コラム:急速に「深化」するロシアと北朝鮮の関係
ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアと北朝鮮の関係は実利的・戦略的動機から急速に深化した。
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2022年2月にロシアがウクライナへの大規模侵攻を開始して以降、ロシアと朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の関係は顕著に深化した。両国は経済、軍事、外交の複数分野での協調を強め、2024年6月には「包括的戦略的パートナーシップ」や相互防衛を含む条約を締結するまでに至った。これにより、北東アジアと欧州の安全保障環境は新たな緊張を帯び、国際社会は制裁や外交的非難で応答している。
歴史的経緯(冷戦以降から2021年まで)
北朝鮮と旧ソ連(ロシア)の関係は冷戦期に形成された。1950年代から1960年代にかけてソ連は軍事・経済的支援を行い、1961年にはソ連と北朝鮮の間で友好条約(朝ソ友好相互援助条約)が結ばれたが、ソ連崩壊後、ロシアの関心は低下した。1990年代から2000年代にかけては経済的交流は限定的で、北朝鮮の孤立化が進む中でも中国が主要な支援国であり、ロシアは一定の関与を続けつつも距離を置く時期が続いた。21世紀に入ると、エネルギーや地政学的観点からの接触は散発的に行われ、核問題交渉(六者会合など)での立場も時期によって変動した。だが、2010年代末まで大規模な戦略的接近は見られなかった。
2022年以降の転換点
ロシアのウクライナ侵攻は両国の関係を急速に接近させる契機になった。ロシアは西側制裁により兵站や弾薬調達に逼迫する一方、北朝鮮は外貨稼得や軍事技術の交換を求めていた。報道と分析は、北朝鮮がロシア向けに大量の砲弾・弾薬や一部兵器を供給し、見返りにロシアが衛星・ロケット技術や経済協力を提案したり資源供給(穀物・化学肥料・石油など)を行った可能性を示している。こうした相互補完的な利害関係が2022年以降の関係深化を促した。
両国の関係の深化(具体的事例)
首脳会談と条約締結:2023年9月にロシア極東で両首脳が会談した後、2024年6月にプーチン大統領が平壌を訪問し、金正恩と「包括的戦略的パートナーシップ(相互防衛含む)」に関する文書に署名した。ロシア側はこの条約を19世紀・20世紀以来の重要な外交成果と位置づけ、北朝鮮はこれを対米・対西側の安全保障圧力下での勝利として宣伝した。
軍事協力と兵器供与:複数の開示情報と報道は、北朝鮮がロシアに大量の砲弾とその他の通常兵器を提供したことを示唆している。西側諸国や独立した研究機関は、ある期間におけるロシアの弾薬供給不足を北朝鮮産弾薬で補っている可能性を指摘している。これによりロシアは前線での弾薬不足圧力をある程度緩和したと報告されており、北朝鮮は外貨獲得と実戦での兵器実績を得たという分析が出ている。
人的支援(派兵)に関する報告:韓国や欧米の情報機関は、北朝鮮からロシアへ訓練要員や特殊部隊あるいは傭兵的兵士が派遣されたとする報告を複数示した。ロシア政府はこれを否定する場合もあるが、国際社会と一部の分析は限定的な人的協力が行われている可能性を強く警戒している。欧州各国や北米はこれらの報告を重視し、外交的抗議や制裁の正当化材料として用いている。
安全保障条約締結の意義と中身
2024年に署名された「包括的戦略的パートナーシップ」は、公開されたプレスリリース・報道の範囲内で言えば経済協力、軍事協力、相互防衛に言及する文言を含んでおり、従来の友好条約より踏み込んだ軍事的な協調を規定する可能性がある。公開版の文言は詳細に差があるが、相互の「協力と援助」を明記する条項が含まれ、状況によっては一方の領土・軍事行動に対する支援を求めうる法的枠組みの土台になり得ると解釈されている。条約は近代の地政学でロシアが多面的に孤立する中で新たな同盟的支えを得る手段であり、北朝鮮にとっては政治的正当化と安全保障の保証を得る手段になる。
北朝鮮の派兵と兵器供与(証拠と評価)
国連の公式なパネル・オブ・エキスパート(北朝鮮制裁を監視する1718委員会の専門家パネル)は、北朝鮮による違法な武器売買や船舶を使った制裁回避の手口を長年にわたり指摘してきた。2022年以降の報告や各国情報は、北朝鮮がロシア向けに通常兵器(砲弾、弾薬、ロケット弾など)を供給している疑いを示し、幾つかの例では物的証拠や輸送ルートの分析がなされている。さらに、北朝鮮からの人的派遣に関しては複数国が断片的な情報を示しており、完全に公開された「立証」には至っていない点もあるが、総体としては相当程度の協力関係が実際に行われているとの評価が多い。
米国の対応
