コラム:米イラン紛争、「中東大戦」に発展する可能性も
イラン内戦化とホルムズ封鎖は、エネルギー危機、金融不安、地政学的再編を同時進行させる「複合危機」を生む可能性が高い
.jpg)
現状(2026年3月時点)
米国およびイスラエルは2026年2月28日に共同軍事作戦を開始し、イランに対する大規模な軍事攻撃を実施した。この攻撃はイラン本土の軍事・核関連施設、政府中枢に向けられ、イスラム共和制の象徴である最高指導者ハメネイ師を標的とし、実際に死亡したと報じられている。これを受けて、イランは即時の報復としてミサイル攻撃や地域での軍事行動を展開し、紛争は拡大傾向にある。この衝突は1979年のイスラム革命後最大規模の危機と位置づけられ、地域および国際社会に深刻な波及効果を及ぼしている。特にホルムズ海峡における軍事活動の激化が海上交通・エネルギー市場に重大な影響を与えている。
イラン国内では最高指導者の死亡と権力交代の過程が進行しており、臨時評議会が設置されて国家運営を代行する一方で、政治的・社会的緊張が高まっている。国際社会は外交ルートを模索しているものの、軍事的緊張は緩和しておらず、地域全体の安全保障上の不確実性が増している。
米イスラエルによる対イラン共同軍事作戦(26年2月28日~)
2026年2月28日、米国およびイスラエルは「Operation Epic Fury(米国側名称)/Roaring Lion(イスラエル側名称)」と呼ばれる共同軍事作戦を発動した。この作戦はイランの核開発関連施設、弾道ミサイル基地、革命防衛隊(IRGC)司令部・軍事インフラを対象としたものであり、戦略的な先制空爆が行われた。最高指導者ハメネイ師はこの攻撃で死亡したとされ、イラン政府・軍関係者数百人が犠牲になったと伝えられている。
この軍事作戦は、米国トランプ政権が「イランの核・ミサイル開発の脅威を排除する必要性」を理由に正当化したものであり、外交協議が進行していた最中の行動だった。この軍事介入は一方的かつ大規模であり、出口戦略が不明瞭であるとの懸念が国際的にも指摘されている。
最高指導者ハメネイ師殺害の衝撃
イランの政治体制は、最高指導者が国家の究極的な統治権を保有する「イスラム神政政治(Velayat-e Faqih)」の下に構築されている。この制度では最高指導者が軍・司法・国家安全保障の最終権限を有し、革命防衛隊(IRGC)の上級指揮官とも密接な関係を維持している。この体制の中心であったハメネイ師の殺害は、革命以来初の事態であり、政治的・社会的な衝撃は極めて大きい。
ハメネイ師の死は、国内の保守強硬派や聖職者層だけでなく、治安部隊、地方勢力、都市の若年層・反体制派にとっても象徴的な意味を持つ。体制中枢が標的となったことは、既存の支配構造そのものに対する疑問や不安を一気に増幅させる可能性がある。また、後継者の選出プロセスや新体制への移行が迅速かつ合意形成されたものでなければ、権力構造の真空を生むリスクがある。
内戦化を誘発する3つのトリガー
以下では、米イスラエルの軍事作戦とともに「イラン内戦」への発展を誘発しうる三つの主要トリガーを提示する。
権力の真空(最高指導者不在)
ハメネイ師というイラン体制の象徴が不在となったことは、政治的・軍事的権力の真空を生む可能性がある。イラン憲法では一時的な統治機構が準備されているものの、最高指導者の権威と継続性を担保する制度的抵抗力は予断を許さない。政治的権威を持つ聖職者と軍の上層部が合意して次期最高指導者を選出できなければ、複数勢力による権力闘争が激化しうる。
「2025–26年大規模抗議デモ」との連動
2025–26年にかけてイラン各地で発生した反政府デモは、経済的困窮や政治的不満を背景としていた。これらの抗議デモは地域社会における既存の信頼関係の弱体化を示しており、中央権力に対する反発が強まっていた。最高指導者の死は、こうした反体制感情をさらに刺激し、抗議デモの再燃や拡大につながる可能性がある。
治安部隊の離反
革命防衛隊(IRGC)や正規軍(アルテシュ)の一部において、中央政府への忠誠心の低下や内部の不満が高まる可能性がある。特に都市部の若年兵士や地方単位での反体制感情が強い部隊では、中央指令への従属度が低下し、軍内部の分裂を誘発しかねない。もし軍の離反が進めば、武装集団同士の衝突が激化し、局地的な戦闘が多発するリスクが高まる。
内戦の構図:多極化する対立軸
