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焦点:暫定予算、11年ぶり編成着手”不測事態に備え”


予算審議は厳格に行うべきであるが、国家機能を停滞させるほどの対立は避ける必要がある。
高市総理(Getty Images/AFP通信)
現状(2026年3月時点)

2026年3月時点の日本政治は、予算編成と国会運営をめぐる緊張状態の中にある。高市首相率いる自民党・日本維新の会連立政権は、2026年度当初予算案の成立をめぐり、暫定予算の編成という例外的な措置を検討する局面に入っている。

通常、日本の予算は年度開始(4月1日)までに成立することが前提であるが、政治日程や国会審議の事情によって成立が間に合わない場合、政府は暫定予算を編成する。2026年の議論は、解散総選挙や参議院の勢力図、さらに国際情勢の不透明化といった複数の要因が重なり、例年とは異なる政治的判断を迫る状況となっている。

財務省関係者の間でも、通常国会冒頭で衆議院解散が行われた場合、当初予算を年度内に成立させることは極めて困難との見方が広がっていた。政府はその場合に備え、暫定予算の編成を検討せざるを得ない状況に追い込まれたとされる。


暫定予算とは

暫定予算とは、当初予算が年度開始までに成立しない場合に、政府が一定期間の歳出を可能にするため暫定的に編成する予算である。これは行政機能の停止を回避するための制度的装置であり、国家運営の継続性を確保する役割を持つ。

通常の予算とは異なり、暫定予算は必要最小限の支出のみを認める性格を持つ。具体的には公務員給与や年金などの義務的経費、既に進行中の公共事業など継続的事業に限定される。

新規政策や大型事業の開始は原則として認められず、国家の政策的意思を反映する余地は極めて小さい。したがって、暫定予算は政治的意思決定の結果というより、政治的停滞の副産物として現れる制度といえる。


高市政権(自民・維新)の決断

高市政権が暫定予算の検討に踏み切った背景には、政治日程と政策志向の双方がある。第一に、衆議院解散を含む政治判断が当初予算成立の時間的余裕を圧迫した可能性が指摘されている。

第二に、高市政権は「妥協なき予算」を掲げ、予算編成における政策優先度を明確にしようとしている。政府は成長投資、防衛力強化、エネルギー安全保障などを重視する方針を打ち出しており、その規模は過去最大級の予算となる可能性がある。

2026年度予算案は約122兆円規模とされ、日本の財政史上最大級の水準となる見通しである。こうした大型予算の審議には時間が必要であり、政治的日程との衝突が暫定予算の議論を生んだと考えられる。


暫定予算編成の背景

暫定予算の検討には複数の背景がある。第一は政治日程の問題であり、解散総選挙と予算審議が同時進行する状況が生まれたことである。

第二は高市政権の政策的方向性である。高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、成長投資や安全保障投資を拡大する方向を明確にしている。

第三は国際情勢の不安定化であり、エネルギー価格や金融市場の変動など予算前提を揺るがす要因が増えている。政府はこうした不確実性に対応するため、柔軟な予算運営を確保する必要に迫られている。


