SHARE:

コラム:「平成レトロ/昭和レトロ/大正レトロ」の潮流

日本のレトロ文化は、時代ごとの社会構造・技術・消費行動の変化と不可分な関係にある。
日本、ジュリアナ東京(Getty Images)

日本では「平成レトロ」が近年、メディアや若者の間で急激に注目を集めている。具体例として、2025年には東京・大阪などで平成文化を総括する展覧会やイベントが多数開催され、SNSやテレビ番組でも令和時代の若者が平成時代のガジェットやファッションを再評価する動きが散見される。しかし一方で、すでに数十年にわたって定着している「昭和レトロ」や、特定の場所・ジャンルで根強い人気を持つ「大正レトロ」も存在する。これら三つの「レトロ文化」は、時代の記憶・美意識・消費行動と絡み合いながら、それぞれ異なる文脈で日本社会に根付いている。


平成レトロとは

「平成レトロ」とは、平成時代(1989~2019)の文化・デザイン・日常生活に関連するモノや感性に対する懐古・再評価の文化現象を指す。特に1990年代後半から2000年代初頭にかけてのガジェット(ガラケー、写ルンです)、ファッション(ギャル文化、Y2K)、メディア文化(プリクラ・マンガ・アニメ)、音楽(J-POP)といった象徴的な要素が主要対象となっている。これらはデジタルポップ的な色彩や模様、素材感に特徴があり、ミレニアル世代および令和初期の若者層がSNS等を通して積極的に表現・消費している。

平成レトロが近年話題化したのは、SNS上でのタグ再生数の増加や(例:#平成レトロ が多数再生)、コンビニ・アパレル企業の関連商品展開、バラエティ番組での分析特集などが表出しているためである。これらは「エモい」とされる感情価値と結びついた消費を誘引している。


「昭和レトロ」はすでに定着

「昭和レトロ」は、日本において1970年代以降、長きにわたってノスタルジー文化として存在してきた。昭和時代(1926〜1989)のポップカルチャー・商店街・純喫茶・銭湯・レコードなど、様々な実物文化が若者や観光客の注目を浴びている。昭和レトロの隆盛は、Z世代に限らず広い世代に受容されており、純喫茶のクリームソーダやアナログ玩具、カセットテープといった具体的体験がSNS映えするコンテンツとして人気を博している。

ブームの質的変化

昭和レトロは、もはや単なる一過性の流行ではなく、日本文化・観光資源として「定番ジャンル」として位置づけられている。特に若者が昭和歌謡やレトロゲームを楽しむ傾向は、単なる懐古に留まらず新しい体験価値として受け入れられている。この「アナログな手間や不便さ」への郷愁が、都市空間や商店街、カフェ等で再解釈され、観光・消費価値と結びつきつつある。


大正レトロは特定のジャンルや観光地で局所的なブームに

「大正レトロ」は一般に「大正浪漫」とも呼ばれ、1912〜1926年の大正時代に見られた和洋折衷のモダン文化・建築・デザイン・ライフスタイルへの美意識を指す。これは、当時の洋風建築、女性の社会的変化、自由主義的な文化が特徴であり、文学・建築・デザイン史研究でも一大潮流として位置づけられている。

現代では、この大正浪漫をテーマとした観光スポット(例:日本大正村、川越大正浪漫夢通り)や体験型イベント(着物レンタル、レトロ洋館見学)が人気であり、再現・体験消費として一定の需要がある。ただし、この人気は昭和・平成のレトロに比べて局所的であり、特定の地域や趣味領域に留まる傾向が強い。

継続性と体験消費

大正レトロ人気は「非日常のファンタジー」体験として位置づけられており、歴史的町並みの散策や着物・カフェ文化の体験に価値を見出す観光需要に支えられている。また、アニメ・マンガ(例として大正時代を舞台にした作品)によって視覚的に魅力づけられている点も無視できない。このように、視覚文化と体験型消費が相互に作用することで大正レトロは一定の熱量を保っている。


昭和レトロ:ブームを超え「定番ジャンル」へ

昭和レトロはすでに「ブーム」ではなく文化潮流の一部として定着している。若者層の支持はもちろん、高齢層や外国人観光客をも惹きつける普遍的な魅力を持っている。昭和レトロの受容は、単なるノスタルジー消費ではなく「エモい(感情を揺さぶる)文化」として、飲食・観光・メディア産業に組み込まれている。

具体的要素

純喫茶のクリームソーダ、レコード・カセットテープ・アナログゲーム等がその代表例である。これらは視覚・聴覚・体験的価値を通してノスタルジーと現代的ライフスタイルを結びつけ、文化的アーカイブ機能を持つと同時に新しい消費形態としても成長している。


