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コラム:アルコールは人間の身体に必要ない

まずは1週間、1か月の断酒を設定すると実感しやすい変化が得られる。断酒チャレンジに参加するのも有効である。
乾杯する女性たち(Getty Images)

日本におけるアルコール消費と有害飲酒は長年にわたり公衆衛生上の課題となっている。国の施策としては「健康日本21(第二次)」やその後続資料でアルコール対策が掲げられており、1日あたりの純アルコール摂取量が男性で40g以上、女性で20g以上を「生活習慣病のリスクを高める量」として注目している。日本全体の飲酒量は長期的に減少傾向にあるが、男女や年齢層によってばらつきがあり、特に若年女性の飲酒増加や有害飲酒の存在が指摘されている。アルコールに起因する死者は世界全体でも無視できない割合を占め、日本でもアルコール関連の疾患や事故・社会的被害を低減するための取り組みが続いている。国内施策や統計の詳細は厚生労働省の資料にまとまっている。

アルコールをやめる(禁酒・断酒)

「禁酒」や「断酒」は用語に微妙な差があるが、ここではいずれもアルコール摂取を止める行為を指す。動機は健康改善、体重管理、睡眠改善、精神安定、家族や職場関係の改善など多岐にわたる。近年は“Dry January”や「月間断酒」といった短期間の断酒チャレンジが注目され、短期的な禁酒でも体感できる効果が報告されている。また、減酒や節酒という選択肢もあり、完全断酒でなくても有害飲酒の低減は健康利益に繋がるというエビデンスがある。禁酒は単に「飲まない」だけでなく、社会的・心理的サポート、場合によっては専門医や支援団体の関与を必要とすることがある。

身体的な健康効果(総論)

アルコールをやめることにより、短期〜中期〜長期の段階で身体的健康指標が改善する。短期では脱水や胃腸の不調の改善、睡眠の質改善、翌朝のだるさの軽減が見られる。中期では肝臓の脂肪沈着や肝機能検査値の改善、体重や腹囲の減少、皮膚の改善などが観察される。長期では肝硬変や一部の癌リスクの低下、心血管系リスクの変化、認知機能の部分的回復などが期待できる。WHOをはじめとする公的機関は、アルコールの有害使用が多くの疾病や早死の原因となることを示しており、飲酒を減らすことが全体的な疾病の負担軽減に寄与するとしている。

肝機能の改善

肝臓はアルコールの代謝と解毒に重要な役割を果たすため、長期飲酒は脂肪肝(アルコール性脂肪肝)、アルコール性肝炎、線維化、肝硬変へと進行するリスクがある。しかし、アルコールを中止すると比較的早期に肝臓の一部の改善が起きることが報告されている。例えば、短期間(1週間〜数か月)の禁酒で肝臓内の脂肪沈着や酸化ストレス関連の指標が改善するという研究結果がある一方、重度の線維化や硬変が進行している場合は回復が限定的であり、個人差が大きい。したがって、早期の介入が重要であり、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTPなど)や画像検査で経過観察すると禁酒の効果が客観的に確認できる。最近のレビューでも、飲酒中止は脂肪変化を減少させ肝臓の自然回復を促すと指摘されている。

睡眠の質の向上

アルコールは寝つきをよくする一面があるが、睡眠の構造を乱し、深い睡眠(徐波睡眠)やレム睡眠のバランスを崩して夜間覚醒や早朝覚醒を促す。慢性的に飲酒する人は睡眠の断片化や呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群の悪化)を起こすことがある。禁酒後は短期的に眠気や中途覚醒が改善し、睡眠効率と睡眠満足度が向上するという研究や大規模調査がある。たとえば、断酒チャレンジ参加者の調査では「睡眠が改善した」と回答する人が多く、臨床研究でもアルコール中止後に睡眠構造が正常化する傾向が示されている。したがって、睡眠の質向上を期待して禁酒を試みることは合理的である。ただし、慢性的なアルコール依存からの突然の断酒は禁断症状として不眠や不安を引き起こす場合があるため、医療監督下での対応が必要なことがある。

