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コラム:唇、ケアしてる?乾燥や荒れを放置しないで

唇は顔の中心に位置し、色・質感・輪郭が顔全体の印象形成に大きく寄与する。
リップクリーム(Getty Images)
1. 現状(2025年11月時点)

現代ではマスク着用習慣の継続や室内暖房の常用、気候変動に伴う乾燥シーズンの長期化などにより、唇の乾燥・荒れを訴える人が増えている。美容分野では従来のリップクリームに加えて「リップピール/リップパック」「低刺激成分のリップセラム」「ナイト用オクルーシブ(油膜)ケア」など新しい製品群が注目されている。最近の美容メディアでも、化学的な穏やかなピーリング(AHAや酵素を使うリップピール)が週1回程度のスペシャルケアとして推奨される例が増えている点が報告されている。

一方で「唇を舐める癖(lip-licking)」に起因する慢性的な口唇炎が臨床的にも問題視されており、習慣性の唾液暴露が皮膚バリアを損ない悪循環を引き起こすという研究報告がある。これに対して皮膚科の実務では、まず行動修正と同時にバリア修復を目的とした保湿・被覆療法が基本的治療として用いられている。

2. 唇の手入れの重要性(総括)

唇は顔の中で最も角層が薄く、皮脂腺や汗腺が存在しないため天然の水分保持能が低い特殊な部位である。したがって、外的乾燥・摩擦・刺激に弱く、少しのダメージで「ひび割れ、出血、角質化」という目に見える変化が起こる。このため唇の手入れは単なる美容行為にとどまらず、疼痛の予防、二次感染や慢性化(慢性口唇炎)の予防、そして顔全体の印象を左右する観点からの重要な皮膚ケアである。臨床研究でも唇の薄い角層とバリア機能の脆弱性が指摘されている。

3. 主な手入れ方法とポイント(総括)

唇の手入れは大きく分けて「日常の保湿ケア」「塗る前の準備(角質ケア)」「こまめな塗布・行動修正」「夜間の集中ケア」「週1回のスペシャルケア(スクラブやピール)」の5つに分かれる。基本原則は「刺激を避ける」「バリアを作る」「過剰な摩擦や過度な頻度の薬物塗布を避ける」であり、症状が強い場合は皮膚科受診で外用ステロイドや保湿剤の指導を受ける。

4. 日常の保湿ケア(リップクリーム)

日常的に使用するリップクリームは以下の点を基準に選ぶ。

  • 主成分が「オクルーシブ(被覆)成分」かつ保湿成分を含むこと(例:ワセリン=petrolatum、シアバター、ミツロウなど)。オクルーシブは水分の蒸散を抑えバリアを補うため、就寝時や極端に乾燥した環境で有用である。

  • 刺激となる香料・メントール・アルコール・一部の防腐剤が入っていないか確認する。敏感な唇では香料やフレーバーが刺激になることがある。

  • SPF入りリップは屋外での紫外線暴露が多い場合に選択肢となるが、日常的な塗り直しが必要な点を理解する。

製剤形態としては「軟膏・バーム(固形)」「スティック」「チューブタイプ」「ジェル」の違いがあるが、保湿力の観点では油性成分が多い軟膏型やバーム型が優れる。

5. 正しい塗り方(手順)
  1. 手を清潔にする。

  2. 唇の汚れや食べかすがあれば濡れたガーゼやティッシュで優しく拭き取る。強くこすらない。

  3. リップクリームを適量(米粒大〜小豆大)とり、指先またはスティックで唇全体に薄く延ばす。唇の縁(ヴァーミリオンボーダー)も忘れずに。

  4. 日中は乾燥を感じたらこまめに塗り直す。ただし頻回過ぎて唇を触る回数が増える場合は習慣化してしまうので塗る量・回数を状況に応じて管理する。
    使用後はフタをしっかり閉めること。外出時にスティック型を使うと衛生的である。

6. 塗る前の準備(角質ケア)

