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遅刻するのは時間感覚の欠如?それとも単に失礼なだけ?

「タイムブラインドネス」とは、ある作業にどれだけ時間がかかるかを見積もったり、時間の経過を正確に把握したりすることが困難になる状態を指す。
米ニューヨーク市マンハッタン(Getty Images)

いつも遅刻する人がいる。これは「タイムブラインドネス」という脳の特性によるものか、それとも単に失礼なのかという疑問が、米国で社会的な論点となっている。この記事では、遅刻癖の背景にある心理・神経学的な要因や、それに対する専門家の見解を紹介する。

英リバプールに住むミュージシャンでグループホームの職員アリス・ラバットさんは幼い頃から「時間を自分の頭の中で刻むことができない」と感じていた。「頭の中に時間がチクタクと刻まれているように感じられない」とラバットさんは述べる。彼女は22歳でADHD(注意欠如・多動症)の診断を受け、その症状の一つに「タイムブラインドネス」という特性があることを知った。

「タイムブラインドネス」とは、ある作業にどれだけ時間がかかるかを見積もったり、時間の経過を正確に把握したりすることが困難になる状態を指す。この現象は脳の前頭葉に関連する実行機能の障害として説明され、ADHDや自閉症スペクトラム障害の人々に見られることが多いとされる。米マサチューセッツ大学の神経心理学者ラッセル・バークリー博士は、この時間認知の障害とADHDとの関連性を初めて指摘した人物として知られている。

心理療法士のステファニー・サルキス氏は、タイムブラインドネスがADHDの一部の人々にとって日常生活全般に影響を与える可能性があると説明する。「誰でも遅刻することはあるが、ADHDの人は機能的な障害として遅刻が繰り返されることがある」とサルキス氏は述べる。彼女によると、遅刻以外にも家族生活や仕事、金銭管理などさまざまな面で影響が出る場合があるという。

とはいえ、タイムブラインドネスがあらゆる遅刻の原因であるわけではない。フロリダ州のセラピスト、ジェフリー・メルツァー氏は、慢性的な遅刻の背景にはさまざまな心理的要因があると指摘する。一例として、早く到着すると会話や社交が避けられないため、到着前から不安を感じる人がいるという。また、日常生活でのコントロール感を失っていると感じ、自分の時間を取り戻すために遅刻する人もいると説明する。こうした状況では、遅刻の行動がその人なりの心理的な戦略である場合もあるという。
メルツァー氏は特に注意すべき要因として「特権意識」を挙げる。自分の時間の方が他人の時間より重要だと無意識に考えている人は、遅刻を正当化してしまう傾向があるという。こうした人々は遅刻以外の場面でも規範を無視する行動をとることが多いという。

タイムブラインドネスに対しては、生活スキルの改善や時間管理の工夫が有効だとされる。サルキス氏は、スマートウォッチやアラームを利用して出発時間を知らせる方法、アナログ時計を使って時間の感覚を鍛える方法、小さなタスクごとに時間を区切る習慣などを紹介している。これらの戦略はADHDの人だけでなく、遅刻癖のある多くの人にとって役立つ可能性があるという。
ラバットさん自身は、自分に余裕を持たせたスケジュールを組むことや、専用の時間管理アプリを活用するなどして改善を図ってきた。その結果、以前よりも遅刻が減り、信頼性が向上したと話している。

結局のところ、遅刻が単なる不作法なのか、タイムブラインドネスなどの認知的な特性に根ざすものなのかを判断するには、個々の背景や行動のパターンを慎重に見極める必要があるというのが専門家の共通した見解である。

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