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コラム:破局噴火とは、起きたらどうなる?

カルデラと破局噴火は地球の内部プロセスが表面に劇的な形で現れた現象であり、その規模は局地的破壊から地球規模の気候影響まで幅広く及ぶ。
破局噴火のイメージ(Getty Images)
カルデラとは

カルデラは火山学において、非常に大きな凹状の陥没地形を指す用語である。一般に直径が数キロメートルから十数キロメートル、場合によってはそれ以上に達する大きな盆状の窪地で、火口(crater)よりも大きく、マグマ溜まりから大量のマグマが排出された結果、上部地殻の支持が失われて地盤が崩落・沈降して形成される。カルデラは単一回の巨大噴火(破局的噴火)で形成される場合と、複数回の噴火・地殻変動の累積で形成される場合がある。カルデラは地形学的・火山学的に重要な痕跡であり、カルデラの存在は過去に大規模な火山活動があったことを示す主要な手がかりになる。カルデラの形成過程や構造、カルデラ内外で観測される熱水活動や二次火山活動は、火山ハザード評価において重要な情報を提供する。

日本国内には直径10キロメートル以上のカルデラが12個存在する。これには阿蘇カルデラ(熊本県)、屈斜路カルデラ(北海道)、摩周カルデラ(北海道)、鬼界カルデラ(鹿児島県)、立山カルデラ(富山県)、箱根カルデラ(神奈川県)などが含まれる。

破局噴火とは

破局噴火(はきょくふんか)は単一あるいは連続した短期間の噴火で巨大な体積の火山灰・軽石・火砕流などの火山堆積物を放出し、広域に甚大な影響を及ぼすような規模の噴火を指す概念である。火山爆発指数(VEI: Volcanic Explosivity Index)では、最大レンジの「VEI 8」クラスが一般に破局噴火に相当する。VEI 8の噴火は噴出物(堆積物)量が1000立方キロメートル(km³)以上に相当し、噴煙が成層圏まで達して地球規模の影響を引き起こし得る。破局噴火は噴火後の地殻の大規模な崩落によりカルデラを形成することが多い。VEIや噴出量の算定は地層学的な堆積量評価や密度補正によって行われる。

超巨大火山(スーパーボルケーノ)

「スーパーボルケーノ(supervolcano)」という用語は一般向けに広く使われるが、学術的には厳密な定義が定まっているわけではない。一般的には過去にVEI 8に相当する破局噴火を起こした火山やカルデラを指して用いられることが多い。例えばイエローストーン(Yellowstone)やトバ(Toba)などが代表としてしばしば挙げられる。学術界では「supereruption(超噴火)」「VEI 8」といった定量的な表現を好む傾向がある。用語の普及には一般メディアやドキュメンタリーの影響が強く、センセーショナルに扱われることがあるため、議論や解説では「噴出量(km³)・VEI・地質学的痕跡」に基づいて具体的に議論することが望ましい。

破局噴火の威力(エネルギーと範囲)

破局噴火の威力は物理的には噴出物量と噴出速度・プルーム高さ・火砕流の到達距離で評価される。VEI 8級の噴火では噴出物量が1000km³以上に達し、火砕流は噴火口付近から数十〜数百キロメートルにわたり堆積を形成し、空中の火山灰は成層圏に達して地球規模で散布される。成層圏に注入された硫黄化合物(SO₂)は硫酸エアロゾルへと変化し、太陽放射の一部を反射して地表平均気温を低下させる効果が出るため「火山性冬(volcanic winter)」を引き起こす可能性がある。噴火規模によっては数年から十年単位の気温低下、作物不作、食料連鎖への影響が起こり得る。これらの影響は噴火の化学成分・注入高度・季節・地理的分布などで強く変動する。気候モデルや過去の研究は大規模噴火の冷却効果と、その地域差・時間スケールについて多くの示唆を与えている。

噴出するマグマの量(実測例)

破局噴火の「量」は研究によって更新されるが、代表的な例を挙げると分かりやすい。スマトラのトバ(Toba)は第四紀で最大級の噴火の一つで、堆積量(推定)は数千km³に達したとされる。ニュージーランドのタウポで約2万6千年前に起きた噴火は最近の超噴火の代表で、研究では密度換算(DRE)で500〜600km³を超えるマグマが放出されたと評価される研究もある。その他、地中海地域のカンパニアン・イグニンブライト(Campanian Ignimbrite)やイタリア周辺の大規模爆発も数百km³級の噴出量を示す。噴出量の数値は、降下火山灰堆積の調査、流下堆積物の面積・厚さ測定、密度補正などによって精査され、研究により改訂され得る。

