コラム:どうなるサナエノミクス、悪循環に陥るリスクも
サナエノミクスは“勝負の政策パッケージ”と位置付けられるが、成長を実現し、国民生活を改善するためには「実行力」「整合性」「構造対応」「マクロリスク管理」の4つをどれだけ高められるかがきわめて重要である。
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現状(2025年11月時点)
2025年11月現在の日本経済を巡る状況は、複数の難題を抱えつつも、政権サイドにとっては打ち出したい政策余地もある状態にある。まず、景気回復が十分には定着していない。たとえば、ある記事では「日本経済は6期ぶりマイナス成長へ」との見方も提示されており、弱い消費・投資環境が改めて懸念されている。
また、物価上昇が継続しており、有権者の関心も「物価(インフレ)」「賃金上昇」に強く向かっている。たとえば、過去7年間のうち6年間は物価が賃金を上回ったというデータがあり、有権者の約73%が政府の最優先課題としてインフレ対策を挙げているとの報道もある。
円安の進行および輸入物価の上昇も目立っており、為替相場ではドル/円が155円に迫るなど、円安トレンドが継続している。
その一方で、政権発足直後の支持率は比較的高く、「強い経済」を打ち出す姿勢に市場も一定の期待を示している。
このような状況を背景として、高市政権は新たな経済政策、「サナエノミクス」を打ち出しており、従来の枠を超えた大胆さをアピールしている。
高市政権(自民・維新)の経済政策
高市政権は日本維新の会(維新)との協調体制のもと、政権発足時点で「強い経済」「成長重視」「危機管理投資」というキーワードを掲げている。所信表明演説でも、年内の補正予算編成を速やかに行う、金融・財政・成長戦略を総動員するという姿勢が示された。
具体的には、(1)物価高・円安に対応した生活者支援策、(2)設備・成長投資促進、(3)安全保障・経済安全保障・食料・エネルギーなどの「危機管理」領域の強化、(4)「資産運用立国・投資立国」の路線継続・強化、(5)金融政策・財政政策・規制改革を一体で展開するという構えがある。 たとえば、資産運用立国、投資促進のための人的投資・インパクト投資を含め「すべての投資を促進」するという指示が政権内で出されている。
また、財政出動の規模を拡大する方針が明確にされており、補正予算・当初予算の早期成立、成長戦略本部の立ち上げによる重点分野の指定などが進められている。
金融政策に関しても、政権として「強い経済成長と物価安定の両立に向けて、適切な金融政策運営が非常に重要」として、政府・日銀の連携を強調している。
このように、単なる景気刺激だけでなく、構造・成長・危機対応を視野に入れた「新しい成長モデル」を目指す政策達成型の姿勢が鮮明になっている。
3本目の矢(成長戦略)の構成
「サナエノミクス」では、成長戦略(いわゆる「第三の矢」)が従来のアベノミクスと比べてその構成・重点が変化している。ここではその内容を整理する。
まず、成長戦略の枠として、政権は「危機管理投資」と「成長投資」を2本柱と位置付けており、安全保障・経済安全保障・食料・エネルギー・医療・国土強靭化などを「危機管理投資」の対象として明示している。
また、成長分野として、AI(人工知能)・半導体・量子・バイオ・航空宇宙・サイバーセキュリティなど、17分野を重点戦略分野に指定した。
さらに、設備投資促進・企業統治強化・人的投資・インパクト投資なども補完軸として明示されており、企業の投資を促す税制インセンティブ(例えば即時償却の検討)なども検討段階にある。
一方で、従来の「民間活力を引き出す」「構造改革」だけを看板に掲げるだけでなく、政府主導での戦略的投資・財政支援・国家安全保障を絡めた成長政策という色合いが強い。
そのため、第三の矢の構成は、大きく以下のように整理できる。
危機管理投資(安全保障・経済安全保障・エネルギー・食料・医療など)
成長投資(新技術・産業・企業設備・人的資本)
