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コラム:傷んだ髪のサイン、空洞化を防ぐ新常識!

空洞化は髪内部の損傷を示す重要な指標であり、単なる表面ケアだけでは改善が限定的である。導入液の活用、エルカラクトン・ヘマチンといった科学的根拠のある補修成分の導入、インバストリートメントの適切な利用が、空洞化ケアの現代的戦略として位置づけられる。
ダメージヘアのイメージ(Getty Images)

髪のダメージは、美容・化粧科学における主要な研究対象である。従来、髪の痛みは主にキューティクル剥離、コルテックスの損傷、乾燥の3要因で議論されてきたが、近年では「髪の空洞化」という内部構造の変化がダメージ評価に不可欠な概念として注目されている。消費者向けヘアケア市場でも、空洞化補修に着目した製品訴求が増えており、専門機関による内部補修技術の開発が進行している。国内企業においては、空洞補修技術を用いた製品開発とその科学的根拠の提示が進む一方、海外市場では内部空洞化という概念の認知度が相対的に低いとする分析もある。こうした現状から、空洞化に対する理解と、それを防ぐ・補修する科学的アプローチの整理が求められている。

髪の空洞化とは

髪の本体は主としてケラチンタンパク質で構成されており、その内部組織は緻密なタンパク質マトリックスと水分保持構造を有する。このマトリックスが維持されることで、髪は強度、弾力、ツヤを維持する。しかし、外的ダメージが蓄積すると内部のタンパク質構造が変性または流出し、毛髪内部に微細な空隙(ボイド)が形成される。この現象が「髪の空洞化」であり、毛髪内部がスカスカに近い状態となり、外観・機能両面での劣化を招くとされる。毛髪内部の空洞は反射光の散乱を増大させ、外観上のツヤ低下や色の鮮やかさの減衰に寄与することが報告されている。内部の空洞化は単なる表面損傷ではなく、コルテックス内のタンパク質分布の乱れと関連する構造変化であると理解されている。

空洞化が起きている「サイン」

髪の空洞化が進行している場合、以下のような徴候が観察される:

  1. ツヤの低下
    健康な髪では、均一なタンパク質密度による光の反射が観察されるが、内部空洞が増えると光の散乱が増加し、光沢が失われる傾向がある。光の反射・散乱の変化は花王の毛髪内部構造研究でも指摘されている。

  2. 乾燥感・パサつき
    空洞化によって内部の保水力が低下するため、乾燥が顕著になり、髪が硬く感じられる。

  3. うねり・広がり
    内部構造の不均質化により、湿度や熱の影響を受けやすくなり、髪の形状制御が困難になる。

  4. 枝毛・切れ毛の増加
    構造的な強度低下は、力学的ストレス下での破断を容易にし、枝毛や切れ毛が発生しやすくなる。

  5. 色の褪色が早い
    内部構造の損傷は薬剤や紫外線による反応性を高め、色素の流出・分解が進行しやすい。この傾向は内部損傷に関連した消費者調査でも示唆されている。

なぜ空洞化が起きるのか?

髪の空洞化を引き起こす主な因子は次の通りである:

  1. 紫外線曝露
    紫外線(特にUV-B)はキューティクル層を除去し、内部にまでダメージを与える。研究では、UV照射により毛髪内の不飽和脂肪酸がラジカルを生成し、それがキューティクル層間に穴を形成するメカニズムが指摘されている。

  2. 熱・機械ストレス
    ドライヤー、ヘアアイロン等の高温処理はコルテックス内のタンパク質構造を変性させ、内部密度を低下させる。

  3. 化学処理(カラー・パーマ)
    酸化染毛剤、ブリーチ剤、パーマ剤はタンパク質結合を切断し、内部組織を破壊する。化学的損傷は内部空洞形成と強く関連することが複数の毛髪科学研究で報告されている。

  4. 乾燥と栄養不足
    環境乾燥、栄養状態の不均衡は髪の保水機能を低下させ、内部組織の劣化を促進する。

【新常識】空洞化を防ぐ・補修するケア

近年提唱されている空洞化ケアの新常識は、単なる表面コーティングではなく、内部補修と事前予防に基づくものである。これには以下のアプローチが含まれる:

