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コラム:再エネの出力制御、減らすには

出力制御は電力系統の安定運用という観点からは必要な措置であり、再エネの大量導入に伴う一時的な「調整費用」である側面がある。
ソーラーパネルと風力発電(Getty Images)

日本では再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が拡大しているが、電力系統の限界や送電網の制約により「出力制御(出力抑制)」が頻繁に行われている。系統容量や送電能力が地域的に不足しているため、特定の時間帯や地域で発電量を抑える必要が生じている。資源エネルギー庁は系統制約が再エネ大量導入の主要な障害の一つであると指摘しており、系統の緩和や解消が課題になっている。

再エネの出力制御とは

出力制御とは、電力需給のバランスや系統安定性を維持するために、発電所(特に太陽光・風力などの変動型再エネ)の出力を計画的・一時的に抑制する操作を指す。制度上は年間の無補償出力制御が行える枠組みや、日数・時間ベースの制約が定められており、接続ルールや運用ルールに従って電力会社や運用者が制御を実施する。近年はオンライン制御技術の導入や予測技術の向上により、より柔軟な運用が模索されているが、依然として実運用での抑制は続いている。

問題点(概観)

出力制御は系統の安定化には寄与する一方で、再エネの普及促進という政策目的と矛盾する場面がある。具体的には(1)発電事業者への経済的損失、(2)事業予見性の低下、(3)再エネ普及への悪影響、(4)社会的・環境的損失など多面的な問題を引き起こす。制度面では「無補償」での抑制が基本になっているルールがあり、これが発電事業者の収益減や投資判断の不透明化を招いている。

発電事業者への経済的損失と事業予見性の低下

出力制御が行われると発電事業者は売電機会を失い、売電収入が減少する。特に固定価格買取制度(FIT)や固定値の売電収入に依存している事業者は、計画された回収スケジュールが狂いやすい。さらに、抑制の頻度や量が年度ごと・地域ごとに変動するため、長期的な収益見通しが立てにくく、金融機関からの融資条件が厳しくなるなど投資コストが上昇する。これにより新規投資や追加設備導入の意欲が削がれる。制度上の均等化策は存在するが、実務面では依然として不確実性が大きい。

売電収入の減少と補償がない問題

日本の現行ルールでは、一定の条件下での出力抑制は「無補償」で実施されるケースが多い。つまり制御された発電量について事業者に直接金銭的補償が支払われないため、損失は事業者の負担になる。これが小規模事業者や個人オーナーにとっては致命的になり得る。補償制度の導入や出力抑制に対する報酬体系の見直しが議論されているが、制度変更には多面的な利害調整が必要である。

投資回収の阻害と再エネ普及拡大への悪影響

出力制御が頻発すると、事業収益が不安定になり、発電事業に対するリスクプレミアムが上昇する。結果として新規投資の採算性が悪化し、再エネの普及拡大が鈍る危険性がある。特に遠隔地や低容量の系統に接続するプロジェクトは、制御リスクにより事業計画自体が見送られることがある。政策目標である脱炭素と再エネ比率の向上を達成するためには、出力制御リスクを低減する制度設計や金融支援が必要になる。

導入拡大の妨げと系統への接続制約

系統接続は先着順や接続可能容量の問題を抱えており、接続申請時点で将来の出力制御リスクを考慮する必要がある。系統制約が解消されない限り、接続保留や遠隔制御の義務化、部分的な出力制御の対象化などが続き、結果として導入が局所的に停滞する。資源エネルギー庁や電力系統運営者は系統増強や送電網の改良、配電・送電事業者間での調整を進めているが、インフラ整備には長期的な投資と時間が必要である。

社会的・環境的な損失(エネルギーの無駄とCO2の影響)

再エネを生かすことができないという点はエネルギーの「無駄」に直結する。特に晴天や強風で発電可能なのに抑制されると、カーボンゼロ電力が活用されず、代わりに化石燃料発電が稼働し続ける時間が増える可能性がある。だが、従来の研究では再エネ導入時に増える従来型発電の調整によるCO2増加は、再エネが置き換える燃料削減によるメリットを上回らないとする分析もある(すなわち全体としてはCO2削減効果が依然ある)。それでも、出力制御の頻度が高まれば、局所的には期待される排出削減効果が減る点は問題だ。

電力系統運用の課題と需給調整の複雑化

再エネの変動性は需給調整を複雑化させる。瞬間的・短時間的な変動に対応するための調整力(予備力、周波数制御、需給バランシング)へのニーズが高まり、従来型の火力や水力による調整運転が増えることがある。再エネ自体が出力抑制により下方調整力を提供できるにもかかわらず、その価値が市場で明確に報酬化されないため、系統全体の効率的な運用インセンティブが欠如しているとの批判がある。つまり、制度設計が再エネの柔軟性を評価・報酬化する方向に進むことが重要である。

地域的な偏りと地方経済への影響

再エネ導入の多くは風況・日照に恵まれた地域に集中する傾向があるため、出力制御の負担も地域に偏る可能性がある。地域住民や地方自治体は再エネ導入での雇用創出や税収増を期待して投資を受け入れるが、度重なる出力制御により期待した経済効果が得られない場合、地域の反発や導入への慎重化が生じる。地方経済の視点からは、制御リスクに対する補償や代替の収入源確保が課題になる。