Z世代にとっての「エモい」文化として完全に定着

平成・昭和のレトロ文化は、Z世代を中心とする若者にとって情緒的価値の高い文化として位置づけられている。これは単に「懐かしい」という情緒に留まらず、自分自身のアイデンティティや価値観を表現する手段として機能している。たとえば、アナログアイテムのコレクションや、昭和・平成モチーフのデザインを取り入れた現代ファッション、音楽フェス等がこれを象徴している。


現状まとめ
  1. 平成レトロは、SNS・企業コラボレーション・メディア露出により急速に注目されている現象である。

  2. 昭和レトロは、単なる一過性の流行を越えて、日本文化の一部として広く定着している。

  3. 大正レトロは、特定の観光地・ジャンルに局所的な人気があり、「体験消費」という文脈で支持されている。


アナログな「手間」や「不便さ」

ノスタルジー文化が受容される背景として、アナログな手触りや不便さがむしろ新鮮に感じられる現代社会の志向がある。高度なデジタル社会では「すぐにできる体験」が当たり前であるため、逆に時間や手間を要する文化が情緒的価値を持つ傾向が強まっている。

大正レトロ:世界観の「体験消費」として継続

大正浪漫はその華やかさ・文化的独自性により、単なる観光以上の「没入型体験」を提供している。歴史的建築・衣装・文化芸術の複合体験が、若者からシニアまで多層的な支持を得ている。

非日常のファンタジーとしての人気

特に大正レトロは、現代の日常から切り離された「異空間的」体験を提供するため、SNS映えやフォトジェニックな消費価値が高い。


検証:なぜ「レトロ」は繰り返されるのか?

流行の「20年周期説」

過去の流行回帰には「世代交代と距離の生起する年数」という周期が存在するという仮説がある。おおむね20〜30年経過した時期に、当時を経験した世代が成熟し、次世代が未知の過去文化として受容するサイクルである。

メカニズム

文化的ノスタルジーは、記憶・共感・再解釈の三段階で生成される。まずある世代の体験が記憶アーカイブされ、それがメディアや消費文化として再活性化され、最後に別世代によって新たな価値として再解釈される。


平成レトロの次は?

令和レトロがすでに一部で注目されつつあるが、次の大きな潮流は「令和世代のレトロ文化」となる可能性が高い。これはSNS世代の消費行動やデジタル表現の進化と絡み、単なるノスタルジーに留まらない新たな文化形態を生む可能性がある。


今後の展望
  1. 文化保存と消費の両立:レトロ文化は単なる懐古ではなく、新たな文化創造資源として再評価されるだろう。

  2. 体験価値の深化:AR/VR等の技術を用いた没入型レトロ体験の可能性。

  3. グローバル展開:昭和・平成レトロは海外でも人気が高く、日本文化のソフトパワーとしての機能が期待される。


まとめ

日本のレトロ文化は、時代ごとの社会構造・技術・消費行動の変化と不可分な関係にある。昭和レトロは定着した文化潮流として、平成レトロは新たな社会現象として、大正レトロは体験消費の特異な領域として、それぞれの文脈で支持され、今後も「レトロ」は新たな形で再演され続けるであろう。


参考・引用リスト

  1. 平成レトロ展(TBS)関連情報(イベント実施)

  2. Retro cafes and Showa era popularity (Kyodo News)

  3. 平成レトロのデザイン特徴とSNSでの盛り上がり

  4. 『ホンマでっか!?TV』平成レトロ特集報道

  5. Heisei Retro cultural overview

  6. 平成レトロとは何か(専門コラム) 

  7. 平成レトロ注目理由(比較記事)

  8. 平成レトロと他時代レトロとの比較 

  9. Showa nostalgia overview(英Wikipedia)

  10. 大正浪漫および大正レトロ観光情報 

  11. Taishō Roman aesthetic and cultural history

  12. 大正浪漫影響のアニメ・マンガ関連論


追記:昭和生まれ・平成生まれの「平成レトロ」への反応

昭和生まれ世代の受け止め方

昭和生まれ(おおむね1960年代後半〜1980年代前半生まれ)にとって、平成は「人生の現役期」にあたる時代である。この世代の平成レトロに対する反応は、単純なノスタルジーというよりも、自己史の再編集という性格を帯びている。

昭和生まれの多くは、平成初期を「就職氷河期前後」「バブル崩壊後の不安定な社会」「IT化の始まり」として記憶している。そのため、Z世代が肯定的・装飾的に消費する平成レトロ(派手な色彩、ポップなガジェット、軽やかな雰囲気)に対し、次のような複雑な感情を抱く傾向がある。

  • 「懐かしいが、決して楽な時代ではなかった」

  • 「なぜあの時代が『可愛い』ものとして切り取られるのか」

  • 「苦労や空気感が削ぎ落とされ、表層だけが再利用されている」

社会学的に見ると、これは記憶の世代間非対称性である。体験世代にとっての平成は「生活史」だが、非体験世代にとっては「素材化された文化資源」に過ぎない。このズレが、昭和生まれの一部に距離感や違和感を生んでいる。

