コラム:セカンドキャリア、あなたはどうする?
セカンドキャリアは定年・育児・疾病などの転機を経て形成され、再就職、起業、フリーランス、地域就労など多様な形態がある。
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日本では高齢化と雇用形態の多様化が進行しており、従来の「一社終身」型キャリアを継続する人は減りつつある。65歳以上の就業者数は増加傾向にあり、2024年には65歳以上の就業者数が930万人となり、就業者総数に占める割合は13.7%で過去最高となっている。高齢期に入っても働き続ける人が増えており、定年退職後も何らかのかたちで働くことが一般化してきている。
一方で、出産・育児期における女性の就業継続や復職の状況、非正規雇用の増加、リスキリングの必要性などが絡み合い、個人のキャリアの分岐点が増えている。政府や公的機関はリカレント教育や再就職支援を進めているが、企業内制度や地域支援の整備に地域差・産業差があるため、セカンドキャリア移行の成功度合いは個人や地域で大きく異なる。
セカンドキャリアとは
セカンドキャリアは文字どおり「第二の職業人生」を意味し、一般には定年や育児・出産、病気、転職希望などを契機に第一の職業生活から別の働き方へ移行することを指す。内容は多様で、再就職(正社員・非正規)、起業・フリーランス、地域活動やボランティア、資格取得を経ての専門職転換、シルバー人材センター等での短時間就労などを含む。セカンドキャリアは単なる収入確保だけではなく、自己実現・社会参加・生涯学習の側面を併せ持つ。公的機関はセカンドキャリア支援を職業訓練、ハローワーク支援、シニア向けマッチングなどで提供している。
人生の転機
人生における転機——例えば定年、早期退職、育児・介護、配偶者の転勤や離婚、疾病など——はキャリアを再設計する契機となる。定年退職後に再雇用される「定年延長・再雇用制度」や、早期退職パッケージを受けて新分野に挑戦するケース、家庭の事情で一時離職後に復職や副業で社会に戻るケースが存在する。転機で重要なのは「経済的な備え」だけでなく、「スキルの棚卸」「ネットワーク」「情報アクセス(ハローワークや公的支援、民間の転職サービス)」であり、これらの準備度合いがセカンドキャリアの成功を左右する。
退職後の人生
退職後の働き方は人によって千差万別で、働く期間や目的も多様である。生活費の確保を主目的に働き続ける人、社会参加や生きがいを求めてパートやボランティアをする人、退職金や貯蓄を元手に起業する人などがいる。高齢者の就業は増加しており、労働市場では高齢者向け求人も増えているが、賃金や雇用形態(非正規割合)といった条件は個別に差があるため、退職後の働き方を設計する際は収支シミュレーションや保険・年金との整合性を確認する必要がある。公的には再就職援助計画や高年齢者雇用安定法などを通じて就業継続の枠組みが整えられている。
出産・育児後
出産・育児後の労働参加は女性のキャリア継続における大きなテーマである。厚生労働省の調査では、第1子出産後も約7割の女性が就業を継続しているというデータがあり、正規職員では育児休業利用による継続が進んでいる一方で、パートや派遣労働者では継続率が低い傾向がある。育児と仕事の両立は依然として課題であり、保育サービスや労働条件、職場の理解、柔軟な勤務制度の整備が不可欠である。育休取得・復職率や、育休後の賃金・雇用形態変化に関する政策的支援を評価し、企業側の制度設計も求められる。
キャリアアップを目的とした転職
中高年や子育て後の転職では「キャリアアップ」を目的とするケースがある。キャリアアップ転職はスキルや経験の可視化(職務経歴書、資格、ポートフォリオ)や人材ニーズの把握、そして必要に応じた再教育(リカレント教育)が鍵となる。政府や公的機関は職業訓練や職業紹介、職業能力評価基準の提供などで支援しているが、実務で求められるITスキルや専門資格は業界ごとに異なるため、個人は市場調査と計画的な学習を実践する必要がある。リカレント教育への関心は高まっており、人生100年時代における再学習の重要性が指摘されている。
多様な働き方
セカンドキャリア先の働き方は多様である。フルタイム正社員や契約社員、パートタイム、派遣、業務委託(フリーランス)、副業、兼業、ボランティア、地域活動やシニアの短時間労働(シルバー人材センター等)など、働き方の選択肢が増加している。政府は働き方改革や兼業・副業の促進、テレワーク普及支援などを通じて多様な働き方の実現を支援しているが、福利厚生の扱い、社会保険の適用、所得の安定性といった面で不安が残るため、個々の働き方に応じた制度調整も進める必要がある。
終身雇用は時代遅れ?
