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コラム:リチウムイオン電池の発火事故、対策は?

リチウムイオン電池は今後も重要なエネルギー貯蔵手段として普及を続ける一方で、高容量化・高速充電化・大規模蓄電池の導入拡大に伴い、事故の形態や対応の難易度も変化する。
リチウムイオン電池のイメージ(Getty Images)

近年、日本国内におけるリチウムイオン電池(Li-ion)搭載製品からの出火・発火事故は増加傾向にあり、家庭内での充電中の出火や、ネット通販で流通する非正規品に起因する事故が社会的関心を集めている。製品評価技術基盤機構(NITE)が集計した報告では、2020年〜2024年の5年間に報告されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は約1,860件で、その約85%が火災事故につながっているという集計がある。また、消防庁や東京都消防局の報告を踏まえると、充電中に発生する事故が多く、特にモバイルバッテリーやポータブル電源、電動アシスト自転車、充電式掃除機などの製品で目立っている。これらの傾向は季節性も示し、夏季の気温上昇と関連して事故件数が増える傾向がある。

リチウムイオン電池とは

リチウムイオン電池はリチウムイオンの移動を電池の正極・負極間で行う二次電池で、高いエネルギー密度と軽量性、メモリー効果が小さいことからスマートフォン、PC、モバイルバッテリー、電動工具、電動自転車、ポータブル電源、EVなど幅広い用途に採用されている。構成要素は主に正極材料、負極(多くはグラファイト)、電解液(有機溶媒とリチウム塩)、セパレータ(イオンは通すが電子は通さない絶縁体)であり、これらの化学的・機械的安定性が電池の安全性を左右する。規格面ではIEC 62133-2やJIS規格、定置型や車両用には別途規格が適用されるなど、用途別に安全要求が定められている。

事故の現状と統計

NITEや消防庁の報告から、以下のような傾向が明確になっている。

  • 事故件数:NITEが収集した事故報告では、バッテリー類や充電器、ポータブル電源などバッテリー系の事故が多い。2014〜2023年度の長期データでもバッテリー関連の事故は上位に位置している。

  • 発生状況:家庭内での事故は充電中が多く、住宅火災においては充電方法の誤り(正規品以外で充電する等)が最も多い。外部衝撃(落下)や廃棄・分解時の事故も目立つ。東京都消防局のまとめでは、令和5年中の出火要因に「通常使用中の発火」「外部衝撃」「分解廃棄」などが含まれる。

  • 製品別:モバイルバッテリー、ポータブル電源、電動アシスト自転車、充電式掃除機、電動工具などが事故報告の上位を占める。特にネット通販で購入した海外製・正規の確認が取れない製品における事故率が高く、製造者特定ができない事案が多い点も問題となっている。

主な原因

リチウムイオン電池に起因する発火事故の原因は多岐にわたるが、主に以下のカテゴリーに整理できる。

  1. 内部短絡(Internal short):セル内部のセパレータ破壊やデンドライト(リチウム金属の針状析出)により電極間が導通し、急激な発熱が生じる。

  2. 外部からの物理的損傷:落下、衝撃、穿刺などによりセルが損傷し内部短絡を招く。

  3. 過充電・不適切充電:不適切な充電器、非純正アダプタ、過大電流による過充電や急速充電の影響で内部化学反応が促進される。

  4. 劣化・製造不良:劣化に伴う内部抵抗の上昇、製造時の不純物や不良セルの混入により局所発熱が起きる。

  5. 熱的要因(高温):高温環境により電解液やSEI層(固体電解質界面)が分解し、発火に至る。

  6. 設計上の問題・安全保護回路の欠如:保護回路や遮断機構が不十分な場合、短絡や異常電流を適切に遮断できない。
    これらはいずれも相互に影響し合い、最終的に「熱暴走」へつながる場合が多い。

物理的損傷

落下や衝撃により外装が破れ、セル内部のセパレータに微細な傷が入ると、使用中や充電中に内部短絡が発生する可能性が高まる。電池が筐体や金属物と接触している状態での衝撃は特に危険で、短絡による局所発熱から発火に至る。ポータブル電源や電動工具など、重量物や移動頻度が高い機器は外部衝撃による事故が多く報告されている。

