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コラム:2026FIFAワールドカップの展望、史上空前の規模に

2026年FIFAワールドカップは、48チーム・104試合という史上空前の規模で開催され、三国共同開催という政治的・経済的にも特異な構成を持つ。
2022年12月18日/FIFAカタール大会、アルゼンチン代表(Manu Fernandez/AP通信)

2026年FIFAワールドカップ(以下「2026年大会」)は、史上初めて三国共同開催となるアメリカ合衆国、カナダ、メキシコ(United 2026)で行われる予定である。大会期間は2026年6月11日から7月19日で、決勝を含む大会日程は夏期の北米高温期に重なる一方、各地のスタジアム改修や気候対策が進められている。FIFAはこの大会から本大会参加国数を従来の32から48に拡大し、大会方式・出場枠・日程設計を大幅に変更した。これにより大会の規模は拡大し、参加国・観客・放映市場の裾野も広がることになる。

同時に、拡大による商業面の利益と運営上の負担(移動負担、選手のコールドチェーンやコンディショニング、審判・ボランティア配置など)が議論されている。組織面ではFIFAと3ホスト協会(USSF、Canada Soccer、FMF)が協調して運営計画を詰めており、主要都市と競技場の最終整備、輸送インフラの確保、観客動線の設計、セキュリティ計画が現在進行形で整備されている。

また、2025年末時点で本大会出場枠の大半は確定しているが、若干のプレーオフ枠は2026年3月にかけて決定される見込みである。組み合わせ抽選会(グループステージ抽選)は2025年12月5日に開催され、12グループの組み合わせが決定した(抽選では開催国の自動配置やポット分けルールが適用された)。


アメリカ・カナダ・メキシコの北中米3か国による共同開催(歴史的意義と役割分担)

2026年大会は三国共同開催という意味で大会史上稀有の事例となる。3国はそれぞれホスティングに関する明確な役割分担を行っている。最終候補都市と競技場は選定済みで、会場割り当てはアメリカが大会の大半(特に準々決勝以降)を受け持ち、メキシコとカナダもグループステージおよび一部ノックアウトをホストする。大会当初の提案と修正を通じて、104試合中の開催配分は米国が多数、メキシコとカナダがそれぞれ一定数を担当する方式が取り決められている(メディア報道や入手可能な資料では米国が最多の試合数を受け持つことが示されている)。

歴史的意義としては、北中米共同開催はサッカー文化の異なる3国が協働して大会を作るモデルであり、メキシコは過去に1970年・1986年で大会開催経験がある一方、カナダは比較的若いが近年の女子ワールドカップ共催経験などを踏まえて設備面が強化されている。アメリカはスタジアム設備と商業力で大会運営の骨格を担う見込みだ。三国共催は地理的に近接している利点を活かして移動負担を抑え、観光や経済効果を地域横断的に波及させる狙いがある。


大会概要と変更点(48チーム化の要点)

2026年大会で最も目立つ変更点は本大会参加チーム数の増加(32→48)である。新フォーマットの主要ポイントは次の通りだ。

  • 参加チーム数は48か国に拡大する。

  • グループステージは4チームずつの12グループ(A〜L)で構成される。各グループ上位2チームに加え、成績上位の3位グループ(ベスト8の3位)が決勝トーナメント進出枠となり、ラウンド32(ベスト32)を形成する。トーナメントはそこからノックアウト方式で準々決勝・準決勝・決勝へ進む。従来のラウンド16直行ではなく、まず32に拡大する点が変化である。

  • 総試合数は104試合に増加する。これは放映機会や商業収入の増加を意味する一方、選手の消耗や大会期間中のスケジュール密度の増大という課題をもたらす。

  • 大陸別出場枠が全体として増加しており、とくにアフリカ(CAF)やアジア(AFC)といった地域にとって出場機会が拡大した。詳細な配分はFIFAの合意に基づき決定され、各連盟での予選フォーマットもこれに合わせて改編された。

これらの変更は「世界中にサッカーの機会を広げる」ことを目的にしているが、同時に競技レベルの均質化・大会密度の問題・放映スケジュールの最適化など運営面の複雑化を引き起こしている。


大会方式(試合数、グループ・ノックアウトの詳細)

大会方式を具体的に整理する。

  1. グループステージ

    • 12グループ×4チームで計48チームを編成する。各グループは総当たり(1回)で実施し、各チームが3試合を行う。勝ち点方式で順位を決める(勝ち3、引分け1、負け0)。

  2. 決勝トーナメント(ラウンド32以降)

    • 各グループの1位・2位の24チームに、各組の成績上位の3位8チームを加え、合計32チームでラウンド32(ベスト32)を編成する。そこからシングルエリミネーション方式で勝ち上がっていく。これにより、従来の16チームノックアウトに比べて1段階多いノックアウトラウンドが導入される。

