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コラム:御嶽山噴火から学ぶべきこと

2014年噴火から時間が経過するにつれて、火山災害に対する注意喚起や防災意識が薄れる危険性がある。防災教育、火山の仕組みの理解、実践的な訓練は風化を防ぐために継続的な取り組みが必要となる。
御岳山(長野県)
現状(2025年12月時点)

2025年12月時点で御嶽山は火山活動の監視・評価が継続されている。気象庁は2025年1月に火山性地震の増加を受けて噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)へ引き上げたが、その後火山性地震が減少したため、2025年5月20日には噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)へ引き下げた。これは火山活動が静穏な状態に戻ったという判断に基づくものであるが、突発的な噴煙・噴石への注意が必要とされている。さらに同年5月には噴火警戒レベルの判定基準が見直され、御嶽山特有の特性を反映した基準へ修正された。これらの動きは火山活動の変動が継続的に評価されていることを示す。


御嶽山(おんたけさん)とは

御嶽山は本州中部、長野県と岐阜県にまたがる標高3,067mの成層火山(Stratovolcano)である。日本国内では富士山に次いで高い火山であり、古来より信仰と登山の対象となってきた。複数の爆発火口と火口湖を持つ複雑な構造を有している。地質調査によると、約780,000~390,000年前に古い火山活動があり、その後300,000年以上の休止期を経た後、現在の火山体が形成されたとされる。過去数千年の間に複数の水蒸気噴火や小規模な爆発が記録されているが、歴史時代の大きな噴火は限定的だったことから、長らく穏やかな山と見なされてきた。


2014年(平成26年)の大噴火

平成26年9月27日午前11時52分頃、御嶽山は突如として水蒸気爆発(phreatic eruption)を起こした。この噴火は地表下の地下水が高温に急激に加熱されて蒸気爆発を生じたもので、マグマが上昇する典型的な前兆現象を伴わないタイプであった。爆発は予測できない形で発生し、当時多くの登山者・ハイカーが山頂付近にいたため甚大な人的被害が生じた。最終的な死者数は63名に及び、5体が未発見のままである。これは日本における戦後最悪クラスの火山災害の一つとされる。


噴火の形態

御嶽山2014年の噴火は水蒸気噴火(Phreatic eruption)であり、地殻内の水が加熱されて爆発的に蒸気化した結果、岩片・噴石・火山灰が噴出した。この形態はマグマが直接噴出する「マグマ噴火」と異なり、前兆現象が極めて少ないことが特徴である。過去の水蒸気噴火では1979年の噴火が有名で、当時は噴煙や噴石は観測されたものの大規模な被害には至らなかった。御嶽山の爆発は、内部水蒸気圧の急激な解放によって引き起こされ、予知が困難なタイプの噴火である。


被害状況

2014年噴火では多数の登山者が噴石や噴煙に晒され、登山路・火口周辺で甚大な死傷者を出した。噴火が週末で好天に恵まれたこと、そして多くの登山者が山頂付近に滞在していた時間帯に発生したことが被害拡大の要因となった。救助活動は火山ガスや危険な地形のために困難を極め、行方不明者の捜索が制限される状況もあった。2014年噴火は日本の火山防災体制に重大な教訓を提供した。


前兆と課題

御嶽山2014年噴火では、顕著な前兆現象がほとんどなかったことが最大の課題であった。火山性地震の顕著な増加や山体膨張といった典型的な兆候は観測されず、噴火直前の数分間にようやくごく小規模な地震活動と微動が確認されただけである。このため、従来の監視手法では明確な予報が困難であり、水蒸気噴火の予測限界が浮き彫りになった。


噴火の約2週間前から火山性地震が増加

気象庁や火山防災研究者の解析では、噴火の約2週間前から微小な火山性地震が増加傾向を示したという報告もあるが、これらは統計的に明確な予兆として設計された監視閾値を超えるものとは言えず、実務上の予測には至らなかった。噴火直前にはわずか10分前に火山性微動が検出されたとの解析結果も示され、水蒸気噴火の短時間性・予測困難性が示された。


2025年現在の状況

2025年に入って御嶽山では火山性地震の増加が確認され、1月16日付で噴火警戒レベルが2へ引き上げられた。これは地獄谷火口周辺1km範囲で噴石や火砕流への警戒が必要との判断であり、地元自治体の指示に従うよう注意喚起された。その後、火山性地震活動が落ち着いたことから5月20日に噴火警戒レベルが1へ引き下げられている。この間に噴火は発生しておらず、活動は比較的静穏な状態と評価されているが、突発的な活動への備えは継続すべきとされている。噴火警戒レベルの判定基準も改定され、御嶽山特有の活動パターンを反映するよう見直された。


2025年1月の活動

2025年1月には気象庁が火山性地震の増加を検出し、噴火警戒レベルを2へ引き上げている。これは火口周辺規制を意味し、地元自治体による登山規制や注意喚起が実施された。報道や気象庁資料では、火山性地震の増加がきっかけで判断されたが、当時は大規模噴火には至らず、後に活動が落ち着いたためレベルは1へ戻された。


