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コラム:菓子パンが大好きなあなたに「食べ過ぎないで」

菓子パンは利便性と嗜好性が高い一方で、過剰摂取は肥満、2型糖尿病、心血管疾患などのリスクを高める可能性がある。特に精製炭水化物・高添加糖・不健康な油脂が組み合わさる場合は注意が必要である。
パン屋(Getty Images)

現代社会では菓子パンが手軽な主食・間食として広く消費されている。コンビニエンスストア、ベーカリー、スーパーなどで多様な種類の菓子パンが一年中手に入り、忙しい生活や朝食の簡便化、子どものおやつ需要を背景に市場が拡大している。日本でも洋菓子的な味付けや惣菜パンが人気を博し、菓子パンは「早く安く満腹感を得られる食品」として定着している。だが、その栄養構成は一般に糖質と脂質が多く、食物繊維・ビタミン・ミネラルが相対的に少ない傾向があるため、頻繁に食べ続けることは健康リスクを高める可能性がある。国際的には「超加工食品(ultra-processed foods)」という概念の中で菓子パンが議論されることが多く、研究は超加工食品の高摂取と肥満、2型糖尿病、心血管疾患、さらには全死亡リスクの上昇との関連を示唆している。

菓子パンとは

菓子パンは一般的に小麦粉を主原料として砂糖、脂肪(バター・マーガリン・ショートニング等)、乳製品、加工保存料、乳化剤、香料などを加えて製造されたパンで、甘いフィリングやトッピングを施したものを指す場合が多い。製造過程で使用される脂肪にはかつては工業的に部分水素添加されたトランス脂肪酸(iTFA)が含まれることがあり、現代でもマーガリンや一部の工業的ショートニング由来の不健康な脂質が使われることがある。さらに、菓子パンの多くは精製された小麦粉や添加糖を多く含むため「高GI(グリセミック指数)」である場合が多い。食品分類の観点では、菓子パンはNOVA分類で「グループ4:超加工食品(ultra-processed)」に入ることが多く、加工度・添加物の多さが特徴である。

菓子パンが健康に与える影響

菓子パンの健康影響は複数の観点から評価する必要がある。ここでは主に(1)エネルギー過剰と体重増加、(2)糖質の質と血糖コントロール、(3)脂質の質(飽和脂肪・トランス脂肪)、(4)微量栄養素の不足、(5)超加工食品(ultra-processed foods: UPFs)としての懸念、の五つに分けて説明する。

  1. エネルギー過剰と体重増加
    菓子パンは一個あたりのエネルギーが高く、加えて手軽に複数個を短時間で摂取してしまうことがあるため、総エネルギー摂取量の増加につながりやすい。エネルギー収支がプラスになれば体重増加・肥満のリスクが高まる。観察研究や食費用データでは、加工食品や菓子類を多く含む食事パターンは肥満やメタボリックシンドロームと関連することが示唆されている。さらに、短期間の介入研究や大規模疫学研究は、超加工食品の摂取割合が高いほど肥満や心血管系疾患リスク、早期死亡リスクが上昇する可能性を示している。

  2. 糖質の質と血糖コントロール
    菓子パンに使われる小麦粉は通常精製された小麦粉(白小麦粉)であり、食物繊維や微量栄養素が少なく吸収が速い。その結果、食後血糖の急上昇(高いグリセミック応答)を招きやすい。これが頻繁に続くとインスリン抵抗性の増加や2型糖尿病のリスク上昇につながる可能性が指摘される。対照的に、全粒粉や食物繊維を多く含む食品は糖代謝に対して有利であるというメタ解析報告がある。全粒粉パンはリスク低下と関連する一方、精製穀類(refined grains)の効果は限定的であるとの報告もあり、精製炭水化物中心の食品を多く摂る食習慣は注意が必要である。

  3. 脂質の質(飽和脂肪・トランス脂肪)
    菓子パンにはしばしばバターやマーガリン、工業的に部分水素添加された油脂(過去にはトランス脂肪を含むショートニング等)が使用されることがある。トランス脂肪酸(industrial trans fatty acids, iTFA)は心血管疾患リスクを有意に上昇させることが明らかであり、世界保健機関(WHO)はトランス脂肪の排除を強く推奨し、REPLACEパッケージで国際的な削減・排除の行動計画を示している。多くの国・企業がiTFA削減に動いているが、製品によっては依然として注意が必要である。