米国はロシア・北朝鮮間の軍事協力と違法貿易に対して制裁と外交的非難で応じている。米財務省(OFAC)や国務省は、ロシアの戦争経済を支える個人・企業、北朝鮮の輸出管理回避や資金源となる人物・業者に対する制裁指定を行ってきた。また米国は主要同盟国(韓国・日本・欧州諸国)と情報共有や追加措置協議を継続し、ロシアの供給チェーンや北朝鮮の制裁回避ルートを断つ政策を強化している。さらに、米国は国連などの場で北朝鮮の核・ミサイル開発進展を強く非難し、ロシアと北朝鮮の協調が地域の軍拡や核拡散リスクを高めると訴えている。
欧州諸国の対応
欧州連合(EU)と欧州各国はロシアのウクライナ侵略に対する制裁を継続する中で、北朝鮮との軍事協力に関しても強い懸念を表明している。EUは北朝鮮関係者や事業体への個別制裁、資産凍結、渡航禁止を拡大したほか、北朝鮮の兵器提供や派兵疑惑に対しては非難声明を発出し、事実関係の解明と追加措置を検討している。欧州議会や一部加盟国は、ロシアと北朝鮮の接近が国際的な安全保障秩序への重大な挑戦であると位置づけ、より厳格な監視と連携を求めている。
孤立する北朝鮮とロシア:相互依存の論理
ロシアは欧米の制裁下で経済・軍需面での代替供給を必要としており、北朝鮮は外貨や先端技術(宇宙・ロケット関連など)へのアクセスを求めている。したがって、両者が「孤立」という共通点を背景に相互補完的な関係を作る論理は理解可能だ。北朝鮮はロシアとの関係深化をもって体制強化と外交的正当化を図り、ロシアは戦争を維持するための弾薬・人員供給源を確保するという実利を得る。ただし、この相互依存は短期的には利益をもたらすが、中長期的には北朝鮮のさらなる孤立化やロシア自身の国際的非難・追加制裁を招くリスクも大きい。
北朝鮮の核武装強化
ロシアが北朝鮮を国際的に保護・支援する姿勢を強めることで、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速させる余地を得る可能性がある。国連安保理の監視や制裁の実効性が弱まると、核関連の物資や技術の入手が容易になりうる。さらに、政治的に大国(ロシア)とより近い立場を獲得することは、北朝鮮指導部に安全保障上の自信を与え、核戦力の配備と宣伝をさらに推進する動機になり得る。国際社会はこれを核拡散リスクの深化として重大視している。
問題点(法的・道義的・安全保障上)
国際法・国連制裁の脆弱化:北朝鮮とロシア間の非公開取引や海上での移送などの制裁回避行為は、制裁の空洞化を招く。ロシアが国連内部の仕組みに影響力を行使して監視体制を弱める動きも指摘される。
地域安全保障の不安定化:北朝鮮の兵器提供や派兵が事実であれば、ウクライナ戦線のみならず東アジアの軍事バランスにも波及する。日本・韓国は直接的な安全保障上の脅威増加を懸念している。
核拡散と技術交流:ロシアからのロケット・宇宙技術供与の可能性は、北朝鮮の長距離弾道ミサイル能力強化に直結しうる。これは地域全体の戦略的不安定化を助長する。
国際秩序の地殻変動:大国が規範や国際制度を無視して同盟関係を深めることは、国際秩序の一部破壊を意味し、他の地域での類似行動を誘発するリスクを孕む。
今後の展望(政策的選択肢と予測)
引き続き制裁と標的型措置の強化:米欧や日本・韓国は、ロシアと北朝鮮の協力に関与する個人・企業・海運ルートを標的にした追加制裁を継続すると予想される。こうした措置は短期的な抑止と制裁コストの増加に寄与する。一方で、制裁回避の手口が高度化するため、情報共有と執行能力強化が不可欠になる。
外交的圧力と国連での交渉:国連安保理や総会の場での非難決議や監視体制の強化が継続される可能性があるが、常任理事国であるロシアの反対や欠席で効果が制限されるジレンマが残る。国際社会は多国間での情報収集と第三国を巻き込んだ執行を模索する必要がある。
軍事的エスカレーションの回避と抑止強化:韓国・日本は自国防衛力の向上、日米韓の協力深化、さらには欧州との安全保障対話を強化することで抑止力を高めることが考えられる。しかし、強化された抑止は逆に北朝鮮のさらなる軍拡を招くスパイラルのリスクもあるため、慎重なバランスが必要だ。
長期的には交渉の再起動が鍵:最終的な安定には、北朝鮮の安全保障と体制保証、並びに朝鮮半島の非核化と地域の平和体制を巡る包括的枠組みの再構築が必要だ。しかし、現状の地政学的分断と相互不信はこれを困難にしているため、段階的・条件付きのアプローチが現実的になる。
まとめ
ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアと北朝鮮の関係は実利的・戦略的動機から急速に深化した。両国は互いの「欠点」を補完する形で経済的・軍事的な協力を深め、2024年の条約締結に至った。これに対して米国・EU・日本・韓国を始めとする国際社会は制裁・外交的圧力を強化しているが、条約や秘密裏の取引が続く限り効果は限定される可能性がある。北朝鮮の核・ミサイル能力強化、地域の軍事的不安定化、国連制裁体制の脆弱化といったリスクは依然として高く、国際社会は情報共有と執行力の強化、さらに外交的打開策の模索という二つの軸を同時に進める必要がある。
氏(朝鮮中央通信社/AFP通信).jpg)