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コラム:日本のレアアース戦略、「脱中国」へ

日本のレアアース戦略は、中国依存のリスクに対応し、経済安全保障と産業競争力を強化するための多面的なアプローチを取っている。
レアアースのイメージ(Getty Images)
現状(2026年2月時点)

レアアース(希土類元素)は、ネオジムやジスプロシウム、テルビウムといった17種の元素の総称であり、スマートフォン、電気自動車(EV)、風力発電、半導体製造装置、軍事装備まで幅広く使用される。これらは高性能な永久磁石や蛍光体、触媒などの素材として不可欠であるが、地殻中の存在比率が低く、採掘・精製が困難である。さらに、高度な製造プロセスを要するため、供給リスクと戦略性が高い資源とされる。

世界的な生産構造をみると、中国が長年にわたりレアアースの生産から精製・加工・磁石製造まで支配する「バリューチェーンの支配者」となっており、2009年には世界の供給の85%以上を占めていた。日本は長年にわたりこの中国依存を是正するための政策を展開し、2024年には依存度が約60%まで低下したと推計されているが、依然として大きな依存構造が残存している。中国の輸出規制や外交摩擦は、日本経済とサプライチェーンに対する大きな不確実性を生じさせている。

2026年初頭には、日本政府の支援のもと深海底からレアアースを採取する試験が世界で初めて成功し、南鳥島沖での資源確保が国家戦略の焦点となっている。


レアアースとは

レアアース(希土類元素)はスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)、およびランタノイドと呼ばれる15元素(ランタン(La)からルテチウム(Lu)まで)の計17元素を指す。この名称は古く発見された鉱物が稀であることに由来するが、実際の地殻量はそれほど稀ではない。ただし、経済的に採掘可能な濃集鉱床は極めて限られており、採掘・処理には高度な技術が必要となる。これらの元素は、強力な永久磁石(ネオジム磁石など)や触媒、蛍光体、研磨剤、光ファイバーなどに利用され、先端技術の基盤を形成する。

レアアースの生産プロセスは、鉱石の採掘から精鉱、精製、合金化、磁石製造まで多段階であり、特に分離・精製工程は極めて化学的に複雑で環境負荷が高い。そのため、文化的・環境的コストも供給戦略の重要な要素となっている。これらは戦略的資源として、経済安全保障政策の中心課題となっている。


高市政権のレアアース戦略(総論)

2025年10月の連立政権(自民党・維新の会)下で、レアアース戦略は「経済安全保障」の中核政策となった。中国依存のリスクが顕在化する中、高市早苗首相は「戦略的資源の自立と多角化」を強調し、国際協力、国内資源開発、先端技術・代替手段の推進を国家戦略として掲げている。

この戦略は、次のような大きな柱から成り立つ。

  1. 供給網の多角化:中国依存から脱却するため、多様な国・企業との調達協力強化。

  2. 国内資源開発:国産資源の確保、特に南鳥島沖の海洋レアアース開発を推進。

  3. 経済安全保障の強化:重要資源の戦略的ストック構築、企業支援、法的整備。

  4. 代替技術・リサイクルの推進:使用量削減や代替素材の研究、リサイクル技術の実用化。

これらの方向性は、安全保障政策と経済政策を統合した視点から策定されており、従来の単なる資源確保策を超えた「産業の持続可能性と競争力強化」を意図したものである。


「脱中国」への調達先多角化

日本のレアアース供給政策における中心的課題は、中国依存度の高さである。2009年には中国が世界供給の85%以上を占めていたが、日本は2010年代の政策転換以降、豪州、ベトナム、カザフスタン、ナミビアなどへの投資と協力を進めることで依存度を約60%程度へと低減してきた。

豪州との協力

豪州は豊富なレアアース鉱床と透明な法制度を背景に、日本企業の投資先として重要となっている。日本政策投資銀行や商社系ファンドは豪州レアアース鉱山への出資を進め、初期の採掘・分離プロジェクトの権益確保を図っている。また、豪州の拡大する精製・加工能力は日本の中間材供給の多角化に寄与している。

ベトナム等との協力

ベトナムは豊富なレアアース埋蔵が見込まれており、日本は技術協力や探査支援を通じて将来の供給基地としての育成を図っている。ベトナムでの共同研究・鉱山開発プロジェクトは、日本の資源外交の一環として位置づけられている。

