コラム:「定数削減」と「選挙改革」、2026年の展望
衆議院定数の約1割削減という与党提案は、日本政治の主要課題となっているが、民意の反映・一票の格差是正・手続きの公正性といった多くの論点を含んでいる。
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現状(2026年1月時点)
日本の国会は、衆議院・参議院の二院制を採用する立法府である。衆議院の議員定数は現行465議席であるが、人口減少・都市集中の進行とともに「一票の格差」是正の必要性や制度の機能改善が課題となっている。一方で、選挙制度そのもののあり方も長年にわたり議論されており、近年は法改正・制度改革の検討が活発化している。
衆議院選挙制度は1994年の改革以来、小選挙区比例代表並立制が採用されてきたが、選挙区人口格差の問題や、多様な民意の反映と効率的な制度構築の両立が引き続き論議されている。1994年改革は、旧来の中選挙区制から転換する大改変として実施され、小選挙区中心の制度設計が日本の政党政治に深い影響を与えてきた。
2025年以降は、与党自由民主党と日本維新の会により、衆議院定数の削減および選挙制度改革に関する協議が大きな政治課題となっている。
定数削減と選挙改革(総論)
「国会議員の定数削減」と「選挙改革」は、日本の政治制度に関わる根本的課題である。議員定数は、国民の代表として立法府に参加する権利と役割を担う国会議員の数を定めるものであり、制度の設計や配分方法は、民主主義の質や国民の政治参加の実効性に直結する。
選挙改革は、議員定数の削減・配分方法の見直し・被選挙権年齢の改定・一票の格差是正・区割り方法など、複数の要素を含む広範な課題である。これらは単なる数値の変更ではなく、どのように民意を正確に反映し、国会が機能するかという制度設計の根幹問題である。
議論の背景には、人口減少・都市集中に伴う選挙区の不均衡や、政治と国民との信頼関係の再構築がある。また、政治資金の問題や政治倫理への批判の高まりも、制度改革への圧力として影響している。
高市政権(自民・維新)の最重要課題の一つ
2025年末から2026年にかけての日本政治において、定数削減と選挙改革は高市内閣(自民・維新連立)の最重要課題の一つとなっている。与党間で議論が進む一方、野党や市民団体、専門家から慎重な検討を求める声が強い。
自由民主党と日本維新の会は、連立合意の主要政策として議員定数削減を位置づけているが、その方法・規模・手続きについては対立や不一致も散見される。特に維新側は「身を切る改革」の象徴として定数削減を求める姿勢を強めているが、与党内でも慎重論が根強い。
高市政権は、国会改革を進めることで「政治とカネ」などへの批判を克服し、国民の信頼回復を図る意図があるとされるが、その実現には多方面の調整と合意形成が必要である。
定数削減に向けた取り組みの現状
2025年末に自民党と日本維新の会は、衆議院議員の定数削減を含む法案を国会に提出した。この法案は、衆議院議員定数(現465席)の約1割削減(45〜46席程度)を目標として示す内容である。
具体的には、小選挙区で25議席削減、比例代表で20議席削減することが議論され、最終的に1年以内の協議会で結論が得られない場合は自動的に削減される条項も含まれている。
この法案は、自民・維新両党の連立協議の中で取りまとめられたもので、与党での結論を法案として提出するという異例の展開となっている。
衆議院議員の定数を約1割(45〜46人程度)削減する議論
定数削減の主な方向性は、約1割の削減である45〜46議席の削減である。現在の465議席を420議席以下に削減することを目標とする。この削減案の背景には、人口減少・一票の格差是正の必要性・国会のスリム化論などがある。
維新側は当初、比例代表の削減を50議席とする案を提示したが、野党・自民党内からの反発を受け、最終的には小選挙区と比例代表を組み合わせた案で一致した経緯がある。
主な提案内容
以下は、定数削減・選挙改革に含まれる主な提案内容である。
衆議院定数(現行465議席)を420議席以下に削減
現行465議席を、約1割削減して420議席以下とする案が中心である。削減の内訳は、小選挙区で25議席・比例代表で20議席とする案が基調となっている。
維新側は「協議が整わない場合の比例代表50議席の先行削減」を求める
維新側は当初、比例代表50議席削減という大胆な案を掲げたが、最終的には総数ベースでの削減で合意点を見いだした。しかし、削減規模や方法については今後の協議課題とされている。
議論の背景:政治資金問題(政治とカネ)
