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コラム:「不登校になったら人生終わり」ではない

重要なのは、不登校を「終わり」と捉えず、休養と回復、学び直しの機会を確保することである。
不登校のイメージ(Getty Images)

現状(2025年11月現在)

近年、日本の不登校児童生徒数は増加傾向にあり、文部科学省の調査によると、小学校・中学校を合わせた「不登校」とされる児童生徒数は2024年度に過去最多となる35万3,970人(小学校13万7,704人、中学校21万6,266人)を記録した。小中全体に占める割合は増加しており、1,000人当たりの不登校児童生徒数も上昇している。こうした増加は一部で増加率が鈍化している学年や地区もあるものの、総数としては過去最高水準に達しており、教育現場・家庭・自治体の共通課題になっている。

不登校とは

不登校の定義は調査や文献によって若干の違いがあるが、学校教育現場で一般的に用いられている定義は「病気や経済的理由などの正当な理由によらず、年間30日以上欠席した児童生徒」や「学校に行き渋り、継続的に授業に参加できない状態」といったものがある。また、1990年代以降の定義変化や調査方法の整備により、単なる「欠席」ではなく「学校に行くことが心理的に困難な状態」を広く含めて不登校と扱う傾向が強い。調査上の定義や扱い(出席扱いにするかどうか、専門機関での支援を受けたかどうかでの扱いなど)によって数値の解釈が変わる点に注意する必要がある。文部科学省や関係機関は、欠席日数だけでなく背景要因や支援の有無も含めた実態把握を進めている。

不登校の現状(詳細)

文部科学省調査の分析では、不登校の理由として学校側が把握した事実で最も多いのは「学校生活に対してやる気が出ない等」であり約30.1%に上る。続いて「生活リズムの不調」(25.0%)、「不安・抑うつの相談」(24.3%)などが上位に挙がっている。さらに、欠席日数が長期(年間90日以上)に至る例が多く、不登校全体の中で長期欠席者が高い割合を占める傾向がある。学校外の専門機関で相談・指導を受け、出席扱いとなった例や、ICTを活用して自宅学習を行い出席扱いになった事例も報告されており、学校・地域・保護者の連携による多様な対応が広がっている。

過去最多の人数(2024年度/35万3970人)

2024年度(令和6年度)に文部科学省が公表した調査で、小中学校の不登校児童生徒数は35万3,970人となり過去最多を記録した。この数字は1998年(平成10年)以降の同種の統計で最高であり、ここ数年で大きく増加した背景には複数の要因が重なっていると分析されている。

長期化の傾向

不登校の中には短期間の行き渋りで済む例もあるが、多くは欠席日数が長期化しやすい点が指摘されている。長期化は学業や対人関係の遅れを生み、二次的な精神的困難(不安・抑うつなど)や生活機能の低下を招くリスクがある。長期不登校は復学や社会参加の機会を減らすため、早期発見・早期支援と並んで「長期化させない支援体制」の構築が重要になっている。

不登校の背景・要因(総論)

不登校の背景は単一ではなく、複合要因であることが多い。代表的な要因群としては、(1)心理的要因(無気力・不安・抑うつ)、(2)人間関係(いじめ、友人関係の困難、教員との関係)、(3)生活リズムの乱れ(睡眠・食事・生活時間の崩れ)、(4)発達障害や認知・適応上の特性、(5)家庭環境(保護者の対応、養育上の困難、経済的問題等)、(6)学業不振や学習困難、(7)学校文化や組織的対応の不備、(8)外的ストレス(社会的孤立、地域資源の不足)などが挙げられる。これらは相互に関連し合い、例えば生活リズムの乱れが不安を高め、対人関係の問題を悪化させるといった連鎖が起こる。

無気力や不安

「やる気が出ない」「無気力」「不安感」は不登校理由の中心的項目になっている。学習や対人関係のプレッシャー、将来への不安、学校での失敗体験の反復などが心理的に子どもを萎縮させる。コロナ禍以降、外出制限や生活様式の変化により日常的な活動が制限され、心身の活力低下や対人スキルの未熟化が懸念されている。

人間関係

いじめや友人関係のトラブル、教員との対立・誤解は従来からの主要因である。ただし、近年の調査では、直接的ないじめ以外にも「友人との微妙な摩擦」や「集団への居心地の悪さ」など、複雑な人間関係の影響が増えている。