非純正・劣化品の利用

ネット通販で流通する非正規・粗悪品や、純正でない互換バッテリーは品質管理や安全試験が不十分な場合がある。NITEの解析報告でも、ネット通販で購入されたバッテリー類において製造・輸入事業者が特定できない割合が高いことが指摘され、事故発生率や被害拡大の要因となっている。古いバッテリーや劣化したセルを使い続けることも内部抵抗増加や異常発熱のリスクを高める。

不適切な充電

充電中の事故が非常に多い。原因としては以下がある。

  • 純正でない充電器やケーブルの使用。

  • 長時間連続放置しての充電(夜間に過充電状態が続く等)。

  • 高温環境下での急速充電。

  • 充電器や機器の充電回路が故障している場合。
    東京都消防局のデータでも、住宅火災のうち充電中の事故が多数を占め、充電方法の誤り(正規品以外で充電)が最多の要因とされている。

不適切な廃棄

電池の分解や切断、焼却処分など不適切な廃棄行為は発火・爆発を招くリスクが高い。セルをそのまま一般ゴミに捨てる、リチウム電池を金属缶とともに圧縮処理するなどの行為は、収集・搬送過程で圧力や衝撃が加わって短絡しやすい。さらに、リサイクル処理前に電池が未放電であるなどの管理不備は作業者の二次被害を生む。NITEや経済産業省の報告は、適切な分別と事業者側の受け皿整備が重要であると指摘している。

発火のメカニズム(内部短絡→熱暴走→ガス発生→引火)

リチウムイオン電池の発火は典型的に以下の流れで進行する。

  1. 内部短絡の発生:セパレータ破損やデンドライト成長で正負極が導通する。

  2. 急激な発熱:内部抵抗により短時間で高温が発生し、負極や正極、電解液が分解する。

  3. 熱暴走(Thermal runaway):自己加速的な発熱反応が進展し、周囲のセルやモジュールに波及する。

  4. 可燃性ガスの発生:分解した電解液や電極材料から発生するガスが増え、容積膨張や破裂をもたらす。

  5. 引火・爆発的燃焼:発生した可燃性ガスが外気と混合して引火し、激しい燃焼や爆発につながる。熱暴走の速度は秒〜分オーダーで進行することがあり、初期段階での消火が極めて困難になる場合がある。

内部短絡(ショート)の発生詳細

内部短絡は、セパレータの破断、電極表面の不均一性、不純物混入、デンドライト生成、製造欠陥等で生じる。特に劣化が進むと負極表面にリチウムが析出しやすくなり、これがセパレータを貫通して短絡を起こすことがある。また外部衝撃でセル構造が崩壊した場合にも短絡が生じる。セルの内部短絡は外部からは分かりにくく、突然の発熱として表れることが多い。

急激な発熱と熱暴走

内部短絡により局所温度が急上昇すると、電解液の分解、正極材料の酸素放出などが始まり、これがさらなる発熱を招く。熱暴走は隣接セルへ横波的に伝播し、多数セルが連鎖的に発熱して大きな火災に発展する。特にポータブル電源や蓄電池パックのように多数セルを密に並べた構造は、伝播リスクが高い。熱暴走を止めるにはセル単体の外部冷却や遮断だけでは不十分な場合が多く、機構的な隔離・ベント設計や熱拡散対策が必要となる。

可燃性ガスの発生と引火

分解反応で発生するガス(有機溶媒由来の揮発分や可燃性分子)は高温下で容易に引火する。密閉容器内でのガス蓄積は破裂やフラッシュオーバーを招き、開口部から噴出したガスが引火して大きな炎となることがある。消火活動時も有毒ガスや可燃性ガスの存在に注意する必要がある。

政府・自治体の対策(2024〜2025の動き)

経済産業省はポータブル電源など新たに普及する製品に関して安全性要求事項を取りまとめ、第三者認証(Sマーク等)やJIS規格の整備を進めている。2024年以降、規格や法整備の強化、輸入事業者の責任明確化等が進んでいる。消防庁はリチウムイオン電池由来の火災について都道府県消防へ調査報告を求める通知を出し(対象期間を令和4年1月1日から令和7年12月31日までに設定)、事故データの整備と分析を推進している。これにより全国的な発生傾向の把握と対策の横展開が期待されている。