補完的政策(設備投資促進税制、企業統治強化、人的投資・インパクト投資)
このような構成によって、成長の起点を民間だけに委ねるのではなく、国家戦略・政府支援も含めて「成長を実現する」という姿勢が打ち出されている。
大胆な金融緩和
「サナエノミクス」では、金融政策についても従来の枠を維持・強化する見通しである。政権としては、デフレ脱却期を迎えた可能性を前提に、強い成長を促すためには金融緩和を継続・活用すべきとの考え方を持っている。たとえば、政権は「強い経済成長と物価安定の両立を実現するため、適切な金融政策運営が行われることが非常に重要」として、政府・日銀の連携を明示している。
また、専門家・メディアでも、(株式相場が反応する中で)「アベノミクスの再現」である、あるいは「リフレ派の登用」であるという指摘が出ており、金融緩和姿勢の強化が想定されている。
このことから、大胆な金融緩和とは、例えばマイナス金利の維持・長期国債の大量買入・イールドカーブ・コントロール(YCC)維持あるいは拡張といった、過去の緩和政策を土台としながら、成長支持の役割を強める方向と考えられる。
ただし、政権声明では「出口戦略」や利上げ時期などについて明確に打ち出されておらず、市場には「金融緩和の長期化観測」や「出口なき緩和」への警戒感が出ている。
緊急時における機動的な財政出動
政策面では、緊急時・危機対応において政府が機動的に財政出動する姿勢を打ち出している。高市政権は所信表明で「戦略的に財政出動を行う」考えを表明しており、補正予算の年内成立を目指すなど、早期・拡大の出動を意図している。
また、報道によると、補正予算+経済対策の「真水(実質支出)」ベースで20兆円超も検討されており、従来の約14兆円規模を上回る可能性があるとされている。
このように、非常時にはむしろ政府が積極的な財政支援を実施し、「待ち」の姿勢ではなく「出動」の姿勢を明確にしている点がサナエノミクスの特徴の一つである。
大胆な危機管理投資・成長投資
上述の成長戦略とも密接関連するが、サナエノミクスのもう一つの柱が「危機管理投資」と「成長投資」の大胆な実行である。危機管理投資とは、安全保障・エネルギー・食料・医療・インフラ・国土強靭化など、国家にとってリスクの高い分野への集中投資を意味する。たとえば、防衛費の名目GDP比2%までの引き上げを2年前倒しで達成するため、約1.3兆円の予算増を検討しているとの報道もある。
また、成長投資として、17の重点戦略分野(AI・半導体・量子・バイオ・航空宇宙など)への集中促進、設備投資促進税制の整備(即時償却など)も検討されている。
このように、従来の「放っておけば民間が勝手にやる」という成長モデルから、政府が戦略的に資金・制度を投入して「成長の起点をつくる」方向へと舵を切っている。
この政策意図は、長年低迷してきた日本のポテンシャルを「眠れる資源(人的資本・技術・インフラ)」として掘り起こし、世界的な技術競争・地政学リスクの時代において、日本が優位に立つ成長軌道に入るという発想に基づいている。
特徴と主な考え方
サナエノミクスの特徴と主要な考え方を整理すると、次のようになる。
リフレ・成長重視型の姿勢
デフレ脱却期を前提に、強い成長・賃金上昇・物価上昇(適度なインフレ)を同時に達成しようとする姿勢。いわゆる“高圧経済”路線に近い。メディアでは「高市政権は高圧経済を志向」などの指摘もある。政府主導の成長モデル
成長戦略において、政府が戦略分野を明示し、予算・制度・税制を使って集中投入する。「危機管理投資」「成長投資」を政策の柱に据え、リスク分野・成長分野を政府主導で支える。危機管理を成長の足場とする構え
安全保障・食料・エネルギー・医療・インフラといった「危機リスク」分野を成長戦略に組み入れている。これにより「成長=安全保障強化」という構図を作り出そうとしている。金融・財政・制度改革の“三位一体”
金融緩和、積極的な財政出動、税制・制度改革を並列で動かす構えである。特に、設備投資促進税制、人的投資・インパクト投資の推進、企業統治強化など制度面も重視されており、単に支出を増やすだけではなく「質の高い成長」に向けた制度基盤整備が意図されている。財務・財政規律の見直し
