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コラム:日本の実体経済、現状・問題点・今後の展望

日本の実体経済は、2025年11月時点で「緩やかな回復の動き」にあるが、成長の勢い・消費の力強さ・構造改革の進展という点では課題を抱えている。
日本、東京(Getty Images)

日本経済はバブル崩壊後、長期にわたる低成長・デフレ懸念を抱えながらも、近年では緩やかな回復軌道を探る動きにある。だが、2025年11月現在でもその回復は力強さを欠き、外部環境の逆風もあって成長が限定的である。国際通貨基金(IMF)は日本の2025年の実質GDP成長率を1.1%と予測しており、さらに2026年は0.6%程度に鈍化すると見込んでいる。
また、政府の月次経済報告においても「日本経済は緩やかな回復の動きにあるが、一部で足踏みの様相」などと表現されており、回復を裏付けるデータとともに慎重な見方も併存している。
そのため「株高は続いているものの、実体経済(特に個人消費・生産・輸出など)には明確な力強さが伴っていない」というのが現時点の総括的な印象である。


2025年11月現在

2025年11月時点では、前述の通り実質成長率が1%前後にとどまる見通しで、消費・投資・輸出のいずれもが回復途上にある。例えば、政府報告によると、2025年1〜3月期の実質GDP(前期比年率)はマイナス0.7%となり、4四半期ぶりにマイナス成長を記録している。
一方で、設備投資や民間投資には改善の動きも見られ、例えば民間非住宅設備投資が年率+4.4%と上昇しているという報告もある。
物価(消費者物価指数)は、2025年度通期で前年比2.5〜3.0%程度の上昇が見込まれており、物価上昇が明確になっている。
このように、日本経済は「成長は緩やか」「物価は上昇」「株価は高値を維持」といった複数のクロスカッティングな状況にある。


景気動向

景気全体としては「緩やかな回復の動き」があるものの、軌道に乗っているとは言い難い。政府の月次経済報告(2025年5月)では、

「日本経済は緩やかな回復の動きにあるが、足踏みの動きも見られる」
とまとめている。
また、OECDも「第1四半期には実質GDPがいったん縮小したが、国内需要は底堅く、設備投資は上向きである」と指摘している。
輸出・貿易の面では、2025年5月時点で前年比で輸出が1.7%減少しており、特に対米輸出が大きく落ち込んでいる。
こうした流れから、景気回復には「国内需要の底上げ+輸出の持ち直し」がカギを握っており、外部依存の構図からの脱却も重要な論点となっている。


個人消費

個人消費(家計支出・消費者動向)は、回復を示す動きが散見されるものの、力強さに欠けている。例えば、2025年4月の家計支出は前年同月比で-0.1%と、消費の回復が一歩後退する形となった。
また6月の家計支出でも前年比+1.3%にとどまり、前月の+4.7%から大きく鈍化している。
一方で、2025年5月の「家計調査」によれば、1世帯当たりの毎月の消費支出(名目)は316,085円、前年同月比で+8.9%、実質で+4.7%の増となっており、回復の跡はある。
ただし、これらの数値をもって「力強い消費回復」と言えるかというと疑問が残る。背景には、実質賃金の伸び悩み、物価上昇による購買力の抑制、消費者マインドの慎重さ、そして所得構造の制約があると考えられる。消費の主役である賃金所得が牽引力を持っていない限り、消費底上げは難しい。
結果として、個人消費は「回復傾向」ではあるが「主導的な成長ドライバー」となるまでには至っていない。


企業業績・設備投資

企業業績・設備投資の面では、比較的明るさも見える。先述の通り、民間非住宅設備投資が年率+4.4%という報告がある。
また、設備投資の背景には、労働力が逼迫する中で、省人化・生産性向上を目指す動きが企業で活発化しているという指摘もある。
設備受注や機械受注も、経済協力開発機構(OECD)報告によると、「記録的な受注残高」を示しており、将来の投資拡大余地を示唆している。
ただし、輸出や海外需要の弱さを背景に、製造業を中心に外部環境の影響を受けており、国内投資の動きだけで設備投資全体を牽引できるかどうかには懸念が残る。
企業収益については改善傾向にあるものの、消費支出の弱さ・賃金上昇の鈍さが成長を抑える要因となっており、設備投資と企業収益が「回復しつつも成長を加速させる段階には至っていない」という構図である。


