コラム:マイナ保険証導入、メリットとデメリットまとめ
マイナ保険証は医療のデジタル化と事務効率化、患者の診療情報活用による医療の質向上を目的とした重要な制度改革である。
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1. 現状(2025年12月時点)
2025年12月2日以降、医療機関・薬局の受付では原則として「マイナ保険証(マイナンバーカードを健康保険証として利用登録したもの)」または保険者が発行する「資格確認書」の提示が必要になっている。これは従来の紙・プラスチック製の健康保険証の新規発行・再発行が停止された流れを受けた運用である。国や厚生労働省、デジタル庁の案内では、従来の保険証は最長で2025年12月1日をもって有効期限が切れるため、12月2日以降はマイナ保険証か資格確認書を用いることになると周知されている。
マイナ保険証の利用は全国で段階的に普及しており、医療機関・薬局側もオンライン資格確認システムの導入を進めてきた。ただし導入率や対応状況には地域差や医療機関規模による差があるため、全ての医療機関が即座にスマートフォン対応やカード読み取りに対応しているわけではない。日本医師会をはじめとする医療側団体は、誤りや運用上の不安に対する慎重な姿勢や追加周知を求める声を挙げている。
2. 「マイナ保険証」とは
マイナ保険証は簡潔に言えば「マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにした仕組み」である。具体的には被保険者がマイナンバーカードに健康保険証利用の登録を行うと、そのマイナンバーカードを医療機関や薬局の受付で提示・読み取りすることで保険資格の確認が可能になる。医療機関はオンライン資格確認システムを通じて保険者情報(被保険者記号・番号や負担割合など)を確認する。
利用登録をしていない、あるいはマイナンバーカードを持っていない人向けには「資格確認書」が保険者から交付され、これを提示することで従来と同様に保険診療を受けられる。資格確認書は保険者ごとに様式・有効期限が異なり、原則無償で交付されるとしている。
3. 仕組みと現状の運用
技術的には医療機関・薬局はオンライン資格確認システム(クラウド・ネットワークを介した保険資格照会)を導入し、カードリーダーでマイナンバーカードを読み取るか、将来的にはスマートフォン搭載のマイナ保険証(端末内の機能)を用いて確認する。本人同意のもとで、過去の処方履歴や特定健診情報などを医師・薬剤師が参照できる機能も整備されている(ただし参照は本人の同意が前提)。
運用上の課題は多い。医療機関側のシステム導入状況のばらつき、資格情報の紐づけミスによる誤認識の報告、カード読み取り機器の一部故障や通信障害、スマホ搭載対応の浸透不足などが指摘されている。日本医師会は、スマホ搭載(iPhone等にマイナ機能を搭載する動き)についても「対応医療機関は限られる」旨の注意喚起を行っている。
4. 移行スケジュール(要点)
要点として、政府・関係省庁は段階的に従来の保険証からマイナ保険証中心の仕組みへ移行した。重要な日付は次の通りである。
2024年12月2日:従来の紙・プラスチック製健康保険証について「新規発行・再発行の停止(=原則発行終了)」の方針が実施された(実務上は被保険者の既発行保険証に有効期限が残っている場合があるが、新たな発行は行わない)。この措置は被保険者の移行を促すためのものだった。
2025年12月2日:従来発行済み保険証の有効期限が最長で同日までとされ、以降(12月2日以降)はマイナ保険証または資格確認書の提示が原則必要となる運用に移行した。関係省庁の案内では、この日付をもって従来保険証の全国的な利用は終了することが周知されている。
以上のスケジュールは政府の広報・保険者からの個別通知などで周知され、資格確認書の送付やマイナ保険証登録の案内も被保険者向けに行われている。
5. 2024年12月2日に従来の紙・プラスチック製健康保険証の新規発行・再発行が停止された背景と意味
背景には、医療のデジタル化(医療DX)推進、窓口事務の効率化、医療情報の連携・活用、本人確認の一本化などがある。紙保険証の新規発行停止は、被保険者にマイナンバーカード利用登録を促し、オンライン資格確認の母体を整える狙いがある。
