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コラム:パレスチナ・ガザ地区の与党ハマスとは

ハマスはムスリム同胞団の流れを汲む政治・武装組織として1987年に結成され、その後2006年の選挙勝利と2007年のガザ掌握を経て、ガザの実効支配者となった。
2021年5月22日/パレスチナ、ガザ地区、イスラム過激派組織ハマスの戦闘員(Getty Images/AFP通信)

ハマス(Islamic Resistance Movement)はパレスチナ・ガザ地区を実効支配する主要な政治・武装組織であり、事実上ガザの統治機構を担っている。2007年以降、ハマスはガザで行政・治安・社会サービスの機能を握っており、以後イスラエルとの局地的な衝突が断続的に続いている。2023年10月7日に発生した大規模な先制攻撃以降、イスラエルはガザに対する大規模な軍事作戦を行い、港湾・国境管理・空域封鎖などの制約と部分的/全面的な軍事行動によってガザの人道状況は極度に悪化した。報道・国際機関の集計では、2023年以降の軍事紛争によりガザ側の死者数は6万5000人を超え、多数の民間人負傷者と大規模な避難・インフラ被害が生じている。国際社会の人道支援や停戦仲介の動きが続いているが、封鎖と戦闘により支援の到達が困難になっている。

経済・社会面では、ガザの人口(約200万人前後と推定される)は長期にわたる封鎖・移動制限・インフラ破壊の影響で高い失業率と貧困状態にあり、医療・電力・水供給などの基礎サービスが度々切迫している。国連や人道機関は資金不足とアクセス制限を指摘しており、例えばある時点での緊急人道支援募金が目標を大きく下回るなど資金供給が不足していると報告されている。

歴史(起源と発展)

ハマスは1987年末の第一次インティファーダ(パレスチナ蜂起)の勃発を背景に結成された組織で、正式名称は「Islamic Resistance Movement(アラビア語でHarakat al-Muqawama al-Islamiyya)」である。創設者にはシェイク・アフマド・ヤッシン(Ahmed Yassin)らが含まれ、思想的にはエジプト発祥のムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)の系譜に位置付けられる。結成当初は宗教的・慈善活動や教育、社会福祉を通じて影響力を拡大しつつ、次第に武装闘争を組織的に行う政治勢力へと変化した。

1990年代から2000年代にかけては、イスラエルに対する自爆攻撃やロケット攻撃などの武装行動を行い、対立は激化した。2006年のパレスチナ立法評議会(PLC)選挙でハマスは「変革と改革」の名義で参加し、74議席(132議席中)を獲得して勝利し、イスマイル・ハニヤらが政府を率いることになった。選挙での勝利はハマスに正当性を与える一方で、国際社会(特に米国やEUの一部)はハマスをテロ組織と見なして支援を制限し、パレスチナ自治政府(PA)に対する援助や関係が複雑化した。

2007年6月、ハマスと従来の最大勢力ファタハとの内紛が武力衝突に発展し、ハマスが武力でガザを掌握した。これによりパレスチナ政治は事実上二分され、ヨルダン川西岸はファタハ系のパレスチナ自治政府が、ガザはハマスが統治するという分断状態が続いている。

組織構造・イデオロギーと活動領域

ハマスは政治的(政治局・政府組織)機能と軍事的(武装組織:カッサム旅団)機能を併せ持つハイブリッド組織である。政治局(政治指導部)は外部(かつてはシリア・レバノンなどに指導部を置いた時期もあった)で活動することが多く、ガザ現地の指導部は行政や治安を担う。一方、軍事部門は独自に訓練・兵器調達・作戦を行う能力を持つ。イデオロギー的にはパレスチナの解放や抵抗を掲げる民族主義的側面と、イスラム主義(イスラム法やムスリム共同体の価値観の尊重)を兼ね備えている。ハマスの創設文書(チャータ)にはイスラエルを否認する文言が含まれていたが、時代とともに戦術的・政治的な立場に変化や修正がみられると分析されている。

