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コラム:技能実習から育成就労制度へ、何が変わる?

技能実習制度は長年にわたり日本の産業にとって重要な人材受入れの枠組みであったが、運用上の問題から制度そのものの見直しが進み、育成就労制度への移行が決定された。
幼稚園(Getty Images)

現状

近年、日本国内での外国人労働者の数は増加している。届出に基づく統計では、外国人労働者数は200万を超え、在留資格別でも技能実習や特定技能、専門的・技術的分野などが大きな割合を占める。技能実習については制度開始以来、受入れ人数は増加傾向にあり、令和6(2024)年末時点の技能実習に在留する人数は約45万人強であるとの公表がある(政府統計)。また、外国人雇用全体でも業種や地域による受入れの広がりが見られる一方で、人権侵害や低賃金・長時間労働、仲介手数料問題などの運用上の課題が指摘されてきた。これらの課題に対応し、制度を見直す議論が続いている。

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技能実習制度とは

技能実習制度は、開発途上国の人材に対して日本での「技能・技術・知識」を移転し、帰国後に母国の経済発展に寄与させることを目的に設計された在留制度である。受入れは主に監理団体と受入れ企業(監理団体が仲介・管理)により行われ、在留期間は原則3年(例外的に最長5年の延長が認められる職種もある)。制度上は「研修・技能移転」を目的としているため、在留資格は「技能実習」であり、当該期間中の就労は「技能習得」を主目的とする形で認められる。制度運用においては技能実習機構による監督や監査が行われるが、実務上は監理団体や受入れ企業の管理に依存する部分が大きく、送出国側の仲介構造や違法な仲介手数料、劣悪な労働環境等が問題となってきた。

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育成就労制度導入へ(2027年4月1日)

政府は技能実習制度の問題点を踏まえ、制度を発展的に移行させる形で育成就労制度を創設する法改正を行った。育成就労制度は、就労を通じた人材育成(キャリア形成)と労働市場での人材確保を目的とし、技能実習の位置づけを見直してより「就労性(employment)」を明確にする制度設計になっている。法改正や施行規則の公表では、育成就労法の施行日については公布後3年以内とされたが、運用準備の進捗に伴い2027年4月1日施行を目途に運用方針や分野別ガイドライン等が整備される予定であると説明されている。育成就労は分野別に受入れやキャリア形成プログラム等が定められ、一定の日本語水準や事前教育、支援体制が要件として明記される方向である。

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技能実習と育成就労の主な違い

以下に、指定された観点に沿って両制度の相違点を整理する。

1. 制度の目的
  • 技能実習:当初の法趣旨は技術移転と国際協力(研修型)であり、研修・技能修得が主目的である。実務上は「職業訓練」と「労働力供給」が混在してきた。

  • 育成就労:明確に「就労を通じた人材育成」と「国内労働市場における人材確保」を二本柱に置く。労働条件やキャリア形成が重要な目的となる。法令上も就労性を前提にした要件整備が行われる。

2. 在留資格(法的性格)
  • 技能実習:在留資格「技能実習」。研修的性格が強く、転職や転籍は厳格に制限される場合が多い。

  • 育成就労:新たな在留資格(育成就労に基づく在留資格)が設けられ、雇用契約にもとづく就労を前提とするため、より通常の就労ビザに近い運用が想定される。ただし、分野別に制約(在留期間上限、事業所間移動等)は設けられる見込みである。

3. 転籍(転職)の扱い
  • 技能実習:制度設計上は監理団体・受入れ機関との計画に基づくため、自由な転職は基本的に制限される。違反雇用や失踪と認定されるケースも発生している。

  • 育成就労:育成就労では労働市場での定着を促すため、分野内での転籍や転職ルールを明確化し、過度な制限を避ける方向が検討されている。ただし、職種や分野によっては受入枠や条件が異なるため完全な自由移動とはならない可能性がある。

4. 日本語能力
  • 技能実習:従来は日本語要件は緩やかであったが、近年は就労前の基礎的日本語教育や試験合格(例:N5相当)の要請が強まっている事例がある。

  • 育成就労:就業や安全、労働条件説明、キャリア形成のために、就労開始前にA1相当(日本語能力試験N5等)合格または相当の講習受講を義務付けるなど、段階的日本語学習が制度設計に盛り込まれている。制度中の日本語研修や評価がキャリアの進展条件となる想定である。

5. 対象分野
  • 技能実習:農業、建設、製造、介護など多岐にわたる職種が対象で、職種ごとに細かな作業分類がある。

  • 育成就労:特定技能分野のうち、就労を通じて技能習得が適切に行える分野を中心に「育成就労産業分野」として限定的に設定される見込み。分野例として建設、造船、自動車整備、宿泊、運送、製造、介護、林業等が想定されているが、最終的な分野指定は分野別の運用方針で定められる。

6. 人権保護(労働条件監督)
  • 技能実習:過去には低賃金や長時間労働、パスポート没収、違法な仲介など人権問題が散発し、行政処分や監理体制強化が行われてきた。監理団体の優良認定制度や監査強化、送出国との連携強化等が進められている。

  • 育成就労:人権保護を強化する観点から、賃金・労働条件の適正化、監督機関の権限強化、受入れ事業者の要件厳格化、日本国内支援体制(自治体・労基署・入管等の協調)、仲介手数料の抑制等が法令・運用で重視される。育成就労では「労働者」としての保護をより前提とするため、相談窓口、保護措置、違反時の制裁も強化される見込みである。

