユニバーサルクレジット(UC)へ統合を進めた。

  • 税制給付+社会保障給付を統合

  • デジタル前提設計

  • 月次所得反映型

UCの核心は「テーパーレート(給付逓減率)」の設計である。所得が増えると給付は減るが、その減少率を抑制することで実効限界税率の急騰(=働く損)を防ぐ設計が可能となる。


カナダ:Canada Workers Benefit(CWB)

カナダ版EITCと呼ばれる制度。

  • 労働所得支援型

  • 所得下位層中心

  • 就労促進目的が明確

カナダでは労働参加率向上と低所得者層の可処分所得増加が政策評価の中心指標となっている。


「働けば働くほど手取りが増える」設計理論

給付付き税額控除の最大の政策的革新性は、可処分所得曲線(手取り曲線)の勾配を政策的に設計できる点にある。

従来制度では以下の問題が発生しやすい。

  • 所得増加 → 税負担増加

  • 所得増加 → 給付急減

  • 結果:実効限界税率の跳ね上がり

これが「年収の壁」「貧困の罠」を生む。


可処分所得曲線という考え方

政策設計では、単純な税率ではなく「手取りの傾き」が重要となる。

理想形:

 
労働時間 ↑ → 手取り所得 ↑(常に右肩上がり)

給付付き税額控除はこの傾きを制御できる。


勾配設計のメカニズム

制度は通常3段階で構成される。

① フェーズイン(Phase-in)
  • 働くほど給付増加

  • 実効賃金を押し上げる効果

経済学的意味:

→ 労働供給を刺激する補助金機能


② プラトー(Plateau)
  • 給付最大維持領域

  • 安定的可処分所得ゾーン

政策効果:

→ 生活安定+就労維持


③ フェーズアウト(Phase-out)
  • 所得増加で給付漸減

  • 急激な減少を防ぐことが鍵

ここで重要なのが:

テーパーレート(逓減率)

急勾配 → 働く損
緩勾配 → 就労インセンティブ維持


実効限界税率(EMTR)の制御

給付付き税額控除の本質は、実効限界税率を制御する制度である。

EMTRとは:

追加で1円稼いだ時に失われる所得割合

問題例:

  • 税負担+給付減少 → EMTR 80〜100%
    → 働いても手取り増えない

給付付き税額控除は:

→ EMTRを政策的に緩和できる


人手不足解消の切り札になり得るのか?

ここが近年最も注目される論点である。

日本型課題:

  • 慢性的労働力不足

  • 非正規・短時間労働の固定化

  • 年収の壁問題

  • 第2号被保険者制度との歪み


給付付き税額控除が持つ労働市場への作用

① 労働供給刺激効果

フェーズイン構造:

→ 実効賃金上昇と同等の効果

特に以下層に影響:

  • パートタイム層

  • 単身親

  • 低所得層

  • 高齢就労層


② 労働時間増加効果

「壁」の解消により:

  • 労働時間抑制行動の減少

  • 追加就労の心理的障壁低下


③ 潜在労働力の掘り起こし

典型的対象:

  • 扶養調整層

  • 女性就労層

  • 高齢者就労層


④ 賃金補助金としての機能

企業視点:

→ 低賃金職種の実質賃金補強

結果:

  • 雇用維持容易化

  • 労働市場の需給調整補助


ただし「万能薬」ではない理由

重要な現実制約が存在する。


❗ 1)人手不足の本質は複合要因

人手不足は単なる賃金問題ではない。

主要因:

  • 労働環境

  • 生産性

  • 職種ミスマッチ

  • 地域偏在

  • 技能不足

税制だけで解決不可。


❗ 2)低賃金固定化リスク

政策的懸念:

→ 企業が賃金引上げを抑制する可能性

いわゆる:

「賃金補助金の逆作用」

研究では:

  • 賃金押下げ圧力の議論あり

  • ただし限定的との見解も多い


❗ 3)フェーズアウト領域の設計難易度

給付逓減が急すぎると:

→ 中所得層で労働意欲減退

緩すぎると:

→ 財政負担拡大


❗ 4)財政コスト

給付付き税額控除は本質的に:

  • 恒常的財政支出

  • 自動安定化装置的性格

制度規模設計が最大の政治課題。


経済学的評価:なぜ支持されるのか?

給付付き税額控除は多くの経済学者から支持を受ける。

理由:


✅ 1)歪みの少ない再分配

従来給付:

→ 働かない方が得になる可能性

本制度:

→ 労働と整合的


✅ 2)労働供給に正の効果

現金給付より:

→ 就労抑制効果が小さい


✅ 3)自動安定化機能

景気後退期:

→ 低所得層所得下支え
→ 消費維持効果


✅ 4)「負の所得税」の現実解

理論的背景:

→ フリードマン型負の所得税思想の実装形態


日本に導入した場合の政策的意味

日本の特殊事情を考慮する必要がある。


日本型制度との相互作用

重要な論点:

  • 社会保険料負担

  • 扶養制度

  • 住民税非課税基準

  • 年金制度

  • 最低賃金制度


特に重要:社会保険料との統合設計

日本では税よりも:

→ 社会保険料が「壁」の主因

給付付き税額控除単独では不十分。


人手不足対策として有効に機能する条件

以下が政策成功の鍵となる。


✅ 条件① 「壁」の完全解体
  • 税+社会保険料+給付
    → 一体的勾配設計


✅ 条件② 緩やかなテーパーレート

急減は禁物。


✅ 条件③ 最低賃金政策との連携

賃金底上げと組み合わせる必要。


✅ 条件④ デジタル前提の所得把握

リアルタイム反映が不可欠。


✅ 条件⑤ 労働市場政策との統合
  • 職業訓練

  • 移動支援

  • 保育政策

  • 高齢就労政策


総括:制度の本質的評価

給付付き税額控除は:

✔ 単なる再分配制度ではない
✔ 労働市場政策そのもの
✔ 税制を用いた賃金補助金メカニズム

適切に設計されれば:

  • 年収の壁解消

  • 労働参加促進

  • 人手不足緩和

  • 貧困緩和

  • 景気安定化

に寄与し得る。

ただし:

✔ 制度設計の精緻さが全てを決定する政策
✔ 中途半端な設計は逆効果リスク


最後に

給付付き税額控除は理論的には人手不足時代の極めて合理的な政策ツールである。しかし、それは魔法の政策ではなく、

「可処分所得曲線を国家が設計する高度な経済政策」

という性質を持つ。

成功するか否かは:

✔ 勾配設計
✔ 社会保険料統合
✔ 財源設計
✔ デジタル基盤整備

に依存する。

日本での議論は、税制改革ではなく労働市場と社会保障の構造改革論へと本質的に移行しつつあると評価できる。

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