コラム:石破首相が辞意表明「どうしてこうなった」
今後、新総裁・新首相下での政権運営は、少数与党という逆風下で始まるため、政治的手腕と政策の見直しが政権安定の鍵を握る。
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1. 経緯:就任から辞任へ
a. 首相就任と衆院選敗北
石破 茂氏は2024年10月に自由民主党総裁に就任し、第102代内閣総理大臣となった。しかし、同月行われた衆議院選挙では、自民・公明の与党は多数を失い、大敗を喫する。石破氏はその責任を問われつつも、「政治の空白を避ける」として留任を表明した。
b. 参院選での更なる敗北と支持低迷
2025年7月の参議院選挙でも与党は過半数を失い、政権の不安定さが一層深まった。さらに世論調査では内閣支持率が20%台に急落し、深刻な信任失墜が明瞭となった。これを受け、自民党内でも石破氏の辞任を求める声が高まり、総裁選の前倒し議論が始まった。
c. 辞任否定と政策継続の主張
参院選直後には、「石破氏が8月末に辞任する」といった報道もあったが、石破氏自身は否定し「責任を果たすために続投する」と述べた。しかし、党内の構造的圧力はいよいよ強まっていた。
d. 日米貿易交渉の区切りと辞任の決断
そのような状況の中、石破氏は日米間の関税交渉の進展に「一つの区切り」を見出し、これを機に辞意を決断した。具体的には、トランプ米大統領による関税削減措置(25%から15%へ)の大統領令が発出されたことがその「区切り」であった。
e. 緊急記者会見での辞意表明
2025年9月7日夜、石破氏は緊急記者会見を開き、首相および自民党総裁を辞する意向を正式に表明した。総裁選には立候補せず、後進に道を譲る決断をした。その背景には党内分裂への懸念があり、「前倒しされる総裁選の過程が党を分裂させる」との判断もあった。
f. 市場・政治への影響
石破氏辞任の発表は市場にも衝撃を与えた。日本の超長期国債金利(金利)が高止まりしていた中、政策の不透明感から市場の変動が懸念されている。
2. 問題点:なぜこうした事態に至ったのか
a. 選挙での連続敗北と国民不信
石破政権は短期間に衆院・参院の両院選で連敗を喫し、与党の多数を失墜させた。これにより「信任なし」と判断されたことが最大の問題である。
b. 経済政策の迷走と生活実感の乖離
物価高やコメ価格など生活実感に直結した問題が浮上するなか、石破政権の対策が有権者に届かず、政策ブレ・統一感の欠如が信頼を損ねたとの指摘もある。
c. 党内結束の欠如
自民党内部では石破氏への支持と反発が拮抗し、特に保守派からの退陣要求が明確だった。党内調整の失敗が政権運営を困難にした。
d. リーダーシップの脆弱さ
就任から1年未満という短命政権でありながら、政策遂行・国会運営で強力な推進力を示せなかった。結果として、内外の課題に対応しきれず、支持基盤の弱さが露呈した。
e. 政策と外交との落としどころの不一致
日米貿易交渉を踏みとどまりの理由に挙げたが、国内支持との整合性がとれず、国民には「交渉を理由に続投」と映り、世論との乖離を招いた可能性もある。
3. 今後の展望:政局と政策の行方
a. 自民党総裁選と新政権誕生
石破氏の辞任により、自民党は新たな総裁選を実施する見通しで、候補として小泉 進次郎氏、岸田派出身・林 芳正氏、保守派の高市 苗氏らの名前が挙がっている。
b. 国会多数を失った政権の立て直し
衆参ともに過半数を失った状況下、野党との協議・連携が不可欠となる。新政権は法案成立に向けて柔軟な手法を模索する必要があるが、与党内の一枚岩でない構造は依然課題である。
c. 市場の安定と経済政策の再構築
石破氏の辞任による市場の変動懸念を抑えつつ、経済政策の再構築が求められる。特に生活支援・物価対策・経済成長戦略の提示が急務となるだろう。
d. 政党内結束と信頼回復への試み
新リーダーには党内結束と国民信頼の回復という二重課題が与えられる。党員・国民からの支持を得るには、開かれた党運営と政策実行力が不可欠となる。
結論
石破氏は就任直後から続いた衆院・参院での選挙敗北により、政権基盤の脆弱さが明らかとなった。その上で党内の圧力と支持率低迷に直面しながら、政策遂行の意思として日米関税交渉を終える「区切り」を根拠に続投を選んだものの、最終的には与党の結束と政権安定性に配慮して辞意を表明した。
短期的には、自民党内の分裂回避と政権の滑らかな移行を狙った判断であり、長期的には、選挙敗北と政策への不信を払拭する必要性から政権再構築を促す契機ともなった。
今後、新総裁・新首相下での政権運営は、少数与党という逆風下で始まるため、政治的手腕と政策の見直しが政権安定の鍵を握る。国民との信頼回復と国内外課題への対応に注目が集まる、正念場の時期である。