  1. 導入液(ブースター)を活用する
    導入液は、後続するトリートメントの浸透性を向上させる役割を果たす。毛髪表面のpH調整や界面活性によって、補修成分がコルテックス内まで届きやすくなり、内部空洞へのアクセスが改善される。

  2. 補修成分「エルカラクトン」「ヘマチン」に注目する
    科学的に裏付けられた成分として、エルカラクトン(γ-ドコサラクトン)とヘマチンが空洞化補修において注目されている。

導入液(ブースター)を活用する

導入液の役割は、シャンプー後の髪表面を整え、後続成分の浸透・結合効率を高めることにある。導入液には一般に低分子ペプチドや界面活性剤が含まれ、これらがキューティクル間の微小隙間を広げ、コルテックスへのアクセスを促進する。導入液使用後のトリートメント浸透性はpHや界面エネルギーの最適化により変化するため、製品設計による効果の差異が大きい。

補修成分「エルカラクトン」「ヘマチン」に注目

エルカラクトン(γ-ドコサラクトン)

エルカラクトンは γ-ドコサラクトンと呼ばれる植物由来の機能性ヘアケア成分であり、毛髪に熱を加えることによって毛髪タンパク質と反応・結合する性質を持つ。加熱により、髪表面の微細なキューティクル損傷部位に結合し、物理的な密着補修を促すことが報告されている。また、熱反応型トリートメントとして、髪のうねりや絡まりを低減し、まとまりやツヤを向上させる。製品評価においても、継続使用により疎水性が向上すると説明されており、枝毛・切れ毛の発生を抑制する可能性が示唆されている。

γ-ドコサラクトンは、ドライヤーやヘアアイロンといった熱処理と併用することで、熱エネルギーを補修プロセスに利用するという点で「熱反応型補修成分」と位置づけられる。その機序はキューティクルレベルの損傷部位に作用するだけでなく、コルテックス内部へ浸透し、タンパク質補修を促す補助的効果が報告されている。

ヘマチン

ヘマチンは鉄を含む有機化合物であり、毛髪補修や色持ち改善作用が化粧品用途で評価されている。毛髪に付着したヘマチンは、シャンプー・トリートメントなどの補修剤と相互作用し、内部損傷部位において「スケール形成物質」のように働き、キューティクルの剥離部位を補填するとの報告がある。電子顕微鏡観察では、ヘマチン含有処理剤がキューティクル欠損部位にスケール状物質を堆積させるという知見が示されている(「毛髪の修復機構」研究)。このような作用機序により、ヘマチンは内部補修成分としての科学的根拠を持つとされる。

「インバストリートメント」の放置時間を守る

インバストリートメント(シャンプー後、洗い流すトリートメント)においては、製品に推奨された放置時間を守ることが重要である。これは、補修成分がコルテックス内部へ浸透し、タンパク質結合や脂質補充作用を十分に発揮するために必要な時間的要件である。特に高分子補修成分・熱反応型成分・小分子タンパク質誘導体は、放置時間と浸透深度に相関があるとされる。

空洞化レベル別・おすすめケアまとめ

髪の空洞化は進行度合いによってケア戦略が異なる。ここでは一般的な進行段階と推奨アプローチをまとめる:

初期:ツヤがない

空洞化初期の段階では、主にツヤの減少が観察される。この段階では日常的なダメージ予防が有効であり、UVカット、低温スタイリング、保湿型シャンプー・トリートメントの併用が推奨される。また、導入液や低分子補修成分を用いることで、微細損傷部位に対するケアが可能である。

中期:うねり・広がり

進行した空洞化では髪の形状制御が困難となり、湿度や熱に敏感になる。この段階では、エルカラクトン等の熱反応型補修成分を含む製品を導入し、キューティクルの密着性を高める。また、CMC補修、保湿剤(セラミド等)による内部保水性の回復が有効である。

末期:枝毛・色がすぐ抜ける

最も進行した状態では内部の構造損傷が顕著であり、タンパク質補給、ヘマチン等の内部補修成分が重要となる。また、内部補修効果の高い集中トリートメント、定期的な深層補修ケアが推奨される。必要に応じてサロン施術による補修・カラーケアの併用も考慮される。

