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コラム:年末年始の空き巣被害を防ぐ、SNSに注意

年末年始の空き巣被害を防ぐためには、帰省・旅行による「不在」をいかに悟らせないかという視点から、照明、配達物対策、SNS発信の制限、近隣連携などを含めた包括的な対策が必要である。
空き巣のイメージ(Getty Images)
1. 日本の現状(2025年12月時点)

日本における侵入犯罪(空き巣・忍込み・居空きなどを含む侵入窃盗)は、2000年代初頭のピークから長期的に減少傾向にあるものの、依然として一定数の認知件数を記録している。警察庁の統計によると、令和6年(2024~2025年期)の侵入犯罪全体の認知件数及び住居侵入を含む住宅対象侵入窃盗は5万件台前後であり、前年比では若干の減少傾向が確認されているものの、住宅における侵入犯罪は発生件数として無視できない水準で推移していることが示されている。

住宅侵入窃盗の発生場所・手口についても詳細な統計資料が公開されており、戸建住宅や共同住宅においてピッキング・無締り侵入などの手法が用いられている事例が散見される。

日本全国で集計された空き巣犯罪データは月別にばらつきがあるが、特に秋季(10月)に認知件数が高くなる傾向が長年の統計で示されている。年末年始に限ったデータは統計的に必ずしも突出しているわけではないが、年末年始は帰省や旅行による長期不在の増加があり、社会的な防犯意識の低下や留守が目立つ点でリスクが高まるとの警察・防犯専門家の指摘がある。

一方で、住宅侵入犯罪全体としては長期的な減少傾向が続いている背景にはホームセキュリティシステムの普及、各種防犯機器の導入、地域防犯活動の活発化などが寄与していると考えられている。

2. 空き巣とは

「空き巣」とは、住宅において住人が不在の状態を狙って侵入し、財物を窃取する侵入窃盗犯の一形態である。具体的には寝静まった夜間ではなく、日中など住人不在の時間帯を狙う場合が多く、無締り(鍵のかかっていない状態)や容易に侵入可能な弱点をターゲットにすることが多い。

空き巣の侵入口は無締りの扉・窓からの侵入が多く、鍵破り・ピッキングなどの手口も用いられる。統計資料によると、住宅侵入窃盗において窓や扉からの侵入が中心となっている。空き巣は「住人が不在」という情報を最も重視し、他の侵入者と比べても人目につかない時間・機会を狙う点が特徴である。

3. 年末年始に空き巣被害が増加する主な理由

3-1. 長期不在による「留守」の増加

年末年始は多くの人が帰省や旅行などで自宅を長期間不在にする機会が増える。これは日常生活における「ルーティーン・アクティビティ理論(Routine Activity Theory)」で説明されるように、看視者(Guardianship)が空白になり、動機(Motivated Offenders)、ターゲット(Suitable Target)、看視者欠如(Absence of Guardianship)の三条件が重なりやすい時期である。空き巣犯は不在が長い家を優先して狙う傾向があり、SNSなどで不在情報が発信されることで情報が増幅するリスクがある。

3-2. 多額の現金の保有

年末年始は年末調整の還付や年始の慶事に伴う現金の保有が多くなる。また帰省先との往復に使用する金銭が自宅に保管されやすい。これらはターゲットとしての魅力を高める要因となる可能性がある。

3-3. 周囲の慌ただしさと無関心

年末年始は社会全体における活動が慌ただしく、近隣住民も帰省や旅行に出ることが多い。その結果、地域内での相互監視(Neighbourhood Watch)が弱まり、異常な人物や物音に気付きにくくなる。また、慌ただしさに紛れて空き巣犯が行動を起こしやすい環境になりうる。

3-4. 防犯意識の低下

祝祭期間中は防犯意識が低下しがちである。年末年始気分による油断や、普段の生活習慣の変化に伴い、施錠忘れや防犯機器の設定忘れが増えるという指摘がある。また、帰省・旅行前に防犯対策を後回しにしがちな点もリスクを増やす要因である。

4. 帰省や旅行で家を空ける際に必要なポイント

年末年始に家を空ける場合、空き巣被害を防止するためには複数の観点から対策を講じる必要がある。

4-1. 留守であることを悟らせない

留守であることを悟らせないことが最も重要である。新聞や郵便物が溜まっていると不在のサインになり、空き巣に狙われる可能性が高まるため、配達停止、知人への回収依頼、宅配ボックス活用などを事前に行う。

4-2. 照明の工夫

室内外の照明をタイマーで自動点灯させることで、在宅のような状態を演出することが有効である。また、センサーライトを玄関や庭先に設置することで侵入者に気付かれるリスクを高め、侵入を躊躇わせる効果がある。照明による防犯は視認性を高め、侵入者の「見られるリスク」を増加させる防止策である。