終身雇用制度は一部産業や企業規模では依然存在するものの、経済構造の変化や雇用の流動化により形骸化している面がある。終身雇用を前提としたスキル蓄積と昇進設計は、企業のグローバル競争力や人件費の見直しによって見直される場面が増えており、結果として個人は「自律的キャリア形成(キャリア自律)」を求められるようになっている。したがって、終身雇用が完全に消えるとは限らないが、その前提に依存するキャリア設計はリスクが高くなっている。
人生100年時代
「人生100年時代」と言われるように、長寿化は個人の労働・学習・生活設計を大きく変える。労働期間が長くなることは経済的機会を増やす反面、長期的なスキル更新や健康管理が必要となる。内閣府や各省庁の調査では、長寿化に伴う再就職・リカレント教育の重要性が指摘されており、個人だけでなく企業や行政も学び直しの機会提供に取り組んでいる。老後の生活資金、年金制度、社会保障制度との整合を考慮したキャリア設計が求められる。
政府の対応
政府はセカンドキャリア支援として複数の施策を展開している。職業訓練(職業能力開発促進)、ハローワークによる再就職支援、再就職援助計画による大量離職時の支援、高年齢者雇用安定法による高年齢者の雇用確保措置、リカレント教育の推進などがある。公的機関や独立行政法人(例:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構やJEED)が情報提供や支援プログラムを実施しており、相談窓口・セミナー・資格支援などのサービスを利用できる。これらの制度は利用しやすさ向上が引き続き課題であるが、一定の社会的セーフティネットを提供している。
自治体の対応
自治体レベルでは地域の実情に応じた支援が行われている。地域限定の職業訓練、起業支援、シニア向け就労支援、子育て世代の再就労支援、地元企業と連携したマッチングイベントなどがある。地方自治体は地域産業の人手不足解消や地域コミュニティの維持という観点からセカンドキャリア支援を強化しており、高齢者雇用や子育て世代支援のための独自補助金や相談窓口を設ける例もある。地域間で取組みの差はあるが、地方創生とセカンドキャリア支援の連動が重要視されている。
問題点は?
セカンドキャリア促進の現場には複数の問題点が残る。第一に情報格差とアクセスの問題で、公的支援や民間サービスの情報にたどり着けない人がいる。第二にスキルミスマッチで、求職者の持つスキルと求人側の要求が合わないことがある。第三に雇用の質の問題で、非正規や短時間労働に偏ると所得の安定性や社会保障が脆弱になる。第四に地域格差と産業構造による機会不均衡で、都市部と地方で選択肢の差が存在する。第五に女性の出産・育児後の継続就業における制度や職場文化の不備で、再出発を妨げるケースがある。政府の支援制度はあるが、利用のしやすさやターゲティング、実効性向上が課題となっている。
課題
上記の問題点を踏まえると、今後取り組むべき課題は以下の通りである。
リカレント教育・職業訓練の拡充と利用促進:実務に直結する教育プログラムを増やし、学び直しを容易にする仕組みを整備する。
マッチング精度の向上:地域の産業ニーズに即した求人情報と職業訓練を連動させる。
働く条件の改善:非正規雇用の待遇改善、社会保険の適用といったセーフティネットの強化を図る。
情報アクセスと相談体制の強化:ハローワーク等の窓口をデジタルと対面で最適化し、特に中高年・子育て世代・地方在住者への届きやすさを向上させる。
企業文化の変革:ダイバーシティと柔軟な働き方を受け入れる職場文化を育成し、育児や介護と仕事の両立支援を普及させる。
地域連携の強化:自治体、産業界、教育機関、NPOの連携モデルを促進し、地域単位でキャリア支援エコシステムを構築する。
今後の展望
今後は人生100年時代を見据え、セカンドキャリアはより一般的な選択肢となる。高齢者の就業割合は当面増加傾向が続く見込みであり、労働市場も高齢労働力の活用を前提とした求人設計を進める必要がある。リカレント教育やDX(デジタルトランスフォーメーション)により中高年のITスキル向上が促されれば、テレワークやフリーランスとしての活路も広がる。政府と自治体は制度整備と実務支援を続ける一方で、企業と教育機関の連携により「学び直し→実務投入→再評価」の好循環を作ることが重要である。結果として、セカンドキャリアは単に失業の穴埋めではなく、個人の生涯にわたる成長と社会参加の一形態として定着していくと考えられる。
まとめ(要点整理)
セカンドキャリアは定年・育児・疾病などの転機を経て形成され、再就職、起業、フリーランス、地域就労など多様な形態がある。
高齢者の就業は増加しており、65歳以上の就業者数は2024年に930万人、就業者に占める割合は13.7%で過去最高である。
出産・育児後の就業継続は約7割で推移しており、正規雇用と非正規雇用で差がある。復職支援や保育サービスの整備は引き続き重要である。
政府・自治体は職業訓練、再就職支援、リカレント教育推進、地域連携などで支援しているが、情報格差・スキルミスマッチ・雇用の質・地域差が課題である。
今後はリカレント教育の普及、働き方の柔軟化、企業・自治体の連携により、セカンドキャリアが人生全体の一部としてより自然に位置づく展望がある。