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コラム:子供のインフルエンザ感染、対策まとめ

子供のインフルエンザは短時間で重篤化する可能性があるため、「早期発見」「適切な家庭ケア」「必要時の速やかな医療受診」が重要である。
鼻をかむ女児(Getty Images)
1. 日本の現状(2025年11月時点)

2025年秋以降、アジア圏を中心にインフルエンザの早期流行が観察され、日本でも例年より早い時期から患者数の増加が報告されている。複数の報道と監視データは、2025年10月から11月にかけて定点当たり報告数が上昇し、一部地域では流行宣言や注意喚起が発令されたことを示している。特に小児における患者増加とともに、インフルエンザ脳症など重症合併症の報告が増加しているとの学会からの注意喚起が出ている。

国の定点サーベイランス(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases: NESID)や専門学会の治療・予防指針は、流行状況の変化に応じて治療方針や保健指導を更新している。抗ウイルス薬の感受性や出現頻度、薬剤安全性情報も継続的に監視されているため、臨床現場では最新指針に基づく対応が推奨される。

2. 子供のインフルエンザ感染における注意点(総括)

子供はインフルエンザに対して感受性が高く、短時間で高熱やけいれん、急性脳症などの重篤化が起こりやすい。小児の症状は成人と異なる場合があり、脱水や呼吸不全、意識障害などの早期発見が重要である。保護者は「いつもと違う様子」「飲めない・尿が出ない」「呼吸が苦しそう」「ぐったりして反応が鈍い」などの異常を見逃さないことが大切である。

医療機関受診や速やかな治療(必要に応じて抗ウイルス薬投与)を躊躇せず行うこと、家庭内での感染対策を徹底すること、そして合併症の兆候に敏感になることがポイントである。学会指針は年齢や基礎疾患の有無に応じた具体的な受診基準や治療推奨を示している。

3. 主な症状

インフルエンザの典型的な急性期症状は発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛などの全身症状と、咳、鼻水、喉の痛みなどの呼吸器症状である。小児では発熱が高く急速に上昇することが多く、嘔吐や下痢など消化器症状を訴える例も少なくない。乳幼児では非特異的症状(機嫌不良、哺乳不良、沈うつなど)で始まることがある。

以下に主要症状を分類して詳述する。

4. 全身症状

発熱:突然の高熱(38℃台〜40℃近く)を示すことが多い。熱のピークは通常発症後24時間以内であるが、小児は高熱が続きやすい。
倦怠感・ぐったり感:活動性の低下、遊ばない、抱いても反応が薄いといった様子が見られる。
頭痛・関節痛・筋肉痛:言葉で訴えられる年齢では強い頭痛や全身痛を訴える。小さい子では機嫌の悪さとして現れる。
発疹:インフルエンザ自体で発疹が出ることは稀だが、薬剤性の発疹や併発感染で発疹が現れることがある。

5. 呼吸器症状

咳・のどの痛み:乾いた咳が多いが、下気道を侵すと湿性咳嗽や喘鳴を伴う。
喘鳴(ゼーゼー)や呼吸困難:喘息既往がある場合は悪化しやすい。呼吸が速い、肋間陥没がある、鼻翼呼吸や吸気時の陥没がある場合は重症の可能性がある。
肺炎:ウイルス性または二次的細菌性肺炎に進展することがある。乳幼児や基礎疾患のある子は肺炎リスクが高い。肺炎は発熱や咳の持続、呼吸状態の悪化、酸素飽和度低下などで疑う。

6. 消化器症状

嘔吐・下痢・腹痛:小児に比較的多い症状で、インフルエンザウイルス自体による消化管症状や、全身症状の一部として現れる。特に乳幼児では嘔吐や下痢による脱水が問題になる。
摂取不良:飲水・授乳量の著しい低下は脱水と電解質異常を招きやすく、速やかな対応が必要である。

7. 注意点(観察ポイント)

保護者が家庭で観察すべきポイントは次のとおりである。

  1. 意識状態:普段よりも反応が薄い、長時間ぐったりしている、話しかけても反応が戻らない場合は緊急性が高い。

  2. 呼吸状態:速い呼吸(年齢基準を超える)、肋間陥没、鼻翼呼吸、青紫(チアノーゼ)の有無。

  3. 水分摂取・排尿:2〜3回以上の授乳ができない、尿が少ない(おむつが濡れない)場合は脱水を疑う。

  4. けいれん・不自然な動作:高熱に伴う単純熱性けいれんは比較的良性だが、持続するけいれんや反復するけいれん、異常行動がある場合は速やかに受診する。

  5. 発熱の経過:解熱しても急に異常行動や意識障害が出ることがあるため、熱が下がった後も観察を継続する。

8. 合併症と異常行動への警戒

インフルエンザは多彩な合併症を引き起こす。代表的合併症はインフルエンザ脳症、肺炎、心筋炎、二次性細菌感染、熱性けいれんなどである。特に小児で問題となるのはインフルエンザ脳症(Influenza-associated encephalopathy: IAE)と、治療薬投与後に報告される異常行動の可能性である。学術報告・監視データでは、インフルエンザ脳症は発症後短時間で重篤化しうるため迅速な認識が必要である。

