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コラム:物価高、いつまで続く?今後の展望

日本の物価高は、世界的な供給制約・資源価格上昇・円安といった外生要因と、国内の賃金・企業行動の変化が複合して生じている。
日本、東京のスーパー(Getty Images)

日本は2020年代に入ってから物価が持続的に上昇する局面に入った。2024年の全国消費者物価指数(2020年=100)は全項目で108.5、前年比+2.7%となり、コア(生鮮食品を除く)でも上昇が続いている。日本銀行は2024年に大規模な金融緩和の枠組みを転換し、政策の正常化を進めている。これらの変化はエネルギーや食料の国際価格上昇、円安の進行、供給面の制約、そして国内の賃金上昇の動きが複合して起きている。

長らく続いたデフレ(物価下落)

1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本は長期にわたるデフレ(あるいは低インフレ)局面を経験した。90年代~2010年代にかけて名目成長は低迷し、物価水準は横ばいか下降する場面が頻出した。この「失われた20年(あるいは30年)」は、資産価格の縮小、銀行の不良債権処理、人口構造の急速な高齢化、需要低迷が複合した結果として説明される。政策面ではゼロ金利や量的緩和が繰り返され、市場金利は長期間にわたり非常に低い水準にあった。

2020年代以降の物価高騰とその経緯(概観)

2020年代に入ると、まずコロナウイルス感染拡大とそれに続くサプライチェーンの混乱が世界の物価に影響を与えた。さらに2021年以降の世界的な景気回復過程でエネルギーや原材料価格が高騰し、ロシア・ウクライナ情勢の影響もあって食料・エネルギー価格が押し上げ要因となった。これに加え、円の大幅な下落が輸入物価を増幅し、日本国内の小売・卸売段階で価格転嫁が進んだ。2022年春以降、国内でもCPIが一貫して上昇し、2022〜2024年にかけて「2%」という日銀目標をめぐる議論が現実味を帯びた。

年次別の主要点

2022年

ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰や、コロナ後回復に伴う供給制約が重なり、2022年は輸入物価と国内消費者物価の上昇が明確になった。政府は電力・燃料の補助や価格抑制策を講じつつ、企業側の価格転嫁を注視した。国際機関や地域の監視機関も物価上昇を指摘している。

2023年

2023年は国内のCPI上昇が継続し、コアインフレ率も2%台に達した時期がある。輸入価格の高止まりに加え、小売段階での値上げが広がったため、家計実感としての「物価高」が目立った年である。日銀はインフレの持続性や賃金上昇との関係を注視しつつ、金融政策の微調整や言説面でのガイダンスを行った。

2024年

2024年はインフレがより定着するかどうかが焦点となった。日本銀行は2024年3月に大規模緩和の枠組みを変更し、マイナス金利やイールドカーブ・コントロール(YCC)といった従来の手法の縮小・終了に踏み切った。その後、中期的な物価見通しを踏まえて段階的な政策正常化を進め、同年夏以降に金利の引き上げや国債買入れの計画見直しが打ち出された。家計の生活コスト上昇に対して政府は給付や補助、エネルギー対策などを実施したが、持続的な賃上げと実質所得の回復が課題となった。

2025年(~現時点)

2025年に入って日銀は更なる正常化姿勢を示しつつ、目標とする「持続的な2%」をどう確保するかを強調している。統計上は2024年の上昇が基準になり、2025年のコアインフレは年度ベースでおおむね2%前後で推移するとの見通しが示されているが、国際情勢や為替の変動、賃金の動向次第で上下しやすい状況である。

長期的な経緯(歴史的背景)

高度経済成長期(~1970年代)

戦後の高度経済成長期は需要の拡大と生産性向上に支えられ、物価上昇は比較的管理された形で経済成長と共に進んだ。産業構造の変化と国際化が進み、輸入依存度や資源構成が徐々に変化した。

オイルショック(1970年代)

1973年・1979年のオイルショックは日本経済に大きなインフレショックを与えた。原油価格の高騰は生産コストと輸入物価を押し上げ、スタグフレーション的な課題をもたらした。政府は省エネ政策や通商政策で対応し、企業はコスト削減と価格転嫁を進めた。これが以後のエネルギー政策や物価安定の重要性を再認識させる契機となった。

バブル経済期(1980年代後半~1990年代初頭)

1980年代後半の資産価格の急騰(不動産・株式)は最終的にバブルの形成へとつながり、90年代初頭の崩壊後は金融機関の不良債権問題とともに長期停滞の原因となった。バブル期のインフレとその崩壊は、その後のデフレ定着にも大きく影響した。

「失われた20年」とデフレ期(1990年代~2010年代)

バブル崩壊後の資産価格下落、消費の低迷、企業収益の縮小、人口構造の問題が重なり、1990年代以降は低成長・低インフレが長期化した。政策はゼロ金利、量的緩和、財政刺激などを断続的に用いたが、デフレ期待の払拭と持続的な賃上げ確保が困難だった。

