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コラム:プラスチック汚染対策が進まない理由、地球規模で汚染進行

短期的には自治体レベルでの廃棄物収集強化、EPRの導入、使い捨て規制の強化、不適切輸出入の監視強化を進めるべきだ。
海岸に流れついたゴミ(Getty Images)

プラスチック汚染は世界的な環境問題として広く認識されているが、実行される対策やその速度は遅いままである。累積的にはこれまでに大量のプラスチックが生産され、その大部分が廃棄物として蓄積されている。例えば、1950年以降に生産されたプラスチック総量は膨大であり、2015年時点で世界で生み出されたプラスチック廃棄物のうち、約9%程度しかリサイクルされていないとされる。こうした構造的な問題が、汚染を長期化させている。

プラスチックの歴史

プラスチックは19世紀末から合成材料の研究が進み、20世紀後半に大量生産・大量消費の時代と結びついて急速に普及した。安価で軽く、加工しやすく用途が広いという利点から包装・自動車・電気電子・医療などあらゆる分野で置き換えが進んだ。第二次世界大戦後の石油化学産業の発展と合わせて、プラスチックの年間生産量は爆発的に増加した。生産の拡大は生活を便利にした一方で、廃棄物処理やマテリアルフロー(資源循環)の設計が追いつかず、膨大な「使い捨て」文化を生み出した。累積生産量や処分の実態に関する学術的推計は多数あり、プラスチックの歴史は技術的成功と社会的・環境的負債の同時成立だといえる。

海洋汚染の現状と評価

海洋へのプラスチック流入は深刻で、2010年時点の推計では年間で数百万トン単位(中間値で約800万トン程度)が陸域から海へ流入しているとされる。この量は沿岸地域の人口密度、廃棄物管理の不備、河川輸送など複合的要因によって生じる。海洋中の大きな漂流ゴミからマイクロプラスチックに至るまで、プラスチックは物理的・化学的に長期にわたって残存し、生態系に持続的な負荷を与える。河口や海岸での目撃、海洋生物への絡まりや誤食、砂浜や海底に堆積するプラスチックの存在は多くの調査で報告されている。

生態系への影響

プラスチックは生態系に対して多面的な被害を与える。大型のごみは海鳥や海獣、魚類の絡まりや窒息を引き起こす。さらにプラスチックは劣化してマイクロプラスチックとなり、体内に取り込まれることで栄養摂取の阻害や内臓障害、さらには化学添加物や吸着した有害物質(POPsや重金属など)を生体内に持ち込むリスクがある。こうした影響は食物連鎖を通じて上位捕食者にまで波及し、生態系サービスや漁業資源、地域コミュニティの生業にも影響を与える。生態系影響の定量化は困難だが、局所的な生物多様性の低下や個体群レベルのダメージが確認されている。

ゴミの投棄(ごみトレード)が減らない理由

国際的な廃プラスチックの移動(いわゆるごみ輸出入)は複雑な経済的・制度的要因で持続してきた。先進国は廃棄物処理コストを下げるため、過去数十年にわたりアジアを中心とした国々にリサイクル原料や廃プラスチックを輸出してきた。中国の「ナショナルソード」(廃プラスチック輸入禁止、2018年以降)の導入はグローバルな廃棄物フローを大きく変えたが、その後も別ルートへのシフトや品質の低い廃棄物の流入は続いている。廃プラスチックが減らない主な理由は、(1)プラスチックの消費拡大と廃棄物発生量の増加、(2)リサイクル市場の価格競争と技術的限界、(3)法規や監視の不足、(4)違法・グレーな取引が残ること、(5)輸出側・受入側双方の経済的インセンティブ構造にある。つまり、単に輸出を規制しても、需給や利益構造が変わらなければ別のルートが生まれやすい。中国の輸入規制は短期的に先進国側の国内処理や他国への転送を促したが、根本的解決には至っていない。

先進国の対応

欧州連合(EU)や一部のOECD諸国は規制・循環経済の推進、使い捨てプラスチックの制限、拡張生産者責任(EPR)の導入などを進めている。OECDの分析では、2019年時点でのリサイクル率は低く、今後のプラスチック使用量はさらに増大しうるとの見通しがあるため、先進国でも単独の政策では限界があると指摘されている。技術的イノベーション(化学リサイクルや改良型回収システム)や消費者行動の変化も模索されているが、プラスチック製品の設計・供給側の変革なしには効果が限定的になる。経済的余裕がある先進国でも、インフラ整備と政策の整合性、そして国際的協調が求められている。

開発途上国の対応

多くの開発途上国は都市化の急速化とともに廃棄物管理能力が追いつかない状況にあり、収集率や適正処理設備が不十分な地域が多い。世界銀行の調査では、世界の都市ゴミ総量は増加傾向にあり、少なくとも数十%が環境的に安全に管理されていないとされる。資金や技術、人材の不足、土地利用制約、廃棄物の非正式セクター(拾い集めや再利用を行う人々)の存在などが課題となっている。途上国では即効的に生計に結びつく再利用リサイクルが広がる一方、未回収や不適切な焼却・投棄が続いており、結果的に流出するプラスチックが増える構図になっている。