9. インフルエンザ脳症

インフルエンザ脳症は、発熱後短時間でけいれんや意識障害、急速な昏睡に進展することがある。日本では毎年一定数の報告があり、2015/16シーズン以降は新型コロナ禍を除き年間おおむね100〜200例の報告があったと報告されている。発症後の致死率や神経学的後遺症は無視できない水準であり、早期の医療介入が予後改善に重要である。したがって、高熱・けいれん・意識障害が見られた場合は速やかに受診する。

10. 異常行動(薬剤関連も含む)

2000年代後半に日本でオセルタミビル(タミフル)使用後の異常行動事例が大きく報道され、10〜19歳への使用制限が一時的に導入された経緯がある。しかしその後の検討とデータに基づき、年齢制限は見直されており、現在は年齢に応じた適正な使用が行われている。薬剤投与と異常行動の因果関係は完全に解明されていないが、インフルエンザ自体が中枢神経症状を引き起こすこと、発熱や脱水・不眠などが行動変化につながることもあるため、薬を使用する場合も含めて投与後は行動に注意を払う必要がある。

11. 肺炎

ウイルス性肺炎のほか、インフルエンザ罹患後に二次的に細菌性肺炎が続発することがある。症状としては高熱の持続、咳の悪化、呼吸状態の悪化、酸素飽和度の低下、胸部X線での浸潤影などが見られる。乳幼児や基礎疾患(心疾患、慢性呼吸器疾患、免疫不全など)を持つ児は肺炎を起こしやすく、入院や酸素療法が必要になることがある。早期受診・治療が重要である。

12. 家庭での適切なケア

家庭でできる基本的ケアは「安静と休養」「十分な水分補給」「環境管理(室温・湿度)」、症状緩和のための解熱・鎮痛薬の適切な使用、そして感染拡大防止である。これらは合併症の予防と回復促進に直結する。以下で各項目を詳細に述べる。

13. 安静と休養

身体的安静:発熱や全身症状がある間は活動を控え、十分に休ませる。無理に登園・登校や外出を行うと合併症リスクや他者への感染を広げる。
睡眠:十分な睡眠を確保することで免疫機能が回復しやすくなる。夜間の発熱管理や寝汗などに注意し、寝具の調整を行う。

14. 水分補給

こまめな水分補給:発熱・下痢・嘔吐がある場合は脱水が進行しやすい。乳児は授乳回数の低下やおむつの濡れ具合で脱水を評価する。電解質の補充が必要な場合は経口補水液(ORS)を活用する。
嘔吐時の対応:一度に大量に与えず、少量ずつ回数を増やして与える。回復期に向けて徐々に通常の食事に戻す。

15. 室温・湿度管理

適切な室温:一般的に室温は20〜24℃程度が目安であるが、年齢・地域・個々の状態に応じて調整する。熱が高い場合でも過度な保温は避ける。
湿度:湿度は50〜60%程度に保つと呼吸器症状の悪化をある程度防げる。加湿器を使用する場合は清潔管理に注意する。乾燥は飛沫の長期浮遊や粘膜乾燥による不快感を招く。

16. 解熱剤の使用

第一選択薬:小児では一般的にアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)が用いられる。投与量は年齢・体重に応じて算出する。
抗炎症薬(NSAIDs):イブプロフェン等は指示どおりであれば使用可能だが、脱水や嘔吐を伴う場合は慎重に用いる。ライ症候群はインフルエンザ罹患時に特定の薬剤(特にアスピリン)使用で稀な重篤合併症をきたすため、児童ではアスピリンは原則避ける。
発熱への対応の基本:発熱そのものは免疫反応の一部であり、単に数値を下げることだけを目的に薬剤を乱用しない。子供が苦しそうなときや十分に眠れないとき、痛みを訴えるときに解熱鎮痛薬を検討する。

17. 感染拡大の防止(家庭内・外出時)

外出自粛:発症後は少なくとも解熱後24〜48時間(症状が改善傾向にあることが前提)までは登園・登校・外出を控えることが望ましい。これはウイルスの排出期間を考慮した一般的な指針である。
手洗い・うがい:流水と石鹸による十分な手洗いを励行する。手指消毒剤(アルコール系)も有効である。うがいは粘膜のウイルス負荷を減らす補助として有用だが万能ではない。
咳エチケット:咳やくしゃみをする際はマスク着用(可能な年齢)、ティッシュや肘で口元を覆う、使用済みティッシュは密閉して廃棄する。
家庭内での隔離:可能であれば患者を別室で休ませ、共有空間の換気を頻回に行う。高齢者や免疫低下者とは接触を避ける。