イラン国内の対立は単一軸ではなく、複数の勢力が絡み合う多極的な構図になる可能性が高い。主要な対立軸として以下の勢力が想定される。
体制維持派:革命防衛隊(IRGC)の中枢・保守強硬派
革命防衛隊(IRGC)は体制維持の最重要勢力であり、保守強硬派と深く結びついている。IRGC内部には実戦経験を持つ高級指揮官が存在し、軍事衝突の激化を支持する構造がある。中東におけるイランの戦略的影響力を維持しようとする彼らは、外部からの軍事圧力に対して断固として抵抗する姿勢を示す可能性が高い。
民主化・反体制派:都市部若年層・学生・一部労働者
都市部においては若年層を中心に民主化や改革を求める反体制派が存在する。これらの勢力は経済停滞、政治的不満、自由の制限に対する反発を共有しており、紛争の激化を機に一層の抗議活動を展開する可能性がある。特に若者層は暴力的衝突に巻き込まれることを恐れない行動性を持つ場合がある。
少数民族勢力:クルド人、バルチ人、アゼルバイジャン系
イラン国内には複数の少数民族が存在し、それぞれ独自の政治的要求や自治意識を持っている。中央政府の弱体化はこれら勢力にとって自治拡大や独立運動の機会となりうる。地域的緊張が高まると、これらの武装勢力が独立運動を強化し、内戦構造を複雑化する。
軍離反派:正規軍(アルテシュ)の一部
正規軍の内部でも、中央政府への忠誠心や革命的理念への評価は一様ではない。地方出身兵士や都市部出身兵士の中には、自治権拡大・政治改革を支持する者が存在する可能性がある。こうした軍内部の分裂は、勢力間の武力衝突を助長し、内戦への傾斜を強める。
リスクの検証:なぜ「内戦」が懸念されるのか
米イスラエルとイランの戦闘がエスカレートする背景には、単なる国際間軍事衝突を超え、イラン国内の社会構造・政治ダイナミクスの脆弱性がある。以下に主要なリスク要因を分析する。
経済の完全な崩壊
長期の国際制裁、軍事費の急増、輸出インフラの破壊はイラン経済を極度に脆弱化させている。エネルギー・輸出産業の低迷は失業率の急上昇を招き、物価高騰を加速させている。戦時経済下では、生活基盤の崩壊が社会不満を増幅させ、治安悪化や暴動の誘発要因となる。
武器の拡散
紛争激化に伴い武器の流通・密輸が増加し、非国家主体への武装供給が進む可能性がある。IRGCや少数民族武装組織は既に武装化された勢力であり、これらの勢力が地方へ拡散することで、治安の崩壊と内戦化が進む。
外部勢力の介入
イラン紛争には外部勢力の関与が不可避である。地域大国や国際的な勢力は、自国の戦略的利益を追求するために代理戦争的に介入する可能性がある。例えば、湾岸諸国、トルコ、ロシア、中国が特定勢力を支援することで、内部対立は国際化し、収拾困難な紛争へと発展しうる。
シナリオ分析
以下に、今後の展開シナリオをリスク別に分析する。
シナリオA:体制崩壊と混乱(高リスク)
米・イスラエルの軍事圧力と国内の政治的対立が重なり、中央政府の統治能力が崩壊するシナリオ。地方勢力や民族武装組織が自治を主張し、都市部での武力衝突が常態化する。この場合、国家統治の空白が広がり、イランは複数の武装勢力による「地域分断状態」となる可能性がある。国際社会の対応が遅れれば、広範な人道危機と難民流出が発生する恐れがある。
シナリオB:泥沼の長期内戦(中リスク)
中央政府は形骸的に存続するものの、地方自治勢力・軍内部分裂勢力・革命防衛隊・都市部反体制派の間で長期にわたる武力衝突が続く状態。この場合、イランは「低強度の内戦状態」となり、政府は統一性を維持しつつも治安回復に失敗する。国内の治安・経済危機は継続し、地域的緊張は拡大する。
シナリオC:軍事クーデターによる安定化(低リスク)
正規軍や治安機関の一部がクーデターを起こし、革命防衛隊・聖職者支配から離脱することで、権力集中と軍主導の安定的統治が実現する可能性。この場合、内戦リスクは低下し、内外の対立は軍事政権によって制御される。ただし、このプロセスも暴力的な権力移行を伴い、短期的にはさらなる混乱を招く可能性がある。
今後の展望
イラン情勢は極めて不確実であり、短期的には軍事行動のエスカレーションリスクが依然として高い。国際社会は外交努力を継続しているが、軍事的圧力と政治的混乱が内戦的状況を誘発する可能性は無視できない。内戦化を回避するには、イラン内部における和平合意形成、外部勢力の介入抑制、および経済的救済措置が不可欠である。