今後の展望

髪の空洞化に対する科学的理解は進化しており、今後はより定量的な内部構造評価法の確立が期待される。非破壊評価技術、分子レベルの補修成分設計、個人差に応じたパーソナライズケアなどが研究・市場導入段階にある。また、内部空洞化を定量的に評価することで消費者の理解を深め、より効果的な製品訴求が可能になると予想される。さらに、毛髪内部のタンパク質結合ネットワークの強化やナノ材料を応用した補修技術の発展が見込まれる。

まとめ

本稿では、髪の空洞化の概念、サイン、原因、そして新常識とされる予防・補修アプローチについて専門的視点から整理した。空洞化は髪内部の損傷を示す重要な指標であり、単なる表面ケアだけでは改善が限定的である。導入液の活用、エルカラクトン・ヘマチンといった科学的根拠のある補修成分の導入、インバストリートメントの適切な利用が、空洞化ケアの現代的戦略として位置づけられる。今後の研究と技術発展により、より高精度かつ高機能なヘアケアが実現されるであろう。


参考・引用リスト

  1. 花王株式会社「内部補修|毛髪内部構造と空洞補修技術」, Kao Haircare Technology, 2026.

  2. DOC Japan株式会社「髪の空洞化とは?その原因と対策」, コラム, 2024.

  3. DOC Japan株式会社「髪の空洞化とダメージの関連性:国内外における消費者認知」, コラム, 2024.

  4. Kazuhisa Maeda et al., “Mechanism of Cuticle Hole Development in Human Hair Due to UV-Radiation Exposure”, CiNii Research, 2025.

  5. 毛髪の修復機構研究「Restoration Mechanism of Hair Using Hematin as Treatment Agent」, CiNii Research, 2018.

  6. 毛髪補修成分 γ-ドコサラクトン(エルカラクトン)に関する技術資料, Matsumoto TRD PDF, 2023.

  7. γ-ドコサラクトン(エルカラクトン)基本情報, Cosmetic Ingredients Database, 2023.


追記:髪と生活習慣の関係

毛髪は死細胞で構成されているが、その形成過程は生体活動に強く依存している。そのため、現在観察される髪質やダメージ耐性は、数か月前からの生活習慣の影響を色濃く反映していると考えられる。近年の毛髪科学および皮膚科学分野では、「生活習慣要因が毛髪内部構造、特にコルテックス密度やCMC(細胞膜複合体)の安定性に影響を及ぼす」という見解が支持されている。

睡眠と毛髪形成

毛髪は毛母細胞の分裂・分化によって形成されるが、この細胞活動は成長ホルモンやメラトニンなどの内分泌系に依存する。これらのホルモンは深い睡眠中に多く分泌されるため、慢性的な睡眠不足は毛髪形成の質を低下させる要因となる。実際、睡眠時間が短い群では、毛髪の引張強度や太さが低下する傾向が観察されたとする疫学的報告が存在する。

睡眠不足によって形成された毛髪は、初期段階から内部タンパク質密度が低く、結果として「空洞化しやすい髪」になる可能性が指摘されている。これは後天的ダメージを受けやすい素地を作るという意味で、空洞化の“予備軍”を増やす生活習慣要因と位置づけられる。

ストレスと血流

慢性的ストレスは自律神経バランスを崩し、末梢血管の収縮を引き起こす。頭皮血流が低下すると、毛母細胞への酸素・アミノ酸・微量元素の供給が不十分となり、結果として形成される毛髪の内部構造が脆弱になる。

特に鉄、亜鉛、硫黄含有アミノ酸(シスチン、メチオニン)の供給不足は、ケラチン形成不全を招き、コルテックス内部に不均一なタンパク質分布を生じさせる。この状態は、後の化学処理や熱処理によって空洞化が急速に進行するリスク因子となる。

喫煙・飲酒習慣

喫煙は活性酸素種の増加と血管収縮を介して毛髪形成に負の影響を及ぼすことが知られている。アルコール過剰摂取もまた、肝機能を介した栄養代謝異常を引き起こし、結果として毛髪形成に必要なタンパク質合成効率を低下させる。これらの生活習慣は、直接的に「髪を傷める」というよりも、「空洞化しやすい構造の髪を作る」という間接的リスクとして理解するのが適切である。


食事で髪質改善?