解散総選挙時期と予算編成サイクル

日本の予算編成サイクルは、概ね以下の流れで進む。夏から秋にかけて各省庁が概算要求を提出し、年末に政府が予算案を閣議決定する。

その後、通常国会で審議され、年度末までに成立するのが通常の手続きである。しかし、2026年は解散総選挙が行われたことで、このスケジュールが大きく乱れた。

衆議院選挙が2月に実施された場合、国会審議の時間は著しく短縮される。新議員の就任、委員会構成、審議日程の調整などが必要となるため、予算審議は大幅に遅れる。

このように、選挙日程と予算審議の衝突は暫定予算の典型的な発生要因である。


不透明な国際情勢と経済リスク

現在の国際情勢は極めて不安定である。米中対立、台湾海峡情勢、エネルギー価格の変動などが世界経済に影響を与えている。

さらに中東情勢の緊張は原油価格を押し上げ、世界経済の不確実性を高めている。エネルギー輸入依存度の高い日本にとって、この問題は直接的な経済リスクとなる。

こうした環境では、予算前提の経済見通しが大きく変動する可能性がある。政府が暫定予算という柔軟な手段を検討する理由の一つは、この不確実性への備えである。


参議院の勢力図と審議の難航

日本の国会制度では、予算は衆議院の優越が認められている。しかし実際の政治運営では参議院の影響力も無視できない。

参議院で与党が過半数を持たない場合、審議は長期化する可能性が高い。野党は質疑時間を最大限に利用し、政府の政策を徹底的に検証するためである。

2025年以降、参議院では野党勢力が影響力を保持しており、予算審議の難航が予想されていた。こうした政治力学も暫定予算検討の背景となった。


暫定予算の仕組みと「11年ぶり」の意味

暫定予算は日本政治において頻繁に使用される制度ではない。通常は当初予算が年度内に成立するため、暫定予算が必要となるケースは限定的である。

2026年の議論では「11年ぶり」という点が強調されている。これは2013年以来の可能性であり、日本の予算政治において比較的例外的な事態であることを示している。

この事実は、日本政治が通常の予算サイクルから逸脱するほど政治日程が複雑化していることを意味する。


法的根拠(憲法第60条、財政法第30条)

暫定予算の法的根拠は日本国憲法と財政法に存在する。憲法第60条は予算の衆議院優越を定め、衆議院の議決後30日以内に参議院が議決しない場合、衆議院の議決が国会の議決となると規定する。

一方、財政法第30条は暫定予算の編成を認めている。これは当初予算が成立しない場合でも国家の財政活動を停止させないための制度である。

この制度は行政機能の継続を担保する安全弁として位置づけられる。


支出範囲

暫定予算の支出範囲は厳格に限定される。最も重要なのは義務的経費であり、公務員給与や社会保障給付など国家が支払い義務を負う支出である。

また既存の公共事業など継続的事業も対象となる。これらは突然停止すると社会や経済に重大な影響を与えるためである。

一方で新規政策は原則として認められない。この点が暫定予算の最大の特徴であり、政治的政策決定を凍結する性格を持つ。


前回の事例(2013年)