まとめ
本分析は、米・イスラエルとイラン間の軍事衝突が単なる国際紛争を超え、イラン国内の政治的・社会的脆弱性を刺激しうる「内戦リスク」を体系的に検証した。最高指導者の死亡はイラン体制にとって重大な転換点であり、権力真空、反体制運動の活性化、軍内部の分裂などが内戦的展開を誘発しうる。内戦は複合的利益構造を持つ多極的な衝突となる可能性が高く、国際社会は外交的解決策と人道支援を優先すべきである。
参考・引用リスト
- 「Iran threatens escalation if US attacks」 Financial Times(2026)
- 「Surviving strike, Shamkhani resumes central role in Iran's war room」 Reuters(2026)
- 「Israel warns Lebanon of strikes if Hezbollah enters any US-Iran war」 Reuters(2026)
- 「US and UK pull diplomats from Middle East as Iran war fears rise」 Financial Times(2026)
- 「A look at the long, fraught timeline of Iran nuclear tensions」 AP News(2026)
- 「中東情勢悪化に伴い、ホルムズ海峡の通過に影響」 ジェトロ海外ニュース(2026)
- 「米イスラエルのイラン攻撃」 沖縄タイムス+プラス(2026)
- 「イラン攻撃で株価は下落相場突入か?」 財経新聞(2026)
- 「[社説]米国、イランを攻撃 交渉投げ出し」 沖縄タイムス+プラス(2026)
- 「焦点:ハメネイ師殺害、イランは後継者問題と国内情勢緊迫に直面」 Newsweek日本版(2026)
- 「情報BOX:ハメネイ師殺害で揺らぐイラン体制」 Newsweek日本版(2026)
- “Improvised Nuclear Weapons with 60%-Enriched Uranium,” Matt E. Caplan (arXiv, 2025) — 論文資料として関連する非国家主体への武器拡散とリスク要因の理解に参照した。
追記:イラン内戦が世界に与える影響
1. エネルギー市場の構造転換
イランは原油・LNG輸出国であり、その地政学的位置は世界のエネルギー供給にとって不可欠である。ホルムズ海峡を通過する原油・LNGは世界の輸送量の約20%を占めるとされ、事実上の封鎖や軍事リスクで輸送が寸断すれば、世界経済に深刻な供給ショックが生じる可能性が高い。これは国際エネルギー市場の構造を一変させるリスク要因である。
エネルギー価格の急騰:すでに原油価格は戦争懸念で上昇傾向にあり、天然資源市場と金融市場全体に波及する懸念が指摘されている。
投資・信用環境の悪化:国際資本のリスクプレミアム上昇により、新興市場の金融条件が引き締まりやすくなる。原油・LNGに関連するインフラ投資が一時停止または延期される可能性がある。
これらの影響は単なる価格変動にとどまらず、産業構造・貿易パターン・国家財政にも長期的な影響を与える。世界経済の成長鈍化要因として作用する可能性がある。
2. サプライチェーンとインフレ圧力
ホルムズ海峡封鎖あるいは通航リスクが長期化する状況は、原油およびLNGの供給制約を通じて生活コスト、製造コストの双方を押し上げる。これによって世界経済は以下のような負の連鎖に直面する:
輸送コスト上昇:燃料価格が上昇すると、海上輸送・航空輸送コストが上昇し、製品価格全体に波及する。
インフレ圧力:エネルギー費用の上昇が消費者物価を押し上げ、世界各国の中央銀行の金融政策にも影響を及ぼす可能性がある。
成長の抑制:高コスト環境下で投資意欲が減退し、世界的な成長率鈍化が懸念される。
3. 地政学的リスクの体系的拡大
内戦や広域紛争は、単一国の国内問題に留まらず、地域安全保障の再編と国際秩序の変容を誘発するリスクを持つ。例えば:
同盟・対立関係の激変:NATO、米国・湾岸諸国・中国・ロシアの関与が強まると、紛争の代理戦争化や大国間競争が燃え広がる可能性がある。
難民・人道危機:広域紛争が長期化すると、周辺地域への大量の難民流出が発生し、安全保障・社会コストが増大する。