過去の破局噴火(代表例と年代)

過去の代表的な破局噴火には次のようなものがある。トバ(スマトラ、約7万4000年前)は第四紀で最大級の噴火の一つとしてしばしば引用され、堆積量は研究により見解の幅はあるが非常に大規模である。ニュージーランドのタウポ(約2万6千年前)は最近の超噴火で、広域に厚い火山堆積物を残した。イエローストーンは過去数百万年の間に複数回の大規模噴火を起こしており、最も新しい大規模噴火は約64万年前とされる。さらに、イタリアのカンパニアン・イグニンブライト(約3万9000年前)は地中海域に広がる大規模堆積を残した。これらの事例は地層・地化学・年代測定(放射性同位体、層序学)によって年代・規模が解明されてきた。

発生頻度(どれくらいの間隔で起きるのか)

「VEI 8級の破局噴火が地球規模でどれくらいの頻度で起きるか」はデータの抽出対象年代や保存性の違いにより推定に幅があるが、粗い統計としては数万年〜十万年スケールで一度程度の頻度であると見積もられることが多い。研究やレビューでは「約5万年に一度程度」や「数万〜十万年に一度」といった言い回しがしばしば用いられており、過去の地質学的記録の不完全性を考慮して不確実性が大きい点に注意が必要である。特定のカルデラや火山がいつ破局噴火を起こすかを統計的に予測することは困難で、火山ごとの噴火間隔は大きく異なる(例:イエローストーンでは数十万年のスケール)。したがって「地球全体で見た長期平均頻度」と「個別火山に関する短期的確率」は区別して理解する必要がある。

地球に与える影響(気候・生態・人間活動)

破局噴火による地球規模影響は主に(1)火山灰と火山ガスによる直接被害、(2)成層圏での硫酸エアロゾル生成に伴う気候冷却(火山性冬)、(3)一次生産(作物・海洋プランクトン)や食糧供給網への長期的影響、(4)経済・社会的混乱、に分類できる。成層圏に大量の硫黄を注入すると、数年〜十年規模での平均気温低下や降水パターンの変化、オゾン層影響、そして地域的には極端な寒波・作物不作・食料価格高騰を招く可能性がある。気候モデリング研究は、大規模噴火が数年単位の顕著な冷却をもたらすことを示しており、その結果として、農業収量の著しい低下や飢饉、社会不安を誘発し得ると指摘している。ただし実際の影響は噴火の化学成分(SO₂量)、注入高度(成層圏か対流圏か)、季節、噴火地点の緯度、そして社会の準備度合いによって大きく変わる。ロボックらによる総説的研究は噴火と気候反応のメカニズムを整理している。

人類滅亡か?(絶滅リスクの観点)

「破局噴火が人類を滅亡させるか」という問いは広く興味を引くが、現在の科学的理解では直接的に全人類を即時に滅ぼす確率は極めて低いと評価される。最大級の噴火は確かに地球規模の寒冷化や食糧供給の混乱を引き起こし、地域によっては人口大幅減少や文明の一時的崩壊を招き得るが、完全な絶滅に至るかどうかは社会の備え、貿易・物流の柔軟性、技術的代替(温室効果を緩和する仕組みは乏しいが、保存食や温室栽培などの対応策がある)に依存する。過去の超噴火については「人類の遺伝的ボトルネックを引き起こした」という仮説が提案され、その後の地質・考古学・古気候データで賛否両論が出ている。総じて言えば、破局噴火は地球史的に大きな影響を与え得る自然災害だが、それが即座に人類全滅につながるという単純な結論は支持されていない。

国際機関・各国データ・研究(モニタリングと知見)

破局噴火やカルデラ火山の評価・監視に関しては、複数の国際機関・学術機関・国内観測機関がデータと知見を提供している。代表的な組織としてはスミソニアン協会のGVP(Global Volcanism Program)が世界の火山活動・堆積データを体系化しており、USGS(アメリカ地質調査所)はイエローストーンなど米国内の火山監視・解説を行っている。ニュージーランドのGNS Scienceはタウポ等の現地研究とリスク評価を行い、欧州などにも火山観測ネットワークが存在する。学術論文としては火山性気候影響を扱うレビューや、個別噴火の堆積解析・年代測定に関する多数の研究がある。これらのデータは噴火の履歴把握、噴火規模推定、数値モデルによる気候影響予測、ハザードマップ作成に利用される。