注意喚起・広報活動

自治体・消防・製品安全機関(NITE)はリーフレットやウェブで「充電中の監視」「純正・適合品の使用」「高温環境での放置禁止」「ネット通販での粗悪品購入に注意」などを継続して呼びかけている。特に夜間の無人充電や車内放置などは高リスク行動として注意喚起が強く行われている。

回収・リサイクル体制の強化

国はリチウム電池の回収とリサイクル体制の整備を進めている。事業者に対する責任明確化や国内管理人制度の導入、産業側の協会設立(例:ポータブル電源協会)といった取り組みが進んでおり、JIS原案策定や業界自主基準の整備によって品質向上と不良品流通の抑止を目指している。リサイクル事業者側でも受入基準や処理手順を明確化して安全な処理を推進している。

ガイドライン策定

政府(経産省)や関係機関は、ポータブル電源・モバイルバッテリー等の安全基準・適合のガイドラインを作成しており、製造・輸入事業者に対して適切な試験や表示、消費者への注意表示を義務付ける方向である。第三者認証やJIS化によって市場での安全性が担保されることが期待される。

消費者に求められる行動(具体的)
  1. 純正品・認証品を使う:メーカー純正や第三者認証(安全マーク)がある製品を選ぶ。粗悪品は避ける。

  2. 取扱説明書を遵守する:充電時間、使用温度範囲、保管方法など説明書の指示を守る。

  3. 充電時は監視を行う:長時間無人での充電を避ける。夜間の放置充電を控える。

  4. 高温を避ける:車内や直射日光下に放置しない。夏季の車内温度上昇は特に危険である。

  5. 物理的損傷がある電池は使用しない:膨張、変形、外装破損がある電池は直ちに使用を中止する。

  6. 廃棄時は自治体や販売店の指示に従う:穴を開ける、切断するなどの自己処理は行わず、指定の回収ルートを利用する。

純正品の利用

純正品や認証を受けた製品は、内部保護回路、温度センサ、過電流保護等が設計で考慮されていることが多く、粗悪品よりも事故リスクが低い。特に高容量のモバイルバッテリーやポータブル電源では、規格に準じた設計と試験結果の確認が重要である。

適切な充電(方法と注意)
  • 使用温度範囲内で充電する(多くの機器は0〜40℃が目安)。

  • 純正または規格適合の充電器・ケーブルを使う。

  • 夜間に放置して無人充電しない。特に高出力の急速充電は機器とバッテリーの仕様を確認する。

  • 異常な発熱や異臭、鼓脹があれば充電を中止し、メーカーに相談する。

廃棄時の分別と回収方法

自治体ごとの分別ルールに従い、電池の端子をテープで覆うなど短絡防止措置を行ってから所定の収集・販売店回収・メーカー回収などのルートに出す。リサイクル可能なものは適切にリサイクルに回す。廃棄前の放電処理や切断は禁止する。事業系の場合は専門のリサイクル業者に依頼する。

対策と初期消火(現場でできること)
  • 発火直後:可燃性ガスや高温部位が残るため、水消火は有効なケースがあるが、電気系統が関与している場合は感電リスクを評価する必要がある。屋内火災ではまず人命優先で避難し、119通報を行う。消火器は初期段階で有効だが、Li-ionの熱暴走が進行中の場合は再着火する可能性がある。

  • 隔離・冷却:可能な限り熱源から離し、周辺物の可燃物を遠ざける。モジュール規模の熱暴走には専門消火(大量の水による冷却、二酸化炭素や泡消火の適用判断など)が必要となる。消防庁や地方の消防はリチウム電池火災に関するガイドライン整備と対応訓練を強化している。