前回の暫定予算は2013年に編成された。これは政権交代後の予算編成が遅れたためであり、政治日程の影響が大きかった。

この時も国家運営の継続を目的として暫定予算が編成され、当初予算成立までの期間をつないだ。

この事例は、日本の財政制度が政治的混乱に対応する柔軟性を持つことを示している。


高市首相の決断と「不測の事態」への備え

高市首相は暫定予算の可能性について「必要になるかもしれない」と言及している。これは政治日程や国際情勢の不確実性を踏まえた発言と解釈される。

政府は予算成立を最優先としながらも、万一に備える必要があると判断した。これは国家運営のリスク管理の一環といえる。

政治的には例外措置である暫定予算をあえて選択肢として提示すること自体が、危機管理型の政治姿勢を示している。


「妥協なき予算」の追求

高市政権は補正予算の乱発を批判し、当初予算に政策を集約する方針を掲げている。これは財政運営の透明性を高める狙いがある。

多くの専門家は、日本では補正予算が恒常化していると指摘している。経済政策の多くが補正予算に依存する構造が問題視されてきた。

当初予算中心の財政運営を目指すことは、財政規律と政策透明性の向上につながると評価されている。


危機管理の徹底

暫定予算の検討は、危機管理の一環として理解することもできる。国家運営において最も避けるべき事態は行政機能の停止である。

もし予算が成立しなければ、公務員給与や社会保障給付が支払えなくなる可能性がある。これは国家の信頼性を根本から揺るがす事態である。

その意味で暫定予算は、政治対立が激化しても国家機能を維持するための制度的保険といえる。


政治的リーダーシップの誇示

暫定予算の議論は、高市首相の政治スタイルを象徴するものでもある。高市政権は強いリーダーシップを掲げ、政策決定の主導権を首相官邸に集中させている。

経済政策においても積極財政を掲げ、成長投資を重視する姿勢を明確にしている。

一部のエコノミストはこの政策を「アベノミクスの再来」と評価している一方、財政規律の緩みを懸念する声も存在する。


リスク

暫定予算には明確なリスクも存在する。最も大きいのは政策停滞であり、新規施策が実施できなくなる点である。

また政府の政策意思が不明確になり、市場が不安定化する可能性もある。金融市場は政治的安定性を重視するためである。

暫定予算はあくまで緊急措置であり、長期化すれば経済政策の空白を生む可能性がある。


景気への冷や水

経済面でも暫定予算はマイナス要因となり得る。新規公共投資や補助金が凍結されることで、景気刺激効果が弱まるためである。

企業や自治体は政府予算を前提に事業計画を立てている。暫定予算が続けば投資判断が遅れ、経済活動に影響を与える。

このため経済界は通常、当初予算の早期成立を強く求める傾向がある。


地方自治体への影響

地方自治体も暫定予算の影響を受ける。多くの自治体事業は国の補助金や交付金に依存しているためである。

暫定予算では新規補助金が出ないため、自治体の政策事業が延期される可能性がある。

これは地方経済にも波及するため、地方からは早期予算成立を求める声が強まる可能性がある。


国会運営の激化

暫定予算の議論は国会運営をさらに激化させる可能性がある。野党は政府の政治判断を批判し、予算審議を政治争点化する可能性がある。

一方で与党は衆議院優越を背景に予算成立を急ぐ構えを見せる可能性がある。

この対立は国会の政治的緊張を高める要因となる。


米イスラエル・イラン紛争と中東危機

中東情勢も日本の予算政治に影響を与えている。米国・イスラエルとイランの対立が激化すれば、エネルギー価格が急騰する可能性がある。

日本は原油輸入の多くを中東に依存しており、エネルギー価格の変動は国内経済に直結する。

このような地政学的リスクは、政府に柔軟な財政運営を求める要因となる。


今後の展望

今後の最大の焦点は、当初予算がどの時点で成立するかである。暫定予算はあくまで一時的措置であり、長期化すれば政治的負担が増大する。

また参議院の審議動向や野党の戦略も予算成立に影響する。

さらに国際情勢の変化によっては、追加の補正予算や政策修正が必要になる可能性もある。


まとめ

2026年の暫定予算議論は、日本政治における複数の要因が交差した結果である。解散総選挙、参議院の勢力図、国際情勢の不透明化などが重なり、通常の予算編成サイクルが揺らいだ。

暫定予算は国家機能を維持するための制度的安全装置であるが、政策停滞や経済影響といったリスクも伴う。

高市首相の判断は、危機管理と政治的リーダーシップの双方を示すものと評価できる一方、今後の国会運営と経済政策に大きな影響を与える可能性を持つ。


参考・引用リスト

  • 朝日新聞「予算案の年度内成立、解散なら困難に 11年ぶり暫定予算で対応か」
  • 山陰中央新報「首相、暫定予算編成の可能性に言及」
  • The Japan Times「Takaichi’s Cabinet proposes record spending in next fiscal year」
  • ニッセイ基礎研究所 斎藤太郎「高市新政権の真価が問われるのは来年度当初予算」
  • Reuters「高市政権と積極財政を巡る経済政策分析」
  • 日本国憲法第60条
  • 財政法第30条

追記:政治的空白を許さないための現実的選択

暫定予算の編成は政治的失敗の結果として語られることが多いが、実際には国家運営の継続を最優先する現実的選択である。予算が成立しないまま新年度を迎えれば、行政活動は法的根拠を失い、国家機能そのものが停止する危険がある。

特に社会保障給付、公務員給与、防衛費、地方交付税などは一日たりとも停止が許されない支出である。したがって暫定予算は政治対立を乗り越えるための妥協ではなく、政治的空白を許さないための制度的安全装置として理解する必要がある。