生活リズムの乱れ

睡眠不足や昼夜逆転など生活リズムの乱れは、登校意欲の低下や日中の活動能力の低下に直結する。特に子どもの生活習慣が崩れている家庭では、学校と家庭の連携が薄くなりやすい。

発達障害

発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動性障害ほか)は不登校と強く関連しているという報告がある。医療現場で受診する不登校児の中に発達スペクトラムの割合が高いという研究や、発達特性を持つ子どもの不登校率が一般の子どもより高いとする調査結果が複数ある。発達特性がある子どもは学校の集団生活や教科指導に適応しづらく、それが積み重なって学校への不安や回避行動につながることがある。病院で受診した不登校児のデータでは自閉スペクトラム症の割合が高いとの報告もあり、発達特性のある児童生徒の不登校率は全国平均と比べて大幅に高いという民間調査の結果も存在する。発達特性が疑われる場合は、診断や特性に即した支援の導入が重要になる。

家庭環境

保護者のストレスや家族間の関係性、親の働き方や経済状態、育児支援ネットワークの有無といった家庭的要因も不登校を左右する。保護者側の「休養に理解を示す」意識変化や、逆に過度にプレッシャーをかける対応などが子どもの回復に影響する。

不登校への支援(総論)

不登校に対する支援は学校内外で多層的に行う必要がある。学校単独の対応だけでは限界があるため、教育委員会、保健・医療機関、福祉機関、NPOや民間サービス、地域コミュニティ、専門家(スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、児童精神科医等)との連携が重視される。支援の目標は「学校復帰のみ」を唯一の目標にするのではなく、「学びと居場所の保障」「生活リズムと心身の安定」「社会性の回復」「家庭支援」の4点をバランスよく実現することである。文部科学省やこども家庭庁は、教育支援センターや地域拠点の整備、学校とフリースクール等の連携強化、オンライン学習の活用などを推進している。

学校内での支援

学校内では、個別の指導計画(個別支援計画)の作成、段階的な登校支援(部分登校から全日登校へ)、スクールカウンセラー等による相談支援、教員の研修による理解促進、生活リズム改善のための保健指導などを行う。チーム学校(教員・スクールカウンセラー・保健室・家庭・関係機関の連携)による支援が効果的とされる。

学校外での多様な学びの選択肢

不登校の児童生徒に対して、在籍校に固執せずに学びを継続できる選択肢を整える動きがある。代表的なものに以下がある。

フリースクール

フリースクールは学校外の学びと居場所を提供する施設で、学習・生活支援・社会性の回復を目的に運営される。学校復帰を直接の目的とする場合もあれば、その子のペースに合わせた学びと居場所提供を主目的とする場合もある。フリースクールは多様性が高く、ボランタリーな運営形態のため質や内容はさまざまであるが、子どもにとっての第2の居場所として機能することが多い。

適応指導教室(教育支援センター等)

教育委員会等が設ける適応指導教室や教育支援センターは、学校と連携して短期・中期的に学習支援や生活指導を行う公的支援拠点である。これらは学校復帰支援や保護者支援、専門機関との連携窓口としての役割を担う。

オンラインを活用した学習

ICTを活用した自宅学習やオンライン授業、学習管理システムを用いた指導は、不登校の子どもが学びを継続する上で有効な手段となっている。文部科学省の調査では、ICTを活用して出席扱いになった事例や、欠席期間中の学習成果を指導要録に反映した例も報告されている。オンライン学習は、時間や場所の柔軟性があり、段階的な社会復帰や学習の遅れを埋める手段として期待される。

専門家との連携

児童精神科医、臨床心理士、発達障害支援の専門家、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの専門家と学校・家庭が連携することが重要である。専門家は診断やアセスメント、薬物療法や心理療法の必要性の判断、保護者への助言、家庭内の支援方法の指導などを提供する。特に発達特性が疑われる場合は、医療的アセスメントと教育的配慮が一体となった支援が必要になる。

