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コラム:どうなるウクライナ和平、最大の焦点は領土問題

和平に至るには依然として重大な障壁があるが、交渉の継続は国際社会の最優先課題である。
ウクライナ、東部ドネツク州の前線近く、榴弾砲を発射するウクライナ兵(Getty Images)
現状(2025年12月時点)

2025年12月の時点でロシア・ウクライナ戦争は依然として終結に至っていないが、和平交渉はかつてないほど活発化している。2022年の全面侵攻以降、ロシアはウクライナ東部および南部の約20%の領土を占領しており、戦闘は長期化していると評価されている。多数の犠牲者と都市破壊が続き、国際社会は戦争の終結を求めて圧力を強めている。2025年12月初旬にはアメリカ主導の和平案が提示され、欧州諸国を巻き込んだ交渉が展開されているものの、主要な争点である領土割譲や安全保障を巡る意見対立が解消していない。特にロシアは和平交渉への条件としてウクライナ領土の一部割譲を要求し、ウクライナ側はこれを拒否している。両者間の停戦合意に向けた努力は進んでいるものの、全面的な和平合意には至っていない状況である。


トランプ政権による強力な働きかけ続く

トランプ政権はロシア・ウクライナ戦争の早期終結を外交政策の柱の一つとした。トランプ大統領は幾度も和平交渉への積極的関与を表明し、ロシアとウクライナ双方に対して交渉の実現を促す姿勢を見せた。特にアメリカ政府は特別代表としての中東担当特使や外交官を派遣し、ロシアのプーチン大統領と複数回協議を行った。これらの働きかけは戦闘停止に向けた外交的枠組みを構築するうえで中心的役割を果たしているが、調停努力は必ずしも均衡を保つものではなく、ウクライナと欧州の支持基盤との間で摩擦も生じている。さらに一部のアメリカ政府内でも和平案の内容を巡って意見が対立し、和平交渉の主導方法や条件設定について内部紛争が見られる。


主な進展と状況

2025年秋以降、和平プロセスはいくつかの重要な進展を見せている。米国が策定した包括的和平案が提示され、ウクライナおよび欧州諸国との協議が行われた。またドイツ・ベルリンで行われた複数国会合では安全保障上の保証策が議論され、NATO加盟に類似した安全保障メカニズムを提供する可能性が示された。しかし、ロシアの領土要求は交渉の大きな障害となり、依然として合意の核心部分が未解決である。和平協議には米露高官、ウクライナ政府関係者、欧州連合(EU)代表が参加し、包括的な停戦合意に向けた交渉が続いている。


アメリカ主導の和平案と交渉の動き

トランプ政権はロシアとの和平交渉に向けて28項目から成る包括的和平案を作成した。この案は国際社会に提示され、ウクライナ側および欧州諸国と協議が行われている。和平案の基本理念は戦争終結のための条項を包括的に盛り込み、将来の安全保障・領土・経済協力までを扱うものである。さらに外交交渉では、停戦後の安全保証、非攻撃条項の確立、ウクライナ再建支援など多岐にわたるテーマが協議されている。米露交渉チームは戦闘停止と恒久和平を模索するために複数回の会談を実施し、主要な国際プレーヤーを巻き込んだ外交努力を継続している。


「クリスマスまでの合意」

トランプ政権は交渉を加速させるために期限を設ける意向を示し、「2025年クリスマスまでの和平合意」を目標に掲げて交渉を進めたという報道もある。この期限設定は外交的圧力として機能したが、実際には主要な対立点の解消には至らなかった。アメリカ側はロシアとウクライナ双方に受け入れ可能な合意案を提示しようとしたものの、両国の戦略的利益の隔たりが大きく、期限内に包括的合意には至らなかったという評価が出ている。


米ロ・米ウ首脳級協議

2025年には米ロおよび米ウクライナ首脳級協議が複数回行われた。アメリカの特使や大統領自身がロシアのプーチン大統領およびウクライナのゼレンスキー大統領と直接的な交渉を行い、和平合意への意思を確かめ合った。これらの首脳会談では停戦、領土問題、将来の安全保障保証、軍事的制限事項などが協議されたが、領土割譲を巡る根本的な対立は解消されなかった。また欧州主要国首脳とも安保保証策について協議され、ウクライナの安全を確保するための多国籍部隊配置などの案も提示されるに至った。