財政制度論の観点から見れば、暫定予算は「最小限国家運営モデル」とも呼ぶべき性格を持つ。政策的意思を凍結しつつも国家機能だけは維持するという構造は、民主政治における危機対応メカニズムの典型である。

今回の検討も同様であり、解散総選挙後の政治日程と参議院の勢力構成を踏まえれば、暫定予算の選択はむしろ合理的判断である。政治的に理想的でなくとも、制度的に最も安全な手段が選ばれたと評価できる。


暫定予算の審議そのものが野党の追及の場となる可能性

暫定予算は本来、審議を簡略化し迅速に成立させるための制度である。しかし現実の国会運営では、その審議自体が政治闘争の場となる可能性が高い。

野党にとって暫定予算は、政府の政治判断を批判する格好の材料となる。なぜ当初予算を成立させられなかったのか、解散のタイミングは適切だったのか、政策優先順位は妥当なのかといった論点が浮上するためである。

さらに暫定予算は支出範囲が限定されるため、逆に細部の説明責任が強く求められる。どの経費を含め、どの経費を除外するのかという判断は政治的意味を持つため、審議は容易に長期化する。

参議院で与党が過半数を持たない現在、野党は質疑時間を最大限に利用し、政府の政策を徹底的に検証する戦略を取る可能性が高い。結果として暫定予算の審議そのものが政治対立の舞台となり、当初予算成立をさらに遅らせる逆説的状況も起こり得る。

この点は制度設計上の弱点であり、暫定予算は危機回避装置であると同時に政治対立を可視化する装置でもあるといえる。


与野党が一致団結して世界規模の危機に対処すべき状況

2026年の予算議論が特に重い意味を持つのは、国際情勢が極めて不安定な局面にあるためである。中東情勢の緊張は原油価格の急騰を招き、世界経済に深刻な影響を与える可能性がある。

米国とイランの対立が本格的な戦争に発展した場合、ホルムズ海峡の完全封鎖という最悪のシナリオも現実味を帯びる。日本は原油輸入の大部分を中東地域に依存しており、この海峡の航行が阻害されればエネルギー供給は直ちに危機に陥る。

このような状況では、予算審議を政争の具とする余裕は本来存在しない。防衛、エネルギー、外交、経済対策など国家安全保障に直結する分野では、与野党が協力する必要がある。

危機対応において政治的対立を優先すれば、国家の意思決定が遅れ、その代償は国民生活に直接及ぶ。暫定予算の議論は単なる財政問題ではなく、国家の危機管理能力を問う問題でもある。


米イラン紛争とホルムズ海峡封鎖の現実性

ホルムズ海峡は世界の原油輸送の要衝であり、日本の輸入原油の約8割がこの海峡を通過するとされる。ここが封鎖されれば、日本経済への影響は極めて大きい。

過去の石油危機の経験からも明らかなように、エネルギー価格の急騰は物価上昇と景気後退を同時に引き起こす。政府は緊急対策として補助金や備蓄放出などを実施する必要があるが、そのためには予算の裏付けが不可欠である。

暫定予算が長期化すれば、新たな経済対策を迅速に実施することが難しくなる。したがって予算の早期成立は、単に財政手続きの問題ではなく国家安全保障の問題でもある。

この点において、与野党の対立が長期化することは国益を損なう可能性がある。政治の責任は、対立を維持することではなく危機を回避することにある。


言い争いをしている場合ではない

議会政治において論争は不可欠であるが、危機状況では優先順位が変わる。国家の存立や国民生活に直結する問題では、政治的主張よりも実務的対応が求められる。

暫定予算の議論が長期化すれば、行政は必要最小限の支出しか行えず、経済対策や安全保障政策の機動性が低下する。これは不確実性の高い国際環境の下では致命的となり得る。

また金融市場は政治の安定性を重視するため、予算成立の遅れは国債市場や為替市場に影響を与える可能性がある。政治対立の激化は経済リスクを増幅させる要因となる。

したがって現在の状況では、与野党ともに責任ある態度が求められる。予算審議は厳格に行うべきであるが、国家機能を停滞させるほどの対立は避ける必要がある。


暫定予算と政治責任

暫定予算を巡る議論は、単に制度の問題ではなく政治責任の問題でもある。与党には予算成立を実現する責任があり、野党には政府を監視しつつ国家運営を停滞させない責任がある。

