コラム:不登校児が増え続ける理由、対策は?
政策的には「早期発見・個別対応・地域連携・人的資源の強化」の四本柱で継続的に取り組むことが求められるだろう。
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日本の学校における「不登校」はここ十数年で一貫して増加しており、とくに小・中・高それぞれで長期欠席(一定期間以上登校していない児童生徒)の人数が高止まりまたは増加傾向にある。内閣府や関係機関のデータによると、近年の調査で小・中学校段階の不登校児童生徒数は十万人単位で推移し、合計で数十万に達している。背景には複数の要因が重層的に絡み合っており、単一の説明では全体像を示せない。
「不登校」とは何か
不登校とは法律上の単純な定義だけでなく、教育実務上は「何らかの理由で長期にわたり登校していない状態」を指すことが多い。文部科学省や教育委員会が行う統計では、一般に「出席すべき日に30日以上欠席した児童生徒」などの基準で長期欠席(不登校)を把握している。また、欠席が「病気や出席停止」によるものか、学校に行きたくないという心理的・社会的理由によるものかを区別して報告される場合もある。調査の定義や集計方法が年度ごとに変更されると比較が難しくなるため、長期的推移を読む際は定義の差に注意が必要である。
過去と現在のデータ(国内)
文部科学省の年度調査やこども家庭庁等の公表データによると、令和に入ってから不登校数は増加傾向が続いていると報告されている。たとえば、近年の集計で小・中学校段階の長期欠席の合計が約30万~35万人台にのぼるとされ、これは複数年にわたり増加しているという見方が主流である。ただし、直近の年次では「調査方法の変更」や「出席停止・忌引き等の日数の取り扱い変更」が結果に影響を与えているため、年度ごとの単純比較には注意が必要だ。海外報道や教育分析でも、日本の不登校が引き続き重要課題として扱われている。
いじめと不登校の関係
伝統的にいじめは不登校の主要な誘因の一つと考えられている。学校での直接的ないじめ(身体的・言語的・排除など)は、被害児童生徒の学校不適応、心理的ストレス、登校拒否につながることが多い。文部科学省の調査でも、いじめを背景に不登校となる事例は一定割合を占めると報告される。さらに近年はネットを介した「ネットいじめ(オンラインいじめ)」が増え、従来のいじめとは違う侵襲性(24時間どこでも被害が残存する、拡散されやすい、加害者の匿名性)を持つため、被害者が逃げ場を見つけられず、学校に行けなくなるケースがある。OECDのレビューや学術研究でも、サイバーいじめは学校嫌悪や欠席と関連するという報告がある。したがって、いじめ対策は不登校対策と不可分である。
SNSの普及と若年層の行動変容
スマートフォンやSNSの普及により、子ども・若者の日常的なコミュニケーションは大きく変化した。日本の若年層におけるインターネット・SNS利用率は非常に高く、SNSを通じた交流は友人関係の形成や情報取得に有用な一方、比較・孤立感、誹謗中傷、性的被害誘発、ネットいじめなどのリスクも増大している。SNSを通じた被害や居場所の喪失は、心理的ストレスを増し、登校意欲の低下や不登校につながる可能性がある。さらに、SNS上で形成される「不登校コミュニティ」が存在し、登校を支援する方向に働く場合もあるが、逆に不登校状態を固定化する向きもあるため、単純に善悪で語れない複雑さがある。国際的にはOECDや各国の研究がネットいじめと学校生活満足度や欠席との負の関連を示している。
陰湿ないじめが増えている?
「陰湿ないじめが増えているか」という問いは感情的な反響を呼びやすいが、データは一様ではない。従来型の直接的な暴力行為は一定の年次で増減があるが、ネットいじめという新様式は見えにくく、被害の痕跡が拡散しやすいことから被害感は強まっていると実務者は指摘する。学術的なレビューでは、報告ベースでは必ずしも全体量の単純増を示さないものの、被害の性質(長期間・常時化・拡散性)がより深刻化している点が懸念されている。つまり「件数での一律の増減」よりも「質的に陰湿で回復が難しい事態」が増えている可能性が高い。これが不登校の重篤化に寄与している。
登校を強制する保護者の存在と影響
家庭側の対応も不登校の進行・解決に大きく影響する。保護者が「とにかく登校させるべきだ」と強い姿勢を取る場合、子どもの心理的負担や対立が深まり、かえって関係修復や学校復帰が難しくなるケースがある。一方で保護者自身が学校や教職員と協働して段階的に支援することで復学が進むケースもあるため、保護者の態度は二面性を持つ。近年、保護者支援や家庭訪問、スクールカウンセリングの拡充が求められているが、地域差やリソース不足で十分に機能していない地域も多い。文部科学省やこども家庭庁は保護者支援の重要性を指摘している。
教師不足は不登校に影響しているか?