唇の表面に厚い角質が付着している場合は、保湿だけではうまく浸透しないため週に1回前後の軽い角質除去が有効である。方法は物理的スクラブ(微粒子のスクラブ剤を使う)、または穏やかな化学的ピーリング(酵素や低濃度のAHA)を用いる方法がある。物理的なスクラブは強くこすると逆に炎症を起こすので、短時間(20〜30秒)で優しく行うことが重要である。化学的な方法は敏感肌向けに穏やかな製品を選び、初回は少量でパッチテストを行う。専門家は「週1回程度」が一般的な目安と述べている。

7. こまめに塗る(頻度の考え方)

リップクリームの「こまめに塗る」習慣は即効的な保湿には有効だが、過度に頻繁に触る・塗る行為が唇への摩擦や刺激を増やす場合もある。研究レビューや消費者調査では1日複数回の使用が一般的であり、個人差や季節に応じて調整するのが現実的である。重症の乾燥時は一定の間隔で塗る(例:2〜4時間ごと)こと、夜間はより高保湿の軟膏を厚めに塗ることが推奨される。

8. 寝る前の集中ケア(ナイトケア)

夜間は就寝中に唾液や口呼吸等の影響を受けやすく、長時間保護する必要があるため、就寝前の集中ケアは非常に有効である。具体的には、クレンジングや軽いスクラブ後にワセリンや医療用軟膏(例:ヒルドイド、アズノール含有製剤など医師処方の保湿剤)を厚めに塗り、必要ならばラップなどで蒸しパック(短時間)を行う。これにより保湿成分の浸透とバリア修復効果が高まる。重症例や炎症が強い場合は皮膚科での処方薬が有効である。

9. スペシャルケア(リップスクラブ、リップパックなど)

スペシャルケアは週1回程度を目安とし、目的に応じて次のように使い分ける。

  • リップスクラブ(物理): 角質を落として滑らかにする。糖類+オイルの簡易スクラブが家庭でも安全で、濡れた唇で短時間優しく行う。過度な摩擦は避ける。

  • リップピーリング(化学): 酵素や低濃度AHAを使う製品は、敏感な人には刺激となるため慎重に使う。製品指示に従いパッチテストを実施する。

  • リップパック(保湿マスク): 高保湿クリームやジェルを厚く塗り、数分間ラップやコットンで覆う方法で、一時的に強力な保湿効果を得られる。就寝前の集中ケアとして効果的だが、通気を完全に遮断しないよう注意する。

スペシャルケア後は充分に保湿し、炎症や亀裂がある場合はスクラブを避けること。

10. 日常生活での注意点(NG行動)
  • 唇をなめる:唾液は蒸発するときに水分を奪い、長期的には乾燥を悪化させる。また唾液中の酵素や塩分が刺激となりバリアを壊す。慢性リップリッカー(lip-licking cheilitis)は臨床的に確認されている問題行動で、行動修正と保湿治療の両面が必要だ。

  • 唇をこする・剥がす:角質をむしる行為は出血・感染・瘢痕化の原因となるので厳禁だ。

  • 口呼吸:睡眠時の口呼吸は唇の乾燥を促進するため、鼻疾患や閉塞が疑われる場合は耳鼻科受診を検討する。

  • 刺激物(強いミント、シナモンなど)やアルコール成分の多い製品の常用:短期的に心地よくても慢性的には刺激となる場合がある。

11. 食後のケア

食後は唇に塩分・油分・香辛料が付着していることがあるため、温かい水で軽く口元を拭き取ってからリップ保湿を行う。特に酸や辛味の強い食品を摂った後は炎症リスクが上がるため、すぐに洗浄と保湿を行うことが望ましい。

12. 顔全体の印象を左右するほど大切

唇は顔の中心に位置し、色・質感・輪郭が顔全体の印象形成に大きく寄与する。乾燥で荒れた唇は老け見えや不健康な印象を与えやすい。したがって、定期的な手入れは見た目の向上だけでなく対人コミュニケーションにおける印象管理としても重要である。