意味としては、紙やプラスチックの保険証に依存する受診様式からの脱却を図る一方で、移行期間中の混乱防止策(資格確認書の配布、医療機関向けの周知、臨時の受診対応ルールの整備など)も同時に必要になった。医療側団体は準備不足を指摘し、政府側は補助金や周知施策で対応してきた経緯がある。
6. 2025年12月2日以降の運用(原則マイナ保険証または資格確認書の提示)
2025年12月2日以降、受診時の原則的な提示物はマイナ保険証か資格確認書になった。医療機関がオンライン資格確認を導入している場合は、カード読み取りや情報照会で即時に保険資格が確認できる。オンライン資格確認導入が義務づけられている医療機関群も存在し、未対応の施設に対しては資格確認書での受診が想定されている。
例外的に、機器故障や通信障害などで照会ができない場合、臨機応変な対応(本人確認の追加、暫定的な窓口対応)がとられる旨の運用指針があるが、実際の現場運用は医療機関ごとに若干の差がある。医療機関側は資格確認書の提示やマイナ保険証の提示方法を掲示・案内することが推奨されている。
7. 「資格確認書」とは(詳細)
資格確認書は、マイナンバーカードでの保険証利用登録をしていない、あるいはマイナンバーカードを持たない人のために保険者(勤務先や国民健康保険の自治体等)が発行する証明書である。被保険者の資格情報(記号・番号・氏名・生年月日等)を記したもので、医療機関で提示することで保険診療を受けることができる。
発行は原則無償であり、保険者によって様式や交付方法(郵送・窓口交付等)が異なる。資格確認書の有効期限は保険者が設定し、5年以内で設定する旨が示されている。後期高齢者医療制度の被保険者など特定層には暫定的な無申請交付の措置がある。
8. マイナ保険証のメリット
受付・手続きの簡素化と待ち時間短縮
マイナ保険証を読み取ることで医療機関側は保険資格情報を即時に取得できるため、窓口での手書きや保険証の回収・確認作業が軽減される。これにより事務効率が上がり、患者の待ち時間短縮につながる可能性がある。医療情報の共有による診療の質向上
本人の同意があれば過去の処方歴や特定健診の情報などを医師・薬剤師が確認できるため、薬の重複・相互作用の回避や適切な診療に寄与する。初診の医療機関でも過去データを参照すれば診療の精度が上がる。高額療養費制度等の手続き簡素化
マイナ保険証を通じたオンライン資格確認により、公費負担医療(子ども医療費助成等)や高額療養費の資格確認をオンラインで行えるようになり、紙の受給者証や別途書類の提示が不要となる分野が増える。これにより患者・自治体・医療機関の手続き負担が軽減される。厚労省資料は具体的な効率化効果を示している。確定申告や行政手続きの連携(将来の展望)
マイナポータル等を通じて医療費情報が整備されれば、医療費控除の明細作成や確定申告の簡素化につながる可能性がある。現時点で段階的整備が進められている。救急医療での活用
緊急時においても、本人同意または緊急対応の下で保険資格や既往歴・服薬情報にアクセスできれば、適切な救急処置や薬剤選択に資する。現場運用の整備が進められている。
9. 医療情報の共有について(同意とプライバシー)
マイナ保険証を用いた医療データの共有は本人同意が基本である。医師・薬剤師が過去の処方情報や検査結果を参照するためには、患者の明示的な同意(医療機関等での同意操作)が必要とされる運用になっている。個人情報保護やアクセスログの管理、照会誤りへの対策などが制度的に組み込まれているが、安全性・信頼性を高めるための継続的な取り組みが求められている。
日本医師会を含む医療側からは、保険資格の紐づけミスや誤認識が信頼を損なうリスクがあるとの指摘があり、プライバシー保護と利便性のバランスを慎重に保つ必要があるとされる。医療側はセキュリティ強化と並行して国民への丁寧な周知を求めている。
10. 高額療養費制度の手続き簡素化
高額療養費や公費負担医療の資格確認は、従来は受給者証や各種証明書の提示を必要とするケースが多かったが、マイナ保険証によるオンライン資格確認が普及すれば、これらの資格確認をリアルタイムで行えるようになり、患者の追加書類負担や再来院を減らせる効果が期待される。厚労省の検討資料はこの点を具体的に示している。
11. 手続きの効率化(行政側・医療機関側)
