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コラム:血栓を作らない!脳活性化で寝たきり予防

血栓を作らない生活習慣は、循環器系病態予防と脳機能維持の双方に寄与し、寝たきり予防に直結する。
ジョギングのイメージ(Getty Images)
現状(2026年2月時点)

日本は世界有数の高齢化社会を迎えている。高齢化は平均寿命の延伸とともに進行してきたが、いわゆる健康寿命と平均寿命の差、すなわち「健康で日常生活に制限なく生きられる期間」の短さが大きな社会的課題となっている。たとえば健康寿命と平均寿命の差は男性で約8〜10年、女性で約10〜12年程度と報告されており、日常生活に制限のある期間がかなり存在している現状であるとされる。さらに寝たきり(要介護状態)になる主因の一つに脳卒中があると指摘されており、65歳以上の介護が必要となった方の3分の1以上が脳卒中を主因とするという分析も報告されている。寝たきり状態は本人のQOL(生活の質)を著しく低下させるだけでなく、介護負担や医療費増加など社会的コストをも増大させる。こうした背景から、脳卒中予防と血栓形成予防、さらに脳機能の維持・脳活性化が健康長寿と寝たきり予防に極めて重要であるという認識が強まっている。


血栓とは

血栓(thrombus)は血管の内部に血液の塊が形成され、血流の正常な流れを阻害する状態を指す。医学的には、血液の凝集成分である血小板・凝固因子・フィブリンなどが集積し血管内で固まったものを血栓と呼ぶ。正常な止血反応では傷害部位に血栓が形成されることは生命維持に必要であるが、傷害がない場所や過剰に血栓が形成されると、血流が阻害され重大な疾患を引き起こす。動脈内に血栓ができると脳梗塞や心筋梗塞、静脈内であれば深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症といった重篤な病態を引き起こす。

血栓形成の素因は、一般にVirchowの三要因と呼ばれる「血流の停滞」「血管壁の異常」「血液が過度に凝固傾向になる状態(高凝固性)」で説明され、これらが重なると血栓リスクが上昇する。血流の滞りは長時間の座位や寝たきり状態、運動不足などで生じ、血管壁の異常は動脈硬化や慢性炎症で進行しやすい。高凝固性は遺伝的素因のほか肥満・喫煙・糖尿病・高脂血症など生活習慣病に関連する。

脳血管疾患のうち脳梗塞は血栓が引き金となり発症することが多く、脳血管内部の狭窄した部分に血栓が付着し血流が途絶してしまうタイプ(アテローム血栓性脳梗塞)や、心臓内で形成された血栓が血流に乗って脳に飛んで詰まるタイプ(塞栓症)などが存在する。これらはいずれも血栓形成予防の重要性を示すものである。


健康長寿を実現し寝たきりを防ぐ(総論)

健康長寿を実現し寝たきりを防ぐためには、循環血管系の健康維持と脳機能の活性化という二つの側面から総合的にアプローチする必要がある。循環器系の健康維持は血栓形成予防、動脈硬化予防、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の管理を含む。脳機能の活性化は認知機能の維持、脳血流改善、神経ネットワークの強化を目的とする。これら両面は密接に関連しており、血栓形成を予防する生活習慣は同時に脳機能維持にも好影響を与える。


血栓を作らない(血管ケア)

血栓形成予防対策は、特定の薬物治療だけに依存するのではなく、日常的な生活習慣の改善が中心となる。特に適切な栄養摂取、適度な運動、十分な水分補給、体重管理、禁煙・節酒といった行動が推奨される。生活習慣病が血栓形成リスクを高めることは多数の疫学研究で示されており、これらを改善することが血栓予防の基本である。


水分補給

水分は血液粘度と密接に関係している。脱水状態になると血液が濃縮し、血液粘度が亢進することで血流が悪化し血栓形成リスクが高まる。観察研究では水分摂取量が十分な成人は脳卒中リスクが低いという関連が報告されており、適切な水分補給が循環器系健康の一翼を担う可能性が示唆されている。

実際に臨床現場でも、長時間座位や運動不足状態にある高齢者にはこまめな水分摂取とトイレや立位を促す生活リズムが血栓予防につながるとされる。水分補給は単に喉の渇きを満たすだけでなく、血液の流動性を保つ重要な習慣である。


食生活の改善

食生活は血栓形成リスクおよび脳機能維持に密接に関連する。脳血管疾患予防の観点からは塩分過多の制限、野菜・果物・魚中心のバランスの良い食事が基本であるとされる。塩分制限は高血圧の予防・改善に寄与し、高血圧は動脈硬化や脳卒中リスクを高める主要因である。過剰なエネルギー摂取や内臓脂肪蓄積はメタボリックシンドロームを助長し、動脈硬化・血栓形成の素因となる。

現代の食事指針では、植物性食品中心の食事、全粒穀物や食物繊維摂取の増加、飽和脂肪酸の削減が長期的に循環器健康を促進することが支持されている。また、抗酸化物質や多価不飽和脂肪酸(例:オメガ-3)が血管内皮機能改善に寄与する可能性が研究で示されており、これらを含む食生活は血栓予防や脳の健康維持に寄与する。


血液サラサラ成分

血液を「サラサラ」にする成分として、オメガ-3脂肪酸(魚油)やポリフェノール、にんにく成分、茶ポリフェノールなどが研究対象となっている。いくつかの臨床試験では、これらの成分が血小板凝集抑制や血管内皮改善作用に寄与する可能性が示唆されており、食事としての摂取から血栓予防効果が得られる可能性が報告されている。ただし、食事成分単体で血栓予防を保証するものではなく、総合的な生活習慣改善の一部として位置づける必要がある。


減塩と節酒

高血圧は脳卒中リスクを高める主要因であり、減塩は国際的なガイドラインでも推奨されている。塩分摂取を適正化することにより血圧管理が改善し、動脈硬化進行を抑えることができる。また、過度の飲酒は血圧上昇・心房細動発症リスク増加・血栓傾向を助長する可能性があり、節酒は循環器病予防に寄与する。


下肢を動かす

身体活動は血流改善と血栓予防に極めて有効である。疫学研究では、週当たり150分以上の中等度有酸素運動が脳卒中リスクの低減と関連しており、運動不足や長時間座位・臥位は血栓形成リスクを高めると示されている。

特にふくらはぎ筋群の運動(下肢ポンプ作用)は静脈血流を促進し、深部静脈血栓症(DVT)の予防に有効であるとされる。日常的な散歩や立位での足踏み、階段昇降などの軽度運動を組み込むことが生活習慣病リスク低減・血栓予防に寄与する。


脳の活性化(認知機能の維持)

高齢化社会において認知機能の維持と脳の活性化は寝たきり予防と重なる重要課題である。認知機能は年齢とともに緩やかに低下するが、生活習慣や活動によってその進行を遅らせることが可能であるというエビデンスが蓄積されている。

脳機能維持には運動・知的活動・社会交流・デュアルタスク(二重課題)などが関連する。これらは脳血流の促進、神経可塑性の強化、神経ネットワークの維持など複数機構からその効果を発揮すると考えられている。


有酸素運動

有酸素運動は循環系と脳機能の双方に好影響を与える。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどは動脈内皮細胞から一酸化窒素(NO)分泌を促し、血管拡張・血流改善に寄与することが報告されている。さらに、有酸素運動は脳内血流量増加・海馬体積保護など脳の健康に寄与する可能性が示唆されている。


デュアルタスク(二重課題)

認知モードと身体運動を同時に行うデュアルタスクは、高齢者の認知機能維持に効果があるとする研究も存在する。この種の課題は注意分割・作業記憶・抑制制御など複数の認知領域の活性化を誘発し、日常生活機能の維持に役立つ可能性がある。


知的刺激と交流

楽器演奏や外国語学習など新しい技能習得は脳の可塑性を刺激する。社会的交流や趣味活動への参加も認知機能低下を遅延させる効果が複数報告されている。社会的孤立は認知機能低下リスクを高める要因とされるため、人と接する機会を持つことは脳の活性化に寄与する。