教師・スクールカウンセラー等の人員不足は、不登校対応の質と深く結びついている。授業以外の生徒指導、個別面談、家庭との連携、校外機関との調整などは人的資源を大きく消費するが、教員の長時間労働や慢性的な欠員、専門人材(スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー等)の不足は、早期発見・早期対応の障害となる。国際比較でも、教員不足・支援体制の弱さは欠席や中途退学の一因とされることが多い(例:スコットランドなどで高い欠席率が報じられている事例)。OECDも教員の負担軽減と追加支援スタッフの配置を政策提言として挙げている。
教師の負担(メンタルヘルスと業務過多)
教員は授業準備・評価に加え、生徒指導、保護者対応、校務(会議・事務)など多岐にわたる業務をこなしており、不登校対応は個別性が高く時間と専門性を要する。これが教員の過重労働や燃え尽きにつながり、結果として学校全体での不登校支援の手厚さが落ちることが懸念される。教員のメンタルヘルス支援や業務の効率化、校外専門職の連携強化は、不登校問題を緩和するための重要な施策である。OECD報告でも教員支援と労働環境の改善が提言されている。
政府の対応(国の施策)
日本政府は不登校対策を重要課題として位置づけ、文部科学省・こども家庭庁・自治体が連携して対策を進めている。具体的には、学校カウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置拡充、スクールカウンセリングの強化、不登校支援センターの設置、家庭・地域との連携推進、オンラインを活用した学びの保障(通信教育やフリースクール支援)など多面的な支援が行われている。また、不登校の早期把握のための調査・研究、公的相談窓口やワンストップ支援体制の整備も進められている。ただし、現場での実効性確保や予算・人材の不足、制度の地域格差が課題として残る。
教育委員会や学校の対応(実務面)
教育委員会や学校は、個別支援計画の作成、家庭訪問、外部支援機関(医療、福祉、地域のNPOなど)との連携、フレキシブルな出席扱い(部分登校・在宅学習の支援)、フリースクール等の代替教育との接続などを現場で行っている。校内の研修や校内ネットワークで教員の知見を共有する動きもあるが、対応の質は校種・自治体間でばらつきがあり、包括的な支援を一律に行うための人的・組織的基盤が依然として不十分である。被害が深刻なケースでは医療との連携(精神科・臨床心理)や児童相談所との連携が必要となるが、そのコーディネーションに時間がかかることが多い。
対策(現行と提案)
現在行われている対策を整理すると以下の要素が重要である。
早期発見と相談体制の充実:教師やスクールスタッフの研修、定期面談、匿名相談窓口の整備。
家庭支援の強化:保護者向けの情報提供、面談、家庭訪問、親同士の支援ネットワーク。
校内・校外連携の強化:医療(子どものメンタルヘルス)、福祉、地域NPO、フリースクールとの連携窓口を定める。
ICTの活用:在宅学習支援、オンライン相談、学習保障の仕組み作り。ただしSNSはリスクもあるためリテラシー教育を同時に実施する。
人材配置の見直し:スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、特別支援教員等の配置増、教員の業務軽減策。
いじめ対策の徹底:ネットいじめを含む多面的調査と迅速な対応、加害者教育、被害者支援。
国際的には、OECDやユネスコが示すように「学習の回復」と「包括的な子どもの福祉支援」の両面から政策を打つことが推奨されている。
国際的な比較
世界的には「欠席・不登校・学齢期の学びの喪失」はコロナ禍以降、各国で深刻化した問題である。ユネスコは世界の「学校に通っていない子ども」数の増加を報告しており、OECDもコロナ後の学習回復と長期欠席対策を各国に提言している。国によって不登校や欠席の原因構成は異なり、貧困、地域の治安、教育制度、特別支援の有無、医療・保健体制の充実度などが影響する。たとえばスコットランドやイングランドの一部、オーストラリアなどでは欠席・不登校の問題が顕在化しており、教員不足やメンタルヘルス支援の遅れが指摘されている。これらの国々の教訓として、人的資源の強化、地域福祉と教育の連携、そして早期発見の仕組みづくりが示される。日本は制度的な整備を進めつつも、人的配置や地域間格差の是正が国際的な課題となる。
根本原因の多層性(まとめ)
不登校増加の理由は単一要因ではなく、多層的である。学校内要因(いじめ、学級の雰囲気、教員の対応)、個人要因(発達障害やメンタルヘルス、家族事情)、社会要因(SNSの普及、社会的競争、経済的要因)、制度的要因(支援人材の不足、制度間連携の乏しさ)などが相互に影響し合っている。さらにコロナウイルスの影響で学習機会や対人経験が変化し、社会的適応の難易度が上がったことも背景にある。OECDやユネスコの報告は、こうした多面的要因を踏まえた包括的対策を国・自治体・学校が共同で進めるべきだと示している。
実務的提言(短中長期)
短期(1年以内)
早期相談窓口とホットラインの周知、在宅支援の即時提供。
学校内の相談体制の徹底(担任以外の相談相手確保)。
中期(1〜3年)
スクールカウンセラーやSSWの増員と全国配備、教員の研修強化。
SNSリテラシー教育と保護者向け情報提供の体系化。
長期(3年以上)
地域包括支援システムの構築(医療・福祉・教育の連携窓口)。
教員の業務改革(事務削減・外部事務支援)と待遇改善による人材確保。
これらはいずれも予算と人材投資を要するが、早期介入による長期的な社会コスト削減効果(学業中断による将来的な経済的・社会的コストを低減)を強調して政策決定を促す必要がある。
今後の展望
人口減少・少子化が進む日本において、子ども一人あたりの教育投資を増やすことは可能性を生む一方で、財政的制約や地域間格差の是正は依然課題である。テクノロジー(オンライン学習・相談)の活用は支援の幅を広げるが、同時にSNS等のリスクを管理する政策が不可欠である。国際的な知見からは、教育と福祉の融合、地域コミュニティの再生、教員の労働環境改革が不登校問題の持続的解決に寄与することが示唆される。政策的には「早期発見・個別対応・地域連携・人的資源の強化」の四本柱で継続的に取り組むことが求められるだろう。
最後に
不登校児が11年連続増加など、長期的な増加傾向が報告されており、数十万規模の児童生徒が長期欠席状態にある。
いじめ(特にネットいじめ)とSNSは不登校の重要な誘因であり、被害の「質」が深刻化している。
教師・支援人材の不足、教員の過重労働、地域差は早期対応の障害となっている。
国際機関(ユネスコ, OECD)の知見は、包括的支援と学習回復、地域連携の必要性を示している。
対策は短期〜長期の多層的施策を組み合わせることが必要であり、特に人的資源投資と制度間連携の強化が重要である。