7. 特定技能への移行
  • 技能実習→特定技能:現行では技能実習修了後に特定技能へ移行するルートがあるが、技能実習の性格上、一定の技能評価や試験合格が要件となる。育成就労導入後は、育成就労での育成成果により特定技能相当レベルへ移行しやすくするキャリアパス設計が想定される(育成就労は3年間の就労で特定技能1号相当の技能水準を目指す等の記載あり)。

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人材確保できる?(現実論)

育成就労制度は、制度名のとおり「就労を通じた育成」と「人材確保」を目標にしているため、適切に運用されれば企業の人材ニーズに応える効果は一定程度期待できる。現場で必要な即戦力を育てるカリキュラムや、受入れ枠の明確化、日本語教育の充実、生活支援の強化が伴えば、ミスマッチが減り定着率は向上する可能性がある。特に地方や特定産業で慢性的に不足している職種(建設・製造・介護・運送など)では、育成就労は現場の需要を満たす有力な手段となり得る。政府・自治体の支援や分野別協議会による需給見通しの共有が行われれば、計画的な人材受入れが可能となる。ただし、送出国側の送出機関運営の適正化、仲介コストの抑制、受入れ事業者側の労務管理能力向上が伴わなければ、制度化だけでは人材確保は不十分である。

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問題点(既存の課題と新制度導入で懸念される点)

  1. 運用の「絵に描いた餅」化:法令やガイドラインで要件を厳しくしても、現場の中小事業者に十分なリソースや理解がない場合、形骸化が起こるリスクがある。

  2. 監理体制の負担増:監査・指導強化に伴う行政・団体の業務量増は現場負担となり、対応が困難な自治体や事業者が出る可能性がある。

  3. 送出国依存と仲介問題:不当な仲介手数料や送出機関の違法行為は根絶されていない。育成就労でも送出側の適正化が不可欠である。

  4. 日本語教育等の費用負担:事前・入国後の日本語教育や職業訓練のコスト負担を誰が負うか(事業者か受入れ側か本人か)で摩擦が生じる。政府は手数料抑制や支援を打ち出しているが、現場での負担調整が課題となる。

  5. 移行期間の混乱:技能実習から育成就労への移行期に既存の実習生の扱いや在留資格の取扱い、受入れ枠の整理で混乱が生じる可能性がある。法令周知と猶予措置が重要になる。

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課は(政策的・運用的観点)

  1. 分野別の受入れ上限と需給調整:分野別に人数上限を設ける場合、地域・産業の実情に応じた柔軟な運用が必要である。中央だけで一律に決めると地域の現場ニーズとずれる恐れがある。

  2. 監理団体・受入れ企業の能力強化:人権配慮、労務管理、日本語教育のマネジメント能力を持つ体制を整備するための研修や認証制度の実効化が必要である。

  3. 送出国との二国間協力強化:送出機関の監督や送出過程での不当行為防止のため、二国間のルール整備と情報共有が鍵となる。

  4. 生活支援と地域受け入れ環境整備:住居、生活相談、日本語学習機会、地域コミュニティとの接点づくりなど、労働以外の側面での支援を強化する必要がある。

  5. 透明性と情報開示:受入れ企業や監理団体、送出機関のデータ公開や不正事例の周知を通じて透明性を高め、悪質事業者の排除を進める必要がある。

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今後の展望(実務面・政策面の見通し)

  1. 段階的実施と運用評価:2027年4月1日施行を前提に、運用開始後も段階的な評価と修正サイクルを設けることが重要である。試行期間やパイロット事業で問題点を洗い出し、改善を図るべきである。

  2. 特定技能との連携強化:育成就労で育った人材が、より高度な技能を取得して特定技能や他の在留資格へと移行できるキャリアパスを官民で整備すれば、定着率と技能形成効果が高まる。

  3. 自治体・産業界の役割強化:地方自治体や分野別協議会が参画し、地域ごとの受入れ方針や労働環境整備に主体的に取り組む必要がある。地域の雇用条件に合わせた支援が人材定着に繋がる。

  4. 労働市場の構造的対応:外国人材政策はあくまで補完的手段であり、長期的には国内の賃金水準・働き方改革、生産性向上とセットで進めることが肝要である。外国人材依存を単純に拡大するのではなく、労働市場の構造改革と両輪で進めるべきである。

  5. モニタリングと透明性の継続的強化:統計整備や事例公開、外部有識者による第三者検証などを通じ、制度運用の透明性と信頼性を高めることが必要である。

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まとめ

技能実習制度は長年にわたり日本の産業にとって重要な人材受入れの枠組みであったが、運用上の問題から制度そのものの見直しが進み、育成就労制度への移行が決定された。育成就労は「就労を通じた人材育成」と「人材確保」を両立させることを目指す新たな制度であり、2027年4月1日の施行に向けて分野別の運用方針やキャリア形成プログラム、日本語教育の要件、労働条件の保護などが詳細化されつつある。制度設計は着実に前進しているが、実効性を担保するためには送出国との協力強化、監理体制の整備、受入れ事業者の能力向上、生活支援の充実、そして透明性の確保が不可欠である。政策的には短期的な人材確保だけでなく、労働市場の構造的課題に対する長期的対応と組み合わせる必要がある。今後は運用開始後のモニタリングを通じ、現場の声を反映しながら柔軟に制度を改善していくことが求められる。

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参考主要資料:出入国在留管理庁・厚生労働省の制度概要・統計資料、国際人材協力機構(JITCO)等の解説資料

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