  4. 微量栄養素の不足
    菓子パンを主食として頻繁に摂取すると、野菜・果物・魚・大豆・全粒穀物など微量栄養素を豊富に含む食品の摂取が相対的に減る可能性がある。ビタミン、ミネラル、食物繊維の摂取不足は長期的にみて生活習慣病や消化器系の問題、免疫機能の低下を招く恐れがある。日本の食事摂取基準ではバランスの良い食事を推奨しており、菓子パンのような高エネルギー・低栄養密度食品に偏らないことが重要である。

  5. 超加工食品(UPFs)としての懸念
    近年の研究は、超加工食品(NOVA分類で定義される)を多く摂る食事パターンが、肥満だけでなく心血管疾患、糖尿病、一部のがん、精神健康や早期死亡のリスクとも関連する可能性を示している。菓子パンは製品によってはUPFに該当することが多く、添加物や高度に加工された成分が健康に対して負の影響を与えるメカニズム(食欲調節の乱れ、炎症反応、環境ホルモン暴露など)が研究されている。近年の国際的レビューや臨床試験でも、UPF摂取増加と悪影響を示す報告が増えている。

健康的な食べ方

菓子パンを完全に否定するのではなく、健康的に楽しむための実践的な指針を提示する。

  1. 食事全体のバランスを優先する
    菓子パンを食べる場合でも、たんぱく質(卵・ヨーグルト・豆製品・ハム等)や野菜を組み合わせることで血糖の急上昇を緩和できる。朝食なら菓子パン1個に卵や野菜スープ、果物や無糖ヨーグルトを添えるなどして栄養バランスを整えることが重要である。厚生労働省の食事摂取基準では、主食・主菜・副菜を揃える「一汁三菜」的なバランスが推奨されている。

  2. 選び方の工夫
    ・全粒粉やライ麦などを使用したパン、食物繊維が多い商品を選ぶ。
    ・糖質量・添加糖の少ない製品を選ぶ。栄養表示(エネルギー・炭水化物・糖質・食物繊維)を確認する。
    ・トランス脂肪酸や部分水素添加油脂を避ける。成分表や製造者情報で使用油脂の種類を確認する。国やメーカーによってはiTFAを除去した製品が増えている。

  3. 食べる頻度と量のコントロール
    食べる頻度を減らし、摂取する際は一回量を調整する。間食にするなら野菜スティックやナッツ、果物と組み合わせることで満足感を得やすくする。

  4. 調理や自作の活用
    自宅で材料や油脂、糖質量をコントロールしながら手作りすることも有効である。全粒粉やナッツ、ドライフルーツを使うことで栄養価を高められる。

適度な運動

食事だけでなく運動は健康維持に不可欠である。菓子パンなど高エネルギー食品を摂取した場合は、日常的な身体活動量を増やすことでエネルギー収支を調整することができる。具体的には、有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング)を週に150分程度、あるいは強度の高い運動を短時間行うことが一般的な指針である(各国のガイドラインに準ずる)。また、筋力トレーニングを週に2回程度組み合わせることで基礎代謝の維持・向上を図れる。運動は血糖値の改善や心血管リスク低下にも寄与するため、食事とセットで生活習慣を見直すことが重要である。

菓子パンがおいしいと感じる理由

菓子パンが多くの人に「おいしい」と感じられる理由は科学的に説明できる。主な要因は以下の通りだ。

  1. 味のバランス(糖+脂肪+塩)
    砂糖と脂肪の組み合わせは高い報酬価値(食欲を引き起こす満足感)をもたらし、脳の報酬系を刺激する。甘味・脂質・適量の塩味が組み合わさると人は「おいしい」と感じやすい。

  2. 食感と温度
    ふんわりした食感、表面のカリッとした焼き色、内部のしっとり感などの物理的特性は食べる際の快感を増強する。温かいパンは香りが立ちやすく、風味が増すためおいしく感じられる。

  3. 香りと風味成分
    焼くことで生じる複雑な香気成分(メイラード反応など)は嗅覚を強く刺激し、味覚の満足度を増す。

  4. 学習と文化的要因
    幼少期の記憶や習慣、文化的背景も味覚の好みに影響する。頻繁に食べてきた食品は心理的な安心感や嗜好に結びつきやすい。

これらの要素が組み合わさるため、菓子パンは非常に魅力的な食品となっている。しかし「おいしさ」が過剰摂取につながる点には注意が必要である。

頻度を減らそう(実践的提案)

菓子パン摂取頻度を減らす具体的な対策は次のとおりだ。

  1. 代替案を用意する
    全粒パン、グラノーラ、ヨーグルト+果物、和食系の軽食(おにぎり、納豆・卵を添えた小鉢)など、満足感と栄養バランスを両立できる代替食品を常備する。