寝たきり予防へのつなげ方

寝たきり予防は単一要素では実現されない。血栓予防・循環器系の健康管理と脳機能の活性化・社会的参加・身体活動の維持を統合的に実践する必要がある。個人レベルでは生活習慣改善計画の策定と継続、定期的健康診断の受診、異常値の迅速な管理が基本である。臨床現場・地域保健レベルでは健康教育と住民参加型プログラムを実施することが推奨される。


自律神経を整える

自律神経のバランスは循環器系と精神的健康に密接に関連する。ストレス管理・十分な睡眠・規則正しい生活リズムは自律神経調整に寄与し、血圧・血流の安定化を通じて血栓形成リスクを低減し、精神状態の安定は脳機能の維持につながる。


定期的な検診

血栓リスクを評価するには血圧・脂質・血糖・肥満度・心電図(心房細動検査)など定期的な検診が重要である。特に高齢者や生活習慣病患者は適切なリスク管理を専門医と行うことが重要であり、必要に応じて専門的な検査・治療を受けるべきである。


今後の展望

今後の研究は、より個別化されたリスク評価モデル・遺伝的素因と生活習慣の相互作用の解明・血栓リスク低減に効果的な栄養素や運動プログラムの確立などに向かうと予測される。また、デジタルヘルス技術による健康行動促進・遠隔モニタリングは高齢者の生活習慣改善の実装を加速する可能性がある。


まとめ

血栓を作らない生活習慣は、循環器系病態予防と脳機能維持の双方に寄与し、寝たきり予防に直結する。具体的には適度な運動、適切な水分補給、バランスの良い食生活、減塩・節酒、知的活動、社会参加、自律神経調整、定期検診などを日常に組み込み、生活習慣病の管理と脳活性化を実践することが重要である。これらの総合的な取り組みは、健康長寿の延伸と寝たきり予防に向けた実践的戦略となる。


参考・引用リスト

  1. 健康長寿ネット「脳血管疾患予防のための食事と生活改善」, 2024年更新.

  2. 健康長寿ネット「脳梗塞の基礎知識」, 2019年更新.

  3. 京都大原記念病院「脳卒中予防と健康寿命」.

  4. 健康長寿ネット「認知症の予防」.

  5. JSTH「血栓症ガイドブック」.

  6. StatPearls / NCBI「Thrombosis」.

  7. NLM MedlinePlus「Blood Clots」.
  8. Epidemiological research on physical activity and stroke risk.

  9. Frontiers in Physiology “Exercise and arterial thrombosis risk”.


追記:日本人と血栓の関係

日本人と血栓症の関係は、遺伝的要因・生活習慣・社会構造の変化という三つの観点から整理できる。従来、日本人は欧米人と比較して動脈硬化性疾患や血栓症が少ないとされてきたが、これは食生活や身体活動量の違いによる影響が大きかったと考えられている。しかし近年、この前提は大きく揺らいでいる。

まず疫学的に見ると、日本人の脳卒中死亡率は長期的には減少してきたものの、発症者数自体は高齢化とともに増加傾向にある。とりわけ高齢者層では、血栓を原因とする脳梗塞や心原性塞栓症が増加している。これは単なる人口構造の変化に加え、生活習慣の欧米化、運動量の低下、慢性疾患の増加が複合的に影響していると考えられる。

遺伝的背景としては、日本人を含む東アジア人では、欧米人に多い特定の血栓性遺伝子変異(例:Factor V Leiden変異)が少ないことが知られている。この点だけを見ると、日本人は「生まれつき血栓ができにくい民族」と誤解されがちである。しかし実際には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動といった後天的要因が血栓リスクを強く規定しており、遺伝的優位性は現代社会では相対的に弱まっている。


日本人は血栓ができやすい?