物価と金融政策

物価の上昇が明確になってきており、これが金融政策の運営にも影響を与えている。日本銀行(日銀)の「経済・物価の見通し(2025年7月)」によると、2025年度の消費者物価指数(CPI:生鮮食品を除く)は前年比+2.5〜3.0%、2026年度は+1.5〜2.0%程度、2027年度は概ね2%程度と見込まれている。
IMFも指摘しており、2025年の消費者物価上昇率を3.3%と見込んでいる。
こうした物価上昇を受け、日銀は超低金利・量的緩和の縮小を視野に、インフレ目標「2%」への定着を意識しつつある。
一方で金融政策の正常化には慎重姿勢も残っており、成長が脆弱な中で利上げを急ぐと景気を冷やすリスクがあるため、日銀は「データ依存」「引き締めペースを緩やかに」という姿勢を維持している。
物価上昇の背景にはエネルギー・食料品価格の高止まり、そして輸入物価の上昇がある。さらに円安も輸入価格を押し上げる要因である(後述)。このため、物価上昇=所得の実質押し下げにつながる可能性があり、家計や企業のコスト構造にとっても重要な論点となっている。


世界経済との関連

日本経済は外需・貿易の影響を濃く受ける。例えば、アジア太平洋地域の成長が4.5%から4.1%に鈍る見通しである中、輸出先の経済状況が日本の景気に影響を与える。
IMFが指摘するように、日本の成長が1.1%にとどまる見通しなのは、強い家計消費ではなく、賃金上昇を補完要因としつつも「対外不確実性・貿易摩擦・輸出鈍化」の影響を受けているためである。
また、ドル/円の為替相場、世界的なインフレ・金利動向、地政学リスク(例えば米中関係、サプライチェーンの混乱)などが日本の経済と密接に関連しており、国内だけで完結する経済ではない。
特に、輸出比率が高い製造業・部品産業では、海外景気の鈍化・貿易摩擦・為替・海外需要の低迷が成長の制約要因となっている。よって、世界経済の動向と日本国内の景気との連動は無視できない。


株高続く

日本では株式市場が比較的好調な動きを示している。投資家の間では、「日本企業の構造改革・ガバナンス改革・配当強化」などを背景に、株価が上昇しており、海外投資家からの関心も高まっている。例えば、ある調査では「日本は依然として割安であり、投資対象として有望」という見方も示されている。
この「株高」は実体経済そのものの急回復を必ずしも反映しておらず、「流動性・金融環境・海外資金流入・期待」が先行している可能性がある。そのため、株価上昇=すぐに消費・投資加速という構図にはなっておらず、「実体経済に波及するか」が注目される。
株高が持続していること自体はプラス要因であるが、同時に「株価と実体経済の分離」あるいは「期待先行」のリスクを孕んでいるとも言える。


緩やかな回復の動き

日本経済は「緩やかな回復」のフェーズにある。すなわち、明確な下降局面からの脱却を目指しており、多くの指標が底堅さを示している。たとえば、政府の月次報告では「民間消費、設備投資、輸出において回復の動きが見られる」とされており、設備投資の上向きなどもその典型である。
また、OECDも「国内需要は支えを提供しており、企業の設備投資意欲も改善傾向」と指摘している。
しかしながら、「緩やか」という言葉が示すように、成長加速とは程遠く、複数の構造制約・外部制約・成長モメンタム不足が復調を抑えている。特に、個人消費の弱さ、人口減少・少子高齢化、賃金上昇の鈍さ、生産性の低さといった構造的課題が足を引っ張っている。


個人消費の力強さの欠如

上述した通り、個人消費は回復傾向にあるものの、力強さに欠けている。なぜなら、いくつかの要因が消費の伸びを抑えているからである。まず、実質賃金の伸びが弱い。企業収益が改善しても、それが労働者賃金に十分波及していないとの指摘がある。さらに、物価上昇(特に食料品・エネルギー・輸入品)によって可処分所得が実質的に抑制されており、消費者マインドも慎重になっている。4月に支出が前年同月比で-0.1%となったのも、この消費停滞の状況を反映している。
また、新車・家電・旅行などで回復の兆しはあるものの、国内全体の消費回復が波及していない。消費が持続的に成長ドライバーになるためには、賃金上昇→消費マインド改善→購買力拡大、という好循環が不可欠であるが、現時点ではその構造が十分に整っていない。
つまり、消費は“戻り”つつあるが、“牽引”の力を持っているとは言い難く、景気全体の回復を加速するには、消費側の底上げが不可欠である。