  3. 総試合数・日程設計

    • 総試合数は104試合。グループステージで48×3/2 = 72試合(実際は各組6試合×12組=72試合)に加えて、ラウンド32で16試合、ラウンド16で8試合、準々決勝4試合、準決勝2試合、3位決定戦1試合、決勝1試合を合わせて104試合となる。日程は6月中旬〜7月中旬の約5〜6週間で運営される計画であり、連戦や移動による選手負荷を軽減するためにスタジアム配置と日程調整が重要になる。


大陸別出場枠の増加(データと影響)

拡大に伴い大陸別の出場枠は再配分された。概略は以下のとおり(政策決定や報道に基づくまとめ。最終的なプレーオフ枠などは変動し得る)。

  • UEFA(欧州):16枠

  • CAF(アフリカ):9枠

  • AFC(アジア):8枠

  • CONMEBOL(南米):6枠

  • CONCACAF(北中米カリブ海):3枠+3ホスト枠(米、メキシコ、カナダの自動出場)

  • OFC(オセアニア):1枠

  • プレイオフ経由などで追加枠が設定される(インターコンチネンタル・プレーオフで2枠など)。

この配分により、特にアフリカとアジアは従来よりも多くの国が本大会に参加できるため、代表強化や国内サッカー振興の起爆剤になる可能性が高い。各地域の予選競争も激化する一方、出場国の多様化は本大会の「地球規模性」を象徴することになる。


優勝候補と展望(データに基づく分析)

優勝候補は従来の強豪に加え、大会直前のコンディションや主力の負傷・移籍状況、予選時の戦績などを総合して判断される。データ解析やブックメーカー、サッカーデータ機関(OptaやThe Analystなど)の確率モデルによれば、上位候補は以下のように見積もられることが多い。

  • アルゼンチン:2022年大会の優勝国として選手層・精神的優位がある。メッシらベテランの去就と新陳代謝が鍵。

  • フランス:タレントの厚さと若手の台頭で依然有力。戦術柔軟性と選手層が豊富で、短期トーナメントに強い。

  • スペイン:ビルドアップの質と若手の成長で常に候補。組織力とボール支配が武器。

  • ブラジル:伝統的な強豪であり失点率の低減と攻撃力で常に優勝争いに絡む。

  • イングランド、ポルトガル、ドイツなども有力候補に数えられる。

データモデル(例:Opta系のスーパーコンピュータ的解析)では、1チームに与えられる優勝確率は大会開始時点で二桁台の%(10%前後)に収束するケースがあるが、拡大による参加チーム増加は「番狂わせ」の可能性を相対的に高める。つまり大会が長く・広くなるほど幾つかのダークホースが台頭する確率も上がる。特に予選での好調国や近年国際試合で力をつけている国(アフリカやアジアの上位国)は、グループ突破後に勢いを持続できれば番狂わせを起こし得る。


優勝候補(個別コメント)
  • アルゼンチン:守備の堅さと決定力が鍵。世代交代の成功度が優勝可否を左右する。

  • フランス:選手層の厚さで短期決戦に強い。戦術の選択肢が多く、相手に合わせた布陣変更が可能。

  • スペイン:保持と連動の質が高く、対戦相手に応じたリズム変化ができれば優勝まで可能。

  • ブラジル:個の打開力が依然として強力だが、守備の安定が課題。大会中の戦術整備が重要。
    これら優勝候補については各種予測モデルやブックメーカーのオッズを参照すると、アルゼンチン・フランス・スペイン・ブラジル・イングランドが上位に並ぶことが多い。


日本代表の展望(戦力分析と戦術的課題)

2025年末時点で日本は2026年大会出場を決めており、8大会連続の出場を達成した(本件は代表の継続的な安定性を示す重要な指標である)。日本代表の強み・弱みを整理すると次のとおりである。

強み

  • 若手の欧州育ち選手が増え、技術と戦術理解が向上している。中盤のボール保持や組み立ての質が改善され、カウンター時のスピードも高い。

  • 監督による戦術の浸透と守備組織の改善。近年はブロック形成やハイプレスの統一が進んでいる。

  • メンタリティ面での成長:大会経験を積んだ選手が多く、メジャー大会でのプレッシャー耐性が向上している。

弱み/課題

  • フィジカルの差が出やすい対欧米の強豪相手における競り合いと空中戦の脆弱性。

  • トップレベルの決定力(得点源の絶対化)が不足している局面がある。大会で勝ち上がるには一発の決定力を補う戦術が必要だ。

  • ロングツアー・アメリカ大陸横断スケジュールでのコンディショニングと疲労管理が鍵になる。特に日本からの長距離移動を含む移動が影響する可能性がある。

戦術的展望

  • グループステージでは守備的安定をベースに素早い縦のカウンターで得点を狙う現実的プランが有効だ。相手に応じてボール保持を増やす柔軟性も求められる。

  • ミッドタレントの起用や交代カードをどう使うかが勝敗を分ける。データ解析による相手選手の弱点突きや、セットプレーの精度向上も重要である。

総じて、日本は「グループ突破→ラウンド32以降での一戦必勝」という現実的目標が現実味を帯びる。トップ8〜16入り(ベスト16)を目指すには、得点力向上と対フィジカル対策が不可欠だ。