いずれの地域においても、単なる鉱石調達だけでなく、精製・分離・磁石製造といったバリューチェーン全体に日本企業が関与できるよう支援が進められている。


豪州・ベトナム等の開発支援

日本政府は、海外のレアアース埋蔵国に対する資金援助や技術支援を通じて、信頼できるサプライヤーと連携を深めている。具体的には、海外鉱山プロジェクトへの政府系ファンドによる出資、共同研究プログラムの実施、現地の鉱山開発企業との技術提携が挙げられる。これらは、日本企業が安定した原料供給を確保すると同時に、供給網全体の透明性と持続性を高めることを目的としている。

また、ベトナムやアフリカ地域では鉱山開発前の探査・評価段階からの支援が行われ、日本技術が現地技術として定着することを志向した戦略的協力が進展している。こうした動きは、日本の外交政策とも連動し、経済安全保障と地域発展の両立を目指している。


経済安全保障の強化

政府はレアアースを含む重要資源に関する「経済安全保障法制」を強化している。戦略的備蓄制度、輸出入規制、外資規制といった枠組みの整備に加え、民間企業への補助金・税制優遇措置が実施されている。重要資源の長期的安定供給を確保するため、必要と判断された場合は国家による資源権益の確保や共同投資が行われる体制が整備されつつある。

また、2010年代の中国による輸出制限を契機に日本は供給網の多角化と備蓄政策に注力してきた。これにより中国依存度は大幅に低下したものの、依然として重大なリスク要因となっている。最近の中国による輸出管理強化は、レアアースと関連製品にまで拡大しており、日本企業は調達網の再構築を迫られている。


「海洋資源」による国産化への挑戦

日本は資源小国と呼ばれてきた歴史を持つが、排他的経済水域(EEZ)内の海底資源に着目することで状況を一変させる可能性がある。中でも南鳥島沖に眠るレアアース泥は、世界的に見ても非常に高品位の資源とされ、日本の年間需要の数十年〜数百年分に相当すると推計される。


南鳥島沖レアアース泥

南鳥島沖のレアアース泥は、従来の陸上鉱床とは異なり、海底堆積物として存在する。この泥状資源は粉砕工程が不要で、集中した形態で存在するため、理論的には採掘・処理の効率が高いとされる。また放射性元素の含有が比較的低いことから、環境負荷の点でも評価されている。

政府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)により、複数省庁・研究機関が連携して技術開発が進められている。2025年には既に世界初の実証試掘に成功し、2026年1月からは水深約6000メートルの深海底泥を引き上げる試験採掘が行われた。

この試験では探査船「ちきゅう」を用いて連続引き上げに成功し、含有元素の分析が進行中である。2027年には本格的な商業化試験へ移行する計画であり、2030年代には商業採掘開始を目指すとされている。

南鳥島沖資源の開発は日本の資源自給率を画期的に高め、レアアースの国産化と経済安全保障の強化に寄与する可能性がある。ただし、深海開発の技術的課題、コスト、環境影響、国際法規制等のハードルは依然として大きい。


今後の展開

南鳥島沖レアアース資源の開発成功は日本の資源戦略にとって画期的な転換点となる可能性を秘めている。成功すれば、陸上鉱山国とは異なる新たな資源セクターが創出され、経済の構造転換や関連産業の成長につながる。一方で、技術的困難やコスト競争力、国際市場での価格形成などの課題は現実的な検討が必要である。

政府と民間は、引き続き国際協力と技術開発、環境保全の3者をバランスさせる政策設計に取り組む必要がある。また、レアアースの精製・加工能力を国内で高めることも重要であり、単に原料確保だけでなく、バリューチェーン全体の強靱化を図ることが求められる。


「代替技術」と「リサイクル」

レアアース戦略では、供給源多角化だけでなく、使用量削減や代替技術、リサイクルが重要な柱となる。使用量削減は製品設計段階でレアアースの必要量を抑える方向への研究開発が進む。また、レアアース磁石を含む製品から回収する「都市鉱山」利用の取り組みも加速している。

日本には電子廃棄物のリサイクル技術が比較的進んでおり、廃電子機器からの再資源化を通じてレアアースの回収を図る動きがある。企業や研究機関は新たな分離・回収技術の開発を進め、環境負荷を低減しながら戦略資源の循環利用を推進している。


使用量削減・代替素材

製造現場では、材料工学の進展により、レアアース使用量を削減する設計や、レアアースに代わる合金・磁石の開発が進んでいる。永久磁石におけるレアアース削減、あるいはレアアースフリー磁石の実用化に向けた研究は国内外で活発である。これらの技術進展は、戦略資源に対する需要構造そのものを変革する可能性がある。


「都市鉱山」の活用

日本は電気製品や自動車などの廃棄物から利用可能なレアアースの回収資源が豊富であるとされており、都市鉱山としての活用が注目されている。既存のリサイクルプログラムにレアアース回収技術を組み込むことで、国内供給の一部を補完するとともに、環境負荷の低減に寄与する。また、リサイクル技術の高度化は国際的な競争力強化にもつながる。


