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コラム:「揚げ物」をやめることで得られる健康効果

揚げ物を止める・減らすことは、体重管理、肥満予防、心血管代謝疾患のリスク低減、発がんリスクの低下、慢性炎症の抑制、肌や精神の健康改善に資する可能性が高い。
代表的な揚げ物(Getty Images)
日本の揚げ物

日本では「揚げ物」は家庭料理・惣菜・外食の双方で広く親しまれている。天ぷら、コロッケ、唐揚げ、とんかつ、フライドポテトなど種類は多様で、家庭の食卓や弁当、お祭りや居酒屋の定番として日常的に消費されている。日本の近年の食生活は欧米化の影響を受け、脂質エネルギー比が変化してきたが、揚げ物は手軽さと嗜好性の両面から消費が続いている。厚生労働省による国民健康・栄養調査は、日本人のエネルギー摂取や食選択の状況を示しており、外食・中食の利用増加が野菜摂取の減少や脂肪摂取の変化に影響していることを指摘している。揚げ物は満足感が高く「みんな大好き」な一方で、頻繁な摂取は健康影響をもたらす可能性がある。

揚げ物を止めることで得られる健康効果(結論)

結論として、揚げ物の摂取を減らす・止めることは、体重管理や肥満予防、心血管代謝疾患(心筋梗塞、脳卒中、2型糖尿病など)のリスク低減、発がんリスクの低下(特に高温調理による生成物に起因するリスクの軽減)、慢性炎症の抑制、肌の健康維持、そして精神的健康の改善に寄与する可能性が高い。これらの効果は、揚げ物が高エネルギー、高脂肪(飽和脂肪や劣化した油に含まれる有害脂肪酸)、高温調理で生じる有害物質(アクリルアミドなど)を通じて身体機能に影響を与えることに基づく。疫学的メタ解析や公的機関の評価は、揚げ物や高温で処理された食品の頻回摂取と心血管疾患・総死亡率の上昇などの関連を示している。

体重管理と肥満予防

揚げ物は調理過程で油を多く吸収し、1食あたりのエネルギーが高くなる。頻繁に高エネルギー食品を摂取すると総エネルギー収支が正(摂取>消費)になりやすく、体重増加・肥満へつながる。肥満は単独で高血圧、脂質異常、インスリン抵抗性を引き起こし、2型糖尿病や心血管疾患の主要なリスク因子となる。介入研究や観察研究では、揚げ物やファーストフードの頻繁な摂取が体重増加と関連することが示されており、逆に揚げ物を減らして低エネルギー・高栄養の食品(野菜、魚、全粒穀物、豆類)を増やすことは体重管理に有効である。公衆衛生上も食環境の改善(惣菜の油量低減、調理法案内など)が体重管理に寄与するとされる。

メカニズムとしては、〈1〉高カロリー摂取、〈2〉満腹感の質(油を大量に含む食品は栄養密度は高いが栄養バランスが悪い場合が多い)、〈3〉揚げ油の反復加熱による酸化脂質・トランス脂肪や酸化生成物が代謝を乱す可能性が挙げられる。したがって、揚げ物を減らすことはカロリー摂取の自然な減少を招き、体脂肪量や内臓脂肪の低下に寄与する。

心血管代謝疾患のリスク低減

複数の観察研究とメタ解析は、揚げ物の摂取量が多い人ほど心血管疾患(CVD)の発症リスクや全死亡リスクが高まる傾向を示している。メタ解析では、揚げ物の摂取が1サービング増えるごとにCVDリスクが上昇するとの線形関係が報告される場合もある。揚げ物が心血管リスクを高める要因は複合的で、以下が主要因である。

  1. 脂質プロファイルの悪化:飽和脂肪や一部のトランス脂肪がLDLコレステロールを上昇させる。

  2. 酸化ストレスと炎症:反復加熱や高温調理で生じる酸化脂質が血管内皮機能を損ない、慢性炎症を誘導する。

  3. 血圧や血糖管理への悪影響:肥満増加やインスリン抵抗性を通じて高血圧・糖代謝異常が増える。

これらの観点から、揚げ物を減らすことは心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中)や全死亡のリスク低下に繋がる可能性が高いと考えられる。主要メタ解析も揚げ物摂取とCVDリスクの関連を支持しているが、研究間の異質性や摂取評価の誤差には注意が必要である。

