コラム:日本の移民・難民政策の現状、問題点は?
日本は人口・労働力の課題に直面する中で、実務的には多くの外国人を受け入れているが、難民保護や真の意味での移民統合については制度的・社会的に未解決の問題が残っている。
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日本はここ数十年で在留外国人の数が増加している一方、難民保護や移民政策に対しては慎重かつ限定的な対応を続けてきた。コロナ禍の入国制限解除後、難民申請数は大幅に増加した年があり、政府の発表によると、令和5年(2023年)には難民申請が1万3823件に達し、難民認定数は303人と過去最多を記録した。しかし、処理や認定の動向は変動があり、令和6年(暦年2024→発表は2025年)には処理数や認定者数が再び変化している。これらの数値は出入国在留管理庁(法務省)の公式発表に基づく。
また、在留外国人数自体は中長期在留者と特別永住者を合わせて数百万人規模に達しており(令和6年末時点で約376万8977人)、直近の動向でもさらに増加している。外国人労働者は多様な在留資格で就労し、専門的・技術的分野や特定技能、技能実習などで多数を占める。厚生労働省や関係機関の調査では、外国人雇用者数はおおむね180万人台に達しているという推計がある。
移民・難民とは(用語整理)
「移民」は一般に自らの意思で他国へ移住し定住・就労を図る者を指す概念で、「経済移民」「家族移民」「高度専門職」など多様なカテゴリがある。一方「難民」は1951年の難民条約等に基づく法的地位で、迫害(人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見)を理由に保護を求める者を指す。日本は1951年の難民条約に加入しており、国内法(出入国在留管理及び難民認定法)を通じて難民認定手続きを行っている。ただし、条約に基づく保護適用の解釈・運用は各国で幅があり、日本では「難民認定」の基準適用や審査運用が厳格であると国内外から指摘されてきた。
専門的・技術的外国人の受け入れ(制度)
日本は高度専門職(ポイント制)、技術・人文知識・国際業務(いわゆる「技人国」)、特定技能、技能実習など複数の在留資格を用意して外国人労働力を受け入れている。特に近年は人口減少・人手不足を背景に「特定技能」など実務志向の資格が拡充され、介護、建設、宿泊、農業など現場での外国人労働者が急増している。政府統計や雇用実態調査では在留外国人のうち「専門的・技術的分野」が大きな割合を占め、同分野の在留者は増加傾向にある。これにより、製造業やサービス業、建設等で外国籍労働者が不可欠な存在になっている。
ただし、受け入れ制度には二面性がある。高度専門職や高度人材向けの待遇は比較的良好だが、技能実習制度には人権上の問題や低賃金・劣悪な労働条件の報告が繰り返されている。また、在留資格が異なるため社会保障や労働条件、定住の道筋に差が出やすく、同一の「外国人」でも待遇や権利の格差が大きい現状がある。
厳格な審査(入国審査と在留管理)
日本の入国管理・難民審査は厳格である。難民認定手続きは入国管理局(出入国在留管理庁)が担当し、申請の立証責任や審査基準に関しては裁量が大きい。多くの申請は「人道的配慮による在留」や「仮滞在」など別の処遇で受け入れられることもあるが、正規の難民認定に至るケースは相対的に少ないと指摘されてきた。これに対して国内の支援団体や国際機関は、証拠集めが難しい避難者に対する柔軟な審査や面接・通訳支援の強化を求める声をあげている。
難民認定への道(手続きの流れ)
一般的には、日本に到着した者が難民申請を行うと、出入国在留管理庁が申請を受理し、書面・面接で事実関係を審査する。必要に応じてインタビューや追加資料の提出が求められる。審査の結果、難民と認定されれば在留特別許可や難民在留資格が与えられ、就労・生活支援が可能になる。認定されない場合は不許可処分となり、異議申立て(審査請求)や再申請を行うことができるが、送還のリスクや手続きのハードルが存在する。支援団体は法的支援や生活支援、心理的ケアなどを行っているが、申請者の多くは十分な支援にアクセスできないことがある。
認定率の低さとその背景
日本の難民認定率(難民認定者数÷申請者数)は長年にわたり低水準にとどまってきた。近年は申請者数の増減や特定国籍の申請集中などで年ごとに変動があるものの、国際的に見れば認定率は相対的に低いと評価されてきた。認定率が低い理由としては、裁量的な審査運用、国内法の解釈、証拠収集の困難さ、政治的・行政的な慎重姿勢などが挙げられる。支援団体は「認定に至らない中にも保護を必要とする事例が存在する」と指摘し、制度改善を求める声を上げている。
データ(主要統計の要約)
難民申請数・認定数:令和5年(2023年)は申請数1万3823件、認定数303人(過去最多)。令和6年発表では処理数や認定数の動向が変わり、例として報道では処理数8377人中認定176人などの数値が示されている。これらは出入国在留管理庁の発表に基づく。
在留外国人数:令和6年末における中長期在留者は約349.5万人、特別永住者は約27.4万人、合計で約376.9万人という公式集計がある。直近ではさらに増加し、令和7年中間時点の公表でも約395.6万人などの数が示されている。
