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コラム:「エプスタイン文書」が米国で波紋を呼んでいる理由

今後、法廷での筆跡鑑定の結果、議会での「エプスタイン文書」関連法案の扱い、米英双方での政界的インパクトなどが焦点となるだろう。
米国の実業家ジェフリー・エプスタイン氏(Getty Images)

1.話題再燃の背景

2025年9月現在、米連邦議会(特に下院監視・政府改革委員会)が故ジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)氏の関係資料を突如、大量に公開したことが報道の発端だ。公開されたのは以下のような資料である:

  • 50歳の誕生日記念アルバム(birthday book):「The First Fifty Years」と題され、238ページにわたり、友人・知人からの寄せ書きやスケッチ、写真などが掲載されていた。編者はギレーヌ・マクスウェル(Ghislaine Maxwell)氏である。

  • 法務省・司法省からの書類一括:裁判記録、フライトログ、セル映像(「missing minute」を含む映像など)など約3万3000ページ分の資料が公開された。

  • 遺言、公証書、いわゆる「ブラックブック」や秘密保持契約類、金融取引記録など、エプスタイン氏の資産・人脈を示唆する資料も含まれていた。

これらの公開はエプスタイン氏の被害者や民主・共和党を問わず、国民の透明性への要求が高まるなか行われた。


2.主要な焦点:トランプの署名と政治的影響

2-1. 「トランプ氏の署名」が注目される理由

「birthday book」の“Friends”セクションには、トランプ大統領とされる手書きのスケッチと署名が含まれており、これが大きな波紋を呼んでいる。

スケッチは裸の女性の輪郭で手書きメッセージと「Donald J. Trump」の記載がある。さらに、ニセの小切手風イラストには「DJTRUMP」の署名があり、文言も含まれている。

2-2. ホワイトハウスの反応

トランプ氏はこの署名について、「署名ではない」「自分の筆跡ではない」と全面否定。さらに、ウォールストリートジャーナルに対して100億ドルの名誉毀損訴訟を起こしている。

ホワイトハウス報道官は真偽のための筆跡専門家による鑑定を支持すると発表。文書の出所に異議を唱えつつも、「民主党の政治工作」「デマだ」と攻勢を強めている。


3.被害者・政治勢力双方からの透明化要求

3-1. 被害者たちの訴え

エプスタイン氏の被害者たちは情報隠蔽に対する怒りから、法案「Epstein Files Transparency Bill」の成立を強く訴えている。この法案は司法省・FBIなどが保有する未分類の関連ファイルすべての公開を義務化するものだ。

法案は共和・民主両党からの支持を集めており、提出者には共和・民主議員が含まれている。ただし、下院共和党指導部およびトランプ支持層はこれに反対している。

3-2. 上院でも別途動き

上院では、ワイデン上院議員(民主)が「Produce Epstein Treasury Records Act(PETRA)」を提案。これは、エプスタイン氏とピーター・ティール氏との金融関係(Valar Venturesへの投資など)に関する資料開示を促す議案だ。


4.陰謀論と否定:「クライアントリスト」と政府の調査

トランプ氏や一部の保守派支持者の間では、エプスタイン氏が「政治家・著名人のリスト(通称“client list”)」を保持していた可能性が根強く語られてきたが、司法省とFBIによる2025年7月のメモで、「そのようなリストは存在せず、著名人を恣意的に脅迫した証拠もない」と公式に否定された。

この結論に対し、懐疑的な反応、特に反体制系メディアや保守派インフルエンサーからの批判が相次ぎ、さらにトランプ氏自身も「民主党のデマだ」と主張している。


5.イギリスにおける余波:駐米大使の関与

イギリスでもピーター・マンデルソン駐米大使が「birthday book」に名を連ね、エプスタイン氏を「my best pal(親友)」と記した手紙を寄せていたことが判明し、話題となっている。

この事実は、英国国家機密(National Archives)の公開規制を巡る論争にも繋がっており、政治的インパクトを広げている。


6.大衆の反応とメディアの注目

  • 一部のトランプ支持者や「MAGA」系支持層は、「公開された文書は既知のもののみ」「政治的工作だ」と強く反発しており、支持層内部での不満と分裂の兆しも報告されている。

  • 一方で、被害者支援団体や世論全体からは「徹底した真相解明」「完全な資料公開」への圧力が高まっている。

  • メディアは「トランプ氏の署名の真偽」「公開資料から浮かび上がる新事実」「背後にある政治的駆け引き」に注目し、政権、議会、司法の役割と信頼性が問われる局面と捉えている。


おわりに

なぜ「エプスタイン文書」が今、米国で大きな話題になっているのか。その背景には、

  • 膨大な量のエプスタイン氏に関する文書が議会から公開されたこと

  • その中に含まれていた「トランプ氏の署名」とされるスケッチが波紋を呼んでいること

  • 被害者たちおよび超党派の議員らによるさらなる透明性への要求

  • 陰謀論や偽情報への批判と、それに反発する勢力の対立

  • イギリスにおける国際的な影響の波及

といった複合要因がある。

今後、法廷での筆跡鑑定の結果、議会での「エプスタイン文書」関連法案の扱い、米英双方での政界的インパクトなどが焦点となるだろう。

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