日本の政治制度改革の背景には、政治資金問題(政治とカネ)への批判がある。国民の間では政治家の倫理性や透明性への不信が高まり、制度改革への期待が強い。
一部の批評家や市民団体は、議員定数削減を「政治とカネ問題から国民の目をそらすもの」と批判している。自由法曹団は法案提出に対し「民主主義の根幹を損なう暴挙」とする声明を発しており、手続き・根拠の不十分さを問題視している。
懸念点
多様な民意が反映されにくくなる(民意の切り捨て)
定数削減には、多様な民意の反映が損なわれる懸念がある。比例代表制は多様な意見を国会に反映させる機能を持つため、削減規模が大きくなるほど少数政党や地域意見の反映が難しくなる可能性が指摘されている。
選挙区縮小による「一票の格差」問題の悪化
小選挙区数の削減により、地域あたりの人口バランスが変動し、一票の格差が再度拡大する可能性も懸念される。選挙区ごとの人口変動を反映するためには柔軟な区割り見直しが不可欠である。これには最高裁判所の判例でも指摘されてきた格差是正が重要な論点となる。
選挙改革の主な論点
選挙改革は単なる定数削減にとどまらず、複数の重要論点を含む制度全体の再設計である。
一票の格差の是正
選挙区ごとの人口差による票の価値の不均衡(いわゆる一票の格差)は、過去の最高裁判決等で問題視されている。制度改革では、人口変動を反映した区割り見直しとアダムズ方式の運用が検討されてきた。アダムズ方式は、各選挙区割り配分の算定法の一つである。
被選挙権年齢の引き下げ
被選挙権年齢の引き下げも、選挙改革で議論されている課題の一つである。若者の政治参加を促す観点から、18歳以上への引き下げが提案されているが、社会的合意形成と配慮が必要である。
「アダムズ方式」の運用
日本ではアダムズ方式が選挙区定数配分に関して一定の利用が認められている。これは人口比に応じて公平に割り振る方法の一つであり、格差是正に資する仕組みとして位置づけられている。
今後の見通し(2026年)
2026年通常国会では、定数削減・選挙改革を巡る激しい攻防が予想される。与党は法案成立を目指し議論を進める一方、野党は慎重な協議や公明性を求める姿勢を崩していない。
自民党幹事長は与党だけでの重大な変更に対して慎重な姿勢を示し、議論の必要性と1割削減の根拠の説明を求めるべきとの立場を示している。
解散風の影響
国会改革の議論の進展は、衆議院解散の可能性や政局の動向に影響を与える可能性がある。解散総選挙の時期が近づく中で、定数削減・選挙改革の合意形成が国政の行方を左右する重要な要素となる。
与党内でも「結論ありきの拙速な議論」との批判
与党内にも、「結論ありきの拙速な議論」との批判が存在する。手続きの透明性や与野党間の合意形成プロセスの重要性が指摘され、丁寧な議論を求める声が根強い。法案提出の手法や自動削減条項についても、民主的手続きの観点から批判が出ている。
今後の展望
日本の定数削減・選挙改革は、今後数年にわたり政治的・社会的な議論を継続する必要がある。与党・野党・市民社会・専門家の幅広い協議を通じて、民主主義の質を高める制度設計が求められている。単なる議員数の削減ではなく、民意の反映と国家制度の機能性を両立させる包括的改革への道筋が今後の重要な課題である。
まとめ
本稿では、日本における国会議員定数削減と選挙改革について、政策的・制度的・政治的な観点から論じた。衆議院定数の約1割削減という与党提案は、日本政治の主要課題となっているが、民意の反映・一票の格差是正・手続きの公正性といった多くの論点を含んでいる。今後は通常国会での議論が本格化し、解散風や政局の動向とも絡みながら、日本の選挙制度のあり方に大きな影響を与える見通しである。
参考・引用リスト
自民・維新の定数削減法案提出の経緯・批判等
選挙制度協議・衆院での議論状況
法案への市民団体の抗議
国会選挙制度の構造・改革の背景(アダムズ方式等)
被選挙権年齢引き下げの議論
過去の選挙制度改革(1994年)
追記:定数削減議論で野党が強く反発する理由
国会議員定数削減をめぐり、立憲民主党、日本共産党、社民党など主要野党が強く反発する理由は、単なる党派的利害対立にとどまらず、日本の民主主義の構造そのものに関わる問題意識に基づいている。
第一に指摘されるのは、「民意の反映機会の縮小」である。特に比例代表制は、全国的な得票に応じて議席を配分する仕組みであり、少数政党、政策志向型政党、特定の社会的少数派の声を国会に届ける役割を果たしてきた。比例代表定数の削減は、こうした多様な政治的意見の国会への流入を制限し、結果として二大政党または大政党に有利な制度構造を強化するとの懸念がある。