発がんリスクの低減

揚げ物や高温調理では、食品中でアクリルアミドや多環芳香族炭化水素(PAHs)、ヘテロサイクリックアミン(HCA)などの化学物質が生成される場合がある。特にアクリルアミドはジャガイモや穀物を高温で加熱した際に生成されるもので、国際がん研究機関(IARC)はアクリルアミドを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(Group 2A)」と評価している(労働曝露や動物実験の知見を含む)。人の疫学研究では因果関係を確定するのは困難だが、アクリルアミドなどの化学物質は発がんリスクを理論的に高める可能性があり、摂取削減の意義は大きい。EUや各国の食品安全機関は、アクリルアミド低減のための調理指針(焼き色を薄くする、過度の高温調理を避ける等)を勧告している。揚げ物を減らすことは、このような高温調理生成物への曝露を下げ、長期的な発がんリスクの低減に寄与する可能性がある。

炎症の抑制

慢性低度炎症は多くの生活習慣病(動脈硬化、糖尿病、認知機能低下、がんの一部など)と関連している。揚げ油の反復加熱や高温での酸化は、酸化脂質や炎症誘導性の代謝産物を生じさせ、体内で炎症シグナルを活性化することが報告されている。揚げ物を減らし、抗酸化物質や抗炎症成分を豊富に含む食品(色の濃い野菜、果物、青魚、ナッツ、オリーブオイルなど)を増やすことで、炎症マーカー(CRPなど)の低下や炎症関連症状の改善が期待できる。個人レベルの介入や集団レベルの食環境改善によって慢性炎症負荷を下げることが公衆衛生上も推奨される。

肌の健康維持

揚げ物を含む高脂肪・高エネルギー食は、皮膚の炎症や皮脂分泌、ニキビ形成と関連する可能性がある。酸化した脂質やトランス脂肪の摂取は皮膚の酸化ストレスを増し、バリア機能を低下させる恐れがある。さらに、肥満や高インスリン状態はホルモンバランスを乱し、肌トラブルを増悪させることがある。逆に揚げ物を減らし、抗酸化物質(ビタミンC、E、βカロテン)や良質な脂肪(オメガ-3脂肪酸)を含む食品を摂ることで、皮膚の修復力や水分保持、炎症反応の抑制を期待できる。

精神的健康の改善

食事は精神健康にも影響を与える。高脂肪・高糖質の加工食品や揚げ物の多い食事パターンは、うつ症状や不安と関連するとの研究報告がある。逆に、地中海食や魚・野菜中心の食事はうつ症状リスクを下げることが示唆されている。揚げ物を減らして栄養バランスを改善すると、腸内環境(マイクロバイオーム)や神経伝達物質前駆体の供給が改善され、気分や認知機能の安定に寄与し得る。栄養学的観点からは、オメガ-3脂肪酸、ビタミンB群、マグネシウム、抗酸化物質などが精神健康に重要であり、これらを揚げ物中心の食事から切り替えることはプラスに働く。

みんな大好き揚げ物――愛される理由と注意点

揚げ物が好まれる理由は、風味(揚げることで生じる香ばしさ)、食感(サクサク、ジューシー)、満足感(高脂肪で満腹感を得やすい)にある。文化的・社会的な価値(祭りや家庭料理、外食文化)も強く、単純に「やめる」ことは心理的ハードルが高い。したがって、実践的なアプローチは「完全禁止」よりも「頻度と量の管理」「調理法の工夫」「代替食品の導入」が現実的で効果的である。

やめ方・減らし方(行動変容の具体策)

揚げ物をやめる(あるいは減らす)ための実践的ステップを提示する。

  1. 目標設定:最初に「週に食べる回数を半分にする」「外食での揚げ物は週1回までにする」等、具体的で測定可能な目標を設定する。

  2. 代替メニューの準備:好きなメニュー(唐揚げ、トンカツ等)の代替として、オーブンで焼く、エアフライヤーを使う、蒸す・煮るなどを試す。味付けや食感を工夫して満足感を維持する。

  3. 食環境を整える:自宅に揚げ菓子や冷凍フライを常備しない、惣菜店で買う頻度を下げる。買い物時に野菜や魚を優先的にカートに入れる。

  4. 外食の工夫:外食時は揚げ物以外のメニューを選ぶ、シェアして量を減らす、揚げ物が出てきたら副菜を多めに摂る。

  5. 調理技術の獲得:オーブン・グリル・蒸し調理を活用することで満足度を保ちながら油を減らせる。

  6. スモールステップと報酬:小さな変化を続けることで習慣化する。達成感を味わうための非食的報酬(運動、趣味)を設定する。

行動変容の基礎としては、強制ではなく「代替を容易にする」「報酬を設定する」「周囲との協力(家族や職場)」が成功率を高める。

他の調理方法(具体的な代替と利点)