物価上昇と円安

日本では、近年物価上昇と同時に為替(円安)という複合要因が、経済にインパクトを与えている。先述したとおり、2025年度のCPI上昇見通しは2.5〜3.0%で、物価上昇が明確である。
一方、為替相場では円安の進行が継続しており、これは輸入価格を押し上げ、エネルギー・原材料コストの上昇を通じて企業・家計ともに影響を受けている。加えて、円安は輸出企業にとっては価格競争力を生むが、輸入依存の業種・生産者・消費者サイドにはコスト増となる。
このように、物価(上昇)と為替(円安)が併存する状況では、家計の購入力低下・実質賃金の実質減少・海外原材料コストの増大が懸念される。特に、実質所得が伸び悩む中での物価上昇は消費抑制の要因となり得る。
また、円安が輸出企業の利益を押し上げる面もあるが、円安が過度に進めば輸入インフレ→消費抑制という逆作用も予想される。このため、物価・円安のダブルインパクトが日本経済の構造制約を浮き彫りにしている。


労働生産性の低さ

日本経済の構造的な課題の一つとして、労働生産性の伸び悩みがある。少子高齢化・人口減少が進む中で、労働力自体が減少傾向にあるうえ、生産性が十分に上がらなければ成長率を押し上げることが困難である。例えば、生産年齢人口の減少は明らかになっており、就業者数は増えていても「一人あたりの付加価値(生産性)」が上がらなければ企業収益・賃金・設備投資の拡大につながりにくい。
また、多くの報告で「日本企業は省人化・デジタル化・自動化投資を進めているが、他国と比べて生産性改善の速度が緩やかである」との指摘がある。
このため、成長ドライバーとして「生産性向上」が不可欠だが、現状ではその実効性が回復を加速させるレベルには達していない。特に、消費・賃金・設備投資を同時に強めるには、生産性改善が基盤となるという認識が経済界でも共有されている。


主なリスク要因

日本経済の今後を考えるうえで、複数のリスク要因が存在する。ここでは「国内要因」「海外要因」に分けて整理する。

国内要因
  • 少子高齢化と人口減少:日本の人口・労働力人口は減少傾向にあり、成長ポテンシャルを構造的に押し下げている。

  • 財政悪化懸念:日本の政府債務残高(対GDP比)は依然として非常に高く、社会保障費の増大・借入金利上昇などが将来の財政運営を圧迫する。

  • デフレ回帰のリスク:物価上昇は進んでいるものの、実質賃金が連動せず、消費や投資が期待どおり拡大しなければ、「物価が上がったが成長が伴わない」状況=実質値が横ばいまたは低下することで景気停滞に陥る可能性もある。

  • 労働生産性の低さ:生産性改善が進まなければ、成長率・賃金・設備投資拡大の好循環を構築できない。

  • 消費マインド・賃金上昇の鈍さ:消費が成長ドライバーになるためには賃金の上昇が不可欠だが、現状ではその動きが限定的である。

海外要因
  • 海外景気の下振れ:輸出依存の日本経済にとって、米中を中心とする世界経済の減速・貿易摩擦・サプライチェーンの混乱は大きなリスクである。IMFもアジア・太平洋地域の成長鈍化を警戒している。

  • 地政学的リスク:東アジアを含む地政学の緊張、エネルギー価格の急変、物流・サプライチェーンの途絶などが、輸出・製造業・企業投資にマイナス影響を与えうる。

  • 為替相場の変動:円安・円高の両面でリスクがある。円安は輸入コスト上昇=物価上昇を通じた家計・企業負荷を生む一方、輸出にとっては有利。逆に円高になれば輸出競争力が低下し、景気回復を阻害する。これら為替リスクは常に存在している。

  • 海外金利・インフレ動向:米国など主要国の金利上昇・インフレ高止まりが続けば、世界的な金融引き締め→資金流動性縮小→リスク回避という構図を通じて日本にも波及しうる。


少子高齢化と人口減少

上述の通り、日本経済の構造を根底から制約しているのが少子高齢化・人口減少というテーマである。人口が減少し、かつ高齢化が進むことで、労働力供給が縮小し、消費も活力を失いやすくなる。日本の人口は2024年時点で約1億2千万人程度となり、今後数十年間でさらに減少するとの予測が示されている。
このような状況下では、持続的な成長を実現するためには、労働参加率の改善、女性・高齢者の活用、移民・外国人労働者の受け入れ、生産性の飛躍的向上、そして消費・サービス需要の構造転換が不可欠となる。少子高齢化は単に人口数の問題にとどまらず、社会保障費増大・税収抑制・地域衰退といった複合的な影響を経済に及ぼす。
このため、実体経済を安定的に回復させるためには、成長率を人口減少分以上に引き上げる、あるいは一人あたり生産性を飛躍的に上げる必要があるが、いまだその達成には至っていない。