一方で、全体として否定的というわけではなく、「自分たちが生きた時代が、文化として評価されている」という一定の肯定感も存在する。特に音楽、テレビ番組、初期インターネット文化などについては、再評価を歓迎する声も多い。


平成生まれ世代の反応

平成生まれ(1989年以降、特に1990年代〜2000年代初頭生まれ)にとって、平成レトロは自己の幼少期・思春期の記憶と直結する文化である。そのため反応は、昭和生まれよりも感情的・身体的である。

この世代にとって平成レトロは、

  • 実家にあった家電

  • 小学生時代に使っていた文房具やゲーム

  • 中高生時代の音楽、ファッション、携帯電話

といった「私的記憶」に強く紐づいている。平成レトロ消費は、過去を遠くから眺める行為ではなく、「かつての自分に触れ直す」行為に近い。

特筆すべきは、平成生まれ世代が平成レトロを再評価しつつも、当時を全面的に理想化していない点である。不便さ、校則、同調圧力、ネット炎上の始まりといった負の側面も理解した上で、それでも「感情が揺さぶられる何か」として受け入れている。

この態度は、Z世代以降に見られる「完全な肯定でも否定でもない、距離を取った愛着」という文化消費の特徴と一致する。


団塊の世代は近年のレトロブームをどう見ているか

団塊の世代(1947〜1949年生まれ)は、日本の高度経済成長期と昭和文化を身体的に体験してきた世代である。この世代にとって、現在のレトロブームは二重の距離を持つ。

  • 昭和レトロ → 「自分たちの青春」

  • 平成レトロ → 「自分たちの子や部下の時代」

そのため、平成レトロに対する直接的な感情的共鳴は比較的弱い。しかし、レトロブーム全体については、概ね以下の三類型に分けられる。


① 好意的・観察的受容

最も多いのが、「若い人が昔に興味を持つのは良いことだ」という穏健な肯定である。団塊世代は、自らが若い頃に大正ロマンや戦前文化を再評価してきた経験を持つため、「流行は巡るもの」という認識が強い。

この層は、レトロブームを

  • 歴史の継承

  • 文化的多様性

  • 若者の感性の表れ

として評価する傾向がある。


② 商業主義への懐疑

一方で、「本質が抜け落ちている」「ビジネスに都合よく使われている」という批判的視線も存在する。特に昭和を知る団塊世代からすると、昭和レトロの演出が過度に美化されているように映る場合がある。

これは、体験者と非体験者の間に生じる「記憶の摩耗」に対する違和感であり、文化社会学的には自然な反応である。


③ 距離を保った無関心

三つ目は、そもそもレトロブーム自体にあまり関心を持たない層である。日常生活や健康、家族といった関心軸が優先され、流行文化を「若者のもの」として切り離して認識している。


平成レトロの震源地

震源地①:SNS、とりわけ視覚共有プラットフォーム

平成レトロの最大の震源地は、疑いなくSNSである。特に、

  • Instagram

  • TikTok

  • YouTube(ショート動画)

といった視覚・短尺中心のプラットフォームが、平成レトロの拡散を加速させた。

平成文化は色彩・形状・音が強く、写真や動画と相性が良い。ガラケー、プリクラ、カラフルな文房具、Y2Kファッションは、視覚的に即座に理解可能であり、アルゴリズムとの親和性が高い。


震源地②:原宿・渋谷を中心とする都市文化圏

物理的な震源地としては、原宿・渋谷・下北沢など、若者文化の集積地が挙げられる。これらのエリアでは、

  • 平成風ファッションの再解釈

  • レトロ雑貨店

  • 平成モチーフのポップアップイベント

が集中して発生している。ここで重要なのは、単なる復刻ではなく「平成を素材にした再編集」が行われている点である。


震源地③:メディアによる言語化

平成レトロは、テレビ番組、雑誌、ウェブメディアによって「名前を与えられた」ことで、現象として可視化された。特集番組や解説記事が、「これは平成レトロである」と定義した瞬間に、個々の懐古体験が社会的トレンドへと昇華した。

この言語化プロセスは、流行生成において極めて重要であり、平成レトロが単なる散発的懐古に留まらず、社会現象として認識される決定打となった。


最後に

昭和・平成生まれ、団塊世代それぞれの平成レトロへの反応は、体験の有無と記憶の位置づけによって明確に異なる。一方で、平成レトロの震源地は特定の世代ではなく、SNS・都市文化・メディアが交差する地点に存在する。

このことは、現代のレトロが「誰かの思い出」ではなく、「再編集可能な文化資源」として循環していることを示している。平成レトロは、その最初の本格的な事例であり、今後のレトロ文化研究において重要な参照点となるであろう。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします