コラム:マイナンバーカード、現状と課題 25年11月
マイナカードは本人確認、行政手続きのオンライン化、マイナポータル、マイナ保険証、コンビニ交付など多機能を有する重要な公共インフラである。
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マイナンバーカード(マイナカード)は、日本政府が個人番号(マイナンバー)制度とともに導入したICカード型の本人確認・公的サービス利用基盤であり、住民票や各種行政手続き、オンライン認証、健康保険証としての利用など、多様な用途に拡大している。近年は普及が大幅に進み、国民の多くが保有する段階に入っている一方で、利用率や地域間格差、プライバシーやセキュリティへの懸念、利用時のトラブルといった課題も顕在化している。政府は普及促進・機能充実を進めると同時に、利便性向上と安全性担保の両立に取り組んでいる。
マイナンバーカードとは
マイナカードは表面に氏名・住所等の記載があり、カード内にICチップを搭載する本人確認カードである。ICチップには利用者証明用電子証明書や署名用電子証明書、公的個人認証に必要な情報が格納されている。カードは住民基本台帳と紐づいて発行され、自治体窓口や郵送で交付される。オンライン申請やコンビニ交付、マイナポータルを経由した行政サービス連携、健康保険証としての利用(マイナ保険証)など、紙ベース・対面ベースでの官民サービスのデジタル化を支える基盤となっている。
普及状況(保有率・交付数)
政府の公表や自治体集計によれば、マイナカードの普及率はここ数年で大きく上昇しており、国民の過半数を超えている。民間メディアや地方自治体のまとめを含めた最新の報告では、令和7年(2025年)夏頃までに保有率は概ね7〜8割台に達しているとの報告がある(25年8月末時点で保有枚数約9,884万枚、普及率約79.4%とする報告)。政府公式ダッシュボードでも保有状況が随時更新されており、地域ごとの差異や年齢別の保有傾向も可視化されている。普及率上昇の背景には、政府のポイント還元・手続き簡素化キャンペーンや自治体の周知、コンビニ交付等の利便性向上策がある。
申請・交付(流れと手段)
申請方法は主に次のとおりである。郵送で受け取る通知カードや個別通知に同封された申請書を使う方法、スマートフォンやパソコンからオンライン申請(写真添付)を行う方法、窓口での申請支援(自治体や一部コンビニ窓口での支援)などがある。申請後は、自治体での本人確認を経て交付通知が届き、原則として本人が市区町村窓口で本人確認書類を提示して受け取る。受取時には本人の来庁を原則要するが、代理受取制度を設けている自治体もある。近年はスマホと連携してカードをスマホに搭載する(モバイル版マイナンバーカード)技術の普及や、交付方法の利便性改善が進んでいる。
普及のきっかけ(政策・キャンペーン)
マイナカード普及拡大の転換点は、政府が生活利便性向上を謳ったポイント付与や、行政手続きの簡素化、健康保険証利用の推進といった政策パッケージである。例えばポイント交付キャンペーン(一定期間のポイント還元)やマイナポイント制度を通じて国民の取得動機を高めたことが挙げられる。また、コンビニでの各種証明書発行(コンビニ交付)を全国規模で整備したことが、日常的な利用機会を増やし、普及を後押しした。さらにコロナ禍での給付金配布やオンライン手続きの必要性が普及の追い風となった。
主な利用とメリット
マイナカードの主な利用は多岐にわたる。本人確認(公的身分証明)、行政手続きのオンライン申請、各種証明書の窓口・コンビニ交付、マイナポータルでの行政情報一元管理、医療機関でのオンライン資格確認(マイナ保険証)、公金受取口座の登録による給付金受取りの簡素化などである。メリットとしては、(1)窓口手続きや書類提出の簡略化、(2)コンビニ等での証明書取得により利便性が向上する点、(3)マイナポータルで自分の行政受給記録や申請状況を確認できる点、(4)マイナ保険証を使えば薬剤情報や重複投薬のチェックなど医療の質向上につながる点などがある。これらは時間的コストの削減や行政コストの低減、利用者の利便性向上に直結する。
公的身分証明書としての位置付け