「食事で髪質は改善するのか」という問いに対して、毛髪科学の立場からは「形成される髪の質は改善し得るが、すでに伸びた髪そのものは変わらない」と整理される。この前提を踏まえたうえで、食事と空洞化リスクの関係を考察する。

タンパク質摂取とケラチン形成

毛髪の約80〜90%はケラチンタンパク質で構成される。十分なタンパク質摂取は、毛母細胞でのケラチン合成量と質を左右する。特に必須アミノ酸の不足は、内部構造が粗く、密度の低い毛髪形成につながる。

ただし、過剰なタンパク質摂取が髪質を劇的に改善するわけではなく、エネルギー摂取量、ビタミン、ミネラルとのバランスが重要である。

微量元素(鉄・亜鉛・銅)

鉄は酸素運搬、亜鉛は細胞分裂とタンパク質合成、銅はメラニン生成に関与する。これらが慢性的に不足すると、細く弱い毛髪が形成されやすくなる。特に鉄欠乏状態では、毛髪の引張強度低下が報告されており、結果として外的ダメージに対する耐性が低い、空洞化しやすい髪質につながる可能性がある。

脂質とCMC構造

毛髪内部のCMC(細胞膜複合体)は、脂質とタンパク質から構成される。必須脂肪酸の摂取不足は、CMC構造の安定性低下を招き、水分保持力の低下や内部空洞形成を助長する可能性がある。この点から、極端な脂質制限食は髪質の観点では必ずしも推奨されない。


おすすめのシャンプー成分(空洞化視点)

空洞化対策としてのシャンプー選びは、「洗浄力」よりも「洗浄後の内部環境」を基準に考える必要がある。

アミノ酸系界面活性剤

ココイルグルタミン酸系、ラウロイルメチルアラニン系などのアミノ酸系界面活性剤は、洗浄力が比較的穏やかで、CMC流出を抑制しやすい。これは結果として、毛髪内部の空洞形成リスクを低減する方向に作用する。

ベタイン系・両性界面活性剤

コカミドプロピルベタインなどの両性界面活性剤は、洗浄補助および刺激緩和作用を持つ。主洗浄剤と併用されることで、洗浄時のタンパク質変性を抑える効果が期待される。

加水分解タンパク質・ペプチド

低分子化されたケラチン、シルク、コラーゲン由来ペプチドは、洗浄中および洗浄後に毛髪表面・内部へ吸着しやすく、空洞化初期の微細損傷部位を一時的に補填する働きを持つ。ただし、これは恒久的補修ではなく、後続ケアとの併用が前提となる。


正しいドライヤーの当て方について

熱は空洞化の主要因の一つであるが、同時に適切に用いれば補修効果を高める要素にもなり得る。ここでは「空洞化を進めないドライヤー使用」を軸に整理する。

距離と温度

ドライヤーは髪から15〜20cm程度離し、同一箇所に熱を集中させないことが基本である。過度な近距離高温は、コルテックス内タンパク質の熱変性を引き起こし、内部密度低下=空洞化を助長する。

乾かす順序

根元 → 中間 → 毛先の順で乾かすことが推奨される。毛先はすでにダメージが蓄積しており、内部空洞が進行しやすいため、最後に短時間で仕上げることが望ましい。

風の向き

キューティクルの重なり方向(根元から毛先)に沿って風を当てることで、キューティクルの開きを抑制できる。これは内部水分の急激な蒸散を防ぎ、結果として内部構造の安定性を保つことにつながる。

冷風の活用

仕上げに冷風を用いることで、キューティクルが収縮し、内部構造が一時的に安定する。これは空洞化を「治す」ものではないが、進行を抑える補助的手段として有効である。


追記まとめ

髪の空洞化は、外的ダメージだけでなく、生活習慣・食事・日常ケアの積み重ねによって「起きやすくも、起きにくくもなる」現象である。生活習慣は空洞化そのものを直接修復するものではないが、空洞化しにくい毛髪構造を形成する基盤を作るという点で重要な意味を持つ。

すでに形成された空洞化ダメージには外部補修が不可欠である一方、今後生えてくる髪の質を高めるためには、睡眠、栄養、ストレス管理といった生活全体を含めたアプローチが求められる。空洞化ケアは「製品選び」だけで完結するものではなく、「生活と習慣を含めた総合的戦略」であるという認識が、今後の新常識となるだろう。

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