4-3. 配達物の管理

長期不在時は宅配荷物が溜まりやすいが、これも不在を知らせるサインとなる。荷物は宅配ボックスや近隣預かりサービスを活用し、玄関前に荷物を置きっぱなしにしないことが重要である。

4-4. SNS発信の制限

不在情報をSNSで公開することは空き巣犯にとって有用な情報になる可能性がある。年末年始の旅行中のリアルタイム投稿は避け、不在中の様子を投稿しない、時差投稿を行うなどの工夫をすることが効果的である。

5. 侵入しにくい環境(防犯4原則)を整える

犯罪学の「状況的犯罪防止(Situational Crime Prevention)」理論に基づき、環境自体を侵入しにくくすることが重要である。これは防犯4原則とも呼ばれる「見せる・しにくくする・気付かせる・即対応」の観点から対策を組み合わせることを意味する。

5-1. 補助錠の設置

主要な扉に補助錠を追加することで、侵入までの時間を稼ぎ、侵入を断念させる可能性を高める。いわゆる「ワンドア・ツーロック(二重施錠)」は基本的かつ重要な施策である。

5-2. 防犯砂利とセンサーライト

玄関や通路に防犯砂利(歩くと音がする砂利)を敷設し、足音から異常を察知しやすくする。また動体検知センサーライトは夜間の侵入試行を警告的に抑止する役割を果たす。

5-3. 窓の強化

窓からの侵入は多く、補助鍵・防犯フィルム・格子などを設置することで侵入の困難度を高めることができる。また、窓ガラス破りのリスクを下げるための強化策も有効である。

6. 基本の徹底

6-1. 確実な施錠

外出・就寝時には必ず全ての扉・窓を確実に施錠する。無締りは侵入者にとって最も好ましい機会であり、ピッキング等の手口以上に「鍵の閉め忘れ」が被害を増やす要因になっている。

6-2. カメラ付きインターホンの活用

録画機能付きのカメラインターホンは訪問者を撮影できるだけでなく、設置が侵入者にとっての抑止力にもなる。特に不在時の不審者訪問を記録し、近隣住民と共有することで地域防犯意識全体を高められる。

6-3. 近所との連携

近隣とのコミュニケーションを強化し、異常な人物や不審な物音を互いに報告しあう文化を形成することが効果的である。また帰省・旅行時に近隣に見回りを依頼することも有効である。

7. 最も効果的な対策は「侵入に5分以上の時間をかけさせること」

日本の防犯調査では、空き巣犯の多くが侵入から実際の侵入・探索を完了するまでに短時間を要する傾向にあるとされる調査結果がある。ある大規模調査では、侵入犯罪で約3割が5分以内に侵入に成功している一方で、侵入までの時間が長くなるほど侵入者はターゲットを断念する傾向があると報告されている。

一般的に空き巣犯は機会犯罪的な傾向があり、侵入に5分以上の時間をかけさせることで約7割が断念し、10分以上かかるとほとんどが侵入を断念するという防犯関連の指標がある。この時間的抑止効果は、警察の到着や近隣住民との接触リスクが増すという認識が犯罪者内にあるためである。


結論

年末年始の空き巣被害を防ぐためには、帰省・旅行による「不在」をいかに悟らせないかという視点から、照明、配達物対策、SNS発信の制限、近隣連携などを含めた包括的な対策が必要である。また防犯4原則に基づき、侵入困難な住環境づくりと時間的抑止を重視した施策(補助錠、照明、カメラなど)を組み合わせることが効果的な防御策となる。統計的にも侵入犯罪は長期的には減少傾向にあるものの、一定数の被害が継続して発生しているため、個々人の防犯意識・準備が重要である。


参考・引用リスト(主要資料)

  1. 警察庁『令和6年の犯罪情勢』(侵入犯罪統計)

  2. ALSOK「侵入窃盗の傾向と防犯対策」

  3. 毎日新聞「10月は空き巣が多い」

  4. 防犯調査における侵入時間の研究

  5. 防犯専門メディア・YouTube報道(年末年始空き巣注意)

  6. 海外の防犯研究(照明と窓・ドアロックの効果)


追記:空き巣とSNSの関係性

1. はじめに

近年、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は人々の日常生活や情報発信に欠かせないツールとなった。一方で、SNSに投稿される情報は必ずしも本人の友人・知人だけに留まらず、不特定多数が閲覧可能なケースもある。この性質はポジティブなコミュニケーション機会を提供する一方で、空き巣犯罪者にとって危険な情報源となりうるという側面が指摘されている。以下では空き巣とSNSの関係性を、多角的に整理する。

2. SNSがもたらす情報拡散の特性

SNSはユーザーの位置情報、行動計画、リアルタイムの写真や動画、ライフスタイルを世界中に瞬時に伝えるメディアである。投稿されたコンテンツは公開設定によっては第三者にも容易に閲覧可能であり、投稿者の生活パターンや不在時期を推測できる要素が含まれやすい。