中国依存度:85%以上(2009年) → 約60%(2024年)

日本におけるレアアース供給源の多角化努力は2009年から本格化した。中国による2010年の輸出制限を契機に、日本は豪州などへの投資や海外プロジェクト、リサイクル促進、備蓄戦略を推進した。その結果、2010年代初頭の依存度85%以上から、2024年には約60%程度まで低減したとされる。


備蓄:非公表だが約半年〜1年分と推定

戦略的備蓄量について日本政府は正式には公表していないが、国内専門家の推計や業界関係者の分析では、現状の備蓄は国内需要の約半年から1年分程度と考えられている。この備蓄は、供給ショックや外交リスクに対する短期的なバッファとして機能する。


国産化目標:2030年代に南鳥島沖での商業採掘開始

南鳥島沖のレアアース資源開発は日本の国産化戦略において中心プロジェクトとして位置づけられている。2026年に試験採掘が行われ、2027年には本格的な試験段階へ移行する計画である。政府は2030年代初頭を目標に商業採掘への移行を目指してプロジェクトを推進している。成功すれば、日本は世界有数のレアアース資源国へと転換する可能性がある。


今後の展望

今後の展望として、日本のレアアース戦略は複数の局面で転換点を迎えている。南鳥島沖採掘プロジェクトの進捗は世界初の深海レアアース開発として国際的な注目を集めており、国内外の政策や企業戦略に影響を与えるだろう。供給網多角化、代替技術、リサイクルといった多面的な戦略は、供給リスクに柔軟に対応し、産業競争力の強化につながる可能性を持つ。

一方、技術的困難やコスト、環境・国際法的課題は依然として解決すべき現実的な問題であり、政策担当者と産業界は総合的なリスク評価と長期的視点から戦略を再評価する必要がある。今後の政策動向と技術革新が日本のレアアース戦略の成否を左右する。


まとめ

日本のレアアース戦略は、中国依存のリスクに対応し、経済安全保障と産業競争力を強化するための多面的なアプローチを取っている。供給源多角化、南鳥島沖の海洋資源開発、代替技術、リサイクル、都市鉱山活用などを組み合わせることで、戦略資源の安定供給と国際競争力の強化を図っている。今後も政府と民間の連携の下、技術開発と政策対応が重要な役割を果たす。


参考・引用リスト

  • Japan retrieves rare earth-rich mud from seabed to lower reliance on China — AP News, Feb 2 2026.

  • Japan retrieves rare earth mud from deep seabed in test mission — Reuters, Feb 2 2026.

  • Japan's TDK says affected by China rare earth curbs, making diversification push — Reuters, Feb 2 2026.

  • Japan sets sail on rare earth hunt as China tightens supplies — Reuters, Jan 12 2026.

  • China’s rare earths dominance commentary — Washington Post, Jan 2026.

  • レアアース安定供給へ前進、経産省支援策と南鳥島の巨大資源 — KHITC.

  • エネルギーと私たちの暮らし「南鳥島沖レアアース」 — エネフロ.

  • 南鳥島レアアース商業化へ!2026年試験採掘で日本の資源自給が加速 — Today Japan News.

  • 日本戦略研究フォーラム「中国が狙う海洋資源国家日本」 — JFSS.

  • 中国依存度低下と戦略 — Note(Hafnium).

  • METI 鉱物政策概要 — 経産省資料.

  • Japan’s Rare-Earth Metals Market in 2024 — GTAI report.

  • Systemic Trade Risk Suppresses Comparative Advantage in Rare Earth Dependent Industries — arXiv.
  • Advancing the Economic and Environmental Sustainability of Rare Earth Element Recovery — arXiv.


追記:南鳥島沖の「国産レアアース」具体的埋蔵量

南鳥島沖(東京都最東端の南鳥島周辺)のEEZ(排他的経済水域)では、深海底の泥(REE‐rich mud)中に高濃度のレアアース資源が存在すると確認されている。複数の調査・分析では、以下のような規模が試算されている。

埋蔵量の推計

  • 約1,600万トン程度のレアアース資源が存在すると推定される。これは世界でも上位に位置する規模と評価される。

  • 一部研究では、特定のレアアース元素(例:ジスプロシウムなど)が日本国内年間消費の数百年分〜数千年分に相当するとする分析も報告されている。

  • 別の分析では、特定元素の年消費量の420年〜780年分に匹敵するとの試算もある。

これらの推計は、南鳥島沖に存在するレアアース泥の高い濃度と広い分布に基づいており、従来の陸上鉱床にはない埋蔵ポテンシャルを示している。

埋蔵密度・含有濃度

南鳥島沖のレアアース泥は、一般的な深海堆積物と比べて高いREY(Rare Earths and Yttrium)濃度(5,000〜6,500 ppm)を持つ層が海底下に存在することが学術研究により示されている。
この濃度自体は通常の鉱山鉱床と比較するとかなり高く、加工対象としてのポテンシャルを秘める。