民主政治において対立と協力は常に併存するが、危機状況では協力の比重が大きくなる。特に外交・安全保障・エネルギーの分野では、国内の政治対立がそのまま国家の弱点となる。

暫定予算という例外的措置が議論されていること自体、政治が通常の状態にないことを示している。だからこそ、制度の運用においては最大限の責任感が求められる。


危機下における議会政治のあり方

歴史的に見ても、重大な国際危機の局面では与野党協力が行われることが多い。安全保障や経済危機への対応では、迅速な意思決定が不可欠であるためである。

日本でも過去の金融危機や災害時には、超党派で法案を成立させた例がある。こうした経験は、議会政治が危機に対応する柔軟性を持つことを示している。

現在の国際環境は、冷戦後でも最も不安定な水準に近づいていると指摘される。こうした状況では、暫定予算をめぐる対立を過度に政治化することは得策ではない。


追記まとめ

今回の暫定予算検討は、政治日程の問題だけでなく国際情勢の不確実性と深く結びついている。政治的空白を回避するための現実的選択として理解する必要がある。

しかし同時に、暫定予算の審議は野党の追及の場となりやすく、国会運営をさらに難しくする可能性もある。制度が危機回避のために存在する一方で、政治対立の舞台にもなるという矛盾がある。

米イラン紛争やホルムズ海峡封鎖のような世界規模の危機が現実味を帯びる中、予算審議をめぐる過度な対立は国益を損なう可能性がある。与野党が一致団結し、国家機能を維持することこそが最も重要な課題である。


「現実的選択」としての暫定予算 ― その真意

暫定予算は形式上は例外的措置であるが、政治実務の観点から見れば極めて現実的な選択である。予算が成立しない状況においても国家運営を継続しなければならないという原則がある以上、暫定予算は制度的に不可欠な安全弁として存在している。

今回の検討も、政治的理想を追求した結果ではなく、政治日程・参議院勢力・国際情勢という複数の制約条件の下で最も合理的な手段を選択した結果といえる。政府が暫定予算を選択肢として提示したこと自体、国家機能を停止させないという強い意思の表れと解釈できる。

重要なのは、暫定予算が政策的後退を意味するわけではない点である。むしろ当初予算の内容を維持したまま成立時期を遅らせるための技術的手段であり、「妥協」ではなく「時間を確保するための制度」として理解すべきである。

したがって暫定予算は政治的弱さの象徴ではなく、制度を冷静に運用する能力の表れとも評価できる。危機管理型の政治においては、理想よりも現実を優先する判断が求められる。


暫定予算が示す政治判断の本質

暫定予算を選択するということは、政治が短期的な批判を受け入れてでも長期的な安定を優先するという判断を意味する。予算成立の遅れは政治責任を問われやすいが、それでも国家運営の継続を確保することが最優先となる。

特に解散総選挙後の国会では、議員構成の変更や委員会編成の遅れなどにより審議時間が不足する。こうした状況で無理に当初予算成立を急げば、審議の質が低下する可能性がある。

暫定予算を用いることで審議時間を確保し、最終的に完成度の高い当初予算を成立させるという選択は、制度運用として合理性がある。短期的な政治評価よりも制度の安定を優先する判断がここにある。

この意味で暫定予算は、政治の成熟度を示す試金石ともいえる。危機時に制度を柔軟に運用できるかどうかが問われている。


政治に求められる「一致団結」

現在の国際環境を踏まえれば、国内政治の対立を過度に先鋭化させることは国益に反する可能性がある。中東情勢の緊張、エネルギー供給リスク、金融市場の不安定化など、外部環境は極めて厳しい。