主要な争点

和平交渉における主要争点は次の通りである。

  1. 領土の扱い:ロシアが占領するクリミアやドンバス等の帰属を巡る対立は最も深刻な争点であり、ウクライナはこれを一切譲らない立場である。ロシアはこれらを国家的利益と見なし、占領地の割譲を和平の前提とする。

  2. 安全保障保証:ウクライナの将来的な安全保障をどのように保証するかが議論の焦点となっている。アメリカはNATO加盟に類似した安全保障体系を提案する一方、ロシアはこれを自国に対する脅威とみなす。

  3. 軍事的制限:和平案ではウクライナ軍の規模制限や軍事活動の制限に関する条項が含まれているが、これはウクライナ側の反発を招いている。


アメリカが提示した28項目の和平案

アメリカ主導の和平案は28項目から構成され、停戦・将来の安全保障・非攻撃条項・経済協力までを網羅している。この案ではウクライナ主権の再確認、包括的非攻撃協定、ウクライナ軍の規模制限、NATO不加盟条項、領土に関する現状線の承認といった重大項目が含まれている。さらにウクライナのEU加盟資格や再建資金の確保、紛争後の人道支援・民族教育プログラム等も盛り込まれている。これらの条項はロシア側の要求を多く取り込んだものとの評価もあり、ウクライナ側および欧州側から批判と修正要望が出たため、交渉を通じて改善されつつある。


ウクライナの立場

ウクライナ政府は和平交渉に参加する意向を示しつつも、国家主権・領土保全の堅持を最重要視している。ウクライナは占領地の割譲を拒否し、ロシアの侵略行為を正当化する条項を認めない立場を明確にしている。またNATO加盟希望を保持しつつ、そのための安全保障保証策を求める。さらに戦争犯罪の追及や戦後処理に関する条項の充実を求めており、単なる停戦協定ではなく公正な和平合意を追求している。


NATO加盟と安全保障

ウクライナのNATO加盟は戦争後の安全保障を確保するための主要手段とされてきた。しかしトランプ政権はNATO加盟の可能性を和平案から除外する方向で調整しており、その代替として「NATO加盟に近い安全保障保証」を提案している。この保証には欧州主導の多国籍部隊の配備や相互防衛協力の条項が含まれるが、加盟国の集団防衛義務と同等のものか否かは不透明である。ウクライナは加盟断念の検討を示唆しつつも、確実な安全保障が得られる条件を求めている。


欧米から確実な「安全の保証」が得られればNATO加盟断念も

ウクライナ政府は明確にNATO加盟を放棄する意向を示したわけではないが、十分な安全保障が提供されれば加盟断念も選択肢とする姿勢を示している。これはNATO加盟が戦争終結の障害となっているという現実的評価に基づくものであり、具体的には欧州主導の多国籍安全保障部隊や集団防衛条項の導入が検討対象となっている。このような安全保障は加盟国の集団防衛義務に類似した機能を持つ可能性があり、ウクライナ政府はこれを条件に和平交渉を前進させる意思を示している。


領土問題

占領地の帰属を巡る領土問題は交渉の核心である。ロシアはクリミア、ドンバス、ルハンシク、ドネツクの領有権主張を維持し、これを和平の前提条件としている。一方でウクライナはこれらの地域の割譲を拒否し、国際法に基づく主権回復を求めている。この対立は和平交渉の最大の障害であり、停戦後の境界線設定や領土帰属を巡る交渉は極めて困難な問題として残っている。


ロシアの立場

ロシア政府は和平交渉への参加を表明しているものの、領土の割譲を拒否し、現在占領している地域を自国領とする立場を維持している。プーチン大統領はウクライナとの交渉に臨むにあたり、ロシア側の戦略的利益を守ることを重視し、主要な条件として占領地の確保と安全保障面での優遇を要求している。ロシアは和平交渉を通じた国際的正当化も模索しているが、ウクライナおよび西側との意見の隔たりは大きいままである。


譲歩の拒否

ロシアは領土問題と安全保障の重要性を強調し、根本的な譲歩には消極的である。ウクライナ側が要求する主権回復や領土割譲の撤回には応じない方針を示しており、交渉の前提条件としてこれらを保持する姿勢を崩していない。このため和平合意に向けた譲歩は難航しており、交渉は膠着状態になっている側面が強い。


交渉への姿勢

ロシア・ウクライナ双方は和平交渉に参加する意向を示す一方、相互の信頼欠如と核心的利益の対立が交渉進展を阻んでいる。ウクライナは国際法に基づく主権回復を最優先とし、ロシアは占領地の保持と安全保障上の条件設定を優先する。外交的接触は継続されているが、実質的な合意点の形成は未だ限定的である。


国際社会の対応

欧州連合(EU)やNATO加盟国はウクライナ支援を継続しつつ、和平交渉への貢献を模索している。EUは独自の和平案を提示し、ウクライナの立場を支持する立場から領土問題の交渉方式の修正を提案している。欧州諸国はウクライナへの軍事・経済支援の継続を約束し、和平合意後の復興支援にも関与する姿勢を見せている。国際連合(UN)や主要な国際機関も人道支援や停戦合意の監視に関与している。


欧州連合(EU)が示す20項目

EUはアメリカ主導案に対抗する形で、ウクライナの主権と領土保全を重視した和平案を提示している。この案は停戦合意後に領土の帰属を協議することを提案し、ウクライナのNATO加盟を排除しない安全保障保証を含む。また、和平後の復興支援策や経済協力プログラムも盛り込まれている。EU案はウクライナの主張を反映し、国際法に基づいた和平プロセスを強調している。


交渉継続中、最大の焦点は「領土の割譲」

2025年12月時点で交渉は継続しているものの、最大の焦点は占領地の扱いと領土の割譲問題にある。両国間の主要な対立はこの問題に集中しており、安全保障保証や軍事的制限と並んで和平合意の核心を成している。領土問題が解決されない限り、停戦協定や包括的和平合意の成立は困難であると分析されている。


今後の展望

今後の和平交渉は次の局面へ進むことが予想される。まず、領土問題の対話を継続し、段階的な停戦協定を実現する努力が続くであろう。第二に、ウクライナに対する安全保障保証策の具体化が進む可能性がある。第三に、欧州連合とNATO加盟国の協力が深化し、国際的枠組みの中での和平合意形成が試みられる。また、ロシア側の政策変化や戦場状況の変化が和平プロセスに大きな影響を与える可能性がある。和平に至るには依然として重大な障壁があるが、交渉の継続は国際社会の最優先課題である。


ロシアによるウクライナ領の併合(力による現状変更)を認めた場合どうなるか

ロシアによるウクライナ領の併合を国際社会が事実として認めるシナリオを仮定した場合、その影響は多岐にわたり国際秩序そのものを揺るがす可能性がある。現行の国際法秩序と国家主権原則は、領土の現状変更を武力では認めないという不文律を基礎としており、1945年の国際連合憲章や多数の国際条約がこの原則を支持している。ロシアのウクライナ領併合を容認することはこの原則を崩壊させ、国際紛争の解決における法的基盤を覆す結果になる。

第一に、力による領土変更を容認することは、国際法秩序の信頼性を著しく損なう。国連憲章第2条4項は「すべての加盟国は、その領土保全及び政治的独立に対する武力行使を含む威嚇又は武力行使を行ってはならない」と規定する。この規定は第二次世界大戦後に構築された国際秩序の中核であり、国家間の紛争が武力で解決されることを防ぐための基本原則である。もしロシアがウクライナ領土の併合を事実上または法的に認められるような合意が成立した場合、この国際的規範は大きく揺らぎ、他国による同様の武力行使や領土要求に対する先例となる可能性がある。

第二に、併合の認容は周辺地域の安全保障環境を不安定化させる。現実的に、ウクライナ以外にも国境紛争や領土問題を抱える国は多数存在する。例えば南シナ海やカシミール地域、コーカサスや中東の一部地域では、領土問題が長期的な緊張を生んでいる。これらの地域の当事国や勢力が力による領土変更が国際社会に受け入れられる可能性を認識すれば、似たような行動を模倣する誘惑が高まる。このような模倣効果は地域紛争の激化を招き、世界的な不安定化に繋がる恐れがある。

第三に、国家主権と国際法の原則に対する信頼が損なわれる結果、国際機関の機能不全を引き起こす可能性がある。国連安全保障理事会や国際司法裁判所(ICJ)、条約体制を通じた平和維持や紛争解決のフレームワークは、法的正当性と中立性を基礎としている。ロシアによるウクライナ領の併合を認めることは、国際司法裁判所が下す判決や国連安全保障理事会の決議に整合しない行動となり、これら機関への信頼性を低下させる。国際社会が法的原則に基づく紛争解決を支持するという基本的枠組み自体が疑問視されるようになり、国際機関が有効に機能しなくなるリスクが高まる。

第四に、経済面でも深刻な影響が生じる。現代のグローバル経済は多国間協力の下で発展してきた。併合を認めることは国際経済システムの安定性に疑問を投げかけ、外国直接投資や国際貿易の面で不確実性を増大させる。資本市場は政治リスクに敏感に反応し、国際法秩序の崩壊懸念は投資・貿易の停滞を招く可能性がある。さらに、武力による併合を容認する態度は経済制裁の効果を弱め、制裁政策が紛争抑止の手段としての有効性を失う可能性がある。これにより、国際経済の秩序化された統治メカニズムが損なわれ、経済的緊張や保護主義的傾向が強まるリスクがある。

第五に、人道的・社会的側面も重大な影響を受ける。併合が国際社会に受け入れられれば、紛争下にある市民の人権保護や避難民の保護に関する国際的枠組みが弱体化する。とりわけウクライナ国内の避難民、難民、および戦争被害者に対する国際的保護メカニズムは、国家主権尊重と法の支配に基づいて構築されている。併合を認容することは、人道的保護の基盤を揺るがし、戦争被害者の苦しみを長期化させるリスクがある。また、併合を認めることで強制移住や民族浄化といった人道的危機が恒常化する恐れがあり、国際的な人権保護の原則が大きく後退する懸念がある。

最後に、軍事バランスと地域安全保障体制にも深刻な影響が生じる。併合が認められれば、それは軍事力行使が外交的な成果に結びつくという信号を国際社会に送る。その結果、地域安全保障体制は軍事的抑止力を重視する方向にシフトし、軍拡競争を促進する可能性がある。隣接諸国は自国防衛を強化するために軍事支出を増加させ、地域全体での軍事緊張が高まる可能性がある。このような軍事バランスの変化は国際的な安定に逆行し、平和維持努力を複雑化させるであろう。

以上より、ロシアによるウクライナ領の併合を国際社会が認めることは、国際法秩序、地域安全保障、経済的安定、人道的保護、国際機関の機能に深刻な悪影響を与える可能性が高い。このような影響は長期にわたり国際社会全体に波及するため、力による現状変更を容認するような合意は慎重に回避されるべきである。


以下では、ロシアによるウクライナ侵攻のタイムラインと、アメリカが示した和平案の問題点について整理する。国際機関・専門家・信頼できるメディアの情報を基に時系列・論点ごとにまとめた。


◆ ロシアによるウクライナ侵攻のタイムライン

2014年:クリミア併合と東部紛争の始まり

  • 2014年2月〜3月
    ロシアはウクライナのクリミア半島を軍事力で制圧し、国際的に非難される形で併合した。これにより米欧は経済制裁を発動し、ウクライナ東部の親ロシア派勢力との紛争が激化した。

2022年:全面侵攻開始

  • 2022年2月24日
    ロシアがウクライナに対して全面的な軍事侵攻を開始した。この侵攻は、欧米諸国や国連が国際法違反として一斉に非難する事態となった。大規模な戦闘により多数の民間人が犠牲となり、都市部が破壊された。

  • 2022年春〜夏
    国連が人道的停戦や援助物資の通過と避難のための一時停戦案を提案したが、ロシア側は受け入れず戦闘が継続した。

  • 2022〜2023年
    戦線は東部および南部を中心に膠着状態となり、世界各国は軍事支援・経済制裁・外交的圧力を強化。また米欧による包括的な和平提案や停戦案が複数回提出されるも、実効性のある停戦には至らないまま戦闘が継続した。


2023年〜2024年:戦争長期化と国際社会の対応

  • 2024年
    戦闘は継続し、占領地域の支配状況に変化があった。ウクライナと西側諸国は追加的な軍事および経済支援を行い、ロシアは地上戦闘・ミサイル攻撃を継続した。また国連や国際機関は戦争犯罪・人道危機に関する調査・支援を展開。


2025年:和平交渉と外交努力

  • 2025年2月24日
    侵攻開始から3周年。国連総会などでロシア非難決議や戦闘終結を求める国際的な動きが続くが、米露間で意見の隔たりが依然として明確であるとの報告が出た。

  • 2025年2〜3月:アメリカの停戦提案と初期交渉

    • 3月初旬、アメリカはロシアとの30日間停戦案を提示し、ウクライナ側はこれを受け入れる用意を表明。ロシアの対応を待つ段階となった。

    • 同月末、トランプ大統領とゼレンスキー大統領が会談するも合意には至らず、外交協議が継続された。

  • 2025年8月〜11月:大規模和平案の提示と調整

    • 米国は28項目を含む和平案(後に19項目に整理)を提示。ウクライナおよび欧州諸国との協議を進める中で、一部調整が行われた。

    • アメリカ主導の案には領土・軍縮・NATO関連など複数の重要項目が含まれ、欧州との修正提案の相違点が表面化した。

  • 2025年12月中旬
    米露が和平協議のための接触準備を進めており、米側はモスクワ訪問など外交努力を継続。ロシアは和平協議に応じつつも領土要求を繰り返し、ウクライナの主権回復をめぐる対立が継続している。

  • 同時期の情報

    • 米情報機関はロシアがウクライナ全土の掌握を戦略目標として維持していると評価しており、和平交渉と現実の戦略が一致していない可能性を示している。


◆ アメリカが示した和平案の主な内容と問題点

アメリカが提示した和平案は、戦争終結と将来の安全保障を包括する大規模な提案であり、以下のような主要要素を含んでいる(複数の報道・専門分析に基づく)。


1. 領土問題の扱い(クリミアおよび占領地)

概要:
アメリカ案には、ロシアが2014年から占領しているクリミア半島および2022年以降に占領したウクライナ東部・南部地域の扱いが含まれている可能性が指摘された。これには現在の戦線を事実上固定化し、ロシアの支配を認める形になるとの懸念がある。

問題点:

  • この扱いはウクライナ側が「国土割譲」と認識し強く拒否しており、主権回復を否定する内容との批判がある。

  • 専門家らは、武力による領土変更の容認につながりかねず、国際法秩序の基盤を揺るがすと指摘している。


2. 軍事力制限(ウクライナ軍の規模制限)

概要:
和平案にはウクライナ軍の規模制限が含まれているという報道があり、これは戦後軍事バランス調整を意図したものとみられる。

問題点:

  • ウクライナはロシアの軍事的脅威に対抗するために軍事能力維持を重視しており、規模制限は自国防衛能力を弱める可能性があるとの懸念を示している。

  • 欧州案との比較でも、米案は軍縮に積極的である一方で欧州はより柔軟な制限を主張している。


3. NATO加盟と安全保障条項

概要:
米案にはウクライナのNATO非加盟を事実上前提とする項目や、憲法にその旨を明記する案が含まれるとの報道がある。

問題点:

  • ウクライナは安全保障の最終保証としてNATO加盟を希望しており、非加盟条項はその希望と矛盾する。

  • またNATOや欧州諸国内にも加盟可能性を完全に否定すべきではないとの意見があり、米案は西側内部でも意見が分かれている。


4. 外交的公平性への疑問

批判:
メディアや専門家は、米案が「侵攻側に有利」となる可能性を指摘した。これにはロシアの領土現状を事実上固定化する要素や、戦勝的要素を含む条項があるとの批判がある。


5. 米国外交内部の評価の分裂

状況:
米国自身の情報機関は、プーチン政権が戦争遂行意図を変えていないとの評価を示しており、和平交渉の前提となるロシアの動機分析に関して米政府内部で評価の不一致があるとされる。

問題点:

  • 米政権の和平案が最終目標と戦略的現実と整合しない可能性があるとの指摘があり、交渉の持続可能性や実効性に疑問符がついている。


◆ まとめ
  1. 侵攻タイムライン: 2014年のクリミア併合から2022年の全面侵攻、その後の戦闘・外交が継続し、2025年では和平交渉のための大規模外交努力が行われている。

  2. 米和平案の内容: 領土・軍事力・安全保障に関する複数項目を含む包括案であり、欧州案との差異やウクライナ側の主権回復願望と衝突する部分がある。

  3. 主な問題点: 領土割譲の事実上容認、軍事力制限、NATOと安全保障条項、及び外交的公平性への疑問が挙げられている。


和平案の比較表(米国案 vs EU案 vs ウクライナ案)
項目米国案(第2次トランプ政権主導案)EU案(欧州連合・欧州主要国)ウクライナ案(ゼレンスキー政権)
基本的性格早期停戦・戦争終結を最優先する現実主義的・妥協型和平案国際法秩序とウクライナ主権を重視する原則重視型主権回復と侵略責任の明確化を重視する正義優先型
停戦の位置づけ即時停戦を最優先、現行の戦線で凍結する可能性停戦には同意するが、領土問題は未解決のまま固定化しないロシア軍撤退を伴わない停戦には否定的
領土問題(占領地)現行支配線の事実上承認を含む可能性(最重要な論争点)占領は認めず、最終的地位は将来交渉または国際枠組みで決定2014年以降に失った全領土の回復を絶対条件
クリミアの扱いロシア支配を黙認または棚上げする余地国際法上はウクライナ領と明確に位置づけクリミア完全奪還を明確に主張
国際法との整合性実務的解決を優先し、国際法原則が後退する懸念国連憲章・武力不行使原則を強調国際法違反の是正を和平の前提とする
ウクライナのNATO加盟原則否定または長期凍結(憲法明記案を含む報道あり)将来的可能性を排除せず(即時加盟ではない)NATO加盟を最終的安全保障目標と位置づけ
安全保障の枠組みNATO条約5条に「類似」した保証(法的拘束力は限定的)欧州主導の多国間安全保障枠組みを構想NATO正式加盟、またはそれと同等の法的保証
ウクライナ軍の規模軍備・兵力制限を含む可能性制限には慎重、自己防衛能力を尊重軍事力制限を全面的に拒否
ロシアへの制裁停戦・合意進展と引き換えに段階的緩和を検討原則として制裁維持、条件付きで部分緩和制裁維持・強化を主張
戦争犯罪の扱い和平優先のため明確な処罰規定を避ける傾向国際刑事裁判所(ICC)との連携を支持ロシア指導部の戦争犯罪責任追及を必須とする
復興支援米欧主導の国際基金設立、ロシア資産の一部活用も検討凍結ロシア資産の活用を含む大規模復興計画賠償責任をロシアに明確に負わせる
ロシアの立場への配慮ロシアの「安全保障上の懸念」を一定程度考慮ロシアの懸念は考慮するが侵略の正当化は否定ロシアの主張は侵略の口実として全面否定
交渉の優先順位戦争終結 → 安定 → 長期問題は後回し原則維持 → 停戦 → 長期秩序形成正義の回復 → 安全保障 → 和平
国際社会への影響評価「現実的だが危険な前例」を作る可能性国際秩序維持を意識国際法秩序の再確認を重視

補足的整理(比較の要点)

1. 最大の対立点:領土問題

三案の最大の相違点は「領土をどう扱うか」にある。

  • 米国案は「事実上の凍結」を通じた早期停戦を志向

  • EU案は「不法占領は認めないが即時解決は困難」という折衷

  • ウクライナ案は「完全回復以外は和平ではない」という立場

2. 安全保障の考え方の違い

  • 米国案:NATO加盟を回避し、代替的保証で妥協を図る

  • EU案:法的拘束力を持つ保証を模索

  • ウクライナ案:NATO加盟こそが唯一の抑止力と認識

3. 国際秩序への影響認識

  • 米国案は「戦争を止めること」を最優先

  • EU案とウクライナ案は「戦争を止める方法」が将来の国際秩序を左右すると認識


総括

この比較から明らかなように、

  • 米国案は「早期停戦と現実的妥協」を重視するが、
    → 力による現状変更を事実上容認する危険性を内包する

  • EU案は「国際法と現実の調停」を試みる中間的立場

  • ウクライナ案は「主権・正義・国際法の回復」を最優先とするため、短期的合意は最も困難

和平交渉の難航は、単なる利害対立ではなく、「戦争をどう終わらせるべきか」という国際秩序観の衝突に根差していることを、この比較表は端的に示している。

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