揚げ物を減らす際に有効な調理法とその特徴を列挙する。

  1. グリル・オーブン焼き:表面をカリッとさせやすく油量を大幅に減らせる。パン粉を使う場合でも油の量は揚げる場合より格段に少ない。

  2. エアフライヤー:熱風で揚げ物に近い食感を作ることが可能で、油使用量を数%程度に抑えられる。外食での油の質とは異なり自宅で管理できる利点がある。

  3. 蒸し・煮る:油を使わずにしっとりした食感が得られる。栄養素の流出を抑えつつ消化性も良くする。

  4. ソテー・少量のオイルでの炒め:オイルを少量に制限し、良質なオイル(オリーブオイルやキャノーラ油など)を使うことで脂質の質を改善できる。

  5. マリネやスパイス、ハーブの活用:風味を豊かにすることで油の「目立つ」役割を減らせる。

これらは単に油を減らすだけでなく、調理中の高温での化学生成物(アクリルアミドなど)を抑える実効的な手段にもなる。

課題(現実的な障壁とリスク)

揚げ物を減らすには以下のような課題がある。

  1. 文化的嗜好:揚げ物は味・食感のみならず文化的な位置づけが強く、単純にやめることはストレスとなる。

  2. 外食・中食産業:多くの惣菜やファストフードは揚げ物中心であり、忙しい生活では選択しづらい。

  3. 経済的・時間的制約:オーブン調理やエアフライヤーの導入は初期コストがかかる場合がある。料理時間や準備の負担感も障壁になる。

  4. 科学的不確実性:疫学研究は関連を示すが、因果関係の証明は困難な場合がある。したがって、「完全にやめれば絶対に安全」と断言することは誤りであり、バランスの取れた情報提供が必要である。

今後の展望(研究・政策・産業の方向性)

今後は以下のような方向が重要になる。

  1. 研究面:揚げ物の種類・揚げ方(使用油、温度、時間、再利用の有無)や摂取頻度と特定の健康アウトカムとの因果性を明確にする高品質コホートや介入研究が必要である。メカニズム研究(酸化生成物、炎症、マイクロバイオームへの影響など)も深める必要がある。

  2. 政策面:食品産業との連携による加工食品・外食の油使用量削減や油の質の改善、消費者向けの調理指針(アクリルアミド低減等)の普及、学校や職場での食環境改善が有効である。国レベルの栄養政策や食育プログラムも継続的に実施する必要がある。

  3. 産業面:油の品質管理、低温調理技術、代替調理機器(エアフライヤー等)の普及、加工食品の改革(揚げ物の代替品、低アクリルアミド製法)が期待される。さらに食品表示の充実や「健康に配慮した調理法」のラベリングも消費者の選択を助ける。

まとめ

揚げ物を止める・減らすことは、体重管理、肥満予防、心血管代謝疾患のリスク低減、発がんリスクの低下、慢性炎症の抑制、肌や精神の健康改善に資する可能性が高い。これらの利点は、揚げ物が持つ高エネルギー密度、劣化しやすい油脂、高温調理で生じる有害生成物といった特性に起因する。実践的には、「完全に断つ」よりも「頻度と量を管理する」「代替調理法を導入する」「食環境を整える」ことが現実的・効果的である。公的機関や学術的レビューは、揚げ物・高温加工食品の摂取削減が個人・集団の健康にとって有益であることを示唆しているが、詳細な因果解明や個別最適化のための研究は今後も継続が必要である。


参考(本文で参照した代表的な資料)

  1. Qin P, et al. Fried-food consumption and risk of cardiovascular disease: meta-analysis (BMJ/2021).

  2. BMJ関連メタ解析(2019)等の総説。揚げ物と全死亡・心血管疾患リスクの関連を示す。

  3. IARC(国際がん研究機関)報告書(アクリルアミド等の評価)。高温調理生成物の発がん性に関する評価。

  4. 厚生労働省「国民健康・栄養調査」など公的データ。日本における食生活・栄養摂取の傾向を示す。

  5. 最近の系統的レビューや大規模研究レビュー(超加工食品と健康影響を扱うレビュー等)。食事パターン全体としてのリスクを示す。

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