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コラム:増え続ける世界の移民・難民、対策は?

移民・難民問題は単なる国境管理の問題ではなく、人権、開発、安全保障、気候政策が交錯する複合的な課題である。
イタリア南部沖、移民を乗せた船(Getty Images/AFP通信)

世界の移民・難民は過去数十年で量と質の両面で変化している。国連の推計によると、国際移民の総数は近年増加し、2024年時点で約3億0400万人の移民がいるとされる。これは世界人口における大きな比率であり、移住はもはや一地域の現象ではない。

同時に、強制的に移動を余儀なくされる人の数も急増している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「Global Trends 2024」によると、2024年末時点で強制的に移動した人(難民・国内避難民・庇護申請者・無国籍者等を含む)は約1億2320万人に達したと報告されている。内訳や最新の増減は地域ごとに異なるが、複数の長期紛争や新たな紛争、気候変動の影響などが重なり合い、数値は上昇している。

経済面では、移民の送金(レミッタンス)が多くの途上国で重要な外貨収入となっている。世界銀行は、2023年の途上国向け送金が数千億ドル規模にのぼり、開発資金や家計支援としての役割を担っていると指摘している。

さらに移動の危険度も増しており、国際移住機関(IOM)の調査では、海上や砂漠などの危険ルートを通る移民の死者数が近年で過去最悪水準に達している。特に地中海やアメリカ大陸への移動ルートで高い死亡率が報告されている。

歴史(概観)

近代的な国際移動は19世紀後半から20世紀前半の大量移住期に始まるが、第二次世界大戦後は国際的な難民保護の枠組み整備が進んだ。1951年の難民条約と1967年の議定書は「難民」の地位を定義し、保護義務の基礎を作った。冷戦終結後は移動の自由化、グローバル化、労働市場の統合により労働移民や家族移民が増加した。

21世紀に入ると、地域紛争(シリア、スーダン、アフガニスタン、ウクライナ等)や経済格差、気候変動による環境劣化が移動を加速させた。加えて、国際的な政策の変化や入国管理の強化、非正規移民への対応といった各国の反応が移民・難民の流れを複雑化させている。これらは単一の要因によるものではなく、複合的な推進因子が絡み合っている。

移民・難民が急増している背景

移動の増加には幾つかの主要要因がある。まず、紛争や暴力は多数の人々を強制的に移動させる主要因であり、2020年代に入ってからも複数の大規模紛争が継続または再燃している。UNHCRは紛争が強制移動の最大因であると指摘している。

次に、経済要因である。格差拡大や雇用機会の偏在は労働移民を生む。先進国の高齢化や労働力不足も移民需要を喚起しているため、合法的な労働移民と非正規移民の双方が存在する。

さらに、気候変動と環境劣化は新しい移動を生み出している。干ばつや海面上昇、慢性的洪水は農業生産や居住地を脅かし、国内外への移動を促している。気候変動はしばしば他の要因と重なり、脆弱なコミュニティを移動に追い込む。

情報・通信技術の発展と交通の低コスト化も移動を容易にしている。ソーシャルメディアやネットワークは移動先に関する情報を拡散し、移住意欲やルート情報の共有を促進している。

国際社会の対応(国連機関・地域協定・支援)

国際レベルではUNHCRが強制移動者の保護や統計報告、人道支援調整の中核を担っている。UNHCRのグローバルトレンド(Global Trends)は世界の強制移動状況を毎年まとめ、政策決定の基礎資料となっている。

国際移住機関(IOM)は移民政策、移動データ、移民健康・保護、帰還支援など幅広い分野で活動している。IOMの「World Migration Report」などは移動の科学的・政策的分析を提供する。

財政面では世界銀行が送金の動向を分析し、送金のコスト低減や金融包摂政策を推奨している。送金は多くの低中所得国で重要な外貨源となっており、開発政策との連携が図られている。