従来「プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標」が重視されてきたが、サナエノミクスでは「純債務残高対GDP比」「保有資産を差し引いた実質債務」などの新指標を重視する姿勢が見られる。賃金上昇・インフレ適度上昇の実現志向
政策論文でも、「高賃上げ持続」「実質賃金引き上げ」が鍵との指摘がある。たとえ物価上昇があっても、賃金が伴わなければ国民生活が悪化するため、この点が政策の根幹にある。
このように、サナエノミクスは「量的な拡大」だけでなく「質と経路」も重視する成長重視型・積極財政型の経済政策パッケージである。
アベノミクスの継承・第三の矢の変更
サナエノミクスは、安倍政権が掲げたアベノミクスを一定程度継承しているが、第三の矢(成長戦略)や財政・金融の運用においていくつかの変更点・強化点がある。以下に整理する。
継承する点
アベノミクスと同様に「金融緩和」「積極財政」「成長戦略」という三本柱構造を踏襲している。
デフレ脱却・物価上昇・賃金上昇という目標感を共有しており、成長を通じた好循環(賃上げ→消費拡大→投資増→成長)というモデル意図も継いでいる。
政府・日銀の連携を強調し、過去の緩和策を土台として政策を進める姿勢がある。例えば、「強い経済成長と物価安定の両立」「適切な金融政策運営が非常に重要」といった表明がなされている。
変更・強化する点
第三の矢(成長戦略)において、アベノミクスでは「構造改革」「民間活力の引き出し」が中心だったのに対し、サナエノミクスでは「危機管理投資」「成長投資」「国家戦略分野への重点投入」という、新たな枠組みが明確となった。
財政規律の捉え方が変わっており、従来の「プライマリーバランス黒字化の宣言」をやや柔軟に捉え、むしろ「純債務残高対GDP比」「政府保有資産を差し引いた実質債務」を重視する方向に転換している。
また、アベノミクスでは成長戦略が比較的抽象的・長期的だったのに対し、サナエノミクスでは重点分野を具体的に17項目とし、早期の実行・財政・税制支援を伴う点が強化されている。
出口戦略・金融緩和の収束時期などについても、アベノミクス時代には比較的明確さがなかったが、サナエノミクスでは「出口なき緩和」の懸念すら市場で指摘されており、ポリシー・シグナリングが強まっている。
つまり、サナエノミクスはアベノミクスの基本構造を踏まえつつ、「国家安全保障・危機対応・成長分野集中・財政柔軟化」というテーマを強めた次世代型成長戦略と言える。
財政規律の一時凍結・純債務残高対GDP比を重視・「高圧経済」論
サナエノミクスでは、財政・金融・成長を大胆に動かすため、財政規律に関する従来の枠組みを一時的に見直す姿勢が出ている。
まず、財政規律の観点では、政権は「インフレ率2%が達成されるまでは時限的にプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化を目指さない」「戦略的な財政出動を優先」という方針を示している。例えば、財政再建路線に批判的な観点から、「アベノミクスの第三の矢を大胆な危機管理投資・成長投資に変える」との指摘も出ている。
次に、従来の「財政赤字/GDP比」や「公債残高/GDP比」という指標に代えて、政権は「純債務残高対GDP比」「政府保有資産を差し引いた実質債務残高」を重視する姿勢を示している。例えば、ある報道では「首相が重視するのは『純資産残高の対GDP比』。国の保有資産を差し引いた実質債務を指標にするもので…」とされている。
また、政策論として「高圧経済」論が持ち上がっており、成長を優先するあまり、ある程度のインフレ・賃金上昇と設備稼働率アップ・人的資本投資・設備投資を積極的に促進することを通じて「強い成長・強い景気」を実現するという考え方が明確になってきている。 例えば、マクロ専門レポートでは「高圧経済を志向し、『責任ある積極財政』の掛け声のもと『大胆な「危機管理投資」と「成長投資』で、暮らしの安全・安心の確保と『強い…』」という記述もある。