財政悪化懸念

日本の財政状況も実体経済と密接に絡んでいる。日本は長年にわたり財政出動・国債発行を繰り返してきた結果、公的債務残高が対GDP比で200%超という水準に達している。
社会保障費の増大、少子高齢化に伴う医療・介護・年金支出の拡大、税収が少子高齢化の影響で抑制されるという構図がある。こうした中で、成長率が低迷すれば、債務の耐久性・国債の金利上昇・信用コストの上昇といった懸念が強まる。
また、日銀による金融緩和政策や低金利環境が変化した場合、政府の利払い負担が増加し、財政運営の余地が狭まる可能性がある。財政悪化への懸念が強まれば、民間の投資・消費マインドにもマイナス影響を与え、実体経済回復の足を引っ張るリスクがある。


デフレ回帰のリスク

日本は長らくデフレ・低成長の課題と格闘してきたが、物価上昇基調が出ているとはいえ、実質成長が伴わなければ、あるいは物価が再び低下基調に入れば「デフレ回帰」のリスクが消えるわけではない。実質賃金の伸び悩み、消費マインドの低迷、設備投資の停滞が重なれば、物価上昇が持続せず、供給過剰・需要低迷という構図に戻る可能性がある。
加えて、人口減少・労働力縮小という構造的なマイナス要因があるため、潜在成長力そのものが低く抑えられており、デフレからの脱却には「成長率上昇+賃金上昇+物価上昇の好循環」が必要だが、現状ではその実現には至っていない。
このため、物価が上がっても消費・投資が伴わない状況では、逆に「実質値の伸びがないまま名目だけ上がる」あるいは「期待インフレが高まるが実体が伴わず反動で下振れする」というリスクがある。こうした意味で、デフレ回帰の懸念は依然として存在している。


今後の展望

今後の展望としては、以下のようなシナリオ・ポイントが考えられる。

  1. 景気回復のシナリオ
     日本経済が緩やかな回復軌道をたどるためには、国内需要(消費・投資)の底上げが鍵である。特に、賃金が実質ベースで上昇し、家計の可処分所得が確実に増えること。そのうえで、企業が設備投資を拡大し、生産性を向上させることが必要である。こうした条件がそろえば、成長率は1〜2%程度、場合によってはそれを上回る可能性もある。一部エコノミストは2025年の成長率を1.1%と見ており、2026年には若干回復するとの見方もある。
     また、株高が続いていることは、投資マインドの改善・企業改革の期待を示しており、これが実体経済へ波及すれば回復を加速させる可能性がある。

  2. リスク・慎重シナリオ
     ただし、上記の成長加速には構造改革・生産性向上・人口動態対応など中長期的な課題の克服が求められる。もし外部環境(海外景気・貿易)で下振れが起きたり、消費・賃金・投資が思うように伸びなかったりすれば、成長率は1%未満、あるいは停滞に陥る可能性がある。デフレ懸念再燃、財政悪化、為替急変といったリスクが顕在化すれば、景気回復が失速する恐れがある。

  3. 政策的テーマ
    ・賃金上昇と所得向上:消費回復の鍵として、賃金ベースアップ・非正規雇用処遇改善などが重要。
    ・生産性向上:デジタル化・自動化・労働参加の拡大(女性・高齢者・外国人)を通じ、生産性を上げ、成長ポテンシャルを引き上げる。
    ・財政・金融の調整:物価上昇+円安という環境を踏まえ、日銀は慎重ながら回復基調を見据えた金融正常化を図る。一方、財政運営については持続可能な債務管理・歳出改革・税制改革が不可欠である。
    ・輸出・グローバル需要の取込み:海外景気・サプライチェーン・貿易摩擦対応を念頭に、輸出・海外展開を強化する。円安メリットを活かす半面、輸入コスト・物価上昇のマイナス面も管理する必要がある。

  4. 成長率想定レンジ
     現時点では、2025年実質成長率は約1%前後、2026年はやや回復して1%弱〜1.5%程度が想定される。これを超える成長を達成するには、上述の構造的改革・需要回復・賃金上昇・生産性改善が(同時に)進む必要がある。逆に、どれか一つでも停滞すれば成長率は1%を下回る可能性も否定できない。


まとめ

日本の実体経済は、2025年11月時点で「緩やかな回復の動き」にあるが、成長の勢い・消費の力強さ・構造改革の進展という点では課題を抱えている。特に、個人消費の鈍さ、生産性低迷、少子高齢化という構造的制約、外需依存のリスク、財政・金融の制約といった複数のハードルが成長の足を引っ張っている。一方で、設備投資の改善、物価上昇の定着、株価の好調というポジティブな要素も存在する。今後、消費・投資・生産性・賃金・構造改革が好循環を形成できるか否かが、成長見通しを左右する重要なカギとなる。

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