マイナカードは写真付きの公的身分証明書として広く認められている。免許証を持たない高齢者や若年層にとっては、本人確認書類としての有力な代替手段となる。各種金融機関や民間サービスでも本人確認に利用されるケースが増えており、身分証明書としての価値が高まっている。本人情報をICチップで確実に確認できる仕組みは、なりすまし防止にも寄与する一方、カード自体の保管や情報管理の責任が利用者側にも生じる。
各種証明書のコンビニ交付
コンビニ交付は、住民票の写しや印鑑登録証明書などを全国のコンビニ端末から取得できるサービスで、マイナカードの普及と並走して導入が進んだ。地方公共団体情報システム機構(J-LIS)などの整備支援により導入団体数は拡大し、交付件数も増加している。コンビニ交付の導入によって、夜間や休日でも証明書を取得できるようになり、市民の利便性が高まった。導入自治体や設置拠点数、交付件数は定期的に更新されており、導入効果は高いと評価されている。
マイナポータル(個人向けオンラインサービス)
マイナポータルは自分に関する行政情報(申請・給付履歴、年金情報、届出状況など)を一元的に閲覧できるオンラインサービスである。ポータルを通じて各行政機関との連携状況を確認したり、行政からの通知を受け取ったりできる。利点は、自分に紐づく行政情報をワンストップで確認できる点であり、不透明な手続き状況の可視化や権利保護につながる可能性がある。マイナポータルの利用状況はデジタル庁のダッシュボードで公開されており、利用者数やログイン状況などが把握できる。
健康保険証としての利用(マイナ保険証)
マイナカードを健康保険証として登録し、医療機関でオンライン資格確認を行う仕組みを「マイナ保険証」と呼ぶ。これにより、医療機関は患者の保険資格確認を迅速化でき、薬剤情報の照合や重複投薬の防止、特定健診結果の参照など医療安全と質の向上に資する。厚生労働省の公表データによると、マイナ保険証の利用登録・利用件数は年々増加しているが、利用率は段階的に拡大しており(25年6月時点で利用率約30.6%)、医療現場での普及にはまだ課題が残る。医療機関側のシステム整備、端末導入、利用手順の定着が普及を左右する重要要因である。
公金受取口座登録(給付金の受取簡素化)
マイナポータルを通じて公金受取口座を登録しておくと、給付金や年金、児童手当、還付金等を口座振込で受け取る際、書類提出が不要になり事務処理が簡素化される。災害時や一時的な給付を迅速に届けるインフラとしての期待も大きい。政府は公金受取口座の登録促進を進めており、登録状況はダッシュボードで公開されている。登録が進めば、自治体・政府側の事務負担軽減と住民への給付スピード向上が見込まれる。
課題とトラブル(全体像)
普及が進む一方で、課題も複数ある。主な問題は次のとおりである。
情報流出への懸念:個人情報を一元的に扱うことによる漏洩リスクや、万が一の不正利用への不安が根強い。セキュリティ対策は強化されているが、技術・運用面の不備があると被害が拡大する可能性がある。
利用時のトラブル:読み取り機器との相性、カードの磁気・IC不具合、券面情報と実際の住民情報の不一致など、現場でのトラブル報告がある。特に高齢者などITリテラシーが低い層に対するサポートが不可欠である。
地域間・世代間の格差:都市部と地方、若年層と高齢層で利用率や利便性の利き方に差があり、行政サービスのデジタル格差を生む懸念がある。
医療現場の受け入れ体制:マイナ保険証の利用拡大には医療機関側の設備投資や運用負担が伴うため、費用負担・操作教育・システム連携が課題となる。
情報流出への懸念(詳細)
個人番号や医療情報などセンシティブな情報を扱うことから、情報流出時の影響は大きい。政府や関係機関は暗号化、アクセスログ管理、多要素認証、システム監査などのセキュリティ対策を講じているが、それでも人的ミスやシステムの脆弱性、第三者提供の取り扱いなど運用面でのリスクは残る。さらに、SNS等で誤情報や不安が拡散すると普及の足かせになるため、透明性のある説明と事故発生時の迅速な対応が求められる。個人側もカード紛失時の手続きやPIN管理(暗証番号)について正しい理解が必要である。
利用時のトラブル(事例と対応)
実際のトラブル事例としては、カード読み取りに失敗して証明書が発行できない、マイナ保険証のオンライン資格確認ができず窓口対応が必要になる、スマホ搭載での不具合、カード更新・再発行の手続き遅延などがある。自治体や医療機関は専用窓口やヘルプデスクを設けて対処しており、国も運用マニュアルやガイドラインを更新している。利用前に対応フローを確認し、トラブル発生時に備えた本人確認書類の代替手段を準備しておくことが重要である。