このように、財政規律を完全に放棄するわけではないが、成長実現・危機対応のために、時限的に規律を緩和・見直す方向へと政策スタンスをシフトしている。
狙い・リスク
狙い
サナエノミクスの狙いは、おおまかに以下の通りである。
長年低成長・デフレ・企業設備余剰・賃金停滞に苦しんできた日本経済を、「強い経済」「成長軌道」に乗せる。特に、賃金上昇・消費拡大・投資拡大・成長という好循環を再び創出する。
世界的な技術競争・地政学リスク(半導体・量子・サイバー・バイオ・エネルギー安全保障など)が高まる中、日本が戦略分野で優位を築き、経済・安全保障・技術・インフラを統合した国家成長モデルを提示する。
安全保障・食料・エネルギー・医療・国土強靭化などの「リスク・脆弱性」を解消し、成長の基盤とする。社会・経済の「守り」と「攻め」を一体で展開する。
財政・金融・制度を総動員して「投資立国/資産運用立国」の路線を加速させ、貯蓄から投資へ、内部留保から成長投資へという転換を促す。
円安・輸出・投資を活用して国際競争力を高め、世界市場でのポジションを強めることで、経常収支・GDP拡大を図る。
リスク(悪循環等)
ただし、これらの政策には複数のリスクが存在する。以下に主なものを列挙する。
悪循環に陥るリスク
政府の財政出動・金融緩和・成長戦略がうまく連動せず、投資・賃金・消費という好循環を実現できない可能性。特に、成長投資が民間設備に繋がらなければ「出動したが成果が低い」「財政赤字が増えて成長に結びつかない」という悪循環に陥る恐れがある。
賃金上昇が実現しなければ、物価上昇だけが先行して実質賃金が低下する事態になり、国民生活が疲弊する逆インフレ(賃金停滞+価格上昇)となる可能性。専門家は「物価が賃金を上回る状態」の継続を警告している。
円安リスク
円安は輸出企業には追い風となるが、輸入物価・エネルギー・原材料コストを押し上げ、国民生活コストを増加させる。実際、為替レートが円安方向に進む中、物価高とインフレ加速の懸念が指摘されている。
円安が進行し過ぎると、海外投資家の円資産評価・信認低下につながる可能性もあり、為替・金融市場のボラティリティが高まる。
金融緩和の長期化観測・出口難リスク
長期にわたる金融緩和は、資産価格バブル・金融機関の収益構造の歪み・金利正常化の難しさを招く。市場においても、「出口なき緩和」への懸念が指摘されている。
また、金融緩和が長引けば、国内外から「日本は再び過剰な緩和に頼る」との見方をされ、国際金融市場での信認低下や円安圧力・金利上昇圧力を呼び込む可能性がある。
財政悪化への懸念
積極的な財政出動・成長投資を行う一方で、税収が成長スピードに追いつかなければ、基礎的財政収支(プライマリーバランス)どころか、債務残高が急速に膨らむ可能性がある。実際、専門家からは「財政健全化目標『対GDP純債務比率』の危うさ」も指摘されている。
国債発行が増えれば長期金利・金利負担が増大し、財政運営の余地が縮まる。
物価高リスク・輸入物価の上昇・インフレ加速・国民生活への影響
円安・原材料高・エネルギー価格上昇などが輸入物価を押し上げ、消費者物価の上振れリスクがある。例えば、一部の専門家たちは「サナエノミクスが抱える物価高リスク」を指摘している。
インフレが進んでも賃金が追いつかなければ、実質賃金が低下し、可処分所得・消費が落ち込む。国民生活の“コスト負担増”が成長阻害となる可能性もある。
また、物価高が長期化すれば、生活必需品の価格上昇→消費抑制というスパイラルに入り、成長どころか低成長化を招く恐れもある。
このように、サナエノミクスには成長実現という大きな狙いがある一方で、出口戦略・為替・金融・財政という複数のリスクを抱えており、政策運営の継続性・整合性が問われる。
問題点と課題(総括)
サナエノミクスが抱える問題点・課題を整理する。
賃金上昇・消費拡大の実現の困難さ