こうした状況では、予算審議を政争の具とする余裕は本来存在しない。国家安全保障や経済安定に関わる問題では、与野党が最低限の共通認識を持つことが必要である。

一致団結とは意見の違いをなくすことではなく、国家の存立に関わる問題では対立を抑制することである。民主政治において対立は不可欠であるが、危機状況では優先順位が変わる。

暫定予算を巡る議論は、この優先順位をどこに置くかという政治判断を突き付けている。


問われる「危機下の国会」

危機状況における国会の役割は、平時とは異なる。平時の国会は政策論争の場であり、政府を厳しく監視することが重要である。

しかし有事に近い状況では、迅速な意思決定と国家機能の維持が優先される。審議を尽くすことと、決定を遅らせないことのバランスが求められる。

暫定予算の議論が長期化すれば、行政は最小限の支出しかできず、外交・防衛・経済対策の機動性が低下する。これは危機下において重大な弱点となる。

したがって現在の国会には、対立を維持しながらも国家運営を止めないという高度な政治技術が求められている。


平時の「対立」から有事の「連帯」へ

議会政治は本来、対立を通じて政策を磨く仕組みである。与党と野党が競い合うことで、政策の質が高まると考えられている。

しかし国際危機が深刻化した場合、この対立構造はそのままでは機能しない。意思決定の遅れが国家の安全を損なう可能性があるためである。

そのため多くの民主国家では、有事に近い状況では超党派協力が行われる。安全保障や経済危機への対応では、党派対立よりも国家全体の利益が優先される。

今回の暫定予算議論も、平時型の政治から有事型の政治へ移行できるかどうかを試す局面といえる。


「連帯」を阻む国内政治の構造

もっとも、日本の議会制度は対立を前提として設計されている。特に参議院で与党が過半数を持たない場合、野党は審議を通じて政府を追及するインセンティブを持つ。

また選挙を控えた状況では、与野党ともに支持層へのアピールを優先しやすい。結果として協力より対立が選択される傾向が強まる。

この構造的要因があるため、危機状況でも連帯が容易に実現するとは限らない。暫定予算の審議が政治闘争の場となる可能性は依然として高い。

したがって現在の政治状況は、制度上の制約と危機対応の必要性が衝突する典型例といえる。


危機下で問われる政治の成熟度

危機状況では、政治家の発言や行動が国家の信頼性に直結する。予算審議の混乱は市場の不安を招き、為替や国債市場に影響を与える可能性がある。

特にエネルギー危機や軍事衝突の懸念がある場合、国内政治の不安定は国際的にも注視される。政治が分裂していると見られれば、外交交渉にも影響が及ぶ。

このため危機時には、政治の成熟度が強く問われる。対立を維持しながらも国家の基本機能を守れるかどうかが重要となる。

暫定予算の議論は、その成熟度を試す場となっている。


暫定予算を巡る議論が示す歴史的局面

今回の暫定予算検討は単なる財政技術の問題ではない。国内政治と国際危機が同時に進行する中で、議会政治のあり方が問われている。

政治的空白を避けるための現実的選択として暫定予算を用いるのか、それとも対立を優先して審議を長期化させるのか。この選択は国家の方向性に影響する。

平時の政治では対立が活力となるが、危機の時代には連帯が安定を生む。現在の国会は、その転換点に立っているといえる。


最後に

暫定予算は例外的措置であるが、国家運営を止めないための最も現実的な選択である。その真意は、政治的妥協ではなく制度的安定を優先する判断にある。

現在の国際情勢を踏まえれば、政治には一致団結が求められる。暫定予算をめぐる議論は、危機下の国会がどのように機能するかを示す試金石となっている。

平時の対立から有事の連帯へと移行できるかどうか。日本の議会政治は今、その能力を厳しく問われている。

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