ハマスは社会サービス(学校、クリニック、慈善事業)をガザで広範に提供しており、これによって支持基盤を築いてきた。これらの社会インフラは紛争時にも重要な役割を果たす一方で、批評家はそれらが軍事組織のリクルートや正当化につながると指摘する。

経緯(主な出来事と衝突の流れ)

・1987年:ハマス結成(第一次インティファーダ勃発を契機)。
・1990年代~2000年代:自爆攻撃などの武力行動を継続し、イスラエルは強力な軍事・治安対策を実施。
・2006年1月:PLC選挙でハマスが勝利(74/132議席)。これによりハマス政権が成立。
・2007年6月:ハマスがガザを武力で掌握し、ファタハとの分断が固定化(ガザ掌握)。
・2008–2009年、2012年、2014年、2021年など:ガザとイスラエル間で複数回の大規模衝突(イスラエルは大規模空爆や地上作戦、ハマスはロケット弾やトンネル戦術など)。これらの衝突で民間人被害とインフラ破壊が繰り返される。
・2023年10月7日:ハマスが大規模な武装攻撃を実施(イスラエル側は多数の死者・人質発生と報告)。これを契機にイスラエルは大規模な報復作戦を行い、ガザでの人道的危機が深刻化した。以後、停戦・人道支援・交渉を巡る国際的な取り組みが続いている。

武力行動と戦術(実例・データ)

ハマスの武装部門である「カッサム旅団(Izz ad-Din al-Qassam Brigades)」は、ロケット砲、迫撃砲、地上突入、トンネル網(攻撃用・補給用)等を戦術として使用してきた。ロケット攻撃は数千発に及ぶ発射が記録され、地域の住民とインフラに継続的な影響を与えている。過去の集計では、2004–2014年の間にロケット攻撃や砲撃による死者・負傷者が発生し、心理的影響(子どものPTSDなど)が報告された例もある。

実例として以下を挙げる:2008–2009年の「キャスト・リード」作戦、2014年の「護衛の刃」、2021年の紛争などはいずれも多数の民間人死傷者と住宅・医療・教育インフラの破壊をもたらした。各回の衝突で国連や人道団体が被害・ニーズ評価を行い、復興と人道支援の規模が提示されたが、封鎖と安全保障上の懸念により復旧は遅延した。

国際的扱いと制裁・指定

ハマスは多くの国でテロ組織に指定されてきたが、国際社会の対応は一様ではない。指定の有無は外交関係、援助政策、交渉の可否に直結し、ハマスと関係を持つ主体(国家・非国家)に対しても政治的影響を及ぼす。指定と制裁により公式の資金移動や物資調達に制約が生じ、ハマスは地下経路や非公式ルートを通じて資金・武器を調達するためのネットワークを構築してきたとみられる。

人道・人権上の問題(実例とデータ)

ガザでの長期紛争は民間人に甚大な影響を与えている。国連人道調整事務所(OCHA)や国連機関は、避難民数、被災世帯数、医療施設の機能喪失、飲料水・衛生状態の悪化などを複数回にわたり警告している。例えば、ある時点で主要人道募金が目標に届かない、あるいは援助通路が限定されることで数百万人規模の住民が十分な支援を受けられない状況が継続しているとの報告がある。医療不足(酸素、抗生物質、外科用品)や電力不足による医療機器停止、学校の破壊や閉鎖、食料不足と栄養悪化が深刻である。これらは長期的な公衆衛生問題と社会経済的衰退を引き起こす。

また、武装組織側による戦闘行為(ロケットの民間地域への発射や民間人を戦闘に巻き込む行為)や、占領・封鎖側による集団罰的な影響(移動制限、物資封鎖、家屋破壊など)は、ともに国際人道法上の問題を提起している。複数の国際監視団体や人権団体が双方に対して民間人保護の徹底を求めている。