初期消火の留意点
  • 電池が容器内で熱暴走している場合、閉塞によるガス圧で破裂する危険があるため近接作業は危険。

  • 家庭用消火器で一旦消火できた場合でも、内部で熱が残り再発する場合があるため安全な場所へ移して監視するか、専門家に対応を求める。

  • 消防が到着したら、製品の情報(型番、購入時期、改造の有無など)を伝えると事故解析に役立つ。

予防(設備・制度面)
  • 製造者・輸入者側の品質管理強化と、第三者認証の普及。

  • 小売段階での製品表示・安全情報の明示。

  • ネット通販プラットフォームにおける出品者審査の強化と、国内管理人制度の運用。

  • 消費者向け広報の継続、自治体での回収拠点整備。
    これらは経産省、NITE、消防庁が連携して推進している領域である。

今後の展望

リチウムイオン電池は今後も重要なエネルギー貯蔵手段として普及を続ける一方で、高容量化・高速充電化・大規模蓄電池の導入拡大に伴い、事故の形態や対応の難易度も変化する。これに対応するためには、材料・セル設計の安全性向上、熱拡散抑制技術、バッテリーマネジメントシステム(BMS)の高度化、そして流通・廃棄管理の法規制と実務整備が不可欠である。特に、海外から個人輸入される粗悪品や連絡先不明な事業者による流通を抑えるための国際協調やプラットフォーム規制が重要となる。加えて、自治体や消防による初期対応能力の向上と、一般市民への実効性のある注意喚起が続けられることが期待される。

まとめ(消費者向けチェックリスト)
  1. 購入時:メーカー純正か第三者認証の有無を確認する。

  2. 使用時:取扱説明書を遵守し、充電中は監視する。高温や直射日光下に放置しない。

  3. 損傷時:膨張、変形、異臭、発熱があれば使用を中止する。破損電池は専門ルートで回収する。

  4. 廃棄時:自治体・販売店・メーカーの回収ルールに従い、端子短絡防止措置を行って出す。

  5. 緊急時:発火したら速やかに退避し119通報。無理な消火はせず、専門家や消防に状況を伝える。


1 ポータブル電源の技術基準(深掘り)

1.1 背景と政策的立場

ポータブル電源(家庭用・車載用を含む小型蓄電装置)は、リチウムイオン蓄電池を内蔵して交流出力を持つことが多く、従来の「家電」規制枠組み(電気用品安全法)では必ずしも直接規制対象になっていない事情がある。経済産業省は事故増加を受け、官民での検討を通じてポータブル電源特有の安全要求事項の整備を進め、中間取りまとめや調査報告を公表している。これにより、設計段階からの安全性担保(セル選定、BMS、過電流遮断、熱設計、保安表示等)が求められるようになっている。

1.2 適用が想定される主要規格・試験

ポータブル電源に関係する国内外規格や参照試験には以下がある。

  • JIS C 62133-2 / IEC 62133-2:携帯・ポータブル機器用充電式二次電池の安全性(短絡試験、外部短絡、過充電、振動、衝撃、熱的試験など)。セル・組電池の安全試験で最も基本的な規格である。

  • JIS C 4411 系(UPS関連)/IEC 62368-1 相当:装置レベルでの安全性評価(電気安全、絶縁、耐電圧、EMC等)。ポータブル電源の外殻・AC出力部やACアダプタに関連する評価として参照されることがある。

  • 環境・耐久試験(高温・低温・振動・衝撃):日常使用や輸送での耐性確認。高温環境下での充放電耐性試験や熱暴走誘起試験が重視される。

1.3 技術的要求項目(推奨・中間取りまとめでの指摘)

経済産業省の「安全性要求事項(中間取りまとめ)」や調査報告では、次のような設計・製造上の要求が示されている。

  • セル選定と品質管理:IEC/JIS 規格適合セルの採用、不良セル混入防止の生産管理。

  • バッテリーマネジメントシステム(BMS):過充電防止、過放電防止、過電流検出・遮断、セル不均衡監視、温度監視などの機能を実装すること。BMSはセルの安全運転の中核となる。

  • 熱管理・防火設計:セル温度上昇時の熱拡散防止、熱伝播(隣接セルへの伝播)を阻止する構造、熱遮断材やベント(ガス排出口)設計を導入すること。モジュール内部での熱暴走拡大を防ぐ機構を求める。

  • 過電流保護・短絡保護:外部短絡時の保護、入力(充電)側と出力(AC/DC出力)側の双方向遮断設計。ヒューズ、電子遮断器、リレーやソリッドステート保護回路を併用することが推奨される。

  • 外装・IP・落下衝撃耐性:屋外使用想定の場合はIP等級(防塵防水)や振動・衝撃試験への適合を想定すること。輸送やアウトドア使用での物理的損傷に対する耐性を確保する。

  • 表示・取扱説明:容量、定格、使用温度範囲、充電器仕様、禁止事項(改造・分解禁止)、廃棄方法などを明確に表示・説明書へ記載すること。消費者が誤使用しやすい点を明確に示すことが重要である。

