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コラム:フィリピンvs中国、南シナ海めぐる対立激化

南シナ海におけるフィリピンと中国の対立は、法的判断(2016年仲裁)と現場での実効支配の乖離、地政学的・経済的利害の複雑な結びつき、域内外の大国競争が絡む複合問題である。
2024年11月6日/フィリピン、南シナ海で行われた海軍の領土奪還訓練(Philippine navy)

南シナ海(South China Sea)では、フィリピンと中国を中心に複数の当事国が領有権と排他的経済水域(EEZ)をめぐる対立を続けている。ここは国際海上輸送の要衝であり、海底資源(石油・天然ガス)や豊かな漁場をめぐる利害が複雑に絡む。近年は中国による人工島造成や海洋での海警・民間船の活動強化、米国や同盟諸国の航行の自由作戦(FONOPs)、ASEANと中国の行動規範(COC)交渉の停滞などが重なり、局地的な衝突や緊張が続いている。最近でもフィリピン側の公船・漁船に対する中国側の放水や体当たり、障害物設置に関する報告が相次ぎ、地域秩序の脆弱さが露呈している。

対立の歴史

南シナ海の領有紛争は冷戦期から継続的に顕在化してきた。1970年代以降、周辺国がスプラトリー(南沙)諸島やパラセル(西沙)諸島、スカボロー礁(黄岩島)などの実効支配を巡って主張を強めた。1990年代以降、石油・天然ガス探査の可能性が争点を深め、2010年代に入ると中国の海洋戦力増強と人工島造成が対立を一気に先鋭化させた。フィリピンは2013年に国際仲裁(常設仲裁裁判所)に提訴し、2016年7月の仲裁裁判所は多数の判断でフィリピン側を支持し、中国の「九段線」に基づく歴史的権利主張は国際法上の根拠を欠くと認定した。しかし中国はこの裁定を受け入れず、「無効」を主張して以降も海上での行動を続けている。こうした経緯が現在の対立の法的・政治的基盤になっている。

対立の背景(地政学・経済)

南シナ海の重要性は三つに分かれる。第一に国際貿易上の重要航路であり、世界貿易の巨大な割合がこの海域を通過する点だ(しばしば数兆ドル規模の貿易額が言及される)。第二に海底の資源(推定の石油・天然ガス埋蔵量)と周辺国の漁業資源という経済的利害。第三に戦略的・軍事的意義であり、中国や米国、日本、オーストラリアといった域外大国の関心を引く。特に中国は海洋進出を国家安全保障と経済安全保障の観点から重要視し、これが「覇権的」と解釈される行動につながっている。フィリピンにとっては沿岸からの距離や歴史的・法的主張(UNCLOSに基づくEEZなど)が根拠であり、漁民の生計保護が国内政治上の重要課題になっている。

南シナ海の領有権(法的論点)

領有権争いは主に「領土(陸・岩礁)の帰属」と「その上に生ずる海洋権(領海・接続水域・EEZ等)」の二層構造になっている。国連海洋法条約(UNCLOS)は海洋権を定義する基準を与えるが、歴史的権利や九段線などを巡る中国の主張はUNCLOSの枠組みと衝突することが多い。2016年の仲裁裁判所は、九段線に基づく広範な海域支配主張を否定し、多くの岩礁が島としての法的地位(200海里のEEZを生むか)を欠くと判断した。仲裁裁判所の判断は法的効力を持つが、当事国の受容が不可欠なため執行・実効性の点では限界がある。

南沙諸島(スプラトリー諸島)

南沙諸島は多数の礁・岩礁・浅瀬から成り、周辺国の漁業や資源探査権を巡る争点になっている。中国は2010年代に大規模な埋め立て・施設建設を行い、軍事インフラや滑走路、防空・監視施設を整備した。これにより中国は実効支配能力を強化し、周辺国のアクセスを制限する物理的基盤を構築した。フィリピンは従来の実効支配やEEZに基づき反発しており、両国は公船や民間船を使ったにらみ合いや小規模衝突を繰り返している。

スカボロー礁(黄岩島)

スカボロー礁はフィリピン本島ルソン島に比較的近く、漁業資源の重要な供給源でもある。2012年のスカボロー封鎖以降、中国は実効的に同海域での活動を強め、フィリピン側の漁民のアクセスを制限してきたと報告される。最近では中国が自然保護区指定や基線設定に関する行為を行うなど、実効支配を法的・行政的に補強する動きが見られる。これに対しフィリピンは抗議し、海上監視や政府船の派遣を続けているが、対立は短期間で解消していない。

中国の覇権主義的な動き(具体的手法)

中国の行動は多層的だ。①人工島造成・軍事施設化による事実上の支配強化、②海警(China Coast Guard)や「海上民兵」と称される漁船主体の民間船隊を使ったグレーゾーン戦術、③法令・基線設定や自然保護区指定など行政的措置を通じた正当化、④外交的圧力と経済的手段を組み合わせた影響力工作、という組合せである。これにより紛争は「軍事衝突」だけでなく、日常的な漁業干渉、放水、体当たり、障害物投下や係留などの低強度な衝突が頻発する構図になっている。

対抗するフィリピン(政策・手段)

フィリピンは法的手段(2013年の仲裁提訴)や国際世論の喚起、同盟関係(特に米国との安全保障協力)の活用、海上合同パトロールや艦艇・航空機の展開、漁民保護や公船の常駐強化といった手段で対抗している。国内では領土主権を守ることが政治的にも支持を得やすく、漁民保護は重要な綱領である。近年は日米などと連携して共同演習や警備能力の強化を図る一方、ASEANの枠組みでの外交交渉も継続している。

最近の具体的な事案(衝突、放水、障害物設置など)

近年の事案としては、フィリピン公船や漁船に対する中国側の放水や体当たり、障害物(浮標や係留物)設置、漁具や船の拿捕、海上での監視・追尾による緊張の高まりが挙げられる。最近(2025年10月)もフィリピンの公船が南沙諸島付近やティトゥ島(Pag-asa/Thitu)付近で中国の海警船による体当たりや強力な放水を受けた。これに対しフィリピン政府は断固たる抗議を行い、米国は中国の行為を非難している。こうした事件は現場でのエスカレーションのリスクを高める。

国際社会の対応(国際機関・多国間)

国際的には仲裁裁判所の判決(2016年)が法的基盤として引用される一方で、国連安全保障理事会における実効的な介入は難しい。ASEANは中国と「行動宣言(2002年DOC)」や「行動規範(COC)」の交渉を続けているが、合意は限定的で遅々として進まない。国際的な自由航行原則や海洋法の順守を求める声は強いが、具体的な法的強制力や減圧メカニズムが不足している。国際金融機関や非政府組織、国際司法機関の関与もあるが、地域の地政学的力学が優先される場面が多い。

米国の対応

米国は南シナ海の「航行の自由」を重視し、中国の一方的現状変更に反対する立場を取り続けている。米海軍によるFONOPs(航行の自由作戦)や安全保障協力の強化、外交的非難表明が行われ、最近の中国の公船によるフィリピン船体当たりや放水事件に対しても米国は中国を非難し、フィリピン支援の姿勢を示している。しかし、米中直接対決の回避も重視され、軍事的エスカレーションの抑制と同盟国支援のバランスが取られている。

日本の対応

日本は自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略の観点から法の支配や航行の自由を支持し、地域の安全保障体制強化や能力構築支援、情勢の国際的可視化に関与している。日米比の連携や海洋分野での協力、ASEAN支援を通じて安定化を図る姿勢を示している。日本は直接の領有当事国ではないが、航行の自由と海上交通の安定という国益から外交的・政策的に関与している。

課題(制度的・実効的)

主要な課題は複数ある。第一に仲裁裁判所の判決や国際法の存在にもかかわらず、当事国間で法的結論に対する合意と実効的な履行が得られていないこと。第二にASEAN内部の結束不足と中国との経済依存のため、地域的な抑止・秩序構築が難航していること。第三に中国の海警や民兵を含むグレーゾーン戦術に対抗する法的・軍事的手段が各国で限定的であること。第四に小規模事案が大規模紛争に発展するリスク(偶発的衝突の管理)があること。最後に域外大国間の戦略競合が地域での安定策を複雑化している点である。

今後の展望

今後の展望は不確実だが、いくつかの可能性が考えられる。①法的・外交的解決志向:ASEAN主導の行動規範の合意や仲裁判決の間接的履行を通じた緊張緩和の試み。②力による現状固定化:中国が海上での実効支配をさらに強化し、事実上の支配を固めるシナリオ。③地域的軍拡・同盟強化:フィリピンやベトナムなどが米国や日本、オーストラリアとの安全協力を深化させることで均衡が強化されるシナリオ。④偶発衝突の拡大:小競り合いが連鎖し、より大きな軍事的対立に発展するリスク。現実的にはこれらが混在しながら進展する可能性が高い。国際社会が効果的な抑止と紛争予防メカニズムを提供できるかが鍵になる。

まとめ

南シナ海におけるフィリピンと中国の対立は、法的判断(2016年仲裁)と現場での実効支配の乖離、地政学的・経済的利害の複雑な結びつき、域内外の大国競争が絡む複合問題である。短期的には現場での小競り合いが継続しやすく、長期的には国際法の順守や地域協調の進展が安定化のカギになる。フィリピンは法的正当性と同盟・多国間支援を背景に対抗を続け、中国は実効支配の強化を通じて圧力を継続するという構図がしばらく続く見込みだ。国際社会は透明性の確保、紛争予防のための実務的ルール整備、ASEANと域外パートナーによる協調した抑止と外交努力を通じて、危機の管理と平和的解決のための道筋を模索する必要がある。


参考主要出典:常設仲裁裁判所(PCA)に関する資料、CFRやUSCCの解説、ASEAN公式発表、米国務省声明など

年表(主要な節目と事件・政策・裁定)

以下は南シナ海におけるフィリピン—中国の対立で重要な年次的節目を抜粋した年表である(主要な出来事と年)。詳細は次節で事件別に解説する。

1895年〜1970年代:歴史的占有・領域主張の形成(旧地図・歴史的航行記録をもとにした主張が各国に存在)。
1970年代〜1980年代:周辺国によるスプラトリー(南沙)諸島等の占有・施設化が進行。
1992年:フィリピンが国内的に領海・EEZルールの確立を進める(UNCLOS の枠組みが実効化)。
2002年:ASEANと中国が「南シナ海における当事者の行動宣言(DOC)」を採択。
2012年:スカボロー礁(Scarborough/Shoal、黄岩島)でフィリピンと中国の対立が激化し、事実上の中国側支配が継続。
2013年:フィリピンが中国を相手取り常設仲裁裁判所(PCA)に提訴(2013年提訴)。
2016年7月12日:PCAが仲裁裁定を下し、中国の「九段線」による歴史的権利主張を棄却、多くの岩礁がEEZを生まないと判断(仲裁はフィリピン側を支持)。
2010年代中盤〜後半:中国が南沙諸島で大規模埋め立て・軍事化を推進し、人工島に滑走路やレーダー設備を整備。
2018年以降:中国海警の活動や海上民兵のグレーゾーン戦術が顕在化。
2023年〜2025年:フィリピンは米国との防衛協力を強化(EDCAの再活性化と拡大)、米日含む共同パトロールや演習が増加。2023年以降、フィリピン沿岸で中国側による放水・体当たり・障害物設置が繰り返されている。
2024年〜2025年:多国間(米・日・豪・加など)による海軍・沿岸警備隊の協調活動や合同パトロールが増加。2025年10月に、ティトゥ/Pag-asa(Thitu)付近で中国側の海警船がフィリピン船に放水・体当たりを行ったとされる事件が大きく報じられた。

主要事件の時系列(事案ごとの詳細)

以下は代表的な事件・出来事を時間順に整理し、それぞれの事実関係と国際的反応を示す。

  1. スカボロー(黄岩島)事件(2012年)
    2012年の漁師摘発・海軍出動をきっかけに、両国の艦艇が封鎖的ににらみ合い、中国側が実効支配を強化した。以降フィリピン漁民の立ち入りが大幅に制限され、島周辺の漁場アクセスが失われたと報告されている。ASEAN内でも共同声明が出せない回があり、この年は地域協調の脆弱性が露呈した。

  2. 仲裁提訴と2016年仲裁裁定(2013–2016)
    フィリピンは2013年にPCAに提訴し、2016年7月に仲裁裁定が出た。裁定は(抜粋)①中国の九段線に基づく広範囲の歴史的権利主張は国際法上認められない、②多くの南沙海域の特徴は島としてEEZを生むに足るものではない、③中国の人工島造成や一部行為はフィリピンの海洋権を侵害するとした。中国は裁定を受け入れず「拘束力なし」を主張しているため、法的判断と現場の実効支配が乖離している。

  3. 中国の人工島造成と軍事化(2014–2016以降)
    2014年〜2016年にかけて、中国は南沙の複数の浅瀬で埋め立てを行い、滑走路や防空・監視設備を整備した。これにより実効支配力が物理的に強化され、周辺での航行・航空の戦略的自由が事実上制約されつつあると分析される。国際社会は映像や衛星写真を基に警戒を高めた。

  4. グレーゾーン戦術の常態化(海警・海上民兵、放水・体当たりの多発)
    中国は海警・「海上民兵」や公船を用い、放水、進路遮断、障害物(浮標やバリケード)設置、漁船の追尾・拿捕といった低強度だが継続的な圧力を加える戦術を採用している。フィリピン側は公船や漁民保護任務を継続するが、装備差や数の差が現場で顕著に表れている。2023年以降は特に放水や障害物再設置の報告が増えており、2024〜2025年にも衝突や接触事故が複数報告されている。

  5. フィリピンの同盟回帰とEDCAの拡大(2022–2024)
    近年、フィリピン政府は米国との同盟関係を再強化し、EDCA(2014年締結)を実効化・拡大した。2023年に4か所の追加サイトが公表され、米比の共同演習や海上合同パトロールが頻繁化している。これに対し中国は強い反発を示し、地域の軍事的緊張が高まっている。

  6. 多国間協調行動(2024–2025)
    米国・日本・オーストラリア・カナダなどが参加する巡航・演習が増えた。2024年・2025年の合同パトロールや海軍演習は、航行の自由と現状変更反対の立場を示す象徴的行動となっている。2025年9月〜10月には日米比による海域での協力活動や、フィリピン沿岸付近での実務的支援が報告されている。

法律的論点の細部(UNCLOS の条文、仲裁裁定の適用)

ここでは国際法上の核となる条文とPCA裁定の主要論点を整理する。

  1. UNCLOS(国連海洋法条約)における基本的枠組み
    UNCLOS は領海(12海里)、接続水域、排他的経済水域(EEZ、200海里)および大陸棚に関する基準を定める。海洋権を起こす基になるのは「領土としての『陸地』」であり、これがArticle 121で規定される。Article 121の要点は以下である(簡潔に要約)。
    ・121(1):島は自然に形成された、高潮時に水面上にある陸地である。
    ・121(2):島は領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚を有することができる。
    ・121(3):ただし、人の居住又は独自の経済生活を維持できない「岩」はEEZや大陸棚を生じない。

  2. 仲裁裁定(PCA, 2016)の主要な法律判断(要旨)
    PCAは2016年裁定で複数の重要判断を下した。抜粋して要点を示す。
    ・「九段線」に基づく広範な歴史的権利主張は、UNCLOSにおける海洋権の発生源に照らして法的根拠を欠くと判断した。
    ・南沙(スプラトリー)に存在する多数の岩礁・暗礁のうち、相当数はArticle 121の「島」としてEEZを生じ得る基準を満たさない(特に121(3)が適用される「岩」や高潮時に水面上にない低潮高地が含まれる)。従って、当該特徴に基づく200海里のEEZを中国が主張する余地はない。
    ・人工島は自然の領土ではないため、人工島の造成はEEZ等の新たな海洋権を生じさせない。また仲裁は特定の中国の活動(漁業立ち入り阻止や一部の人工島造成に伴う行為)がフィリピンの海洋権を侵害したとした。

  3. 実務上の問題点と解釈上の争点
    ・Article 121(3) の「人の居住又は経済生活を維持できない」や「岩」と「島」の線引きは事実認定に依存し、恣意的な評価や軍事的・行政的投資で状態が変化するため実務的な争点になりやすい。学説上も解釈が分かれており、条文の曖昧さが地政学的実効支配へ活用される余地を生んでいる。

  4. 仲裁裁定の法的効力と限界
    PCAの裁定はUNCLOSの手続きに基づくものであり、国際的な法的判断としての権威を持つが、執行力は国家の同意・国際的圧力に依存する。中国が裁定を拒否している現在、法的判断と現場での実効支配との乖離が継続している。国際法は強制執行メカニズムを欠く局面があるため、外交的・軍事的バランスが最終的に現場のあり方を左右する。

ASEAN内部の立場比較(主要国のスタンスとその原因)

ASEANは一枚岩ではなく、メンバー国ごとに中国への依存度や争点の当事国性に応じて立場に差異がある。主要なパターンを示す。

  1. フィリピン(当事国)
    直近では領土主張と漁民保護を強く主張し、国際法(PCA裁定)を根拠に中国の行為に対抗する。一方で外交・経済関係のバランスも模索しており、政権ごとに対中接近や反中の強さが変動する。

  2. ベトナム(当事国)
    歴史的対立が深く、強い懸念を表明してきた。海洋資源と主権を堅持する傾向があり、ASEAN内で中国に対して比較的強硬な立場を取ることが多い。

  3. マレーシア・ブルネイ・インドネシア(当事国または周辺)
    ・マレーシアは自国の主権を主張しつつも中国との経済関係が深く、対中発言は慎重になりがち。
    ・ブルネイは比較的静かな立場を保つ。
    ・インドネシアは自国EEZ(ナトゥナ海)における中国漁船の活動に強い懸念を示し、海警の取り締まりを行ってきたが、ASEANでの調整では独自の立場と慎重さが見られる。

  4. ASEANの機能的限界と合意の難しさ
    ASEANは「コンセンサス原則」を採るため、いずれかのメンバー国が反対すれば共同声明が弱められる事例(例:2012年や2016年の共同声明の修正・弱体化)が繰り返された。中国は経済的影響力を通じて一部のメンバーに影響力を行使し、ASEANの一致を困難にしているという分析がある。結果としてASEANは行動規範(COC)の交渉を続けつつも、実効的拘束力ある合意には至っていない。

日米(+日米比を含む)具体的な軍事協力・共同行動の中身

ここではフィリピン支援を含めた日米の「具体的な」協力の枠組みと現場での活動を述べる。

  1. EDCA(Enhanced Defense Cooperation Agreement:米比強化協定)
    EDCA(2014)は米軍のフィリピン内「合意場所」の利用を定め、基地アクセス・物資保管・共同訓練などを可能にする。2016年に最初の5か所、2023年にさらに4か所が追加され、米比の相互運用性・迅速展開能力が強化されている。EDCA は「恒久基地設置ではない」条項を含むが、地域抑止力の向上に直結している。

  2. Balikatan(米比合同演習)と多国間参加
    Balikatanは長年続く米比の合同演習で、近年は海上保安・島嶼防衛・人道支援・災害対応に焦点が移り、オーストラリアや日本などが参加する年もある。演習は相互運用性向上、島嶼奪還防止、海上監視能力強化を目的としている。

  3. 日米比のトライアングル協力と合同パトロール
    近年、日米比の3国協力が強まっており、合同海上パトロールや海軍演習が実施されている(例:2024〜2025 年にかけての合同活動)。日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の枠組みで法の支配・航行の自由を支持し、海上自衛隊は米海軍・フィリピン海軍との実務演習や沿岸警備隊の能力構築支援を行っている。2024年以降は、日米比による海上での協力活動が増加しており、合同MCA(Maritime Cooperative Activity)や共同訓練が繰り返されている。

  4. FONOPs(米国の航行の自由作戦)と抑止
    米海軍は定期的にFONOPsを実施しており、これは他国の海域支配の不当な主張に対する挑戦を意味する。これらの作戦は単独あるいは同盟国と共同で実施され、日本やオーストラリアなども航行・飛行の自由を支持する声明や活動を行っている。

  5. 海上保安/沿岸警備隊レベルでの協力
    軍事協力だけでなく、沿岸警備隊レベルの訓練・情報共有・共同演習(例:海上事故対応、衝突回避訓練)が活発化している。これは偶発衝突のエスカレーション防止を目的としている。2025年には日米比の沿岸警備隊間でも共同訓練が行われている。

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