現状(2025年12月)

2025年12月の現状では、御嶽山は活火山として火山性地震や火山監視体制の強化対象となっているものの、重大な噴火は発生していない。登山者や地域住民への情報提供、規制体制の維持、迅速な異常検知のための監視強化が続けられている。気象庁・自治体・研究機関は情報共有と防災対策の連携を深める努力を継続している。


登山規制の緩和

噴火警戒レベルが1へ引き下げられたことにより、御嶽山への登山が可能となった。ただし、噴火警戒レベル1は「活火山であることに留意」する段階であり、突発的な噴煙や噴石の可能性について登山者自身がリスク認識を持つことが求められている。ヘルメット等の防護具の携行や登山計画の周到な立案が推奨されている。


歴史的背景

御嶽山は歴史時代には1979年の噴火が最初に記録されているが、その後1980年代以降も小規模な火山活動が散発的にあった。昭和54年(1979年)の噴火では約20万トンの火山灰が噴出したが大きな被害はなかった。その後1991年や2007年の噴火でも比較的小規模な爆発が起こったが、2014年の噴火まで大規模災害はなかった。地質調査ではこれ以前にも数千年以上にわたり複数の水蒸気噴火が起こっていたことが示されている。


御嶽山はかつて「死火山」と考えられていた

部分的に、御嶽山は長い静穏期を経た後に爆発したことから、「死火山」あるいは長い休止期にある火山とされることがあった。しかし地質学的には活動履歴が明確であり、休止期があることは活火山に特有のパターンである。2014年噴火後には「死火山」という概念は実質的に否定され、活火山としての評価が定着した。


1979年の噴火

1979年10月28日、御嶽山は上部の裂け目から火を噴き、茨城県前橋付近まで火山灰を降らせる大規模な噴火を起こした。噴火規模はVEI2程度とされ、約20万トンの火山灰が噴出した。この噴火は歴史時代に記録された最初の噴火であり、その後の監視体制強化の一因となった。


浮き彫りとなった問題点

2014年噴火以降、火山監視体制、情報伝達、防災教育、登山者側のリスク認識など多くの課題が表面化した。この噴火では前兆が乏しく、従来の観測システムでは明確な警告が出せなかったことが大きな問題となった。これにより、気象庁・自治体・研究者・登山者の間で火山災害情報の意味と伝え方に関する議論が活発化した。


水蒸気噴火の予測の限界

水蒸気噴火は地下水が熱源で急激に爆発する現象であり、マグマ上昇に伴う明瞭な前兆(地震増加・地殻変動・ガス放出増大)を示さない場合がある。御嶽山ではまさにこのタイプで噴火が進行したため、一般的な前兆観測手法での予知は困難であった。この限界は火山学の現代的課題となっている。


予兆が極めて少ない

御嶽山2014年噴火はほとんど予兆が見られないまま発生した。火山性地震が短時間にしか増加せず、微動や火山ガス変動が顕著でなかったため、気象庁の噴火警戒レベルは噴火直前まで引き上げられなかった。この特性は水蒸気噴火一般に共通するものであり、特に御嶽山のように複雑な水熱系を持つ火山では前兆が埋没しやすい。


現在の課題

(1)突発的な「噴石」への対応
噴石は噴火時に高速で飛散し登山者に致命的な影響を与える可能性がある。噴火警戒レベル1でも突発的な小規模噴石が発生することがあるため、登山者は防護具や避難計画を準備すべきである。

(2)シェルターの不足
火山噴火時に避難できるシェルターや安全避難施設は登山ルート上に十分整備されていない。これにより登山者の即時避難が困難となる可能性がある。登山道付近への簡易避難ステーション整備が望まれる。


2025年の状況

2025年は火山性地震の増加による噴火警戒レベルの引き上げと引き下げがあり、噴火自体は発生していない。しかし火山活動は静穏とは言い切れず、引き続き注意が必要な段階にある。気象庁はリアルタイム観測と警戒体制の維持・改善を継続しており、新たな判定基準に基づく評価が進められている。


情報伝達と「警戒レベル」の解釈

噴火警戒レベル制度は火山活動の度合いを定量化し、自治体や登山者へ情報提供する仕組みである。だが「レベル1=安心」ではなく「活火山であることに留意」という意味であり、誤解を避ける解説が求められている。情報伝達の方法や用語解釈については専門家とメディアが協働し、一般市民への正確な理解を促す必要がある。


レベル判断の難しさ

噴火警戒レベルは観測データに基づいて判断されるが、水蒸気噴火のような前兆が曖昧な現象では適切なタイミングでの判断が難しい。噴火リスクが実際に高まっているにもかかわらず、レベルが上がらないケースや逆に過剰警戒となるケースがあり得る。この判断の難しさは今後の火山防災研究の重要課題である。


登山者の認識

登山者は火山が活発な山であることを理解し、噴火警戒レベルや気象庁・自治体の情報を日々確認する習慣が必要である。個人装備(ヘルメット、火山灰対応マスク等)や避難行動計画の準備は、火山登山時に不可欠な要素となっている。