電力会社の対応(運用・技術的対策)

電力会社は出力制御を最小化するために複数の対策を進めている。具体的には送電網の増強、時間帯別需給予測の高度化、蓄電池やVPP(仮想発電所)の導入、デマンドリスポンスの活用、出力予測アルゴリズムの向上などである。加えて、接続の際の条件設定(制御ルールや優先順位)を明確化し、公平性を保つためのグループ化や年度単位の順序付けによる制御機会均等化も実施されている。これらはすべて出力制御を技術的・運用的に緩和するための現実的な施策である。

政府の対応(政策・制度設計)

政府は系統制約緩和のための政策を複数打ち出している。系統増強や系統運用の高度化、調整力市場の整備、蓄電池導入支援、出力制御の透明性確保や公平性指針の制定などがある。近年の検討資料では出力制御の抑制に向けた取り組みや、事業者間の公平性を確保する旨の指針が示されており、無補償ルールの運用や将来的な報酬制度の可能性についても議論が行われている。だが、制度変更には既存契約や市場参加者間の調整が必要であり、短期間で全てを解決することは難しい。

補償制度と市場メカニズムの可能性

出力制御に対する補償や、出力抑制という「柔軟性」を市場で評価して報酬化する仕組みは有効な解決策になり得る。調整力市場や容量市場、インバランス清算の改善、非化石価値の取引市場などを活用し、抑制に伴う価値の移転を設計することが考えられる。また、再エネ側が積極的に需給調整へ協力するインセンティブを持てるようにすることで、系統全体の効率性向上につながる。市場化は単に補償を与えるだけでなく、操作の最適化や投資誘導につながる。

技術的解決策(蓄電・予測・デジタル化)

蓄電池の導入やVPP、需要側の柔軟化(DR)を進めることが出力制御の緩和に直結する。蓄電はピーク時に発電を平準化し、過剰出力時の貯蔵や不足時の放電で系統の安定化に寄与する。出力予測の精度向上やリアルタイム制御、デジタル化による需給調整の自動化も不可欠である。これらの技術はコスト面での課題があるが、単体のコストだけでなくシステム全体最適の観点から評価すべきである。

今後の展望(短中期)

短中期的には、送電網の増強と運用高度化、蓄電導入の加速、調整力の市場化検討が進む見込みである。政策的には接続ルールの見直しや出力制御の透明性確保、補償や報酬メカニズムの導入に向けた議論が続く。これらにより、出力制御の頻度や影響は徐々に低減する可能性があるが、需要増加や再エネ大量導入のスピード次第では、依然として調整の難易度が高まるリスクがある。

今後の展望(長期)

長期的には、送配電網の広域化やスマートグリッド化、蓄電池やグリッドスケールのFR(周波数応答)資源の普及、電力市場のグローバル化が進むことで、出力抑制は例外的な措置になっていく可能性が高い。再エネが系統の柔軟性を自ら提供し、その価値が適切に報酬化されることで、再エネと系統が協調する社会が形成される。ただし、技術移行と制度改革の両方がうまく進むことが前提になる。

利害調整の重要性と政策提言(要点)

出力制御問題の解決には以下のような総合的アプローチが必要である。
・系統増強と送配電インフラへの投資を加速すること。
・出力制御に対する透明性と事業者間の公平ルール(既に指針があるが運用の徹底が必要)を確立すること。
・抑制に対する補償もしくは市場ベースでの報酬制度を検討し、再エネの柔軟性を評価・報酬化すること。
・蓄電池やVPP、デマンドリスポンスなどの柔軟性資源を導入する助成や制度設計を行うこと。
・CO2削減という目標と整合するかたちで、抑制の頻度と影響を定量的に評価し、政策判断に反映させること。

まとめ

出力制御は電力系統の安定運用という観点からは必要な措置であり、再エネの大量導入に伴う一時的な「調整費用」である側面がある。しかし、そのまま無補償・不透明な運用が続くと発電事業者の経済性を損ない、新規投資や地域の受け入れを阻害するため、長期的な脱炭素目標達成にマイナスに働く。制度面・技術面・市場設計の三本柱で対処し、透明性と公平性を担保した上で、再エネ自体が系統の柔軟性を提供できるようにインセンティブを整備することが不可欠である。政策、事業者、地域の利害を調整しつつ、技術革新と制度改革を同時並行で進めることが求められる。


参考(本文で引用した主な資料)

資源エネルギー庁「再エネの大量導入に向けて ~『系統制約』問題と対策」等。

・経済産業省・関連ワーキンググループ資料「再生可能エネルギーの出力制御の抑制に向けた取組等について」(出力制御の公平性指針など)。

・京都大学ほか「再生可能エネルギー及び調整力を活用した脱炭素化シナリオにおける地域経済循環分析」等、調整力・市場設計に関する研究。

・NEDO等のファクトシート・研究資料(風力発電とCO2削減に関する分析)。

・2025年の出力抑制見通しに関するメディア報道(出力抑制量の試算等)。

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