コラム:野党は政権を取れるか、好機がすぐに消えるリスクも
公明党の離脱は野党にとってまたとないチャンスを生んだが、政策合意、人材・経験、選挙協調、国民の信頼という複数のハードルを短期間で越えなければならない。
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2025年10月に入って日本の政治は急速に動いた。自民党総裁選が2025年10月4日に実施され、保守路線を重視する高市早苗氏が党総裁に選出されたことで、彼女が首相候補として国会での承認を受ける情勢になった。しかし、その直後に連立与党の公明党が2025年10月10日に自民党との連立を離脱すると発表したため、国会での過半数確保が不透明になり、政治的な混乱と再編の可能性が生じている。これに伴い、野党各党は政権奪取の好機とみて連携の模索を強めており、立憲民主党や国民民主党、そして日本維新の会の態度が今後の鍵を握っている。
歴史
戦後の日本政治は自民党長期支配と、それに対する多様な野党の存在という構図が続いてきた。1990年代以降、野党は分裂・再編を繰り返し、単独で与党を打倒できる勢力を継続的に維持することができなかった。公明党との連立は自民党に安定多数を与える決定的要因であり、公明党が離脱するという事態は1990年代以降における安定的与党支配の枠組みを揺るがす出来事である。今回の公明党離脱は、野党側にとって十数年ぶりの「政権を奪えるかもしれない」局面を作り出している点で重大である。
25年10月4日の自民党総裁選
自民党総裁選は予定どおり10月4日に行われ、高市早苗氏が決選投票で勝利して自民党総裁に選出された。同氏は党内の保守基盤と地方票を固める形で勝利したこと、そして勝利直後に党幹部ポストとして麻生副総裁(あるいは麻生派関係者)など保守中道の人物を配した。総裁選の結果は自民党内の方向性を保守回帰に近づける可能性を示したが、総裁=首相になるためには国会での首班指名が必要であり、そこには連立パートナーの支持や衆参両院の議席配分が重大な意味を持つ。
公明党の連立離脱
公明党は10月10日に自民党との連立を事実上解消すると発表した。公明党側は政治資金問題や説明責任、連立運営における信頼問題を理由に挙げている。公明の離脱は、単に与党の数的多数を失わせるだけでなく、公明が地方基盤や法定票の動員面で持つ影響力が選挙や国会運営にもたらす効果を削ぐ点で重大である。報道では、公明の離脱が高市内閣の成立を難しくし、LDP側が他の勢力(例えば国民民主党など)に接近して代替的な協力を模索する可能性を指摘している。
政権奪取のチャンス到来か
公明離脱により、自民党は衆参で確固たる多数を維持できない可能性が生じ、野党側には「首班指名の場で反自民連合を作る」「連合政権(もしくは大連立ではない中道連携)を組む」など複数の道が現実味を帯びてきた。CSISなどは野党が一致して非自民の首班を擁立するオプションや、首班不信任・解散に向けた駆け引きの可能性を報じている。だが、野党が政権を奪うには次の複数要素を満たす必要がある:議席の実効的合計での多数確保、政策合意(特に財政・安全保障での合意)、選挙戦を見据えた選対・候補者調整、そして国民の支持である。現時点での報道は「チャンスはあるが簡単ではない」という評価に同意している。
国民民主党の動き
国民民主党は中道路線で与野党双方と連携の柔軟性を持つ政党であり、過去に与党と政策面で折り合いをつけた実績もある。報道では、国民民主党の玉木雄一郎氏(あるいは当時の党リーダー)らが中立的な、あるいは「橋渡し」役としての姿勢を強める可能性が指摘されている。野党側が首班指名で一致する際、国民民主党は「無所属の合意候補(あるいは中道候補)」を押すか、あるいは条件次第で与党側と取引して政権参加を模索するかのいずれかで立場を決める公算が大きい。FTなどは、非自民勢力が玉木氏のような人物に注目している可能性を報じている。国民民主の参加は、数の上で野党連合に現実的な余地を与える。
野党第一党・立憲民主党は
立憲民主党は野党第一党として政権交代を最も熱心に目指す立場にあるが、歴史的に政策の多様性と党内連携の難しさを抱えてきた。直近では党首や執行部が「非自民連合」を成立させるための調整を進めているとの報道があり、特に首班指名での一本化(誰を首班候補にするか)については立憲が主導的立場を取る可能性がある。一方で、立憲が国民・維新など他党との政策的妥協(安全保障や財政政策など)でどこまで譲歩できるかが課題となる。野田佳彦氏らが党首会談などを求めている。
様子を伺う日本維新の会
日本維新の会は「参入条件次第」で与党にも野党連合にも影響力を持ちうる存在であり、政策的には財政健全化や行政改革を重視する点で国民民主と近似するところがあるが、他方で安全保障や憲法観での立ち位置は独特である。報道は維新が当面は様子見の姿勢を取り、どちらにつくかは「選挙の有利さ」「政策実現の見込み」「党勢にとってのリスクと利益」を計算して判断するだろうと分析している。維新がどちらにつくかで国会の勢力図は大きく変わるため、野党側は維新を如何に取り込むか、あるいは維新を排除しても成り立つ連携を作れるかが焦点となる。
その他野党は
共産党、れいわ新選組、社民などの小党は独自の政策理念を持ち、野党共闘の場では「比例票の合算」「選挙区調整」や「政策合意」によって貢献できる。ただし小党は議席数そのものが限られており、連立を組む際の軍配には直接的な数的寄与が限定的である。だが、世論動向や選挙区での票分散を防ぐ調整では重要な役割を果たす可能性がある。
