コラム:超加工食品がもたらす健康被害
超加工食品は利便性や低価格、味の魅力から現代食に深く浸透している一方で、栄養学的・生理学的・行動学的メカニズムを通じて肥満、2型糖尿病、心血管疾患、大腸がんなど複数の慢性疾患リスクを高めるという疫学的エビデンスが増えている。
.jpg)
現状(2025年11月現在)
近年、超加工食品(UPF)の消費と慢性疾患、早期がん発症、肥満・メタボリックリスクの関連を示す疫学的エビデンスが蓄積している。複数のメタ解析・大規模コホート研究が、UPF摂取と心血管疾患、2型糖尿病、肥満、さらには大腸がんなどとの有意な関連を報告している一方で、因果関係のメカニズム解明や交絡因子の完全除去には限界が残る。2024–2025年にかけては、ランセットによるシリーズやBMJの系統的レビューが出され、政策的にもUPFを減らす方向での食育・表示規制・マーケティング規制の議論が進展している。WHOも食品マーケティングや非糖質甘味料に関するガイドライン作成を継続しており、UPFに関する公衆衛生対応がグローバル課題になっている。
超加工食品とは
「超加工食品(ultra-processed foods)」は、ブラジルの研究者らが提唱したNOVA分類で定義された概念であり、食材を細分化・改質した物質や、食用本来の用途とは異なる工業的成分(高果糖コーンシロップ、変性デンプン、プロテインアイソレートなど)を多数配合し、香味料・着色料・乳化剤などの多種類の添加物を用いて大量生産・長期保存・「超嗜好性(hyper-palatable)」化した製品群を指す。具体例としては、清涼飲料、スナック菓子、即席麺、冷凍調理済み食品、市販の菓子パン・一部の市販パン類、加工肉製品、甘味加工乳製品などが挙げられる。NOVA分類は広く使われているが、分類の境界や同一カテゴリ内での多様性については学術的に議論が続いている。
健康被害の理由(概説)
UPFが健康に悪影響を与えると考えられる理由は大きく三つに分けられる。第一に、栄養成分(エネルギー密度・飽和脂肪・トランス脂肪・遊離糖・塩分など)が高く、食物繊維や微量栄養素が低い点。第二に、食品添加物・加工工程が腸内環境(マイクロバイオーム)や代謝・炎症応答に直接的悪影響を与える可能性が示唆されている点。第三に、包装・広告・価格設定などにより過剰摂取を促す製品設計(超嗜好性)そのものが摂食行動を変化させ、長期的なエネルギー過剰に寄与する点である。これらが複合的に作用して肥満やメタボリック症候群、2型糖尿病、心血管疾患、がんリスク上昇につながるメカニズムが構成される。
栄養バランスの偏り
UPFは一般にエネルギー密度が高く、飽和脂肪酸、遊離糖、ナトリウムが過剰になりやすい一方で、食物繊維、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールなどの保護的栄養素が不足している。多くの疫学研究が、UPFの高摂取をエネルギー過剰や栄養素の偏りと関連付けている。栄養バランスが偏ると、血糖値・インスリン応答の乱れ、脂肪代謝異常、慢性的な低度炎症が生じやすくなり、長期的には生活習慣病の発現リスクを高める。
食品添加物の影響
UPFには多数の添加物(防腐剤、乳化剤、増粘剤、人工甘味料、香味料、着色料など)が含まれている。近年の基礎研究は、特定の添加物が腸内細菌叢を変化させ、腸粘膜のバリア機能を障害する可能性を示している。例えば、一部の乳化剤や防腐剤はマウス実験で腸内炎症を促進し、代謝異常を悪化させることが報告されている。人を対象とした疫学的根拠はまだ限定的だが、レビューや最近の総説は添加物が長期的な健康に及ぼすリスク評価の必要性を指摘している。公衆衛生当局は「現時点で直ちに禁止すべき明確な個別添加物は少ないが、総曝露や混合曝露の評価、子どもや妊婦への影響評価が重要」であると述べている。
慢性疾患のリスク増加(総論)
系統的レビューとメタ解析は、UPFの高摂取が心血管疾患、2型糖尿病、肥満、全死亡率および特定がん(とくに大腸がん)と関連することを示している。観察研究の多くは、交絡因子(社会経済状態、運動、喫煙、他の食生活)を補正しても関連が残るため、人口レベルでのリスク増大は実際の公衆衛生問題であると考えられている。なお、観察研究の限界(因果推論の困難、食事評価の誤差、食品分類のばらつき)を踏まえ、因果機序の解明と長期介入研究の蓄積が求められている。
肥満・メタボリックシンドローム