1.4 試験項目(セル・パック・装置レベル)

具体的に行われるべき試験には次が含まれる。

  • セルレベル:外部短絡試験、内部短絡誘起試験(過熱)、過充電試験、熱衝撃試験、振動・衝撃試験、穿刺試験。

  • 組電池(モジュール)レベル:熱暴走伝播試験、過電流・外部短絡・充放電サイクル試験、温度分布評価。

  • 装置(ポータブル電源)レベル:EMC、耐電圧、接地保護、入出力保護、機能安全(過電流遮断、自己診断回路)検証。

1.5 実務上のポイント(消費者・小売・輸入業者)

  • 輸入事業者は国内責任者を明確にし、適合性データ・試験報告を保持することが望まれる。経済産業省が中間取りまとめで強調するのは「製造・輸入事業者の主体的責任」である。

  • 小売やプラットフォーム側は、出品者情報・適合性表示の確認や粗悪品排除の仕組みを取り入れることが望まれる。

(主要出典:経済産業省の中間取りまとめ・調査報告、関連JIS/IEC 規格)

2 家庭での初期消火の具体手順(深掘り)

家庭でリチウムイオン電池(モバイルバッテリー、ポータブル電源等)が発火した場合の実務的な手順を詳細に示す。ここで示すのは一般市民が実行可能でかつ安全性を考慮した初期対応である。消防当局の公式指針を基に、実務上の注意点を明確に示す。

2.1 まず最優先すべきこと:人命の確保

  1. 人がいる場合は直ちに避難させる。小さな火でも急速に拡大する可能性があるため、安全確保を最優先にする。

  2. 建物内の場合は扉を閉めて延焼を抑えつつ、安全な位置から119番通報する。通報時に「リチウムイオン電池由来の発火」である可能性を伝えると、消防側の初動が適切になる。

2.2 危険度の判断(近づいて良いかどうか)

  • 火花や噴出が激しい、白煙や黒煙が大量に出ている、容器が膨らんでいるなどの状況では近づかない。破裂や有毒ガス、再着火の危険があるため無理に消火しない。

  • 煙や火花が一時的におさまった、火が小さく留まっている場合は初期消火を検討するが、下記の注意を守る。

2.3 初期消火の具体手順(家庭用)

  1. 119通報を行う(安全な場所から)。消防が来るまでは無理に近づかない。

  2. 火花や噴出が弱まり、安全に近づけると判断できる場合は以下を行う:

    • 大量の水や屋内用消火器(粉末・泡等)を用いて消火する。東京消防庁は「火花や煙の勢いが収まったら、大量の水や消火器で消火する」手順を示している。水は冷却効果があり、熱暴走を抑える目的で有効となるケースが多い。ただし、電気的な関与(AC出力・通電状態)が疑われる場合は感電の危険があるため注意する。

    • 消火器を使う場合は周辺に可燃物がないことを確認し、消火後も再着火しないか一定時間監視する。粉末消火器や泡消火器は一時的に火勢を抑えるが、内部熱が残って再燃する可能性があるため、その後の冷却確認が必須である。

  3. 可能であれば消火後に対象を水没させる(容器・電池を丈夫な容器に入れて水を張る)ことで、残存する高温箇所を冷却して再着火リスクを下げられると東京消防庁は指示している。ただし、これは安全に実行できる場合に限る。周囲に電気機器や感電危険がある場合は行わない。

2.4 消火時の注意点(感電・有毒ガス・二次災害)

  • 感電リスク:AC出力が生きている(コンセントにつないだまま等)場合は水で消火すると感電の危険がある。まず電源を切れるなら切る、確実でなければ消防が到着するまで近づかない。

  • 有毒ガス:燃焼時に有害ガス(分解生成物)が発生する可能性があるため、風上に避難し窓や扉を閉めて屋外へ退避する。救助・消火作業は換気をできるだけしながら行う。

  • 再発火:家庭で消火できても内部に残る熱により再発火することがあるため、消火後は容易に触らない・移動しないで消防や専門業者に引き渡す。

2.5 消防到着後の情報提供

消防に製品の型番、購入時期、改造の有無を伝えると、事故解析や二次被害の防止に役立つ。消火後の電池や製品は専門機関(メーカー、自治体の回収窓口等)に引き渡すべきである。