13. 乾燥や荒れを放置しないで

軽度の乾燥でも放置すると亀裂・出血・二次感染(細菌・カンジダなど)や慢性化に進展することがある。慢性口唇炎や角化を生じた場合、外用薬(消炎薬・ステロイドなど)や内服が必要になることがあり、早めに皮膚科で診断を受けるべきである。臨床研究でも慢性化を防ぐための早期介入が重要とされている。

14. 健康的で美しい唇を保つ鍵(実践チェックリスト)
  • 基本:低刺激でオクルーシブ成分を含むリップを選ぶ。

  • 日常:朝晩と必要時に塗る。屋外ではSPF付きも検討。

  • 行動:唇を舐めない・むしらない。口呼吸を改善する。

  • 週次:1回程度の角質ケア(弱いスクラブまたは酵素ピール)。

  • 夜:就寝前に厚めの軟膏でバリア保護。

  • 受診基準:2週間以上改善しない、出血・深い亀裂・強い赤み・腫れ・痛みがある場合は皮膚科受診。

15. 専門家データからの要点(要約)
  • 唇は皮脂腺・汗腺がなく角層が薄い特殊部位であり、バリア機能低下で乾燥しやすいという解剖学的事実がある。

  • 慢性的な唾液暴露(唇を舐める癖)は口唇炎を引き起こし、行動修正+保湿が有効であるという臨床論文が報告されている。

  • 角質ケアは週1回前後が推奨され、過度の物理的な摩擦は炎症を招くため注意が必要である。

  • ナイトケアでのオクルーシブ使用(例:ワセリン)や医療用軟膏の使用は短期的に高い効果を示すと報告されている。

16. 今後の展望

技術面では、唇専用の低刺激・高浸透性成分を用いたセラムやマイクロエマルション技術、酵素ベースの穏やかなリップピーリング、さらにはマイクロバイオームを調整するような次世代型の唇ケア製品が拡大していく見込みである。臨床面では「習慣性の行動(唇なめなど)に対する行動療法的アプローチ」と「局所バリア修復治療」を組み合わせた管理プロトコルの普及が期待される。また、個人の唇状態に合わせたパーソナライズドケア(敏感肌用、糖化予防、色素沈着予防など)もトレンドとして注目されている。

17. 実践的Q&A(よくある質問)

Q:リップクリームは何回塗ればよいか?
A:季節や症状によるが、日常は朝・外出時・食後・就寝前の合計で1日数回が一般的。過度に触らないことも大切だ。

Q:唇がひどく割れているときにスクラブしてもよいか?
A:割れや出血、強い炎症がある場合はスクラブを避け、まずは保湿と受診を優先する。

Q:SPF入りリップは常時必要か?
A:屋外活動が多ければ日常的に使う価値があるが、塗り直し頻度を守ること。化学成分で刺激を受ける人は無香料・低刺激タイプを選ぶ。

18. まとめ(行動プラン)
  1. 毎日の基本は低刺激のオクルーシブ系リップで保湿を維持すること。

  2. 週1回の優しい角質ケアと、就寝前の厚めのナイトケアでバリアを回復する。

  3. 唇を舐める・むしる・強くこする習慣はやめ、口呼吸の改善など生活習慣も整える。

  4. 2週間程度で改善が見られない、または痛み・出血がある場合は皮膚科受診する。

以上が唇の手入れに関する包括的ガイドである。専門的な治療が必要と判断される症状(重度の亀裂、持続する炎症、潰瘍、強い疼痛など)がある場合は皮膚科での診察を受けることを強く勧める。


主要参考(抜粋)

  • “Lip-Lick Cheilitis and Its Connection to the Brain.” PubMed Central, 2024.

  • American Academy of Dermatology:Exfoliationと保湿に関するガイド。

  • Vogue他美容メディア:リップピールや最新トレンド報道(2024–2025)。

  • 臨床研究・総説(慢性口唇炎、バリア機能に関する論文)。

  • 日本皮膚科医による解説記事(クリニック情報、リップケアの実践的指導)。

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