グループステージ組み合わせ抽選会(12月5日)の意義と結果概要

2025年12月5日にワシントンDC(Kennedy Center)などで実施されたグループ抽選は大会準備の重要なマイルストーンだ。抽選ではホスト国(メキシコ、カナダ、米国)が事前に特定グループに配置され、残りのチームはFIFAランキングや大陸分布ルールに基づく複数ポットから引かれた。抽選結果はトーナメントの展望を具体化し、各国の大会運営・戦術準備にも直接影響を与える。特に「死の組」や「好カード」の出現は大会のストーリー性を高める。

抽選の後、メディア解析やデータモデルは各グループの相対強度を提示しており、これに基づいて各国はフレンドリーマッチの相手選定や戦術準備を調整する。抽選会は同時にチケット販売や放映スケジュールの最終調整にも資するイベントである。


経済・商業面の影響(放映・チケット・観光)

大会の拡大は放映権・スポンサーシップ・チケット売上の増加を想定しており、これらはFIFAおよびホスト国の収入源を拡充する。ただし、チケットの高額化や転売市場の出現、多数試合開催によるチケット需要の分散も指摘されている(報道では決勝戦の高額転売が問題視されている)。放映スケジュールも試合数増加で密度が上がり、各国の放映局はキックオフ時間帯の最適化と多チャンネル同時放映を強化している。

観光面では開催都市に経済効果が波及する一方、インフラ整備投資の回収や大会後利用(レガシー)の設計が重要になる。過去大会の教訓を踏まえ、持続可能なインフラ投資と地元経済への長期効果を見据えた計画が求められている。


技術・運営面の留意点(審判、VAR、選手保護)

技術面ではVAR(ビデオアシスタントレフェリー)運用の一貫性、ゴールライン技術の標準化、選手の健康管理(熱中症対策やリカバリー政策)、およびデータ解析を活用した審判サポートの強化が注目される。拡大による試合数増加で審判団の負担も増すため、審判のローテーション計画と技術研修が重要になる。これらの分野ではFIFA・各連盟がガイドラインを出しており、実運用の整合性が大会の公平性に直結する。


今後の展望(戦略的示唆と注目ポイント)

最後に、今後注視すべきポイントをまとめる。

  1. 選手のコンディション管理とローテーション戦略
    大会が長期化・試合数増加する中で、トップ国は選手起用の最適化(休養日設定、交代カードのタイミング)をデータで設計する必要がある。医学・スポーツ科学の導入が勝敗に直結する。

  2. 日本代表の戦術適応
    日本はボール保持とカウンターを柔軟に切り替えられる布陣の確立、セットプレーでの得点確率向上、フィジカル面の強化を進めることでベスト16以上を狙える。欧州の主要リーグでプレーする選手の起用法や連携構築がカギになる。

  3. 大会運営の実効性
    スタジアム間の移動、選手と観客の安全、暑熱対策、交通インフラが滞りなく機能するかどうかが大会成功の重要要素だ。三国共同開催の利点を活かしつつ、局所的な負担が過度に集中しないよう計画される必要がある。

  4. 番狂わせの可能性
    48チーム化はダークホースの台頭を後押しする。特にアフリカ・アジアの勢いあるチームや、予選で好調の中堅国はグループ突破からトーナメントで躍進する可能性がある。データ解析モデルは上位国に有利だが、トーナメント特有の不確実性も高い。

  5. メディアとファンの関心
    抽選発表やスター選手の起用、欧米以外の強国の台頭によって大会への関心は高い。放映局やSNSを通じたストーリーテリングが大会成功に寄与する。


まとめ

2026年FIFAワールドカップは、48チーム・104試合という史上空前の規模で開催され、三国共同開催という政治的・経済的にも特異な構成を持つ。競技面では拡大によって出場機会が広がり、多様な国々が世界舞台で経験を積めることは世界サッカーの健全な発展に寄与する一方で、運営上の複雑性や選手負荷といった課題も顕在化する。優勝候補はアルゼンチン、フランス、スペイン、ブラジルら伝統的強豪だが、拡大による不確実性の増加はダークホースの可能性を高める。日本は8大会連続出場の実績を踏まえ、戦術面の最適化とフィジカル強化でベスト16以上を現実的な目標に据えられる。抽選結果、プレーオフの行方、選手コンディションなど今後の要素次第で大会の風景は大きく変わるだろう。


参考(主な出典)

  • FIFA公式(大会概要・開催国情報等)。

  • 各種報道(AP、Reuters、CBSなど/抽選や日程に関する現地報道)。

  • 大会フォーマット・予選配分に関するまとめ(Qualification / FIFAリリース)。

  • データ解析・予測(Opta/The Analyst 等の予測モデル記事)。

  • 日本代表の出場確定・展望に関する報道・分析(Olympics、ESPN等)。

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