国内政治と統治上の課題

ハマスがガザを統治することに伴い、ガザでは法的・行政的正統性の問題が生じた。2006年選挙後の政治的分裂により、パレスチナ自治政府(本部:西岸)とガザを支配するハマスとの間で協調が欠け、統一的な外交・経済政策が実行されにくい状況になった。これにより外部支援の配分や復興計画の実行が複雑化した。さらに、軍事優先の体制が強まると、公共サービスや長期的な経済政策がおろそかになりがちで、住民の生活改善が進まないという批判がある。

財政・資金調達の実態(流入源と問題点)

ハマスの財源は多岐にわたるとされる。寄付・慈善団体の募金、国外(同胞団系、親和的国家や個人)からの資金、税収・関税(ガザ出入口が管理される前の形態)や一部の経済活動収益、さらに非公式チャネルを通じた資金移転が指摘される。制裁や監視強化によって公式チャネルは制約を受けるため、資金は地下経路や闇市場を通じることが多いと報告されている。金融の不透明性は汚職と資金の軍事転用リスクを高める要因と見なされる。

国際関与と地域の力学(周辺国・外部アクター)

ハマスは地域の地政学的競合の一部でもある。イラン、レバノンのヒズボラ、シリアや他の非国家主体との関係が指摘される一方、エジプトはガザ境界(ラファ)での移動制限と仲介役を兼ねるなど、周辺国は安全保障と人道の両面で重要な役割を果たしている。国際仲介(米国、EU、国連など)や地域的な力のバランスが停戦や人道支援の可否に影響する。外部支援の停止や制裁はガザ住民の生活に直接跳ね返るため、国際政策は人道面の配慮と安全保障上の懸念のバランスを取る必要がある。

主な問題点(整理)
  1. 民間人被害の恒常化:軍事行動と封鎖が繰り返されることで民間人の死傷、避難、生活基盤の喪失が続く。

  2. 政治的分断と統治の欠如:ファタハとハマスの分裂がパレスチナの政治的一体性と国際的正統性を弱めている。

  3. テロ組織指定と援助制約:ハマスがテロ指定されている国が多く、公式ルートでの援助や交渉が難しい。

  4. 資金・武器の流入阻止の困難:封鎖と監視の強化によっても非公式ルートが残り、軍事力の消耗が続く。

  5. 人道危機と復興資金の不足:国連等の募金や支援が目標に届かないことがあり、復興と生活再建が遅延する。

将来の展望と政策的含意(考察)

ハマスとガザの問題は単一の軍事的解決では終わらない複合的課題である。短期的には停戦・人道支援の確保と人道回廊の安全な運用、被害者救済が急務である。中長期的には、ガザの経済再建、雇用創出、教育・保健の回復、そしてパレスチナ内部の政治的和解(ファタハとハマスの橋渡し)と、地域的な安全保障枠組みの構築が不可欠である。これには、ハマスが軍事行動を抑制するためのインセンティブ形成や、また外部プレイヤー(周辺国・国際機関)が持続可能な復旧・発展支援を提供するための透明なメカニズム整備が含まれる。国際社会は安全保障と人道の両立を図るため、実効性のある監視と資金管理、被災者保護のための明確な基準を策定する必要がある。

結論(要点の整理)

ハマスはムスリム同胞団の流れを汲む政治・武装組織として1987年に結成され、その後2006年の選挙勝利と2007年のガザ掌握を経て、ガザの実効支配者となった。社会福祉活動を通じた支持基盤と、武装部門による攻撃能力を併せ持つ点が特徴である。ハマスとイスラエル間の衝突は繰り返され、その都度大量の民間人被害とインフラ破壊を生み、人道危機を悪化させる。国際的なテロ指定や制裁、周辺国の利害関係が問題解決を複雑にし、短期的な停戦と人道支援、中長期的な政治的和解と復興計画の両面を同時に進めることが不可欠だと考える。

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