複数の前向きコホート研究とメタ解析は、UPF摂取と体重増加、肥満のリスク上昇を一貫して示している。理由としては(1)エネルギー密度の高さ(同量でも高カロリー)、(2)咀嚼回数や満腹感を抑えるテクスチャー、(3)高GI(グリセミック指数)による血糖変動、(4)食品デザインによる過剰摂取誘導、の組み合わせが挙げられる。肥満はメタボリックシンドローム(腹囲肥満、高血圧、高血糖、高トリグリセライド、低HDLコレステロール)を誘発し、心血管疾患や糖尿病の主要なリスクファクターになる。レビュー研究は17以上の前向き研究で多くの有意関連を確認している。
2型糖尿病
UPFの高摂取は2型糖尿病の発症リスク上昇と関連することがコホート研究で示されている。最新のメタ解析や個別の大規模コホートでは、UPFの摂取上位群が下位群と比べて有意に高い発症リスクを示す報告がある。メカニズムとしては、急速な血糖上昇と高インスリン負荷、体重増加に伴うインスリン抵抗性、さらには腸内環境や炎症性シグナルを介したβ細胞機能の劣化が想定される。これにより糖代謝障害が進行しやすくなる。
心血管疾患・心臓病
複数の研究は、UPF摂取と心血管疾患(CVD)、冠動脈疾患(CHD)、脳卒中のリスク増加を示している。メタ解析では、UPFの高摂取は全体としてCVDリスクをおおむね10〜25%程度押し上げると報告された研究がある(研究・カテゴリにより幅がある)。特に加工肉や砂糖飲料などはリスク増大と一貫して関連する一方で、パンや一部の加工乳製品などでは逆あるいは中立的な関連を示すことがあり、UPF全体の一括評価の解釈には慎重を要する。炎症性マーカー、血圧上昇、脂質プロファイルの悪化、インスリン抵抗性などが主要な病態経路である。
がん(特に大腸がんとの関連が強い)
近年の疫学研究は、UPF摂取と大腸がん(colorectal cancer; CRC)のリスク上昇を示す傾向があり、特に加工肉や高加工度の穀類製品・市販のパン菓子などが関与している可能性が示唆されている。複数のメタ解析やコホート研究は、UPFの上位摂取群で大腸がんリスクが上昇する結果を報告しているが、用いた分類法や摂取評価、発がんメカニズムの同定にはばらつきがある。仮説的メカニズムとしては、(1)低食物繊維による腸内環境悪化、(2)添加物や加工工程で生成される発がん性物質(例:一部の加工肉由来のN-ニトロ化合物等)、(3)慢性炎症の増強、が指摘されている。最新の研究では若年発症大腸がんの増加とUPFとの関連を示唆する報告もあり、注目されている。
呼吸器疾患
UPFと呼吸器疾患(喘息や慢性閉塞性肺疾患:COPDなど)の直接的関連を示すエビデンスは心血管や糖代謝ほど強固ではないものの、栄養不良や慢性炎症の増加を通じて呼吸器症状の悪化や感染症感受性の上昇に寄与する可能性がある。さらに、UPF摂取の指標は一般に社会経済状態や喫煙率とも関連するため、疫学的解析では交絡に注意が必要である。最近のレビューはメンタルヘルスや呼吸器を含む多臓器影響を否定しないが、さらなる縦断的研究が必要であると結論付けている。
メンタルヘルス・脳への影響
UPF摂取はうつ症状や不安症状などの精神衛生指標と関連することがいくつかの観察研究で示されている。栄養不足(オメガ3脂肪酸、ビタミンB群、ミネラル)と慢性的な炎症は、うつ病の病態に関与すると考えられているため、栄養学的に貧しい食事が精神健康に悪影響を及ぼす可能性がある。また腸—脳軸を介した腸内細菌叢の変化が神経伝達物質や免疫シグナルを介して行動や気分に影響するという仮説も注目されている。系統的レビューは関連の一貫性を示唆するが、介入研究はまだ限られている。
対策(総論)
UPFの健康影響に対する対策は個人レベルと政策レベルに分けられる。個人レベルでは食品選択の改善、自炊の推奨、食品表示の確認、食環境の工夫が有効である。政策レベルでは学校給食や保健教育の改善、食品表示規制、広告規制(特に子ども向け)、税制・補助金政策(健康的食品への補助、UPFへの課税検討)などが検討されている。世界保健機関(WHO)やランセットシリーズは、食環境を変える政策介入の必要性を強調している。
食材の選択
健康的な食材選択の基本は、未加工または最小限の加工にとどまる食品(野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ、魚、赤身の肉を控えめにしたバランス)を中心にすることだ。加工度の高い製品は成分表を見て、砂糖・飽和脂肪・食塩の含有量が高いものを避ける。精製穀物や甘味加工飲料、スナック菓子は頻度を減らす。栄養価の高い油(例:オリーブオイル、菜種油など)を適量用いること、加工肉を減らすことも推奨される。関連研究は食材中心の地中海式やDASH食など、全体的に未加工食品を多く含むパターンが長期健康に有利であると示している。
新鮮な食材を選ぶ