体重の減少・管理

アルコールは「空のカロリー」と言われ、エタノール自体は1gあたり約7kcalを含むため、習慣的な飲酒は総摂取カロリーを押し上げる。さらに飲酒は食欲増進を招きおつまみの摂取量を増やしやすく、代謝面でもアルコールがエネルギー源として優先的に使われるため脂肪の蓄積が促される。減酒・断酒により1日の余剰カロリーが減ると、体重減少やウエスト周囲径の改善が期待できる。ただし、禁酒後に代替行動として高カロリーの飲食を増やす人もいるため、総合的には食事・運動と組み合わせるのが最も効果的である。複数の研究では、飲酒をやめることで中長期的に体重が減少する傾向が示されている。

むくみの軽減

アルコールは利尿作用や血管透過性の変化を引き起こし、また塩分摂取や炎症を通じて体内の水分分布に影響を与える。慢性的な飲酒は顔面や四肢のむくみ(浮腫)を生じさせることがあり、禁酒すると体内の炎症反応や水分保持が改善され、むくみが和らぐことが多い。特にアルコールによる肝機能障害がある場合は蛋白合成の低下などで浮腫が生じることがあるため、肝機能改善と並行してむくみが減少する。具体的な軽減の程度は個人差があるものの、外観上の変化を比較的短期間で実感する人が少なくない。

肌の調子の改善

アルコールは体を脱水させることで肌の乾燥を招き、また炎症性サイトカインの上昇やコラーゲン合成の抑制を通じてハリや弾力の低下、血管拡張による赤ら顔、色素沈着やにきび様病変を誘発する。禁酒により皮膚の水分保持が改善し、炎症が収まりやすくなるため、多くの人が数週間〜数か月で肌荒れや赤みの改善を実感するという報告がある。美容関連の臨床観察でも、断酒は皮膚老化の進行を遅らせる効果や肌の透明感改善に寄与する可能性が示唆されている。ただし、慢性疾患や栄養状態が悪い場合は回復に時間がかかる。

疲労感の軽減

飲酒後の翌日のだるさや疲労感は、脱水、血糖変動、睡眠の質低下、アセトアルデヒドなどの代謝産物による影響で生じる。定期的な飲酒をやめるとこれらの要因が軽減され、慢性的な疲労感や午前中の眠気が改善することが多い。臨床や調査でも「疲労感が減った」「朝の目覚めが良くなった」と報告する人が多く、精神的なエネルギーや日中の活動量の回復につながる。特に睡眠改善と連動して疲労感の軽減が顕著になる。

精神的な健康効果(総論)

アルコールは短期的には不安や抑うつ感を和らげることがあるが、長期的・習慣的な飲酒はむしろうつ症状や不安障害を悪化させることがある。またアルコール依存や乱用は社会的孤立、職場・家庭問題、経済的負担を生み、精神的ストレスを増加させる。禁酒や減酒はうつや不安の軽減、自己効力感の回復、社会関係の改善に繋がることが多数の研究で示されている。ただし、急にやめることで一時的に不安や抑うつが増すケースもあるため、特に依存が強い場合は医療支援が望ましい。

精神的な安定

禁酒することで気分の変動が小さくなり、情緒の安定が得られることが多い。飲酒で生じる「気分の上下」(飲酒時の高揚と翌日の落ち込み)や、飲酒に絡む心理的負担(隠す行為、罪悪感など)が軽くなるため、自己肯定感が改善する。支援グループや心理療法を併用すると再飲酒リスクの低下や長期的な精神安定に繋がる。専門家は禁酒のプロセスにおいて社会的サポートと行動療法の重要性を強調している。