例えば「旅行中」「帰省」「仕事で不在」などの投稿は見方によっては留守であることを自ら周知していると言える。また、投稿写真により自宅の外観や周囲環境、家の構造、車両情報など犯罪者にとって有用な情報が含まれる可能性もある。

3. 空き巣犯の視点から見たSNS情報

年末年始は帰省・旅行が重なる時期であり、特に以下のような情報がSNS上に投稿される傾向にある:

  • 旅行中のリアルタイム写真(例:「今○○に来ている」)

  • 休暇開始・終了予定の投稿

  • 位置情報付きの投稿

  • 実家・親戚訪問の報告

これらは友人・知人とのコミュニケーションとしては自然な投稿であるが、犯罪者がこれらの投稿から得られる情報には次のようなリスクがある。

3-1. 不在期間の推定

SNSの投稿から「いつからいつまで不在か」を推定できれば、空き巣犯はその期間に狙いを定めることが可能となる。複数投稿をつなぎ合わせれば不在の可能性はより確実に推測される。また、SNSでの友人とのやり取りで「帰省する」とコメントする行為も留守情報として収集されうる。

3-2. 自宅情報の取得

SNSに掲載された写真に自宅が写っている場合、住宅の外観(玄関・窓・周囲環境など)から防犯上の弱点を探られる可能性がある。例えば、玄関付近の装飾、フェンスの高さ、死角などの情報は侵入経路を考える際に用いられることがある。また、投稿では意図せず車両ナンバーや自宅周辺の地理情報が写り込む場合もあり、防犯上のリスクとなる。

3-3. 日常リズムの推測

SNS活動はユーザーの日常リズムの一部を反映する。投稿時間帯、頻度、場所の変化などから「日中は不在が多い」「夜間は留守である可能性が高い」などと推測されることがあり、空き巣犯はこれらの情報を犯罪計画に利用する。

4. SNS投稿が誘発する犯罪リスクの心理的側面

SNS投稿がもたらす不在情報は、犯罪者の意思決定プロセスに直接的に影響する。犯罪者はリスクとリターンを短時間で見積もり、ターゲットを選定するとされる。この判断基準において、在宅の可能性が低い状況は「低リスク・高リターン」と評価されやすい。

リアルタイム投稿によって「今ここにいる」という情報が第三者にも伝わると、不在が確定的になりやすい。このような情報はSNSのアルゴリズムによって友人外のユーザーにも表示されやすく、意図せず拡散されるリスクを孕む。また、SNSの位置情報機能を有効にしていると、自宅所在地に関する情報が投稿と紐づく可能性がある。

5. SNS運用上の防犯対策

空き巣防犯の観点からSNS運用を考える場合、以下のような注意点が推奨される。

5-1. 不在情報の非公開

帰省・旅行中のリアルタイム投稿は避けるべきである。投稿する場合でも、不在時期が確定するような情報(日時・場所・移動手段など)は伏せるか、公開範囲を限定する。

5-2. 過度な位置情報の利用を控える

位置情報サービスやタグ付けは便利であるが、自宅の位置を特定されるリスクがあるため注意が必要である。投稿に位置情報を付ける場合は、自宅周辺を指すタグを避けることが望ましい。

5-3. プライバシー設定の強化

SNSのプライバシー設定を限定公開に設定し、投稿内容が第三者に見られないようにする。友人のみ閲覧可能な設定に切り替えることが、リスク低減に繋がる。

5-4. 不在中の他人投稿への配慮

自宅の訪問者や家族が不在中に投稿する場合も注意が必要である。例えば「◯◯宅でパーティー中」など家の内部情報が分かる投稿は、第三者に留守を知らせる可能性があるため、配慮する。

6. 防犯とSNSの共存

SNSが持つ情報伝達力と日常生活の共有というメリットを完全に否定することは現実的ではない。ただし、防犯上のリスクを十分理解し、SNS投稿行動を計画的に見直すことは可能である。例えば帰宅後や旅行終了後に投稿する「振り返り投稿」に切り替えることや、不在情報を投稿しないというルールを個人的に設けることでリスクを低減させることができる。

また、SNS投稿と連動した防犯アクションとして、警備システムと連携した自動投稿制限や、不在時に自動返信で「投稿を控える」設定が可能なアプリケーションやツールも存在する。このようなツール活用もSNS運用戦略として有効である。

7. 結論

SNSは日常生活を豊かにし情報共有を促進する一方で、犯罪者にとっての情報源になりうる側面を持つ。そのため、空き巣防犯の観点からは、SNSへの投稿内容・タイミング・プライバシー設定などを意識した運用が重要である。年末年始など長期不在が発生しやすい時期には、SNS投稿による不在情報の発信を最小限に抑える、自宅情報を含む投稿を控える、防犯意識を複数人で共有するなど、SNSと防犯の両立を図る行動が求められる

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