外国人労働者:厚生労働省・関係調査のまとめでは、外国人労働者数は約182.4万人程度とされ、うち専門的・技術的分野が約71万人であると示されている(製造業、サービス業などが多い)。これは雇用実態調査の結果である。
これらの数値は年度や調査方法により差があるため、解釈では「傾向」や「分母(申請数・在留者数)」に注意する必要がある。例えば認定率の算出では申請の時期や処理の遅れが影響する。
国際社会の反応・評価
国際人権団体やUNHCR、外国報道機関は日本の難民・移民政策を注視してきた。日本は国際機関への資金的貢献が大きい一方で、難民受け入れ数や認定率が低いことを批判されることがある。特に欧米メディアや国際NGOは、法的保護の実効性や審査手続きの透明性、制度的支援の不足を指摘している。日本政府は国家主権や治安管理、入国管理の観点から慎重に対応しているが、国際的な期待と国内事情との間でバランスを取る必要がある。
移民への差別・嫌がらせ(社会的課題)
外国人住民や労働者に対する差別、雇用・住宅での不利、言語や情報アクセスの障壁は現実に存在する。警察の職務執行における人種的プロファイリングや、地域社会での排斥行為、SNS上での誹謗中傷なども報告されており、当該行為は生活上の不安や社会的孤立を招く。これらの事例は国内外メディアや人権団体の調査報告で取り上げられており、行政側の対応や法的救済の強化が求められている。
文化の違いと共生の難しさ
言語、生活習慣、宗教、食文化といった文化的差異は、受け入れ側と移住者双方に摩擦を生みやすい。教育現場での多文化教育の遅れ、地方自治体の受け入れ準備不足、情報提供の不足が要因となり、子どもの学習支援や医療・行政手続きの理解などで困難が生じる。良好な共生を実現するには、受け入れ側の制度整備(多言語対応、通訳支援、地域交流)と移住者側の自律支援(日本語教育、就労支援)が両輪で必要である。
最近の排外主義の動向
近年、選挙や政治運動の場で外国人排斥を訴える勢力が注目される局面があり、SNSや一部メディアを通じて外国人に対する不安や敵視が増幅されることがある。データによると、都市部を中心に外国人を標的にした言説や行動が表面化し、地域社会での緊張を高めている。こうした動きは、政策議論や地方政治にも影響し、外国人コミュニティの安全や生活を脅かすリスクがある。国内の人権団体は排外主義に反対する声明や監視活動を行っている。
問題点(制度的・社会的)
難民認定手続きのハードル:認定率が低く、申請者にとって手続きが長期化・不透明化することがある。
在留資格の格差:技能実習と特定技能、高度専門職で待遇格差が大きく、労働条件や社会保障の不平等が生じる。
社会的排除と差別:住宅・雇用・教育の分野で外国人が困難に直面するケースが散見される。
地方自治体の対応力不足:受入れ体制(医療・教育・通訳等)の不足が地域単位での摩擦を生む。
情報・支援ネットワークの脆弱性:法的支援や心理社会的支援のアクセスが限定的である。
課題
審査の透明性向上と手続き迅速化:証拠収集が困難な避難者に対する配慮や、面接・通訳の品質向上が必要である。
在留資格間の権利均衡:労働者の基本的人権を保障するため、最低賃金・労働条件・社会保険のアクセスを整備する。
地方自治体と市民社会との協働:多文化共生のモデル整備、学校教育や地域コミュニティでの包摂策の強化が必要である。
差別対策と法的救済:人種差別禁止と被害者救済の仕組みを強化し、警察や行政の対応を監視するメカニズムが求められる。
国際協力と責任分担:国際社会との連携を通じて保護の枠組みを強化し、財政支援と受け入れ実務の両面でのコミットメントを示す。
今後の展望
人口減少や社会保障負担の観点から、外国人労働力と定住者の役割は今後さらに重要性を増す。政府は経済的必要性から受け入れ制度を拡充してきたが、同時に社会的合意形成や差別防止措置、生活支援の整備を進める必要がある。難民問題については、国際的な圧力や国内の人権意識の高まりにより制度改善の余地があるが、政治的・社会的な抵抗も存在するため緩やかな変化が予想される。具体的には以下の方向性が考えられる。
在留制度のさらなる整理と分かりやすさの向上(資格の一本化や永住への道筋の明確化)。
難民認定手続きの改善(迅速化、透明化、支援体制の充実)。
多文化共生の教育・地域施策の強化(自治体レベルのモデル作りと国の支援)。
差別対策と法的保護の強化(被害者支援、情報公開、警察・行政の監査)。
まとめ
日本は人口・労働力の課題に直面する中で、実務的には多くの外国人を受け入れているが、難民保護や真の意味での移民統合については制度的・社会的に未解決の問題が残っている。統計は増加傾向を示す領域と依然として低調な領域が混在しており、政府統計やNGOの分析を踏まえた制度改善が必要である。政策的には「受け入れの拡大」と「保護の強化」を両立させることが課題であり、行政、企業、地域社会、市民団体が協働して持続的な共生の仕組みを作ることが求められる。
参考(主要出典)
出入国在留管理庁「令和5年における難民認定者数等について」等公式発表。
出入国在留管理庁「令和6年における難民認定者数等について」等公式発表。
出入国在留管理庁「令和6年末現在における在留外国人数について」等。
厚生労働省・雇用関連調査(外国人雇用実態等のまとめ、JIL報告)。
難民支援団体の報告・意見、国際メディア(Le Monde等)による報道。