認知機能の改善

長期的な過剰飲酒は記憶障害、遂行機能の低下、注意力の欠如など認知機能の低下をもたらすことがある。しかし、禁酒後に早期(数週間〜数か月)から認知機能の一部が回復することが示されている研究が多数存在する。特に記憶、言語的処理、注意の改善が比較的早く観察される場合がある。ただしアルコールによる脳損傷が重度で不可逆的に進行している場合は回復が限定的であるため、早期の断酒が認知機能保護の観点で重要である。脳の回復には年月を要する場合もあるが、長期断酒で脳の構造的・機能的改善が見られる報告もある。

集中力の向上

飲酒は注意の分散や情報処理速度の低下を招く。禁酒により集中力、作業持続時間、学習効率が向上することが多くの臨床報告で支持されている。職場や学業でのパフォーマンス向上を目的に断酒を選択する人は多く、短期的な「集中力の戻り」は日常生活での自己管理や時間効率に直結するため、実感しやすい。特に慢性の飲酒習慣がない人でも、夜間の少量飲酒が翌日の集中力に影響するため節酒は有効である。

アルコールは人間の身体に必要ない

栄養学的観点からアルコールは必須栄養素ではなく、体の正常な機能にとって必須ではない。むしろアルコールは毒性を持つ化学物質であり、代謝物(アセトアルデヒド)は発がん性があると評価されている。世界保健機関(WHO)は「安全な飲酒レベルは存在しない」との立場を示すことが多く、近年の公衆衛生論では飲酒によるリスクを強調する見解が増えている。一方で、一部の研究は「適度な飲酒」の潜在的な心血管利益を示唆してきたが、近年の手法改善によりバイアスが強く影響していた可能性が指摘され、総じて飲酒は健康リスクを伴う行為であるという見方が強まっている。したがって「必須ではない」どころか、「やめれば利益が大きい」場合が多い。

今後の展望

今後の公衆衛生や医療の取り組みとしては、以下の点が重要になる。まず政策面ではラベリングや課税、広告規制、アクセス制限などの有効性の高い対策の検討が続く(例:一部国で議論されているアルコール容器への癌リスク表記など)。次に臨床・地域レベルでは、早期のスクリーニングと介入、一次医療での減酒・断酒支援、デジタルツールやピアサポートの活用が拡大する見込みである。研究面では、少量飲酒の長期リスクや個人差(遺伝的感受性、性差、併存疾患)に関する精緻な解析が進む必要がある。個人としては、短期断酒の普及や節酒を促す社会的ムーブメントが定着すると、全体の疾病負担が減少する可能性が高い。政策・医療・市民の三者が連携して「有害な飲酒を減らす」方向に舵を取ることが期待される。

専門家・メディアのデータ引用(要点まとめ)
  • WHOのアルコールに関するファクトシートは、アルコールが多くの疾患と関連するとまとめている。

  • 厚生労働省の「健康日本21」等の資料は、日本国内での有害飲酒の定義や政策目標を示している。

  • 肝臓に関する研究は短期的な断酒でも脂肪肝などが改善することを示しており、一方で高度な線維化は回復が限定的である。

  • 睡眠、体重、皮膚、認知機能に関しては複数の臨床研究および調査で改善が示されており、禁酒のメリットが多面的である。

  • 公衆衛生的にはラベル表示や規制の強化、削減プログラムが議論されており、米国や欧州の報道でも政策的な動きが伝えられている。


最後に(実践的アドバイス)
  1. 短期の目標設定:まずは1週間、1か月の断酒を設定すると実感しやすい変化が得られる。断酒チャレンジに参加するのも有効である。

  2. 医療機関の受診:長年の重度飲酒や離脱症状が予想される場合は医療監督のもとで行う。突然の断酒で重篤な離脱症状(けいれん、せん妄など)が出ることがあるため適切な評価と管理が必要である。

  3. 支援の活用:ピアサポート、専門のカウンセリング、認知行動療法、場合によっては薬物療法を含む多面的支援を検討する。

  4. 生活習慣との統合:禁酒と並行して睡眠衛生、栄養、運動習慣を整えることで相乗効果を得られる。

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