国民の反応と期待
直近の世論調査のまとめでは、内閣支持率や政党支持率は時期により上下動している。例えば各社の世論調査を集計した報告では、石破内閣時点で支持率が増減する動きがあったことが示されているが、公明離脱や総裁交代のニュースは国民の関心を一層高め、野党に対する期待と不安が混在している。FTやAP通信などは「有権者の多くが政治の不安定化を懸念している」「だが与党の分裂は野党に新たな期待を生む」と報じている。最終的に野党に政権を託すかどうかは、野党側がどれだけ短期間に政策的一貫性と統治能力を示せるかに依存する。
問題点(野党側の弱点)
政策合意の困難性:立憲、国民、維新、共産、れいわといった野党は政策面で温度差が大きく、特に安全保障(集団的自衛権、憲法改正の是非)、財政政策(歳出拡大か財政健全化か)での一致が難しい。短期間でこれらを埋めるのは極めて困難である。
人材と経験の不足:長期的な与党運営の経験、官僚との協調、国際交渉能力などで与党側に比べて経験面の差がある。政権運営の「信頼」に直結する分野での説得力が不足している。
選挙協調のコスト:選挙区調整や比例配分の取り扱いで党利党略が残ると、野党支持層からの離反や票の分散が起きる恐れがある。
時期と手続きの不確実性:公明の離脱で首相指名・臨時国会の手続きが複雑化している中、野党が迅速に連携して首班を決めるには手続き上のハードルや時間が必要だ。短期決戦での合意形成は難しい。
課題(野党が克服すべき点)
明確な共同公約の作成:少なくとも優先順位の高い政策(経済対策、社会保障、外交安全保障の基本線)について合意文書を作り、国民に提示する必要がある。曖昧さは支持拡大を阻む。
候補者調整と統一戦略:次の選挙(または国会での首班指名)を見据え、選挙区での候補者調整と比例での連携を迅速に決めること。地域ごとの実務調整が勝敗を分ける。
説明責任と信頼構築:政権交代を主張するならば、具体的な内閣人事構想や省庁横断の政策実行計画を示して「政権能力」を有権者に示す必要がある。
幅広い世論の取り込み:政策に賛同しない層や無党派層を取り込むためのメッセージ作成と実行力が求められる。世論調査の数字をプラスに転じる具体策が必要だ。
今後の展望(複数シナリオ)
以下に主な想定シナリオを列挙する。
シナリオA(短期での野党連合による首班指名成功)
野党が迅速に一致して中道的合意候補(国民民主のリーダーや合意された無所属候補)を擁立し、参院・衆院での首班指名において自民党単独と維新の一部の支持を断ち切ることで首班指名に成功する。条件としては国民民主と維新の協力が必要だ。この場合、短期的な連立政権が成立しうるが、政策の不一致と内閣の脆弱性が即座に課題となる。
シナリオB(自民側の再編と他勢力との協調による政権維持)
自民党が公明離脱の空白を埋めるために国民民主など中道勢力と条件付きで協力し、政権を維持する。報道は自民が欠けた議席を補うための「代替的パートナー」を模索する可能性を示している。もし自民が他勢力と合意できれば、野党の政権奪取のチャンスは後退する。
シナリオC(混迷の長期化と解散・総選挙)
首班指名の不成立や継続的な政治的混乱が続けば、政治不信が高まり、最終的に解散・総選挙につながる可能性がある。解散になれば野党が選挙戦で連携し切れるか、あるいは票の分裂で自民が相対的に有利になるかは不確定である。解散は有権者の判断を直接仰ぐ場になる一方、野党にとっては短期決戦での組織力と候補者の魅力が問われる。
具体的な戦略提言(野党へ)
最小共通政策の即刻合意:最長でも数週間で「最小限の政策合意」を文書化し、国民に示す。財政・安全保障・社会保障の骨子を明示すること。
首班候補の明確化:首班指名を目指す場合、誰を首班候補にするのかを早期に決め、主要政策と人事プランを提示する。無所属や国民民主の指導者を調整候補とするのも現実的。
公明支持層への政策アピール:公明離脱で浮動票となった有権者に対して、具体的な社会保障や地域政策で刺さるメッセージを用意する。
維新との関係設計:維新を「包摂する」プランと「包摂しない」プランの双方を並行して準備し、どちらに転んでも即応できる体制を作る。
結論 — 日本の野党は政権を取れるか
結論としては「可能性はあるが、決して容易ではない」という現状評価が妥当である。公明党の離脱は野党にとってまたとないチャンスを生んだが、政策合意、人材・経験、選挙協調、国民の信頼という複数のハードルを短期間で越えなければならない。外部環境(国際情勢、経済指標、金融市場の反応)も政局に影響を与えるため、野党は迅速かつ現実的な「政権プラン」を提示し、国民に統治能力を示す必要がある。逆に自民党と他中道勢力が迅速に再編することも想定され、野党にとっては一瞬の好機がすぐに消えるリスクもある。したがって、野党が政権を奪取するためには、迅速な合意形成と説得力ある政策提示、選挙戦略の緻密さが不可欠である。
参考にした主な報道・データ(抜粋)
Reuters(自民総裁選関連報道)。
Financial Times(野党の動きと連携模索)。
The Wall Street Journal / AP(公明党離脱関連報道)。
Jiji Press / Nippon.com(公明離脱の国内報道)。
CSIS / IISS(政策的・戦略的分析)。
内閣府・各社世論調査の集計(世論動向の確認)。