マイナ保険証の課題(詳細)
マイナ保険証は医療情報の利活用に資するが、導入障壁が存在する。医療機関側の設備投資(資格確認端末やカードリーダー)、院内業務フローの変更、職員への操作教育が必要になる。さらに、患者側ではカード未登録やスマホ搭載の有無によって受診時の手続きが変わるため、混乱が生じる場合がある。利用率が一律に上がらないと医療機関側の投資回収が難しい局面もあり、補助金や支援策の継続が普及に影響する。また、利用解除や登録変更の手続き、誤登録時の修正フローなど運用面の整備も課題である。
公金受取口座の課題と利便性の限界
公金受取口座登録は給付の効率化に寄与するが、一方で口座情報の誤登録、第三者によるなりすまし登録、金融機関システムとの連携不整合、そして高齢者等の手続き負担が懸念される。口座登録を促すインセンティブはあるが、本人確認の徹底や金融機関側のチェック体制強化が不可欠である。また、すべての公金給付が口座振込で処理可能になるわけではないため、紙や別の受取手段が残る限り完全な事務効率化は限定的である。
今後の展望(短中期)
短中期的には、政府はマイナカードの「利便性向上」と「安全性強化」を両輪に制度運営を進める方針である。行政の多様な手続きと連携し、ワンストップ化を進める一方で、マイナポータルのUX改善、コンビニ交付の拡充、マイナ保険証の医療現場導入支援、モバイル対応の推進などが想定される。セキュリティ面では、運用ログの監査強化、暗号化技術の更新、第三者評価の導入などが進められる見込みである。
機能向上と一体化(中長期ビジョン)
将来的には、マイナカードをデジタル社会の共通ID基盤としてさらに一体化し、行政サービス、社会保障、医療、税、金融など多分野での安全なデータ連携基盤とする計画がある。次世代カードの導入検討や、国際基準に準拠した認証方式の導入、より安全で使いやすいモバイル認証(スマホへのカード格納・生体認証の活用)などが議論されている。これらはデジタル・ガバメントの中核を担うため、透明性・監査性・国民説明責任を確保しながら進める必要がある。
次期カード導入の検討(技術と制度)
カードのライフサイクルや暗号方式の陳腐化を踏まえ、次期カードや更新方針の検討が進む可能性がある。具体的には、より強固な公開鍵基盤(PKI)の採用、署名アルゴリズムの更新、耐量子暗号への備え、スマホ利用の公式化・簡素化、さらには多要素認証の標準化などが技術的候補に挙がる。制度面では、個人情報保護ルールの明確化、第三者提供時の同意管理強化、データ最小化の原則の運用が重要になる。これらの検討は国際的な潮流や標準化動向とも整合させる必要がある。
デジタル社会の基盤としての位置付け
マイナカードは単なるIDカードではなく、行政サービスのデジタル化・効率化を支える共通基盤であり、国民との信頼を前提に運用されるべき公共インフラである。利用者の利便性を高めつつ、プライバシー保護と安全性を確保するために、透明性ある運用、第三者監査、事故時の救済制度、利用者教育とサポート体制の充実が不可欠である。さらに、デジタル・デバイドを解消する施策(窓口支援、出張申請、分かりやすいマニュアル提供等)を並行して進める必要がある。
まとめ
マイナカードは本人確認、行政手続きのオンライン化、マイナポータル、マイナ保険証、コンビニ交付など多機能を有する重要な公共インフラである。
普及率は近年大幅に上昇し、国民の多数が保有する段階にあるが、地域差・世代差・利用格差が残る。
マイナ保険証やコンビニ交付といった実用サービスは利便性を高めているが、医療機関や自治体側の受け入れ整備、端末導入、運用負担の問題がある。
情報流出や不正利用への懸念、運用上のトラブルは依然として重要な課題であり、技術・運用・監査の強化、国民への説明責任が求められる。
今後は利便性向上と安全性担保を両立しつつ、次世代の機能強化や制度設計、デジタル包摂策を進める必要がある。
参考(主な出典)
デジタル庁「マイナンバーカードの普及に関するダッシュボード」およびマイナポータル関連資料。
厚生労働省「マイナ保険証の利用状況・関連資料」。
地方公共団体情報システム機構(J-LIS)によるコンビニ交付整備資料。
報道・地方自治体向けまとめ(例:自治体ワークス等の普及率集計)。
医療関係団体等による利用状況報告(民間団体の集計)。