  2. ルールを設定する
    「菓子パンは週に2回まで」「間食は午後3時以前に限定」など自分ルールを設ける。ルールは現実的で破りにくいものにする。

  3. 可視化して減らす
    カレンダーに摂取日を記録したり、食品日記をつけて現状を「見える化」することで改善効果が高まる。

  4. 食環境の工夫
    職場や家庭で菓子パンを目に付かない場所に置く、購入頻度を減らす、まとめ買いを避けるなど物理的な障壁を設ける。

課題

菓子パンの健康影響に関する課題は複数ある。

  1. 製品の多様性と情報の不透明さ
    同じ「菓子パン」と呼んでも、成分・添加物・脂質の種類・糖質量は製品ごとに大きく異なる。消費者が短時間で正確に判断するのは難しい。

  2. 食文化と利便性のギャップ
    働き方や生活リズムの変化により、短時間で食べられる菓子パンの需要は高い。利便性を損なわずに健康性を高める取り組みが必要だ。

  3. 産業側の対応
    メーカーや小売店が健康志向の商品にシフトするためのコストや技術的課題、規格の整備が求められる。また、トランス脂肪の除去や砂糖低減に向けた代替素材の検証が必要である。

  4. エビデンスの解釈の難しさ
    精製穀物やUPFに関する研究は増えているが、因果関係を確定することは容易でない。観察研究は交絡因子の影響を受けやすく、個別食品の効果を分離して評価することは難しい。臨床試験や長期追跡研究がさらに必要である。

対策(政策・産業・個人レベル)
  1. 政策レベル
    ・食品表記の充実化と消費者教育:栄養成分表示(糖質、トランス脂肪、食物繊維)を分かりやすく表示する規制を強化する。
    ・課税や規制:高糖・高脂肪の菓子類に対する課税、学校給食や公共施設での販売制限などの政策オプションを検討する国がある。
    ・産業支援:健康的な代替原料(全粒粉、良質油脂、天然甘味料)の導入を促進する技術支援や補助金。国際的にはWHOのトランス脂肪除去(REPLACE)等の枠組みが政策指針となる。

  2. 産業(メーカー)レベル
    ・レシピ改良:砂糖・不健康な油脂の低減、全粒粉や食物繊維の配合増加、天然由来の風味改良。
    ・ポーション調整:一個あたりのエネルギーを抑えた小分け製品の展開。
    ・透明性:原材料の由来や加工情報を開示し、消費者が選びやすくする。

  3. 医療・教育機関レベル
    ・保健指導:産業医や保健師、栄養士による職場や学校での食育。
    ・啓発:菓子パンの過剰摂取リスクと代替案を紹介する地域・学校プログラム。

  4. 個人レベル(具体的行動)
    上述の「食べ方」「頻度を減らす」方法に加え、ラベルの読み方を学ぶ、週単位での食事計画を立てる、外食や間食時の選択肢を事前に決めておくなどの行動が有効である。

今後の展望

研究面では、菓子パンに代表される加工食品・超加工食品の長期的な健康影響を明らかにするため、より精緻な介入試験や多国籍コホート研究が進むことが期待される。近年の臨床試験や大規模解析はUPFの短期・長期にわたる影響を示唆しており、将来的には食品加工プロセスや添加物が健康に与える影響の因果関係がより明確になるだろう。

政策的には、WHOや各国保健機関の勧告(例:自由糖の摂取を総エネルギーの10%未満へ、可能なら5%未満に抑える等)が指針となり、食品業界の改善、表示制度の強化、消費者教育が進むと考えられる。WHOは特にトランス脂肪の削除を国際的に推進しており、これが菓子パン製品の油脂選択に影響を与えるだろう。

まとめ
  1. 菓子パンは利便性と嗜好性が高い一方で、過剰摂取は肥満、2型糖尿病、心血管疾患などのリスクを高める可能性がある。特に精製炭水化物・高添加糖・不健康な油脂が組み合わさる場合は注意が必要である。

  2. 食べるなら「量」「頻度」「組み合わせ」を工夫する。全粒や食物繊維を含む製品を選び、たんぱく質や野菜と合わせることで血糖変動を抑えられる。

  3. 個人の行動変容に加えて、政策・産業・教育の多面的な対策が重要である。WHOの勧告や各国の食事摂取基準を参考に、製品改良や表示の充実を進めることが望まれる。


参照主要資料(抜粋)

  • WHO, Guideline: Sugars intake for adults and children (2015).

  • WHO, REPLACE: action package to eliminate industrially-produced trans fats (2018).

  • 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2020年版)』関連ページ・報告書。

  • メタ解析・レビュー:全粒穀物と精製穀物の健康影響に関する研究(例:Aune他、2013/Frontiersレビュー等)。

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