可能な範囲で新鮮な食材(生鮮野菜・果物・生魚・肉など)を基礎にし、調理で栄養素を過度に失わない工夫(短時間調理、蒸し・グリルなど)を行う。缶詰や冷凍食品を使う際は、砂糖・塩分・添加物の少ない製品を選ぶとよい。新鮮食材は食物繊維や微量栄養素、フィトケミカルの供給源となり、UPF中心の食事に見られる栄養不足を補う。
食品表示を確認する
成分表と栄養成分表示を確認し、原材料リストの先頭に砂糖や精製油、添加物名が多く並ぶ製品は避ける。特に「果汁入り」「天然由来」といった曖昧な表現や「低脂肪」「ライト」「ヘルシー」といったパッケージ訴求は成分を正確に反映していない場合があるため、裏の表示を必ず確認することが重要である。WHOや栄養指針は消費者の識別を助けるラベリング改善の必要性を訴えている。
「ヘルシー」なパッケージに注意
マーケティング上の「ヘルシー」訴求は誤解を招く場合がある。低脂肪で砂糖が多い、あるいは「天然由来」を強調している一方で添加物や精製成分が多い製品も存在するため、表面のイメージに惑わされず、原材料と栄養成分を確認する習慣を持つ必要がある。政策レベルでは誤解を招く表示・広告への規制強化が議論されている。
食生活の工夫
日常では、以下のような具体的工夫が有効である。
一食ごとに野菜を先に摂る(満腹感を高め、血糖上昇を緩やかにする)。
加工食品の頻度を週単位で制限する(週に食べる回数を決める)。
飲料は水や無糖の茶にする。清涼飲料や甘味飲料は特別な場面に限定する。
スナックはナッツや果物、全粒クラッカーといった未加工寄りの選択肢に置き換える。
これらの工夫は疫学研究の知見に基づく実践的な対策であり、習慣化によって長期リスクを低減できる可能性が高い。
自炊を心がける
自炊は食材選択をコントロールでき、塩分・糖分・油脂の過剰摂取を抑えられる利点がある。忙しい場合は、簡単な調理法(電子レンジ調理、下ごしらえして冷凍保存など)や1週間分のまとめ調理(ミールプレップ)を活用するとよい。研究は自炊頻度と健康指標(体重、糖代謝、食事の質)との正の相関を示唆している。
代替品を活用する
市販のUPFを全て排除するのは難しいため、より良い代替品を選ぶ実践が現実的である。例えば、市販のスナックを果物や自家製の焼き菓子(砂糖控えめ、全粒粉使用)に置き換える、即席麺を全粒麺や野菜・タンパクを加えた自家製麺に替える、加工肉をグリルや煮込みの自家製調理に替えるなどの方法がある。市販の「代替品」でも成分表を確認し、加工度と添加物をチェックすることが重要である。
計画的な食事準備(ミールプレップ)
計画的に食事を準備することで、外食や即席加工食品への依存を減らすことができる。週末に数食分をまとめて調理・冷凍しておけば平日の手間が省け、栄養バランスを保った食事を摂りやすくなる。公衆衛生の介入でも、家庭での実践技術(調理教育・簡便レシピの提供)が有効であるとの報告がある。
今後の展望
今後は以下の点が重要になると考えられる。第一に、UPFの定義や分類基準の更なる標準化と、食事評価法の改善によりエビデンスの一貫性を高める必要がある。第二に、添加物の長期混合曝露や腸内細菌叢を介したメカニズムの解明、介入試験(ランダム化比較試験)の増加が求められる。第三に、政策介入(表示・税制・広告規制・学校給食改革など)を通じて食環境を変えることが求められる。最新のランセットシリーズや政策提言は、食環境の構造的変化を通じた疾病予防の重要性を強調している。公衆衛生・栄養学・食品科学が協力して、消費者に正確で実行可能な選択肢を提供することが今後の課題である。
まとめ
超加工食品は利便性や低価格、味の魅力から現代食に深く浸透している一方で、栄養学的・生理学的・行動学的メカニズムを通じて肥満、2型糖尿病、心血管疾患、大腸がんなど複数の慢性疾患リスクを高めるという疫学的エビデンスが増えている。個人レベルでは食材選択の改善や自炊、食品表示の確認、計画的食事準備などの対策が有効であり、政策レベルでは表示規制や広告制限、学校給食の改善、税制や補助金政策など食環境を変える介入が必要である。現時点のエビデンスは決定的な因果証明には至らない点もあるが、公衆衛生的予防の観点からはリスク低減のための行動変容と政策的対応を進める意義が大きい。
参考(抜粋)
Monteiro CA. Ultra-processed foods: what they are and how to identify them(NOVA分類). 2019.
BMJ 系統的レビュー(UPFと健康アウトカム)2024.
Lancet シリーズ(UPFと公衆衛生)2025.
メタ解析:UPFと心血管疾患(Mendoza et al. 2024)。
食品添加物と腸内環境のレビュー(2024–2025).