保険者(自治体や健康保険組合)は被保険者資格の管理負担を軽減できる可能性がある。医療機関は受付業務・レセプト業務の一部が効率化されることで事務負担が軽くなると見込まれている。ただし、初期導入費用やシステム維持費、機器更新などのコストは医療機関側に一定の負担をもたらし、特に小規模診療所や零細施設での導入負担が問題視されてきた。政府は補助金等で一定の支援を行っているが、現場の声は分かれている。
12. 確定申告の簡素化(医療費控除等)
将来的には、患者の医療費データがデジタルに蓄積されれば、確定申告における医療費控除のための明細提出が簡素化される可能性がある。マイナポータルを通して医療費データを取得し、税務手続きに連携させる取り組みが進行中である。しかし、税制や申告システムとの本格連携には制度面・技術面での調整が必要であり、段階的な実装が前提となる。
13. 救急医療での活用
救急受診時に患者の既往や服薬情報にアクセスできることは治療選択の迅速化や薬剤アレルギー回避に有効である。実際の運用では、同意取得が難しい場合の取り扱いや、緊急時の医療情報参照に関するルール作りが重要となる。救急医療現場での活用は期待されるが、運用訓練と機器・通信の信頼性確保が前提となる。
14. デメリット・注意点
紐づけ誤り・資格情報の誤認
保険者データベースと個人のマイナンバーの紐づけミスが発生すると、他人の資格情報が表示されるなど重大な混乱を招く恐れがある。実際に紐づけ誤りが報じられ、医療側・国民側の不信感を招いた事例があるため、チェック体制や訂正プロセスの整備が不可欠である。日本医師会もこの点を問題視している。機器・システム障害時の影響
カードリーダーや通信回線、サーバーの障害が起きると診療受付が滞る可能性がある。運用マニュアルでは障害時の暫定対応が示されているが、現場では対応の差が見られる。高齢者・デジタル弱者への影響
マイナンバーカード未保有者や手続きが難しい高齢者、デジタル操作に不慣れな人たちにとっては混乱や負担増につながる恐れがある。政府は資格確認書の無償配布や申請支援の窓口整備を行っているが、高齢者の戸惑いは現場で依然として課題となっている。プライバシー・情報漏えいリスク
医療情報は極めて機微な情報であるため、情報漏えいに対する高度な対策が必要である。アクセス権限管理、ログ監査、暗号化等の技術的対策に加え、運用面での教育と監督が重要である。導入コスト負担の問題
医療機関側の導入コストや運用コストが問題となることがある。特に中小の診療所・薬局では初期費用の負担や維持管理の負担が相対的に大きく、補助金の充実や支援策が求められる。
15. 有効期限と更新
マイナンバーカード自体の有効期限(個人番号カードの有効期限)や、保険資格に基づく情報の更新は別々のプロセスで管理される。資格確認書の有効期限は保険者が設定し、原則5年以内での設定が可能である旨が示されている。マイナンバーカードの有効期限が到来した場合はカード更新の手続きが必要であり、利用登録の継続や再登録方法についてはマイナポータル等で案内される。
16. 機器の不具合・トラブル時の取り扱い
機器(カードリーダー、端末)や通信障害時の運用指針が整備されている。医療機関は障害時の暫定的受付方法(本人確認書類の提示、資格確認書の提示、後日精算等)を行うことができる。ただし、具体的対応は医療機関の判断に委ねられる部分があり、患者側は事前に受診先の案内を確認するとよい。政府は障害発生時の連絡体制や復旧手順の整備を進めている。
17. 公費負担医療(子ども医療費助成等)の取扱い
マイナ保険証の導入に伴い、公費負担医療の資格確認もオンラインで行えるように整備されつつある。これにより、紙の受給者証を医療機関に提示する必要が減り、紙紛失や提示忘れによる再来院の防止、自治体事務の効率化が期待される。厚労省の資料は、この運用移行による実務的メリットを示している。
18. 対応医療機関の状況
厚生労働省は都道府県別に「マイナ保険証利用対応の医療機関・薬局リスト」を公開しており、医療機関ごとの対応状況を確認できるようにしている。全国的には導入が進んでいるが、個別医療機関での対応可否は事前確認が必要である。医療機関は対応可否を受付案内等で表示することが推奨されている。
19. 「戸惑う高齢者たち」——現場での課題