こども家庭庁による支援

2023年設立のこども家庭庁は、不登校支援を重要課題の一つに位置付け、文部科学省と連携して地域での切れ目のない支援や居場所づくり、教育支援センター等の機能強化を進めている。地域モデル事業を通じて首長部局と協働し、保護者支援や地域拠点の整備、専門家の配置といった取り組みを推し進めている。こども家庭庁は、不登校を単に「学校問題」とするのではなく、子どもの育ち全体を支える視点から関係省庁や自治体と連携した施策を展開している。

不登校に対する考え方の変化

不登校に対する社会や教育現場の見方はここ数十年で変化している。かつては「登校拒否」という語が一般的で、しばしば子どもの意志決定を強調する文脈で語られた。しかし近年は「不登校」という用語が標準的になり、個人の責任や意志だけで説明するのではなく、心身の健康や適応の困難、学校や家庭・社会の側の問題を含めた多面的アプローチが主流になっている。

「登校拒否」から「不登校」へ

用語の変更は単なる語義の問題ではなく、支援観の転換を反映する。登校を拒む個人の意志を問題視する視点から、学校に行けない状態を生み出す背景(心身、発達、環境)を分析し支援する視点へと移行した。これにより、休養や段階的復帰、学校外の学びの尊重といった多様な対応が受け入れられるようになった。

「無理に学校に行かせる」から「休養の必要性」へ

保護者や教育関係者の間で「休養が必要なケースには適切に休ませるべきだ」という考え方が広まりつつある。教育機会の確保法や関連ガイドラインは、児童生徒の心身の安全と学びの保障を両立する観点から、無理に学校登校を強いる施策を見直す方向にある。ただし、休養を長期化させることなく、学びや生活支援、社会的つながりを保つ仕組みを同時に整備することが求められる。

「不登校になったら人生終わり」ではない

近年の支援の拡充や多様な学びの選択肢の拡大により、不登校が直ちに将来の不利を意味するわけではないという認識が広がっている。フリースクールや通信制・多様化学校、オンライン学習、専門機関の支援を通じて学び直しや社会参加の道が開かれている。支援を早期に受けることで学習や社会性の回復が可能であり、個々のペースで将来に向けた準備を進めることができる。

今後の展望

今後の不登校対策は以下のような方向で進展する可能性がある。

  1. 地域基盤の強化とワンストップ支援:教育、福祉、医療が連携する地域拠点(教育支援センターや子ども家庭センター等)の整備が進む。こども家庭庁や自治体によるモデル事業の成果を踏まえ、地域での切れ目ない支援体制が拡充される見込みである。

  2. 学校の制度的対応の多様化:学校内での個別支援体制の強化と、在籍校と外部学びの連携を明文化・制度化する取り組みが進む。学びの多様化(例:学びの多様化学校、通信制・選択制の導入等)の普及が期待される。

  3. 専門人材の配置と研修:スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、発達支援専門家などの人材確保と教職員の研修強化が進む。これによりアセスメントと個別対応の質が向上する。

  4. ICT・オンライン活用の定着:ICTを活用した学習や相談支援が恒常的な選択肢になる。自宅での学びを出席扱いとする運用や、オンラインでのカウンセリング、学習管理の仕組みが標準化される可能性がある。

  5. 発達特性への配慮の徹底:発達障害やそのグレーゾーンにある子どもへの早期発見と個別支援、医療・教育の連携が強まる。発達特性が不登校と深く関連するという知見に基づき、診断・支援ルートの整備が急務である。

まとめ

日本における不登校は、単なる「学校に行かない」現象ではなく、心理的・発達的・社会的・家庭的要因が複雑に絡む社会課題である。2024年度の過去最多記録(35万3,970人)は問題の大きさを示す一方で、同時に多様な支援の導入や制度改善の契機にもなっている。今後は、学校と地域・家庭・専門家が連携して「学びと居場所を保証する仕組み」を拡充し、個々の子どもの特性や状況に応じた柔軟な支援を提供することが求められる。重要なのは、不登校を「終わり」と捉えず、休養と回復、学び直しの機会を確保することである。


参考(主要出典)

  • 文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(概要)」ほか関連資料。

  • こども家庭庁「こども家庭庁における不登校対策」等の政策資料。

  • 報道・解説記事(不登校に関する最新の集計・分析報道)。

  • 発達障害と不登校に関する研究報告・専門家コメント(学術誌や調査報告)

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