対策(監視・備え・政策)

破局噴火に対する対策は「短期的警報と避難」「中期的な供給チェーン・食料備蓄」「長期的な研究・監視インフラ整備と国際協力」の三本柱で考えるべきである。具体的には、地震計・GPS(地殻変動計測)・重力計・傾斜計・ガス計測(SO₂, CO₂等)・リモートセンシングを組み合わせた多角的モニタリングで火山活動の異常を早期に検出すること、国際的にデータ共有と専門家ネットワークを構築すること、そして農業・物流・エネルギー・医療面でのシナリオ別備蓄計画を策定しておくことが重要である。国家間の協力(例えば気象機関と火山観測機関の連携、国際人道支援の事前合意)は破局的事象の発生時に救援や復旧を迅速に行ううえで欠かせない。現実には「VEI 8級のような極めて稀な事象」に対して過剰に資源を投じることの是非と、より頻繁に起きる中規模噴火や別の自然災害への備えとのバランスが政策課題となる。

破局噴火が起きたらどうなるか(シナリオ例)

破局噴火が実際に起きた場合、影響は時間・空間・社会的条件で段階的に現れる。噴火直後には噴石・火砕流・有毒ガス・降灰による局地的破壊が起き、数百キロ圏内では都市・インフラが甚大な被害を受ける。数週間〜数年のスケールでは成層圏エアロゾルによる日射減少で気温が低下し、作物生産が落ち、食糧輸出国や輸入国で混乱が生じる。数年後には海洋生産や生態系も反応して食糧供給が不安定化することがある。現代社会はグローバルに連結しているため、被害は局地的に留まらず国際価格・物流・政治に波及するリスクがある。ただし噴火の規模・化学組成・発生季節により影響の度合いは大きく異なり、過去の研究は「最悪シナリオ」から「中程度の地域影響」まで幅広い見積もりを示している。

今後の展望(研究と社会的対応)

今後は次の点に取り組むことが重要である。第一に、地層学・火山学・年代学の精緻化により過去の超噴火の規模・頻度に対する理解を深めること。第二に、地震計ネットワーク・衛星リモートセンシング・ガス観測・地下レーダー等を統合した早期警戒システムを強化し、マルチパラメータで火山の「活性化の兆候」をより早く検出できる体制を築くこと。第三に、気候モデルと影響評価(農業、保健、経済)の統合研究を進め、政策決定者が採るべき対策とコスト評価を示すこと。最後に国際協調の枠組みを整備し、稀ではあるが壊滅的影響を及ぼす自然災害に対する情報共有・救援連携・長期復興支援の合意を形成することである。気候変動や人口・資源問題が重なる現代において、火山リスクは単独の自然事象に留まらず複合危機(生態系と社会システムの連鎖的崩壊)を引き起こし得るため、総合的リスクマネジメントが求められる。

参考となる主要なデータ・レビュー(抜粋)

・スミソニアン協会のGVP(Global Volcanism Program): 世界の火山・噴火データベース。過去の大規模噴火のカタログや各火山のプロファイルを提供する。
・USGS: イエローストーン火山等に関する解説、VEIや噴火確率に関するFAQ、監視情報を公開している。イエローストーンの長期平均的な噴火間隔や短期確率評価に関する解説がある。
・GNS Science(ニュージーランド):タウポ火山に関する詳細なファクトシートや研究成果を公開。オルアヌイ噴火の堆積量評価に関する論文も参照可能である。
・気候影響に関するレビュー(Robock 2000ほか): 火山噴火による硫酸エアロゾル生成と気候冷却、モデルシミュレーションの結果を整理している。

まとめ

カルデラと破局噴火は地球の内部プロセスが表面に劇的な形で現れた現象であり、その規模は局地的破壊から地球規模の気候影響まで幅広く及ぶ。過去の大噴火例の研究と現代の数値モデルは、破局噴火がもたらす物理的・社会的影響の可能性を示しているが、同時に「いつ」「どこで」起きるかの予測は非常に難しいという現実も示している。したがって、科学的基盤の整備と並行して社会的な備えと国際協力を進めることが最も現実的なリスク低減策である。

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