地域レベルでは、EU、アフリカ連合、ASEANなどが域内移動や難民対応について協議しているが、政策の一貫性や資源配分、加盟国間の負担分担に課題が残る。

戦争難民(強制移動の特殊性)

戦争や迫害による難民は、保護の必要性が最も緊急なグループである。UNHCRの報告は、シリア、スーダン、アフガニスタン、ウクライナなどの紛争が大量の国内避難民と難民を生んでいると示している。特に2023〜2024年の期間で強制移動者数は新たな記録を更新しており、2024年には1億2320万人という高水準に達していると報告されている。

戦争難民の特徴は以下である:帰還が困難で長期化しやすい、女性や子どもが多く脆弱性が高い、受け入れ国の社会サービスやインフラに大きな負担をかける、地域不安定化の連鎖を引き起こす可能性がある。こうした特徴があるため、短期的な人道支援と長期的な統合政策の両方が必要になる。

移民・難民への差別と社会的影響

移民・難民は受け入れ社会で差別や排斥、偏見に直面することが多い。言語・文化の違い、雇用の競合、治安への懸念が差別の温床となる。差別は教育機会や医療アクセス、住宅確保を阻害し、社会的排除を固定化する恐れがある。

一方で、移民は受け入れ国の経済や社会に貢献する面も大きい。技能労働者や低賃金労働に従事する移民は多くの産業の基盤を支え、起業や文化の多様性をもたらす。政策のあり方次第で「負担」から「資源」へと転換できる余地がある。

移民・難民をめぐる欧米諸国の分断

欧米では移民・難民問題が政治的に分断を生んでいる。多くの西欧諸国やアメリカでは、移民受け入れを支持する勢力と制限を強化する勢力が対立している。選挙争点化により短期的なポピュリズム政策が採られやすく、国際的な保護義務と国内政治の圧力が衝突することがある。

EU内では加盟国間で難民・移民の負担分担が不均衡であり、地中海沿岸国や東欧の一部国に受け入れの負担が集中する問題が続いている。受け入れ数や移民統合の政策で各国の間に深刻な意見の相違がある。これにより、EU全体としての共同政策の形成が難しくなっている。

移民・難民を受け入れない国(あるいは制限的政策国)

一部の国家は、政治的・経済的・社会的理由から移民・難民の受け入れを厳しく制限している。例としては国境管理の強化、庇護申請の制限、難民認定プロセスの厳格化、越境移動を阻止するための第三国との協定締結などが挙げられる。これらの政策は移民流入を一時的に抑制する効果を持つが、不法移民や人道的危機の隠蔽、周辺国への負担転嫁、移民の権利侵害を引き起こすリスクがある。

また、政治的に反移民の姿勢を打ち出す国では、国内の排外主義が助長され、社会分断や人権問題が深刻化することがある。こうした国際的・国内的な「受け入れ拒否」の動きは、国際協調や地域安定に負の影響を及ぼす。

課題(政策的・実務的)
  1. 負担分担の不公平:多くの難民は紛争近隣国に留まるため、限られた受け入れ国の負担が集中している。国際的な資金援助や再配置メカニズムが不充分である。

  2. 長期的統合の不足:短期的な人道支援は行われるが、教育や職業訓練、法的地位の安定化といった長期統合策が不足している場合が多い。

  3. データ・情報ギャップ:移動の動きを正確に把握するためのデータ整備が不十分で、政策形成に支障が出る。IOMや国連(UN DESA)はデータ改善を進めているが、統一的な指標整備が課題である。

  4. 危険な通過ルート:非正規移民が人身取引や危険なルートに依存することにより、死亡・虐待のリスクが高い。IOMの「Missing Migrants Project」は死者・行方不明者の増加を指摘している。