(主要出典:東京消防庁、消防庁(FDMA)、各種報道まとめ)

3 自治体別の回収ルール(深掘りと実務的指針)

3.1 国の方針と自治体の対応状況

環境省や各自治体はリチウムイオン電池混入によるごみ処理施設火災を受け、自治体レベルでの適正処理方針や周知を強化している。自治体ごとに回収方法・回収拠点・収集日の扱いが異なるため、居住地のルール確認が重要である。環境省の調査報告でも、手選別の強化や受入手順整備が推進されている。

3.2 代表的自治体の実例(東京・大阪など)

  • 東京都(都環境局):キャンペーン「リチウムイオン電池 混ぜて捨てちゃダメ!」を実施し、ポスター配布や回収方法の周知を行っている。家庭ごみへ混入させないための具体的手順(電池端子の絶縁、回収拠点への持ち込み等)を案内している。

  • 大阪市:環境事業センターでの回収ボックス設置、訪問回収や持ち込み回収の運用を行っている。膨張・変形した電池は窓口で直接手渡しを求めるなど、危険品扱いに準じた取り扱いをしている。端子部のテーピング(絶縁)を必須とし、リサイクル協力店(JBRCの回収ボックス)を案内している。

  • その他の市町村:多くの自治体が「端子の絶縁」「指定回収ボックス持ち込み」「拠点回収日」等のルールを採っている。自治体によっては家庭から出る充電式電池を「不燃ごみ」「資源ごみ」として収集に組み入れるケースや、拠点での対面回収を維持するケースがある(自治体によって運用差が大きい)。

3.3 民間回収ルート(JBRC 等)

一般社団法人JBRCなど業界団体が運営する「充電式電池リサイクルボックス」は家電量販店やホームセンター等に設置されており、家庭からの小型充電式電池(モバイルバッテリー等)回収の有力ルートとなっている。利用時は端子絶縁等の事前処置を求められることが多い。事業系(法人)廃棄物は別扱いで、事前登録が必要となる場合がある。

3.4 消費者向け実務チェックリスト(自治体回収利用時)

  1. 居住自治体のホームページでルールを確認する(回収拠点、収集日、持ち込み時間等を確認する)。

  2. 端子部分をビニールテープ等で覆って絶縁する(短絡防止)。多くの自治体で必須手順となっている。

  3. 膨張・変形・破損がある電池は自治体の指示に従い、窓口で直接手渡す(処理上のリスクが高いため)。

  4. メーカー回収や販売店回収(家電量販店の回収ボックス等)を活用する。JBRC協力店の検索を活用すると便利である。

  5. 事業系廃棄は専門業者へ依頼する(一般ごみ収集では受け付けない場合が多い)。

3.5 自治体に期待される改善点(政策提言的観点)

  • 回収拠点の拡充と周知強化:回収ボックスや拠点回収の数を増やし、住民への周知を強化すること。東京都のキャンペーンや大阪市の窓口運用は好事例である。

  • 搬送・処理施設側の受入手順標準化:搬送時の火災防止措置や処理施設での選別強化、検知・消火設備の導入を進めること。環境省の調査でも処理施設の対策強化が指摘されている。

  • 産業と自治体の連携:JBRC等業界団体と自治体が連携して回収ルートを整備し、家庭から事業系まで一貫した処理体制を作ること。

4 結論
  • ポータブル電源の技術基準はセル選定、BMS、熱管理、過電流・短絡保護、外装設計、表示の各項目を含む装置レベルの安全設計が重要であり、経済産業省の中間取りまとめやJIS/IEC 規格がその基盤となる。製造・輸入業者は適合性を確保し、流通事業者は粗悪品排除に努めることが必要である。

  • 家庭での初期消火はまず人命確保・119通報を最優先とし、火勢や噴出が収まった場合に大量の水や消火器で冷却・消火を行う。消火後の水没冷却や再着火監視を行う一方、電気的関与や有毒ガスに注意する。消防の指示に従うことが重要である。

  • 自治体の回収ルールは地域差が大きいが、共通して端子の絶縁・拠点回収・持ち込み窓口の活用が求められる。JBRC等の民間回収網も活用可能であり、事業系廃棄は専門業者対応が原則である。自治体・産業界・国が連携して回収・処理体制を強化することが今後も重要である。

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