高齢者層ではマイナンバーカード未取得者や、デジタル機器の操作に不慣れな人が多く、資格確認書の扱いやマイナンバーカードの利用登録に戸惑いが出ている。自治体・保険者は来所支援や郵送での資格確認書交付、戸別訪問等で支援を行っているが、周知不足や個別事例への対応の遅れが指摘される。医療現場でも「カードを忘れて来院した高齢者」や「スマホ保険証を期待して来たが対応していない医療機関」を巡る混乱が報告されている。日本医師会は医療機関に対して高齢者への配慮と十分な掲示・周知を呼びかけている。
20. 今後の展望
スマートフォン搭載保険証の普及
iPhone等へのマイナンバーカード機能搭載により、スマートフォンのみで保険資格を示す仕組みが拡張される。だが医療機関側の対応は段階的であり、すべての医療機関で即時に使用可能になるわけではないため、当面はカード・資格確認書の併用が続く見込みである。日本医師会は現場整備と利用可否の明示を強く求めている。制度の安定化と信頼回復
紐づけ誤り・運用ミスへの対処、プライバシー保護の強化、トラブル時の迅速な訂正手続きの整備が進めば、利用者の信頼は回復され利用率は高まると見られる。政府は技術的改善や保険者との連携強化を続ける方針である。医療DXの加速
マイナ保険証を基盤とした医療データの利活用が進めば、個別の診療の質向上のみならず保健行政や疫学研究のデータ基盤としての利点も期待される。ただし、利活用には個人の同意管理やデータガバナンスの確立が前提となる。高齢社会への配慮と地域格差対策
機器・通信インフラや医療機関のシステム導入格差が存在するため、自治体単位での支援、補助金、出張支援など地域格差是正施策が今後も必要である。
21. 専門家(機関)によるデータ・見解(抜粋)
厚生労働省(公的資料):マイナ保険証利用に関するマニュアルや周知資料、資格確認書の交付ルール、オンライン資格確認の導入促進策を公表している。高額療養費制度や公費負担医療の効率化に関する検討資料も提示されている。
デジタル庁(政府広報):マイナンバーカードを用いた健康保険証利用の基本方針、移行期の日程、国民向けのFAQを公開している。2025年11月の更新では、2025年12月2日以降の運用について周知している。
日本医師会:医療現場の立場から、紐づけミスやシステム障害、スマホ保険証の過度な期待に対する注意喚起を行う。現場の混乱を避けるための周知徹底と段階的導入を求める。資料や記者会見での発言がある。
健康保険組合・協会:資格確認書の送付や保険者側の対応について具体的な作業手順を発出しており、被保険者への通知や窓口体制の整備を進めている。
22. 実務的なアドバイス(受診者向け)
マイナンバーカードを持っている場合は、必ず「健康保険証利用の登録」を確認する。登録していれば医療機関での受付がスムーズになる。マイナポータルや自治体窓口、保険者からの通知で確認できる。
マイナ保険証を持っていない、あるいは登録していない場合は、自分に資格確認書が届いているか・発行されているかを確認する。届いていない場合は保険者に問い合わせる。
受診前に医療機関がマイナ保険証対応かどうかを確認しておくと安心である。対応の有無は厚労省のリストや医療機関の案内で確認できる。
高齢者やスマホ非対応の家族がいる場合は、家族が代行して手続きやカード登録・資格確認書の受取手続きの支援を行う。
23. まとめ
マイナ保険証は医療のデジタル化と事務効率化、患者の診療情報活用による医療の質向上を目的とした重要な制度改革である。2024年12月2日の従来保険証の新規発行停止、そして2025年12月2日以降の「原則マイナ保険証または資格確認書提示」への移行は政策的に大きな転換点であり、既に実務運用と法制度整備が進んでいる。利便性の向上が期待される一方で、紐づけ誤り、機器・通信トラブル、高齢者やデジタル弱者への配慮、プライバシー保護といった課題も依然として存在する。政府・自治体・保険者・医療現場・市民が協力して運用の安定化と信頼確保を進めることが今後の主要なテーマである。
参考(主な出典)
デジタル庁「マイナンバーカードの健康保険証利用」最終更新 2025年11月27日等。
厚生労働省「健康保険証は 12月2日以降新たに発行されなくなりました(資料)」「資格確認書について」等。
厚生労働省・公費負担医療オンライン資格確認に関する資料(公表PDF)。
厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」等(説明ページ)。
日本医師会 関連資料・会見(スマートフォン搭載対応に関する発表等)。
健康保険組合の資格確認書送付に関する案内。