結論から述べれば、日本人は「本質的に血栓ができやすい」わけではないが、「現代日本の生活様式は血栓ができやすい条件を整えつつある」と言える。

その理由は三点に整理できる。

第一に、高齢化の進行である。加齢そのものが血管内皮機能低下、血流停滞、凝固能亢進をもたらすため、高齢化社会では血栓リスクが必然的に上昇する。

第二に、生活習慣の変化である。戦後から高度経済成長期にかけて、日本人の食生活は低脂肪・高炭水化物・高野菜という特徴を持っていたが、現代では動物性脂肪・加工食品・塩分の過剰摂取が増加している。これにより動脈硬化が進行し、血栓形成の温床が形成されやすくなっている。

第三に、身体活動量の低下と長時間座位である。デスクワーク中心の労働形態、移動の自動車依存、デジタル娯楽の普及により、下肢筋ポンプ作用が十分に働かない生活が常態化している。これは静脈血栓症のみならず、全身循環低下を通じて脳血管イベントのリスクを高める。

以上より、日本人は遺伝的には血栓に強い側面を持ちながらも、社会・生活環境の変化によって後天的リスクが増大している集団であると位置づけることが妥当である。


特定の生活習慣で気になる項目(日本人特有の視点)

食事習慣で気になる点

日本人の食事は一見健康的に見えるが、血栓予防の観点から注意すべき特徴が存在する。

第一に、塩分摂取量の多さである。味噌汁、漬物、干物、加工食品などは日本食の伝統的要素であるが、慢性的な塩分過多は高血圧を介して血管内皮障害を進行させる。

第二に、炭水化物偏重である。白米中心の食事はエネルギー効率が高い反面、運動量が少ない場合には血糖変動を大きくし、糖尿病や血管障害のリスクを高める。

第三に、魚食の減少である。かつて日本人の強みであった魚由来脂肪酸の摂取量は若年層を中心に減少しており、血小板凝集抑制や抗炎症作用という恩恵が弱まりつつある。


運動習慣で気になる点

日本人は「よく歩く国民」と言われてきたが、近年はその前提も崩れつつある。

・通勤以外での歩行時間が短い
・高齢になると外出頻度が急激に減少する
・運動は「特別なこと」と捉えられ、日常生活に組み込まれにくい

これらの傾向は、下肢血流低下・筋力低下・転倒リスク増加を通じて、寝たきりへの移行を早める要因となる。


趣味・余暇活動で気になる点

趣味は脳活性化の重要要素であるが、日本人高齢者の趣味には二極化が見られる。

一方では、囲碁・将棋・園芸・地域活動など知的刺激と身体活動を伴う趣味が存在する。他方で、テレビ視聴や長時間のスマートフォン利用といった受動的・座位中心の余暇活動が増えている。

後者が中心となる場合、脳刺激不足と血流停滞が同時に進行し、血栓リスクと認知機能低下リスクが重なる点が問題となる。


具体的な実践プラン(血栓予防と脳活性化を同時に狙う)

① 日常レベルの基本プラン

・起床後と就寝前にコップ一杯の水を飲む
・1時間に1回は立ち上がり、30秒以上下肢を動かす
・味噌汁は1日1杯までとし、具材を増やすことで満足度を高める
・週5日以上、20〜30分の速歩または散歩を行う

これらは特別な道具や費用を必要とせず、血栓予防の基礎として有効である。


② 脳活性化を組み込んだ応用プラン

・散歩中に計算やしりとりを行う(デュアルタスク)
・ニュースを聞いた後に要点を要約する習慣をつける
・新しいレシピや楽器、語学など未経験の活動に挑戦する
・週1回以上、家族や地域の人と対話する機会を意識的に設ける

これらは脳血流改善・神経可塑性促進・社会的孤立防止を同時に満たす。


③ 高リスク者向けプラン

高血圧、糖尿病、心房細動、過去の脳卒中歴がある場合には、以下を重視する。

・定期的な医療機関受診と服薬遵守
・脱水を防ぐための時間管理型水分摂取
・転倒リスクを考慮した安全な運動環境整備
・家族・介護者との情報共有

これは自己管理と医療連携を組み合わせた現実的な戦略である。


追記まとめ

日本人は遺伝的には血栓形成に対して一定の耐性を持つ集団であるが、高齢化と生活様式の変化によってその利点が相殺されつつある。したがって、血栓予防と寝たきり予防は「特別な医療対策」ではなく、日常生活の再設計として捉える必要がある。

血管ケアと脳活性化を同時に行う生活習慣は、脳卒中予防のみならず、認知症予防、身体機能維持、社会参加の継続に寄与する。日本社会においては、これらを個人任せにせず、地域・職場・家庭レベルで支える仕組みづくりが今後の重要課題となる。

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