要点整理

  • 資源量は世界的に見ても大きいと評価される。

  • 特定の戦略元素については国内需要を長期にわたり供給可能な規模との評価試算が出ている。

  • 正確な埋蔵量・可採量は、今後の精密探査と評価段階でより正確に判明する必要がある。


採算性と経済性評価

埋蔵量の大きさが注目される一方で、商業化の採算性・経済性には大きな課題が存在する。南鳥島沖の資源は世界的にも初めての深海底泥からのレアアース採掘となるため、以下のような点が経済性評価の中心となる。

採掘コスト
  • 南鳥島沖の採掘コストの試算には大きな幅があるが、加工・揚泥・回収まで含めると1トン当たり約2万円〜7万ドル程度との広いレンジでの試算が存在する。

  • このコストは、中国や豪州等の陸上鉱山から精製・加工されたレアアース素材価格と競合するには相当なコスト圧力がかかる水準である。

技術面とコスト構造
  • 南鳥島の海底は水深約5,500〜6,000メートルにあり、既存の鉱山開発とは全く異なる条件である。これ自体がコスト上昇要因となっている。

  • 採掘した泥からの精製・分離プロセスは海上ではなく陸上で行う必要があるため、揚泥後の輸送・処理コストも重荷である。

経済性の評価

現段階での実証試掘やモデル計算によると、現行の市場価格水準では採算性が確保できない可能性が高いとの評価が複数専門家・報道により指摘されている。特に、中国等既存供給国から比較的廉価な素材が供給され続ける場合、国産開発単独で価格競争力を持つには困難であるとの見方が出ている。

ただし、以下のような状況下では採算性の評価が変化する可能性がある。

  • 国際市場で供給不安が高まり、価格が上昇する場合

  • 安定供給の価値を市場が評価し、プレミアム価格が形成される場合

  • 同時に精製・加工まで国内にバリューチェーンを築くことで、付加価値を高める場合

これらの条件は、国際政治・経済環境の変動と密接に関係しているため、経済性評価は流動的である。


2010年の供給制限(レアアース・ショック)と日本経済への影響

中国は尖閣諸島をめぐる領有権問題を背景に日本向けのレアアース輸出を事実上制限した。この出来事は世界市場に価格ショックをもたらし、「レアアース・ショック」として広く知られるようになった。

直接的な影響
  1. 価格の急騰
    レアアース価格は暴騰し、多くのレアアース関連素材・製品の価格が急上昇した。日本の製造業はコスト上昇と調達不安に直面した。

  2. 供給網の脆弱性の顕在化
    中国依存構造(当時は世界供給の85%以上、かつ日本は多数の元素を中国から調達)が露呈し、供給網リスクが国家戦略上の課題となった。

日本の政策的対応

レアアース・ショックを契機として、日本は中長期的な供給多角化戦略を策定・推進した。具体的には以下が挙げられる。

  • 海外鉱山への投資と供給協力(豪州Lynas社等)

  • 備蓄政策の強化

  • リサイクル技術開発や代替材料研究

  • 経済安全保障戦略への組込み

これらの政策により、中国依存度は85%(2009年)から約60%(2024年頃)へ低下すると評価されるようになった。

経済構造への示唆

レアアース・ショックは単なる短期的な価格変動にとどまらず、供給網リスク管理や資源戦略の在り方を見直す契機となった。特に日本では、重要資源が単一国・地域に依存するリスクが経済安全保障そのものに直結するとの認識が広まった。この経験は、2020年代以降のレアアース戦略全般に深く影響している。


総合評価(国産開発の位置づけ)

南鳥島沖のレアアース開発は、日本の資源戦略にとって画期的かつ独自性の高い国家プロジェクトであると言える。埋蔵量・ポテンシャルは世界的にも魅力的だが、商業的な採算性は現時点では不透明であり、国際市場価格や供給リスクに強く依存する側面がある。

一方で、供給ショック経験や経済安全保障の観点からは、国内供給源としての価値は例外的に高い。これにより、単なる経済性評価を超えた国家戦略的価値があると評価される。

今後は、埋蔵量の精密評価、採掘・精製の技術改善、国際市場との整合性、環境・法制度対応などを総合的に考慮した評価と政策設計が必須である。

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