  5. 財源不足:人道支援や統合のための国際資金が不足し、受け入れ国の社会サービスに圧力がかかる。特に低中所得国の都市や難民キャンプへの支援が追いつかない。

対策(短期・中長期)
  1. 公平な負担分担メカニズムの構築:難民の受け入れや資金支援の国際的ルールを強化し、再配置や資金供与を促進する。先進国による財政的・技術的支援の増加が不可欠である。

  2. 法的地位の確保と統合政策:難民・移民が労働市場や教育にアクセスできるよう、身分認定と長期的統合プログラムを整備する。これにより社会的包摂と経済参加を促す。

  3. 安全な移動ルートと人身取引対策:合法的な移住経路を増やし、危険なルートを削減するとともに、人身取引の摘発と被害者支援を強化する。IOMやUNODCと連携した取り組みが必要である。

  4. 開発と移住の連携(移民の開発への貢献の最大化):送金のコスト削減、移民のスキル活用、移住経験者による投資促進などを通じて、本国の開発に結びつける方策を推進する。世界銀行が送金の重要性を示している。

  5. データ整備と情報共有:国連(UN DESA)、IOM、UNHCRなどのデータ整備を支援し、政策決定のための信頼できる統計基盤を整える。

  6. 地域協力と外交努力:紛争原因の解消、紛争予防、人道回廊の確保などを通じて、発生源での危機緩和に努める。難民問題の根本的解決は紛争終結や経済復興と不可分である。

各国・国際機関のデータに基づく示唆

国連データは移民のスケールや分布を明確に示しており、政策はエビデンスに基づくべきである。例えば、国連の国際移民在留数の推計(約3.04億、2024)やUNHCRの強制移動者数(約1.232億、2024)は、問題の深刻さと緊急性を物語る。これらの統計に基づいて、国際社会は資源配分や優先課題を決める必要がある。

世界銀行が示す送金額の大きさは、移民が出身国の経済に与える影響が大きいことを示しており、移民を単なる「負担」と見るのではなく、双方に利益をもたらす「戦略的資源」として扱うべきである。

今後の展望(短期・中期・長期)

短期的には、紛争の継続と気候ショックにより強制移動者数は高水準に留まる見込みであり、人道援助と緊急対策の需要は続く。中期的には、各国の政治動向と経済回復の程度が移民政策を左右し、受け入れ側の統合政策が成功すれば、移民の社会経済的貢献が促進される。長期的には、気候変動の進行と人口動態の変化が移動のパターンを変えるため、国際協調による予防・適応措置(気候移住の法的枠組みや地域レジリエンス強化)が重要になる。

また、テクノロジーやデジタルID、金融包摂の進展は、移民の権利保護や送金の効率化に寄与する可能性がある。だが同時に、デジタル監視やプライバシー侵害など新たな課題が生じるため、技術導入は人権尊重とバランスを取る必要がある。

まとめ
  1. 国際社会は統計と証拠に基づいて負担分担と資源配分を再設計する必要がある。UNHCR、IOM、国連(UN DESA)、世界銀行などのデータを政策決定に反映させるべきである。

  2. 強制移動に対しては短期的な人道支援と長期的な統合政策の両輪を回すことが不可欠であり、特に教育や雇用機会の提供を重視すべきである。

  3. 受け入れ国と送出国間の協力を強化し、送金のコスト削減や移民の開発貢献を最大化する経済政策を推進すべきである。

  4. 危険な越境ルートの削減には、合法的な移住経路の創設と人身取引取締の強化が必要であり、IOMや国際刑事機関との協調が重要である。

  5. 気候移住に備えた法的枠組みと予防的投資を進め、最も脆弱なコミュニティの適応能力を強化するべきである。

以上のように、移民・難民問題は単なる国境管理の問題ではなく、人権、開発、安全保障、気候政策が交錯する複合的な課題である。解決には多層的な政策、国際協調、そして被移動者自身の声を反映させる参加型アプローチが求められる。主要な統計と報告に基づいて、より公平で持続的な解決策を構築することが今後の喫緊の課題である。

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