日本では長年にわたって実質賃金横ばい、あるいは減少が続いており、消費・設備投資・成長を自律的に押し上げるエンジンが十分に働いてこなかった。サナエノミクスも「高賃上げ継続」が鍵とされているが、企業の内部留保が膨らむ中、賃上げ実現のハードルは高い。実際、メディアでは「物価が賃金を上回る」状況が続いており、有権者の期待とのギャップが指摘されている。投資を呼び込めるかどうかの疑問
政府が投資を促す制度・税制を打ち出しても、民間が投資意欲を示さなければ成長モデルは機能しない。設備過剰・人口減少・国内需要停滞という構造的課題が残る中で、設備投資・人材投資をどこまで加速できるかが鍵である。財政の持続可能性と出口戦略の曖昧さ
積極財政・財政規律の一時凍結・緩和長期化という方針は、成長実現に向けた政策余地を作る反面、将来的な財政持続性・金利負担増・国債市場の反応を伴うリスクを抱えている。特に、税収拡大が成長スピードに追いつかなければ、財政悪化が加速する懸念がある。為替・輸入物価・物価上昇の影響
円安を一定程度容認・推進する構えであるが、輸入物価・資源価格上昇が国内物価に波及するリスクが高い。賃金上昇がそれに追いつかなければ、国民生活の負担が増し、成長どころか景気の重石となる可能性がある。専門家から「物価高リスク」を懸念する声が出ている。政策の整合性・持続性
政策を実行するうえで、各要素(金融・財政・制度改革・成長戦略・賃金政策)がバランスよく機能する必要がある。特に、危機管理投資と成長投資の間の優先順位・実行スピード・効果測定など、政策運営の実務面において課題が多い。例えば「政策の中身が見えない」「練り込みが足りない」との報道もある。人口・構造変化・グローバル競争
日本では少子高齢化・人口減少・労働力不足・国内需要の縮小という構造的制約が依然として重大である。サナエノミクスが前提とする「賃金上昇→消費拡大→投資増」という好循環を構築するには、構造改革・需要創出・労働移動促進・女性・高齢者の活用なども並行して進める必要がある。
これらを踏まると、サナエノミクスは「政策としては大胆かつ方向性は明確」だが、実行力・構造変化対応・持続可能性という観点では強力な課題を抱えており、成長の軌道に乗せるためには中長期の視点で不断の改革が求められる。
今後の展望
今後の展望を整理すると、次のようなポイントが想定される。
短期的には、2025年度補正予算の成立、成長戦略本部による重点分野の具体化、設備投資促進税制の制度化などが進展すれば、景気押し上げ効果が現れやすい。実際、報道では補正予算で20兆円超の可能性もあるとされており、早期成立・実行がカギとなる。
中期的には、賃金上昇・設備投資拡大・技術導入・人材投資の実効化が問われる。成長分野における日本企業・海外企業の動き、企業の内部留保の活用、新規投資の実績が成長軌道化の試金石となる。
為替・物価・金利・財政面のマクロリスクをどう制御するかが重要となる。例えば、円安・輸入物価・金利上昇・債務拡大のトリプルリスクが同時に顕在化すれば、成長政策の逆風となる。市場も、既に「円安・債務拡大・緩和長期化」の警告を発しており、政権は信認維持に神経を使う必要がある。
長期的には、構造変化(人口減少・高齢化・労働移動・女性・高齢者の活用・デジタル化・グリーン化)を成長戦略と一体化させることで、成長の持続性を確保する必要がある。危機管理投資・成長投資を繰り返しても、人口・構造の制約がそのまま残るなら、限界に直面する可能性がある。
政策シグナルとして、出口戦略・金融政策の転換・財政再建のタイミング・税制改革のロードマップなど、将来の継続性・信認を支える設計が(今後明確化されるかどうか)が鍵となる。市場・国際機関・格付け機関はその点を注視しており、政策の「信頼性」「計画性」が成否を分ける。
総じて言えば、サナエノミクスは“勝負の政策パッケージ”と位置付けられるが、成長を実現し、国民生活を改善するためには「実行力」「整合性」「構造対応」「マクロリスク管理」の4つをどれだけ高められるかがきわめて重要である。今後1〜2年の政策展開の進捗が、サナエノミクスの効果を判断する分水嶺となる。