自治体と国の責任(訴訟問題)

2014年の噴火後、遺族らが政府及び自治体を相手取って訴訟を起こした。主張の中心は「警戒レベルを適切に引き上げるべきだった」という点であり、火山監視判断の責任論が争点となった。これにより火山監視体制と防災責任のあり方が法的観点からも議論されるようになった。


司法の判断(2024年最高裁判決)

具体的な判決内容は公的資料を参照する必要があるが、最高裁判所は2024年に関連訴訟で気象庁の判断と防災責任の範囲について判断(国の判断に違法性はなかった)を下した。判決は科学的予測の限界や行政の合理的判断に配慮したものとなっており、火山防災情報の提供義務と限界を明確化したという意味で注目される。


火山防災意識の風化

2014年噴火から時間が経過するにつれて、火山災害に対する注意喚起や防災意識が薄れる危険性がある。防災教育、火山の仕組みの理解、実践的な訓練は風化を防ぐために継続的な取り組みが必要となる。


今後の展望

御嶽山の将来予測には不確実性が伴うが、次のような方向性が重要である。

  1. 監視技術の高度化:多様なセンサーの統合とAIを用いたリアルタイム解析。

  2. 情報伝達の強化:登山者・住民への迅速かつ明確な情報提供体制の整備。

  3. 教育と訓練:地方自治体主導の火山防災プログラムと学校教育への統合。

  4. 避難インフラの整備:登山道沿いシェルターや避難経路の明示。


追記:日本における火山災害の歴史

はじめに

日本列島は複数のプレート境界に位置し、火山活動が活発な地域である。この火山活動は豊かな自然景観を生む一方で、歴史的に甚大な災害を引き起こしてきた。本節では、日本の火山災害の歴史をタイムライン形式でまとめる


縄文・古代(〜700年頃)
  • 約1万年前〜紀元前
    日本列島には多数の活発な火山が存在し、噴火が地形と文化に影響したと考えられている。例としては、九州東部に位置する鬼界アカホヤ大噴火(Akahoya eruption)であり、これは膨大な量の噴出物を放出し、大規模な環境変動を引き起こしたとされる。


奈良・平安時代(700〜1100)
  • 864年(貞観噴火) — 富士山
    富士山で記録された初期の噴火で、火山灰が広範囲に降下し、周辺の農業と交通に影響を与えた。

  • 9〜11世紀
    日本各地の噴火記録が歴史文献に断片的に残る。火山灰層が考古学的遺跡の年代指標として利用されることがある。


中世(1100〜1600)
  • 1180〜1300年頃
    火山活動と地震が連動する事例が文献に見られ、火山災害が社会的不安につながった。詳細な噴火記録は限定的だが、各地の地層分析が当時の活動を示す。


近世(1600〜1900)
  • 1707年(宝永噴火) — 富士山
    江戸時代最大級の火山災害。大地震の後に発生し、広範囲に火山灰を降下させ、農業被害や社会的混乱を引き起こした。

  • 19世紀後半
    土石流・火山灰降下による被害が地域社会に影響。噴火防災の必要性が認識され始める。


近現代(1900〜2000)
  • 1926年 — 十勝岳
    大規模噴火が北海道で発生し、地域社会に被害を及ぼした。

  • 1945〜1950年代
    戦後復興期にも火山活動が継続し、観測体制の強化が進められる。

  • 1960年代〜1970年代
    火山調査や地震観測ネットワークが整備される一方で、活火山の定義が見直される。


現代(2000〜)
  • 2000年 — 有珠山噴火
    北海道有珠山で噴火が発生し、自治体の避難計画と遠隔観測が注目された。

  • 2000年代後半
    日本国内の火山噴火予測と観測体制が高度化する中、2007年・2014年の御嶽山噴火が課題を提示した。

  • 2014年 — 御嶽山噴火
    水蒸気噴火が突発的に発生し、多数の登山者が犠牲となった。これは日本における近年最悪級の火山災害となり、火山監視体制・情報伝達の問題点を浮き彫りにした。

  • 2018〜2025年
    鹿児島県・宮崎県境の新燃岳や阿蘇山など複数火山の活動が断続的に報告され、噴火警戒レベル引き上げ・引き下げが発生している(例:新燃岳2025年)。


タイムライン(主要火山災害)
年代火山主な災害・出来事
約7,300年前鬼界カルデラ超巨大噴火(Akahoya)
864年富士山貞観噴火
1707年富士山宝永噴火
1926年十勝岳大規模噴火
1979年御嶽山爆発的噴火
2000年有珠山噴火
2007年御嶽山小規模噴火
2014年御嶽山大噴火(多数死者)
2025年新燃岳火山活動活発化

結論

日本列島の火山活動は古代から現在まで継続的であり、人間社会に多大な影響を与えてきた。火山災害への備えは観測技術・情報伝達・社会全体の防災意識向上を通じて進化してきたが、御嶽山のような突発的な噴火事例は予測と対応の限界を露呈している。今後は複合的な監視システムと防災教育の一層の充実が求められる。

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