したがって、内戦の影響はエネルギー市場や経済指標にとどまらず、国際政治および安全保障の恒常的変動源となる可能性がある。
周辺国・ホルムズ海峡を通じた原油供給への経済的影響
1. ホルムズ海峡の戦略的脆弱性
ホルムズ海峡はペルシャ湾とアラビア海を結ぶ重要航路であり、グローバル原油・LNG輸送の中核をなす。世界の海上原油輸送量の約20~25%が通過する一方、封鎖ないし軍事リスクが高まれば、供給の物理的制約だけでなく、保険料・運賃の急騰を招く。
実質的な封鎖状態:船舶オペレーターや保険会社がリスクを嫌気し、ホルムズ周辺を迂回する動きが出ており、これが「事実上の通航停止」状態を生む要因となっている。
2. 原油価格の急騰とインフレ
国際原油価格はすでに戦争リスクを背景に上昇しており、原油市場の恐怖プレミアムが価格形成に影響している。供給ショックが長期化すれば、原油先物価格は一時的な上昇を超えて、構造的な高騰トレンドに移行する可能性がある。
初動としては原油価格の数十%上昇やプレミアムの大幅増が予想される。
これに伴い、ガソリン価格・電気・LNG価格の上昇が家庭・企業のコストに波及し、経済全般にインフレを誘発するリスクがある。
3. アジア・日本へのインパクト
日本などのエネルギー輸入国は、中東依存度が高く、原油・LNG価格の上昇は生活インフレ・生産コストの上昇・経常収支の悪化といった形で国家経済に反映される。
日本政府は原油備蓄を保有し一定の緩衝力を持つものの、中長期の供給制約には対応が困難になる可能性がある。
高インフレが経済政策にも影響し、金融政策の正常化や利上げ選択肢が難しくなる可能性がある。
米国は数週間でイランへの攻撃を終えることができるか?
1. 戦争の性質と目標設定の矛盾
米国が戦争を短期で終結させるためには、明確な戦略目標と実行計画、そして敵対勢力の指導部・軍事力を迅速に無力化する必要がある。しかし、イランの場合:
非対称戦力と地理的制約:イランは都市部・山岳地帯に分散した非対称戦力を保持するため、短期決戦が困難である。
政治的抵抗の強さ:内戦的リスクや民衆感情の高揚によって、局地抗戦が激化する可能性がある。
これらの要因は、数週間で戦争を終了させるという前提に実質的な制約を課す。
2. 代理戦争化と地域拡大
米国による限定攻撃がイラン全体を無力化するには、周辺地域も含む軍事衝突の拡大を避ける必要がある。しかし現実には、イランが代理勢力(ヒズボラ、フーシなど)を通じて反撃する可能性があるため、短期戦で終結しにくい構造となっている。これは地域戦争を長期化させ、米軍・同盟軍の負担を増加させるリスクがある。
トランプ政権の「賭け」が裏目に出る可能性
1. 国内政治と外交政策の薄氷のバランス
トランプ政権は外交的な「強硬姿勢」を支持層の支持回復戦略と結びつける傾向があるが、戦争リスクの高まりは国内世論を二分する可能性がある。米国民の戦争疲れや経済への影響、失業率・物価高は政策評価に直結する。
国内支持率の改善を狙った軍事行動が戦略的な逆効果を生む可能性があり、政治的賭けが裏目に出るリスクが高い。
2. 経済面での逆風
米国経済は比較的強靭ではあるものの、エネルギー価格の上昇はインフレ圧力を再燃させ、金融政策に難しい選択肢を強いる可能性がある。これは国民生活への影響を通じ、政権支持基盤を揺るがす要因となる可能性がある。
追記まとめ
総じて、イラン内戦化のリスクは単なる地域紛争を超え、世界経済・エネルギー市場・国際秩序に広範かつ深刻な影響を与える可能性がある。特にホルムズ海峡を巡る供給制約はエネルギー価格・インフレ・成長率に影響し、日本を含む多くの国に顕著な負担をもたらす。米国が戦争を短期に終結させる見通しは薄く、トランプ政権の政策は政治的リスクと経済的リスクの双方を抱えている。
追記参考資料(ニュース・専門機関)
- ホルムズ海峡の封鎖とエネルギー供給への懸念(The Guardian)
- 米・イスラエル攻撃による市場反応(Barron’s)
- 日本政府のリスク評価と利上げ観測(Reuters)
- 中東紛争の経済的インパクト分析(Vietnam.vn)
- ホルムズ海峡・原油輸送量と市場影響(ジェトロ)
- 日本の原油需給と海峡封鎖影響(TV Asahi)
- ホルムズ海峡封鎖の影響と家計負担(FNN)
- イランと西側対立の長期的経済影響(arXiv)