18. 医療機関の受診目安

以下のような症状がある場合は速やかに医療機関を受診するか救急外来に連絡することが必要である。学会指針や公的ガイドラインに従った受診基準を基に列挙する。

  1. 意識障害や異常行動(反応が鈍い、呼びかけに応じない、意味不明な行動)

  2. けいれん(特に長時間持続する、反復する、強直間代重積様)

  3. 呼吸困難(喘鳴、吸気陥没、酸素飽和度低下)

  4. 水分不能・極度の脱水(授乳・飲水を受け付けない、尿量の著明な低下)

  5. 皮膚や唇の紫色化(チアノーゼ)

  6. 持続する高熱(解熱後も行動異常がある場合を含む)や急激な状態悪化

  7. 基礎疾患を持つ児童(先天性心疾患、慢性呼吸器疾患、免疫不全等)の発症

地域や流行状況により診療体制が混雑する場合があるが、上記の重症サインがある場合は待たずに受診することが必要である。

19. 対策まとめ(家庭・学校・医療の視点)
  • 家庭:早期の休養・水分補給・環境管理・受診判断の徹底、他家族への拡散防止(隔離・手洗い・マスク)、薬剤の適切使用と投与後の観察を行う。

  • 学校・保育施設:発症者は出席停止期間を設ける、集団感染を抑えるための換気・消毒・マスクや手洗い指導を徹底する。

  • 医療機関:最新の治療・予防指針に基づく抗ウイルス薬使用判断、重症化リスクのある児童の優先的管理、地域での監視と報告を確実に行う。学会は毎シーズン指針を更新し、臨床医に周知している。

20. 専門家データ・統計(重要なポイント)
  • 日本小児科学会は、2015/16以降の通常シーズンでインフルエンザ脳症は毎年約100〜200例の報告があると示している(直近シーズンの報告数例も含め注意喚起を行っている)。インフルエンザ流行と脳症報告数は概ね連動する傾向がある。

  • 国の監視・薬剤耐性報告により、抗インフルエンザ薬の感受性と耐性株の出現状況が逐次報告されており、臨床での薬剤選択に反映されている。最新の耐性情報は公的な監視報告で確認することが推奨される。

  • 国際的にもインフルエンザ関連の重症例や小児の致死例は発生しており、米国疾患対策センター(CDC)や国際論文でもインフルエンザ関連脳症や致命例の報告がある。地域差や流行株の違いにより影響が変わるため、ワクチン接種や早期治療の重要性が繰り返し指摘されている。

21. 今後の展望
  1. 監視の強化と迅速な情報共有:ウイルスの遺伝子変化や耐性株の出現を早期に検出する監視体制の重要性が高まる。国や学会は季節ごとの指針更新と医療現場への周知を続ける必要がある。

  2. ワクチン戦略の最適化:流行株の変化に応じたワクチン株選定と接種促進は重症化予防に重要である。保護者や教育機関に対する接種啓発を継続することが求められる。

  3. 治療薬の適正使用と安全性評価:抗ウイルス薬の適応と安全性(特に小児における行動面での注意)は引き続きモニタリング対象であり、新薬や経口投与法の改善が期待される。

  4. 社会的対策の整備:感染拡大時の学校閉鎖や出席停止、家庭支援の仕組みなど、公衆衛生・社会保障的な対応を準備しておくことが望まれる。

22. 最後に

子供のインフルエンザは短時間で重篤化する可能性があるため、「早期発見」「適切な家庭ケア」「必要時の速やかな医療受診」が重要である。日常的には手洗い・咳エチケット・ワクチン接種の促進が最も効果的な予防手段である。薬剤の使用については医師の指示に従い、投与後は行動や意識の変化に注意して観察すること。地域の流行状況や学会・行政の最新情報に注意を払い、必要なときに適切な対応を迅速に取ることが子供の命と健康を守る最善の方法である。


参考・主要出典(抜粋)

  1. 日本小児科学会「インフルエンザ流行に対する注意喚起」(2025年1月29日)。流行状況とインフルエンザ脳症の報告に関する注意喚起を含む。

  2. 日本小児科学会「2024/2025シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」(改訂版、2024/2025)。小児の治療・受診指針を詳細に示す。

  3. 国のインフルエンザ監視および抗ウイルス薬耐性サーベイランス報告(NESID関連報告、2025年)。

  4. 米国CDC等の報告(2025年の小児インフルエンザ関連脳症・致死例に関する報告)。国際的な傾向や重症例の詳細を示す。

  5. 学術論文(インフルエンザ脳症、過去の疫学研究等)。

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