第二に、定数削減が「政治改革」の本質から逸脱しているという批判がある。野党側は、政治不信の根源は議員数の多寡ではなく、政治資金の不透明性、政党ガバナンスの欠如、説明責任の不足にあると主張している。定数削減を「身を切る改革」として強調する姿勢は、政治とカネの問題や制度的不正義への抜本的対応を先送りし、象徴的改革に矮小化する危険性があるとされる。
第三に、制度設計における手続き的正統性の問題がある。とりわけ、一定期間内に協議が整わない場合に自動的に定数削減を実施する「自動削減条項」は、国会による熟議と合意形成を軽視するものであり、立法府自らの権限と責任を放棄するに等しいとの批判がある。野党は、選挙制度の変更は与野党の幅広い合意と国民的議論を経て行うべきであり、拙速な決定は制度の安定性を損なうと警告している。
第四に、地域代表性の弱体化への懸念も大きい。小選挙区定数削減は、特に人口減少地域や地方部において選挙区の広域化を招き、有権者と議員の距離を拡大させる。これは地方の声が国政から遠のく結果をもたらし、中央集権的な政策決定をさらに強める可能性がある。
以上の理由から、野党は定数削減を「改革」として一括して肯定することに慎重であり、選挙制度全体の理念と整合的な議論を求めて強く反発している。
日本の国会議員数と世界の国会議員数
定数削減論において頻繁に用いられる論拠の一つが、「日本の国会議員数は国際的に見て多いのか少ないのか」という比較である。この点については、単純な議員数の比較ではなく、人口規模、二院制か一院制か、立法府の権限構造を踏まえた分析が必要である。
日本の国会議員数は、衆議院465人、参議院248人の合計713人である。人口約1億2千万人規模の国家としては、これは必ずしも突出して多い数字ではない。
主要民主主義国と比較すると、以下のような特徴が見られる。
アメリカ合衆国は、下院435人、上院100人の計535人であり、人口約3億3千万人に対して議員数は日本より少ない。ただし、州政府や地方議会の権限が極めて強く、連邦議会の役割は日本の国会とは制度的性格が異なる。
イギリスは、下院650人、上院(貴族院)は任命制で700人超とされるが、下院のみを見ても人口約6,700万人に対して議員数は日本より相対的に多い。
ドイツは、連邦議会(ブンデスターク)が比例代表制を中心とする制度の結果、近年は700人を超える規模となっており、人口約8,400万人に対して日本と同程度、もしくはそれ以上の議員数を有している。
フランスは、国民議会577人、元老院348人の計925人であり、日本より多い。
これらの比較から明らかなように、日本の国会議員数は国際的に見て特段に過大とは言い難い。むしろ、比例代表制を通じて多様な民意を反映させる国では、人口規模に応じて一定数の議員を確保する傾向が見られる。
したがって、野党や研究者の間では、「議員数の多寡」そのものよりも、「どのように議員が選ばれ、どの程度民意を反映しているか」が本質的な評価軸であるとする見解が支配的である。
一票の格差の是正に求める取り組み
一票の格差問題は、日本の選挙制度改革における最重要論点の一つであり、定数削減議論とも密接に関係している。一票の格差とは、選挙区間で有権者数に大きな差が存在し、一票の価値が平等でなくなる状態を指す。
日本では、最高裁判所が衆議院選挙に関して「違憲状態」あるいは「違憲」と判断する判決を複数回下してきた。これを受け、立法府には継続的な是正努力が求められている。
是正に向けた取り組みとして、第一に挙げられるのが選挙区割りの定期的見直しである。国勢調査の結果を踏まえ、人口変動を迅速に反映させる仕組みを制度化することが不可欠である。これにより、都市部と地方部の人口格差を一定範囲内に抑えることが可能となる。
第二に、アダムズ方式の厳格な運用が重要である。アダムズ方式は、各都道府県への議席配分を人口比例に近づける算定方法であり、恣意的な配分を抑制する効果を持つ。ただし、定数削減と同時に適用すると、少数人口県の代表性が著しく低下する可能性があるため、慎重な設計が求められる。
第三に、定数削減と格差是正を切り離して議論する姿勢が求められる。野党や多くの専門家は、一票の格差是正は憲法上の要請であり、議員数削減の政治的判断とは別次元の課題であると指摘している。格差是正を名目に定数削減を進めることは、問題のすり替えにつながるとの批判がある。
第四に、比例代表制の活用強化も一票の格差是正に資する。比例代表は全国単位またはブロック単位で票を集計するため、地域間の人口差による不平等を緩和する機能を持つ。比例代表定数を維持、あるいは拡充することは、格差是正と民意反映の双方に資するとの見解も根強い。
以上のように、一票の格差是正には、単なる数値調整ではなく、選挙制度全体の理念と整合した包括的取り組みが不可欠である。