アベノミクス(2013年~)

2013年からの「アベノミクス」は、強力な金融緩和(量的・質的金融緩和=QQE)、積極的な財政政策、そして構造改革の「三本の矢」を掲げた。円安と金融緩和は輸出や株価、輸入物価を通じて名目面では大きな変化をもたらしたが、実質賃金や家計可処分所得の持続的な改善は限定的であり、物価上昇が家計の実感にまで十分行き渡らない課題が残った。アベノミクスはデフレ脱却の政策的試みとして重要だが、構造的な賃金形成や生産性向上の困難さが露呈した。

2020年代の物価高(詳細)

2020年代に起きた物価高の主な要因は次の通りだ。

  1. 外生的ショック:エネルギー・食料価格の世界的上昇、原材料価格高騰(ロシア・ウクライナ情勢やサプライチェーンの混乱)。

  2. 為替(円安):円安は輸入物価を押し上げ、エネルギーや食料の国内価格上昇を増幅させた。

  3. コストプッシュと価格転嫁:企業側が原材料・輸送費上昇を販売価格に転嫁する動きが進んだ。

  4. 需給面の改善と賃金上昇:労働需給がタイト化する中で賃上げ交渉が進み、一定の賃金上昇が物価を支える側面になった。日銀は賃金と物価の「好循環」成立を重視している。

日銀の対応

日銀は長年にわたって大規模な金融緩和を続けてきたが、2024年に枠組みの転換を行った。具体的にはマイナス金利やYCCの縮小・終了、長期的には保有国債の縮減方針や政策金利の引き上げを段階的に実施した。日銀は「持続的な2%」という物価目標の達成に向け、インフレの持続性と賃金動向を重視して金融政策を調整している。政策の正常化は金融市場や為替に影響を与え、短期的なボラティリティを生む可能性がある。

政府の対応

政府は物価高が家計に与える打撃を緩和するため、エネルギー補助、燃料・食料の一時的支援、低所得世帯向けの給付、価格転嫁への監視や独占禁止法運用の強化、そして賃上げを促すための税優遇・補助などを実施した。だが、短期的な補助は効果をもたらす一方で、恒常的な実質所得の回復や生産性向上には構造改革や企業の「持続的な賃上げ」が必要である。

主な課題

  1. 実質賃金の回復:名目賃金上昇が続いても、物価上昇に追いつかなければ実質所得は低下する。家計の所得と物価のバランスが重要であり、賃上げの持続性が問われる。

  2. 企業収益と価格転嫁のバランス:中小企業や競争の激しい業種ではコスト増が吸収されやすく、価格転嫁が進みにくい場合がある。これが雇用や投資に波及する懸念がある。

  3. 為替と外部ショックのリスク:円相場や国際商品価格の変動は国内インフレに直結するため外生リスクへの備えが必要である。

  4. 金融政策の出口管理:金利正常化は金融機関収益の改善や資産バブル抑制に寄与する一方、過度な引き締めは景気を冷やすリスクがある。日銀のコミュニケーションと政府との連携が重要である。

今後の展望(短期~中期)

短期的には国際商品市況や為替、世界経済の動向に影響されやすく、年ごとにインフレ率は上下しうる。日銀は「持続的な2%」の定着を目指しているが、その実現は賃金上昇の定着、企業の価格設定行動、そして消費者の期待の変化に依存する。中期的には次のことが鍵となる。

  • 賃金と生産性の好循環:企業が賃上げを賃金→消費→需要→投資の好循環につなげること。

  • 構造改革と労働市場改革:労働参加率の向上、生産性向上、女性や高齢者の活用、産業競争力の強化。

  • 外部ショックへの緩和策:戦略的備蓄、エネルギー転換、多角的な供給網構築。

  • 金融と財政の協調:日銀の正常化と政府の財政運営が整合的に行われること。

まとめ

日本の物価高は、世界的な供給制約・資源価格上昇・円安といった外生要因と、国内の賃金・企業行動の変化が複合して生じている。1990年代以降の長期デフレからの脱却を目指す中で、2020年代の物価上昇は政策目標である「安定した2%」へ向けた転機とも評価できるが、その定着には賃金の持続的上昇、企業の生産性向上、外部リスクへの備え、そして政策当局の慎重かつ透明な対応が不可欠である。現時点では物価上昇の要因が多岐にわたるため、短期的な不確実性は残るが、中長期的には構造的な改革と好循環の構築が成否を分けるだろう。


参考(主な出典)

  • 総務省 統計局「消費者物価指数」2024年年報等(CPIの年次値)。

  • 日本銀行「Recent Conduct of Monetary Policy」「Outlook for Economic Activity and Prices」報告(政策枠組み転換や物価見通し)。

  • 国際・地域機関や経済省庁の報告(AMRO、経済産業省の報告など)。

  • Reuters 等報道(政策当局の発言や市場反応の報道)。

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