先進国と開発途上国の対立

プラスチック問題は国際的な責任分担を巡る対立を生む。先進国は消費と生産の歴史的責任を負う一方で、多くのプラスチック製品の生産・流通はグローバル企業と国際市場によって支えられている。開発途上国は先進国からの廃棄物受入や低廉な原料供給に依存してきた面があり、規制強化が自国の再生資源ビジネスや雇用に影響するとの懸念を示す場合がある。また、技術移転や資金支援の不足が、途上国によるインフラ整備を妨げる。国際交渉では、プラスチック生産の削減や有害化学物質の管理、資金支援の仕組みなどが争点となり、合意形成は容易ではない。国際的には「先進国が技術と資金を出し、途上国が廃棄物管理を改善する」という大枠の提案があるが、具体的メカニズムで摩擦が生じやすい。

「便利なプラスチックを使い続けたい」という圧力

消費者と産業の双方に「プラスチックを使い続けたい」圧力がある。企業はコスト・利便性・物流効率・食品保存などの観点でプラスチックを好む。消費者は軽量で安価、使い捨ての利便性を求める傾向が強い。さらに石油化学産業や大規模メーカーは、既存のサプライチェーンや製品デザインを変えることに対する抵抗や、ロビー活動による政策への影響力を持つ場合がある。生産側の経済合理性と消費側の行動が変わらない限り、単発の規制やキャンペーンだけでは需要削減が限定的に留まる。

問題点の整理

プラスチック汚染対策が進まない理由を整理すると、主に以下の点に帰着する。

  1. 生産量と廃棄量の増加速度が速く、処理インフラが追いつかない。

  2. リサイクル技術・市場の限界(品質維持やコスト問題)により循環が弱い。

  3. 国際的なガバナンスと責任分担の不整合(資金・技術移転の不足)。

  4. 廃棄物トレードや違法流通、非公式セクターの存在が問題を複雑化させる。

  5. 経済的インセンティブの欠如(外部不経済を内部化できない)。

  6. 製造・消費側からの抵抗(ロビー活動・短期的利得重視)。

対策(政策・技術・行動)

対策は多層的でなければ効果を期待できない。主要な方向性は次の通りだ。

  1. 生産段階の規制と設計変更
     リデュース(削減)とリユースを前提にした製品設計、あるいは単一素材化や可分離設計を推進する。生産段階での規制(使い捨て制限、素材規格、化学添加物規制)により流通するプラスチックの性状を改善する。

  2. 拡張生産者責任(EPR)と経済的インセンティブ
     製造企業に廃棄物回収・処理の責任を負わせるEPRを強化し、再生材の需要を作るための税優遇や補助金、廃棄物処理費用の内部化を進める。

  3. インフラ整備と地域適合型ソリューション
     特に途上国では収集システム、分別、リサイクル設備、適切な最終処分(衛生的埋立や焼却の高度管理)への投資が必要だ。国際的な資金支援と技術移転が鍵となる。世界銀行などの開発金融機関の関与が重要だ。

  4. 国際ルールと監視強化
     バゼル条約のプラスチック廃棄物改定など国際制度を活用し、違法輸出入を減らすとともに、透明性の高い取引ルールを整備することが重要だ。

  5. 技術革新(リサイクル・代替素材)
     機械的リサイクルだけでなく、化学的リサイクルや生分解性素材、代替包装技術の研究・実用化を進める。ただし代替素材もライフサイクル評価が必要。

  6. 消費者行動の変容と社会的合意
     使い捨て文化を変えるための教育、公共調達での非プラスチック品優先、リフィルステーションの普及などが効果を持つ。

国際機関・データに基づく論点

OECDや世界銀行、国連環境計画(UNEP)などはプラスチックのライフサイクルに関するデータと政策分析を提供している。OECDの報告はリサイクル率の低さや将来的な使用量増加のリスクを警告しており、世界銀行は都市化と廃棄物増加の予測を示している。国連主導の交渉では、2020年代初頭から包括的な国際条約の検討が進められてきたが、削減目標や生産制限、資金供与などで意見が分かっている。こうした国際機関の知見は政策設計に不可欠だが、合意形成の遅れが実効的な行動を妨げている。

今後の展望

プラスチック汚染に対する大きな転換には、(1)生産側の責任転換、(2)消費行動の変化、(3)国際協調による資金・技術支援、(4)イノベーションの実用化、が不可欠だ。国際条約の枠組みが成立すれば、法的拘束力を通じた生産削減や資金メカニズムの創設が期待できるが、交渉は鋭い利害対立と産業ロビー活動に直面している。最新の交渉経過は流動的であり、合意の成否は各国の政策選好と国際政治の影響を受ける。現状では、部分的な成功(地域的規制や企業の自主行動)は見られるが、地球規模の負荷低減にはまだ程遠い。

総括(なぜ進まないかの核心)

プラスチック汚染対策が進まない核心的理由は次の複合的な要因だ。第一に、プラスチックが「便利」で安価であるために需要が強く、経済構造がそれを支えている点。第二に、循環を可能にする技術や市場インセンティブが十分ではなく、リサイクル率が低いこと。第三に、国際的な責任分担と資金の配分、技術移転に関する合意が得られていないこと。第四に、国際交渉や国内政策過程で化石燃料・石油化学の利害が強く働き、抜本的な生産削減への抵抗が存在すること。これらが相互に絡み合っているため、単一の政策では問題解決に至らない。

最後に

短期的には自治体レベルでの廃棄物収集強化、EPRの導入、使い捨て規制の強化、不適切輸出入の監視強化を進めるべきだ。中長期的には国際的な法的枠組みの整備(生産削減目標や資金メカニズム)、企業の製品設計の転換支援、リサイクル技術への投資、代替素材のライフサイクルアセスメントの普及が必要。政策は「予防」「管理」「補償」の三つを同時に進めることが鍵となる。

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